攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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第四章 ヒーラー 模索篇 《第一部》

第58話「『ゼウス・マキナ』」

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 ヨダレは何とか収まった。ヨダレを垂れ流していたせいで口元が乾いてカピカピだ……。
 しかも水分をかなり持ってかれた。
 
「なにか飲みたい……」
「うむ、私もだ……」
「水魔法は……ダメですね。またエルザがお腹を壊しますし」 
 
 いや待て、ここには水の神が居るじゃないか!!
 …………この状況で流石に断らないよな……?
 
「なぁアイリス――」
「わたくし人間ですので」
 
 ちっ。こいつ被せてきやがった。
 もういいよ! お前には何も頼まねぇ!
 
「確か我の記憶ではこの辺りに川が流れていたはず」
「なに!? 本当かゼーウスよ!」
 
 エルザが食いつき、ゼーウスが首を縦に振る。
 
 よしそうと決まればそこまで急ぐまでだ。 
 
 ……
 …………
 ………………
 
「……なぁどこだよ川」
「あれ? 我の記憶ではここに流れていたのだが」
「それいつの話だ」
「確か五十年前くらいだったか」
 
 はぁ……やっぱりか。もう神は信用しない方が良さそうだ。
 ルクスとエルザはゼーウスに対し、私より年上!?
 などと驚いていた。ルクスとエルザ……お前らも見た目と年齢合ってないんだよ? ……まぁ今の俺もそうだけど。
 
 五十年前にあったとされる川はもうどこにもない。
 俺はもう一度アイリスにお願いする。
 
「なぁアイリス頼むよ! 俺たちもう干からびそうなんだ」
「…………ルクスお姉様如何なさいますか」
 
 頼む! ルクスお姉様! お前の一言で俺たちの命が!
 運命が変わるんだ!
 
 ルクスは悩みに悩んだ末――
 
「……よし、良いでしょう。アイリス、お願いします」
 
 やったぜ! 流石はルクスだ! 俺はルクスに抱きついた。
 
「アスフィ!?」
「流石は俺のルクスだ! 感謝してるぜ」
「い、いえそれはどうも……」
「はぁ……感謝はわたくしにして欲しいものですね」
 
 そういうとアイリスはなにもない場所に、小規模の湖を作り出した。
 
「……皆さんどうぞ」
「腹壊さないよな? ……特にエルザ」
「わたくしの水は魔法ではありません」
 
 よくわからないが、そうと決まれば――
 
 俺たちは飲み尽くさんとする勢いで湖に口をつけた。
 美味い……ああ水ってこんなに美味かったのか……。
 これからは水に感謝しながら生きていこう。
 アイリス様、ありがとう。
 
 ***
 
「――オェェェェェェェ」
 
 エルザは吐いた。
 
「ア、アイリスよ……なぜ私だけ吐くのだ……魔力は含まれていないのではなかったの……うっぷ……オェェェェェェェ」
 
 こっち見て吐くなよ……。
 
「恐らくアイリスの水にも魔力が含まれていると思いますよ? 『水の都フィルマリア』に居た住民からは魔力を感じました。つまり、アイリスの水には魔力が含まれているということですね」
「ルクス……なぜそれを先エルザに言ってやらないんだ」
「……エルザなら大丈夫かと。それに多分止めても無駄でしたよ」
「…………その筈は。わたくしは神……あ、そういう……フフッ」
 
 アイリスは一人でブツブツ呟き、不敵な笑みを浮かべていた。
 
 確かにあれは止められないな……。だれよりも真っ先に飲み始めたもんな。それに前回大丈夫じゃなかったんだよなぁ。今回は前回よりかなり飲んでるが、大丈夫かなエルザのやつ……。
  
 
 しかし、俺達が思っていたよりエルザの状態はかなり深刻なものであった。エルザはその後、倒れてしまいそれっきり目を覚まさない。
 
 時刻は既に夜を迎えている。 
 
「神の水を多量に摂取した末路だろう」
 
 呆れた顔で言うゼーウス。
 
「そんなこと言ってる場合かよ!」
「そうですよ! エルザはどうなるんですか!?」
 
 俺とルクスは焦っていた。あの頑丈なエルザが倒れた。
 俺たちはその意外な結果に動揺していた。
 
「落ち着いて下さい、ルクスお姉様、アスフィさん」
 
 落ち着いたトーンでそういうアイリス。
 
「わたくしの水は神力じんりょくを宿すもの。魔力に似ていますが、魔力ではありません。恐らく、魔力暴走ではなく、ただ神の力に充てられただけです」
「それはつまりどうなるんだ?」
「寝れば治ります」
 
 本当かよ……エルザが倒れるなんて余程の事だぞ……。
 だが、紛れもないアイリスが言うんだ。
 ここは言う通りに寝かせておくしかないか。
 それに、どっちにしろ俺たちにはどうしようもないしな。
 
 俺たちは焚き火を焚き、眠ることにした。
 今回の見張りは俺がすると前に出た。
 
「任せました、アスフィ」
「ああ」
 
 ルクスは眠りについた。 
  
「……なぁ、お前達は寝なくていいのか」
「神は寝なくても大丈夫だ」
「わたくしはではありませんが、寝付けなくて」
「そうか……なら少し話さないか」
 
 俺は神と神を辞めたものと話すことにした。
 
「俺には……俺の中には、自分じゃない何かが居る」
「……ええそうでしょうね」
「お前はどうしたい『神の子』よ」
「その『神の子』ってのもよく分からないがな…………昔から気づいていたんだ。俺は時々俺じゃない感情が出てくる。俺はそれを抑える努力をしてきた……だが――」
 
 俺はあの日のことを思い出す。
 
「レイラが死んだ時……それが抑えられなくなった。この姿もきっとそれとなにか関係しているのかもしれない」
「そうですね」
「我は何も言えない」
 
 レイラが死んでいるのを見た時、俺は俺を抑えられなくなった。今までもそんなことが何回かあった気がする。
 覚えている節と覚えてない節があるが。
 
 ただ、一つ言えることは俺は『人間』じゃないということだ。神でもない。こいつらの言う、『この世界の者』じゃないのかもしれない。なら……それなら俺は……
 
「……俺は一体何者なんだろうな」
「それは――」
「ポセイドン」
「…………すみません、出過ぎた真似を」
「よい」
 
 アイリスは何かを言いかけた。
 だが、それはゼウス・・・の声によって、最後まで言うことは無かった
 
「我がお前を『神の子』だと言うのはなぜだと思う」
「……分からない」
 
 神の子……俺は神じゃない。
 
「『神の子』それはつまり、お前自身を神と言っている訳では無い」
「どういうことだ………お前は……ゼウスは俺の父さんと母さんが神だって言いたいのか?」
「……我はこれ以上は何も言えない。盟約によってな」
 
 また盟約か。盟約ばっかりだなこの世界は。
 
「さて、我も寝るとしよう」
「わたくしもそうします」
「神は寝なくてもいいんじゃなかったのか?」
 
 と、俺が聞くと二人の神は、必要無いだけで眠るのは好きという。
 
「……仕方ない、俺が見張りをしてやる」
「必要ない。我がいる限り魔物は近寄ってこないだろう」
 
 なんだよそれ。便利だな。
 
「……だとしても念の為だ」
「そうか、勝手にしろ」
 
 ゼウスとアイリスは眠った。
 
「『神の子・・・』か………………」 
 
 次の日の朝、見張りをルクス達に任せ俺は少し眠ることにした。
  
 
 ――俺は夢を見た。
 
『よぉまた会ったな』
 
(またお前か……姿を見せろ)
 
『姿は見せられない、これも盟約だ悪いな』
 
(この世界は盟約ばっかりでうんざりだ)
 
『そんなこと言うな。これはお前のためでもある盟約だ』
 
(俺のため?)
 
『ああ、詳しくは言えない、これも盟約だ』
 
(もういい、何の用だ。もう消えたかと思ったが)
 
『消えるわけが無いだろうこれも――』
 
(盟約、か)
 
『その通り! ……だが今回は忠告をしに来ただけだ』
 
(忠告?) 
 
『ゼウスにも言われただろ?』
 
(そういえば、ゼウスが確かにそんなことを……)
 
『アイツはあんなんでも一応神だからな』
 
(お前はゼウスの何を知ってる)
 
『……色々さ。まぁとにかく注意しろ』
 
(だから何にだよ)
 
『マキナ《・・・》にだよ』
  
 *** 
 
 俺は目が覚めた。……あいつは何が言いたかったんだ。
 
「マキナ……か…………ん?」
 
 静かすぎる、まだ寝ているのか? ふと周囲を見渡した。
 
 ルクス達が……居ない……? どういうことだ。
 
 辺りには誰もいない。眠っていたはずのエルザも、見張りをしていたはずのルクスも。二人の神も……俺以外誰もいない。
 俺はこの大地に一人取り残されていた。
  
「……なんだこの身の毛のよだつ感じは」
 
 俺は皆を探した。走った。ただただ走って探した。
 
 …………見つけた。 
 
 ルクスとエルザが倒れていた。俺はすぐさま駆け寄った。
  
「…………なんだよ……これ」
  
 ルクスとエルザの体には傷ひとつ無い。
 
 にも関わらず、二人は目を覚まさない。 
 
「遅かったな『神の子』よ」
「わたくし達では何もできません」
「お前たちがやったのかぁっ!!!」 
「違う、落ち着け。我たちでは無いやったのはアイツだ――」
 
 ゼーウスは上空を指差した。
 
『やったのは我だアスフィ・シーネット』
「ゼウス……が二人?」
 
 ゼウスと同じ顔、同じ背丈の者がそこに居た。
 
片割れ・・・よ。こいつには近寄るなと言ったはずだ」
『近寄ってはいないだろう……そっちから来ただけだ』
「……そうか」
 
 こいつら何を……言っている? ゼウスが二人? ……どういうことだ。
  
「おいお前! ルクスとエルザに何をした!」
『………なにも』
「そんなわけないだろう!」
 
 俺はゼウスと瓜二つの少女に激怒した。
 
 感情が抑えられなかったのだ。
 
『……我はただ眠らせただけのこと』
「ねむ………らせた?」
『聞いたことは無いか? 『呪い』という言葉を』
 
 なに……まさかルクスとエルザにも『呪い』を……?
 母さんと同じ『呪い』を……?
 ってことは、もうルクスとエルザは……
 
「おまえ……許さんぞ」
『盟約により我はお前に近づけない。だが、お前から向かって来ると言うなら話は別だ』 
 
 許さない……許さない……許さない許さない許さない。
  
 俺はこいつを絶対に許さない。
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