攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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第九章 アスフィ 交流篇 《第二部》

第137話 「エルシア・ヒナカワⅦ……」

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 エルシアはただじっとエルブレイドを見つめていた。
 
「……………………おおう……しゃま……」
 
 少女の痛々しい体とたどたどしい話し方に、エルブレイドの頭は怒りの感情が支配する。
 
「見なさい! これが人間兵器というものだ! ……しかしまだ終わりでは無い。こんな少女一人で国家権力を相手にするのは不可能だ……」
「江四留……貴様というやつは…………」
「エルシア嬢はうつわに過ぎない。あなたのスコープ・・・・が必要だ……」
 
 江四留はエルブレイドに歩み寄る。
 
「――いいですか日名川様。これはあなたと私が作り上げたのです」
「…………違う……その子は俺の――」
「何も違わない。エルシア嬢には欠落した部分があった……そうでしょう?」
「…………」
「だんまりですか……。私は一目見て分かりましたよ。この子は感情をコントロール出来ない病気だ」
 
 江四留は続けた――
 
「『注意欠如・多動症』。通称ADHD・・・・。何も珍しい事では無い。よくある発達障害の一つです。しかし、この子はその中でも特に症状が強い。そこで私は思った。この子なら私の願いを叶えてくれると」
「願い……?」
「そうです。私の願いは強き者だけが生き残る世界を創ることです。今の日本は見ていられない。上が駄目なら国が駄目になる。声を上げることは自由です。しかし、無意味だ……国民がどれだけ喉を枯らし叫んだ所で、その声は上には届かない……私は思った。ならば私自身が上に立てばいいと!」
 
 江四留は両手を広げ叫ぶ。
 
「…………日名川様。あなたは私が憎いでしょう。しかし、もう遅い。私の計画はあなたと出会う前から組まれていた。後はそのうつわと『未知を見通す千里鏡イリアススコープ』だけでした……ですので私は今からエルシア嬢と二人で取りに行きます」
「………待て。行かせるものか」
 
 エルブレイドは江四留のジャケットを掴み静止させる。
 
「何です? 私にまだ何か?」
「お前の好きにはさせない」
「……エルシア。愚かなお父様を黙らせなさい」
「…………あい」
 
 エルシアはエルブレイドの元へ瞬時に近付き、蹴りを入れた。その動きはもはや人間の動きでは無かった。
 
「がはっ!?」
「あははははは! 良いですよ! 偉いです、エルシア」
「あいが……とうごらいあす」
「ございます、ですよ。……さぁ行きましょう。こいつは放っておいても大丈夫です。どうせ何も出来やしないのですから」
 
 江四留はエルシアを連れて出て行った。
 
(……何度見ようと慣れないものだな)
 
 ――その後、日名川ビルディングは二人の侵入者に乗っ取られた。銃も持たない男と少女のたった二人に。
 
 …………………………。
 
 【どう? ……今のところエルシアは殺せてないけどまだやる? 】
 
 ……………………まだ……だ。
 
 【……でも君まだ迷ってるよね。エルシアを殺すか殺さないかを。そんな覚悟で続けても意味は無い】
 
 過去のワシ……俺はエルシアを殺せなかった。殺してあげられなかった。
 
 【そうだよね、ならもう終わる? 】
 
 だが、まだだ。まだ終わっちゃいない。
 
 【……続けるってことね。分かったよ。なら最後まで飛ばしてあげよう。所謂スキップだよ。無駄を省く為さ】
  
 ………………。
 
 【君が選ぶ所までね】
 
 ……やれ。
 
 【言われなくとも】
 
 エルブレイドの視界は真っ白になった。
 
 ……
 …………
 ………………
 
 ――目を開けると、日名川家が燃えていた。
 
「…………よりによってここからか」
 
 エルブレイドは立ち尽くした。燃える家の前には少女と男が立っていた。
 
「――おい! 聞いているのか日名川!!」
 
 男は叫ぶ。
 
「……はぁ……聞こえている」
「どうだ? 家が燃えた感想は。手始めに燃やしてみたんだ。もちろんやったのは私では無い。この子だ。この子が自らの手で家を燃やしたのだ」
 
 男は少女の頭を撫でた。
 
(触れるな。触れるなと言え、俺)
 
「…………何も言えない、か。まぁいい。後は親子水入らずで楽しむといい。私は私のやるべき事をやるのでねぇ」
 
 男は少女を置いて去っていった。
 
「…………エルシア。すまない……俺はお前を殺す」
「……お父様。エルシアは覚悟が出来ています」
 
 エルシアは既に言葉を取り戻していた。その様子を見たエルブレイドは再び覚悟が揺らぐ。
 
(言葉は辛い。覚悟を壊してくる……)
 
 エルブレイドはエルシアにゆっくりと近付き、気付けば握っていたナイフをエルシアの首元に当てた。
 
「…………お父様、ありがとうございました」
 
 自分の命の最後の言葉。エルシアの口から出てきたのは感謝だった。
 
「…………………………ダメだ」
 
 エルブレイドはナイフを落とした。
 
「……………………ワシにはやはりお前を殺す事はできん」
「………………そう……ですか」
 
 エルシアは悲しげな表情で去って行った。燃え盛る家に背を向けて。
 

 ***
 

 【やっぱりダメだったね】
 
 …………ダメだ。ワシには……。
 
 【人類最強なんて君には相応しくない。人類最弱くらいがお似合いだ】
 
 ………………元よりワシは自分で人類最強と思った事は一度もない。
 
 【……あの子はその後、運命の人を見つけ子を残した】
 
 ………………。
 
 【怪物が化物・・を生んだんだ】
 
 ……あの子は化物じゃない。
 
 【いいや、化物だ。怪物の血を継いでいる】
 
 あの子の父は優秀だ。
 
 【ふーん。思ったより評価高めなんだね。弱いとか言っていたのにさ】
 
 …………アレは自分に向けた言葉だったのだ。
 
 【…………ぷっ……あははは! ってことは何? アイツは君の言葉を自分に向けられた言葉だと勘違いしたの? 】
 
 ……お前は弱い・・・・・…………それはワシの事だ。
 
 【……ふぅ。それを聞いたらアイツ驚くだろうね。……ま、それももう出来ないか。死んでいるからね・・・・・・・・
 
 ……………………お前は弱い……エルブレイド・スタイリッシュ。ワシは……弱い……。
 
 【でも約束通り私の勝ちではあるけど、初めに言った様に罰は無いから安心してね】
 
 ……もう罰は喰らった様なものだ。お主はワシの心を壊した。それだけの事をしたのだ。
 
 【そうだね。……世界の均衡を保つ為、と……後は暇つぶしかな。じゃ、またね。ゆっくり休んでよ】
 
 …………どの口が言うとるんじゃ。
 
 ***
 
 ――エルブレイドは目を覚ました。
 
『シーレンハイル』の宿のベッド。そこにエルシアの姿は無い。
 
「…………エルシアはどこに」
 
 すると部屋の外から大きな足音が近付いてくる。
 
「――大変です! エルシアが!!」
 
 血相変えて部屋に入って来たのは青髪の少女アイリスだった。
 
「エルシアがどうした? 何があったんじゃ」
「エルシアが……エルシアが……」
「落ち着くんじゃ……まずは深呼吸を」
 
 アイリスは息を切らしていた。言われた通りゆっくりと深呼吸をする。
 
「…………すぅ……はぁ……」
「落ち着いたか?」
「……はい。すみません、わたくしとしたことが……」
「いいんじゃ。それよりエルシアに何があった」
 
「エルシアがここの住民を殺しました」
「………なんじゃと?」
 
 アイリスの言葉を耳にしたエルブレイドは、慌てて宿を出ていった。
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