攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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第八章 フィー 幻想大戦篇《第二部》

第106話 「悪意」【楓視点】

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 楓の名前は須藤すどうかえで。都内では名の知れた高校の二年生です。須藤 剣一ケンイチの妹でもあります。楓の兄は昔、剣道を習っていました。その実力は中学生にして全国大会で優勝する程です。楓は兄がとても誇らしいと思っていました。それと同時に、嫉妬もしていました……。
 
 兄が剣道を始めたきっかけは名前が剣一だからと至ってシンプルでした。両親は剣のように強くなって欲しいという意味で付けたみたいですが、兄はそれを本当に実現させてしまいました。
 
 そんな誰もが認めるお兄ちゃんは、高校で変わってしまいました。習っていた剣道を辞め、勉学に努めた……楓は剣道を習っていた兄が大好きでした。それを兄はあっさり辞めてしまったのです。兄曰く、勉強の方が自分の為になるとのことです。当時中学三年生だった楓はそれが許せませんでした。 
 
 それから楓は兄と同じ高校を目指しました。
 理由は、兄にもう一度剣道の道に進むよう説得する為です。
 もちろんそれは学校だけじゃなく家でも言っていました。
 そのせいで毎日喧嘩の日々です。
  
 そして、兄と同じ高校に入って楓は気付いたのです。
 
 兄がクラスに馴染めていないことに。
 
 馴染め無いだけならまだしも、イジメのような扱いを受けていると楓はそれを友人の口から聞きました。しかし、どうすることもできません。楓は兄と毎日のように喧嘩をしていたので。
 
 そんなある日の事です。ある情報が楓の耳に入ってきました。
 
 いじめられていた男子が屋上から飛び降りたと。
 
 楓はまさかと思い、屋上へ走りました。
 
 そこには沢山の人。兄のクラスの方達と思われる上級生達です。
 
 ヒソヒソとなにかを話している。
 
 その内容に耳を澄ますと、須藤 剣一・・・・・の名前が出てきました。 
 
 楓は一心不乱に人混みをかき分け、屋上にある高台の上に立ち、下を見ました。
  
 ――そこにお兄ちゃんは居なかった。 
 
「……え? どういうこと?」
 
 楓は不思議に思いました。飛び降りたのに死体がない。
 
 ……そうか、そうだよね。お兄ちゃんがそんなバカな真似する訳ない。
 
 楓は安堵しました。良かったと。
  
「――君! そんな所に立っちゃ危ないよ!!!」
 
 先生方が話を聞きつけ、屋上にやって来ました。
 
「……すみません、すぐに降ります」
 
 楓は声のする方を振り返りました。
 
「やっぱ嘘だよな、あの臆病なフィーだぜ?」
「臆病者は飛び降りるなんて勇気もねぇよな!」
「あーしもそう思うね、フィーにそんな度胸ある訳ないし?」
 
 クラスの方達が口を揃えて言う、フィーという人物。
 
 楓はそれが兄の事を言っているのだと、すぐに気付きました。
 フィーという意味は分かりませんが、なんとなく分かったのです。なにより、人が死んだかもしれないという状況に誰も何も思っていない。それに楓は凄く腹が立ちました。
 
「楓のお兄ちゃんの悪口を言うなっ!!!!」
  
 楓は思わずそんな事を口走っていました。
 大好きなお兄ちゃんだったから。憧れていたお兄ちゃんだったから。それを何も知らない他人が侮辱するのだけは許せませんでした。
 
「おい、お前フィーの妹か?」
「……須藤剣一の妹です」
「……ちょっと楓ちゃん!?」
 
 兄のクラスメイトです。金髪にピアス。いかにも不良という見た目をした男子。そこに友人が屋上に駆けつけました。
 
「楓ちゃん! なにしてるの!? 早く降りて! 危ないよ!!」
「……フィーは臆病だ。事実、飛び降りてなんかいないじゃねぇか。今頃トイレにでも隠れてクソでもしてんだろ」
「…………なんですって?」
 
 楓は頭が真っ白になりました。今すぐその顔面を殴りに行く。兄を侮辱する者を今すぐに。そう思い、高台を降りようとした瞬間――
 
「あ」
 
「楓ちゃん!!!!!?」
  
 楓は足を滑らせてしまいました。
 
 落ちていく体。
 
 だんだんと遠くなっていく屋上。
 
 その屋上からは悲鳴が上がっています。
 
 でも、不思議と楓は怖くありませんでした。
 
 それは突然の出来事だったからというのもあると思います。
 
 しかし、それ以上に楓は思いました。
 
「お兄ちゃん……今までありがとう」
 
 感謝の言葉を吐いたのです。
 
 自分でも何故こんなことを言ったのか分かりません。
   
 やがて――
 
 楓は地面に大きく叩きつけられ、呆気なく死にました。
 
 
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