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第九章 アスフィ 交流篇 《第二部》
Special ep. 0『ある冒険者の話』
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「――おい! …………きろ」
誰だか知らんがうるさいぞ。少し眠い。もう少しだけ寝させてくれ。
しかし、その声は止まない。それどころか顔が痛い。誰かが俺の頬を叩いているようだ。
「おいコラ! 聞こえてんのか!」
「…………聞こえない」
「聞こえてんじゃねぇか」
ビンタされたら流石に起きるだろうが。
「……ああ、マクスさんですか。なんですか?」
「なんですか? じゃねぇ! お前ヒーラーだろうが! なに寝てんだ! 俺の仲間が重症だ!さっさと回復しやがれ!」
目を開けると金髪の男が俺の顔を覗き込んでいた。
あ、そういえば俺今冒険者だった。
にしてもこいつ、それが人にものを頼む態度か。どんな教育を受けてるんだこいつは。
「分かりました。『ヒール』」
俺は倒れている大きな盾を持ったもう一人の男に回復魔法をかけた。
「ほう? やるじゃねぇかお前」
「それはどうも」
金髪の男に褒められた。ちっとも嬉しくない。なんで上から目線なんだ。……まぁ、理由は分かっているが。こいつはヒーラーを見下している。それもかなり。この世界でヒーラーは評価されにくいというのが常識だ。しかし、こいつはそれ以上にヒーラーを見下している。
「これからも頼むぜ? ヒーラー」
「頑張ります」
マクスはもう一人の大盾を持った男の元に戻って行った。
「……はぁ。初めてのクエストの仲間がこれかぁ」
文句を言っても仕方ないか。俺は回復魔法しか使えない。クエストに行くにはどうしても前衛が必要だ。だからこいつらと組むのは仕方が無い事だ。
「――おいヒーラー! 次はマンティコアだ。いくぞ」
どうやらもう次に向かうらしい。今の俺は本当にこいつらの奴隷だ。
「マンティコアはやめといた方が――」
「るせぇ!お前は黙って付いてこい!」
人がせっかく心配してやったのに。死んでも知らないよ?
にしてもマンティコアか……懐かしいなぁ。俺も昔は……
「……っていかんな。今は今だ」
***
「――っく! おいヒーラー! 俺を回復しろ!」
「はい。『ヒール』」
早速マクスはマンティコア相手に手こずっていた。マンティコアはA級に該当する上位の魔獣だ。手こずるのも当然だ。
「ま、頑張って下さいって感じだけど」
「ガハッ……くっそ…………」
マクスが腹にマンティコアの一撃を食らった。致命傷だ。恐らく助からない。
「マクスッ! くそ、この獣風情が!」
大盾の男が盾を持ってマンティコアに突進した。しかし、彼はタンクだ。俺と同じく上位の魔獣であるマンティコアに与えられる攻撃手段は無い。
攻撃は防げても攻撃する手段が無いのだ。つまり、どちらかのスタミナが切れるまでの持久戦。獣か人か。
「マクスさん、大丈夫ですか」
「…………は……く……ヒ……ルを」
どうやら『ヒール』を掛けてくれって言っているようだ。この腹の傷は初級魔法である『ヒール』を掛けたところで助からない。そんなのは子供でも分かる事だ。しかし、彼はヒーラーである俺に縋るしか無かった。
「…………治せば、僕に何かメリットがありますか?」
「……な……に……?」
「いえ、簡単な話です。あなた方は俺を、回復するだけの無能とぐらいにしか思ってないのでしょう?」
「なに……が………ほ……しい……んだ」
「報酬です。組む前に二割と言われましたが、半々でいきましょう。そうすれば助けてあげます」
俺は腹から大量の血を流し倒れているマクスに提案する。
「分かっ……た」
「ありがとうございます。忘れないで下さいね、今の言葉」
マクスは了承してくれたようだ。ヒーラーだからって分け前が減るのは不公平だからな。これで平等だ。
「『ヒール』」
俺はマクスに初級魔法の『ヒール』を掛けた。腹の傷は塞がり、その傷跡すら無い。
「…………うそだろ。この傷を初級魔法の『ヒール』で治したってのか」
マクスは死を覚悟していた。駆け出しのヒーラーごときが治せる傷では無いと理解していたのだ。だから藁にもすがる思いで頼んだ。それがまさか、初級魔法である『ヒール』で致命傷が完治した。驚くのも無理は無い。
「…………そうだ! おいヒーラー! てめぇ! 回復できんならさっさとやりやがれ!」
マクスは俺の胸ぐらをつかんだ。
「だから治しました。報酬を半々にする事を条件に」
「くそ! そんなの無効だ!」
「……約束、破るんですか?」
「知らねぇな! そんなもん!」
「……本当ならあなたは死んでいましたよ、マクスさん。あなたも分かっていたはずです。あなたの傷は、駆け出しのヒーラーに治せる傷では無いと」
胸ぐらを掴んで離さないマクスに俺は続ける――
「ヒーラーは道具じゃありません。人間です。それをよく考えて下さい」
「ってめぇぇぇぇ! 俺に説教だと? ぶち殺してやる!!」
マクスは俺から手を離し、足元に落ちていた剣を拾い、それを俺に突きつけてきた。
「僕を殺したら回復出来ないですよ? 彼、まだマンティコアと戦っています。いいんですか?」
俺は未だにマンティコアと持久戦を繰り広げている盾を持った男に指を差した。さっきより押され気味だ。やられるのも時間の問題だな。
「…………くそっ! 覚えとけヒーラー! マンティコアの次はてめぇだ!」
マクスは盾の男の元へ加勢しに行った。
「……さて、俺はどうしようか」
俺はローブに着いたホコリを払う。
彼らはきっとマンティコアに勝てない。かと言って無限に回復させて戦わせるのも酷だろう。俺はその地獄を痛いほど知っている。
「帰るか」
俺が出した結論は帰宅だ。マンティコアのターゲットは盾の男だ。マクスが加勢したことで二人に増えたが。俺はその中に入ってはいない。よって逃げる。
理由は彼らを早く楽にさせてやろうという気持ちだ。B級の駆け出し冒険者の癖にA級のマンティコアに挑んだんだ。自業自得だ。
ちなみに俺は一応止めた。つまり、彼らが選んだ事だ。俺は関係ない。
「よし……俺は関係ないっと」
「――関係ない事はないよ、アスフィ」
誰かが俺の名を呼んだ。俺はその声がする方向に視線を向けた。
そこに居たのは、ナイスバディな獣人の女性だ。長くて艶のある綺麗な黒髪に、思わず齧りつきたくなるくらいキュートな猫耳。そして、その黒をより際立たせる純白のバトルドレス。
「おぉ……」
俺の視線は無意識にその大きな胸に吸い寄せられていた。
「…………どこ見てるの? ……えっち」
「誰がえっちだ! ……ってなんで俺の名前知ってるんだ?」
何だか見た事あるというか、懐かしい。そんな気持ちだ。
「もしかして――」
俺が声を掛けようとした瞬間、獣人の彼女の姿が消えた。
「……え? 消えた?」
その直後、マンティコアとマクス達が争っていた音が消えた。
場は静寂に包まれた。俺は違和感を感じ、マクス達の方を見た。
「……うそん」
マンティコアが真っ二つに切断され、先程の獣人の彼女がそのすぐ傍に立っていた。右手に持っていた黒刀から血が滴っている。
「あの一瞬で……誰だお前!」
「誰って。助けてあげたのに、一言目がそれなの?」
「あぁ? 助けて欲しいなんて誰が言ったよ!獲物を取りやがって!この乳デカ女!」
「乳デッ!? …………許さない」
マクスと獣人の彼女が争っていた。
「……それだけじゃないよ」
「あぁ?」
「アスフィを虐めた罪は万死に値する」
「アスフィ? そこのヒーラーの事か? まさかお前、そこのヒーラーとデキてんのか? カッハッハッハッ!! 趣味悪りぃな!」
「カチン」
今あの子カチンって言った? 口に出して言う人初めて見たな。
……って見てる場合じゃない! 止めないと!
「――ねぇ、マクスさん! 助けて貰ったんですから、ちゃんとお礼を言わないと!」
「黙れ、無能! テメェがさっさと俺を回復しねぇからこんな事になったんだ!」
何俺のせいにしてんだコイツ。今のお前がどれだけ頑張ってもマンティコアには勝てねぇよ。
「……自分の実力を分かっていないの?」
「あぁ? 乳デカ女、マンティコアを不意打ちで倒したくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ! あれは俺達の獲物だったんだ! 横取りしてんじゃねぇ!」
助けて貰ってこれか。コイツまじで救いようが無いバカだな。
「もういい。アスフィ、行こう」
彼女も流石に争っても意味が無いと感じた様だ。
と、突然ナイスバディの獣人の彼女が俺の手を握ってきた。
「乳デカ女と無能にはお似合いだぜ! 乳デカ! 乳デカ!」
ガキかコイツ……。
「……………………ねぇアスフィ。ちょっと待っててくれる?」
「……え?」
「アイツら死なない程度に殺してくるから」
それ絶対殺しちゃうやつだ。
「…………ところで、君は誰?」
「…………え?」
「いや、助けてくれたのは感謝しているんですけど、誰なのかなと。俺の名前を知っている様だし、多分俺の関係者なのかなと思うんですけど。……まだ駆け出しだからファンでは無いでしょうし」
「…………うそ。そんな…………」
え、俺なんかまずいこと言った? この子今にも泣きそうなんだけど……。こういう時どうしたらいいんだろうか。『ヒール』でもかけてみるか?
「…………もういい……これならどう?」
「え? なにちょっとなんですか!?」
彼女は握っていた俺の手を自分の胸へと押し当てた。
「柔らかい……」
ん? ……この感触、どこかで……。片手じゃ分からないな。よし、両手で確かめてみよう。
「……ふむふむ…………なるほど…………この感触…………」
「…………恥ずかしい」
彼女は顔を赤らめている。
俺は胸を揉みしだき、ついに答えを導き出した。
……というか、既に一揉みで分かったんだけど。後の考えていたフリはお楽しみタイムだ。
「――久しぶりだね、レイラ」
「……遅いよ、アスフィ」
感動の再会だ。昔と変わらない。変わったと言えば、スタイルか。俺が見間違う程のナイスバディな大人の女性へと進化していた。俺好みの女性へと……。
「……ねぇアスフィ。いつまで揉んでるの?」
「一生」
「流石にそれはダメだよ。……でも、その代わり好きな時に触って……いいよ?」
「え、ほんとに?」
「うん」
わーいやったーーー! …………って何してんだ俺は。こんなマンティコアの死体と冒険者が居るところで。二人がドン引きだ。
「乳デカ女……お前、こんなやつがいい……のか?」
「これがいいんだよ。アスフィはいつもこんな感じだよ」
「このヒーラーが、まさか……」
こんなやつだったのかって言いたげな顔だな。ほっとけ!
「では、皆さん。冒険者協会へ行きましょうか」
「……は、はぁ!? なんで俺らがお前らと一緒に行かなきゃなんねーんだ!?」
「報酬、ですよ。半々です」
「だからそれは――」
と、マクスが言いかけた瞬間、レイラの短剣、黒刀がマクスの首に触れた。
「――ヒャッ!?」
マクスは驚いて変な声を出した。黒刀は首に触れ、首の肉に食い込んでいた。しかし、驚いたのはここからだ。マクスの首からは一滴足りとも血が流れていない。見るからに斬れ味が良さそうな黒刀だ。入念に手入れされているのが一目で分かる。それにレイラは常人の目では追えない程の速さで動いたのだ。普通ならその速度で首に刃物を当てれば、血が出る。最悪、首が飛ぶ。
それをレイラは一滴の血を流さずにやって見せた。
「……分かった。半々でいい」
流石のマクスも彼女の実力を認めた様だ。
「分かればいい。アスフィ、行こう?」
「……クソが」
マクスは苛立ちを隠せない。しかし、さっきのような突っかかるような言動はしなくなった。
……
…………
………………
「……いやぁ、ありがとうレイラ」
「いいよ。アスフィも良かったね」
「よかったよかった」
これにて一件落着だ。
「ところでアスフィ」
「どうしたの、レイラ?」
「いつまでレイラの胸揉んでるの?」
「……あ」
俺の右手は無意識にレイラのお乳様を揉んでいた。
誰だか知らんがうるさいぞ。少し眠い。もう少しだけ寝させてくれ。
しかし、その声は止まない。それどころか顔が痛い。誰かが俺の頬を叩いているようだ。
「おいコラ! 聞こえてんのか!」
「…………聞こえない」
「聞こえてんじゃねぇか」
ビンタされたら流石に起きるだろうが。
「……ああ、マクスさんですか。なんですか?」
「なんですか? じゃねぇ! お前ヒーラーだろうが! なに寝てんだ! 俺の仲間が重症だ!さっさと回復しやがれ!」
目を開けると金髪の男が俺の顔を覗き込んでいた。
あ、そういえば俺今冒険者だった。
にしてもこいつ、それが人にものを頼む態度か。どんな教育を受けてるんだこいつは。
「分かりました。『ヒール』」
俺は倒れている大きな盾を持ったもう一人の男に回復魔法をかけた。
「ほう? やるじゃねぇかお前」
「それはどうも」
金髪の男に褒められた。ちっとも嬉しくない。なんで上から目線なんだ。……まぁ、理由は分かっているが。こいつはヒーラーを見下している。それもかなり。この世界でヒーラーは評価されにくいというのが常識だ。しかし、こいつはそれ以上にヒーラーを見下している。
「これからも頼むぜ? ヒーラー」
「頑張ります」
マクスはもう一人の大盾を持った男の元に戻って行った。
「……はぁ。初めてのクエストの仲間がこれかぁ」
文句を言っても仕方ないか。俺は回復魔法しか使えない。クエストに行くにはどうしても前衛が必要だ。だからこいつらと組むのは仕方が無い事だ。
「――おいヒーラー! 次はマンティコアだ。いくぞ」
どうやらもう次に向かうらしい。今の俺は本当にこいつらの奴隷だ。
「マンティコアはやめといた方が――」
「るせぇ!お前は黙って付いてこい!」
人がせっかく心配してやったのに。死んでも知らないよ?
にしてもマンティコアか……懐かしいなぁ。俺も昔は……
「……っていかんな。今は今だ」
***
「――っく! おいヒーラー! 俺を回復しろ!」
「はい。『ヒール』」
早速マクスはマンティコア相手に手こずっていた。マンティコアはA級に該当する上位の魔獣だ。手こずるのも当然だ。
「ま、頑張って下さいって感じだけど」
「ガハッ……くっそ…………」
マクスが腹にマンティコアの一撃を食らった。致命傷だ。恐らく助からない。
「マクスッ! くそ、この獣風情が!」
大盾の男が盾を持ってマンティコアに突進した。しかし、彼はタンクだ。俺と同じく上位の魔獣であるマンティコアに与えられる攻撃手段は無い。
攻撃は防げても攻撃する手段が無いのだ。つまり、どちらかのスタミナが切れるまでの持久戦。獣か人か。
「マクスさん、大丈夫ですか」
「…………は……く……ヒ……ルを」
どうやら『ヒール』を掛けてくれって言っているようだ。この腹の傷は初級魔法である『ヒール』を掛けたところで助からない。そんなのは子供でも分かる事だ。しかし、彼はヒーラーである俺に縋るしか無かった。
「…………治せば、僕に何かメリットがありますか?」
「……な……に……?」
「いえ、簡単な話です。あなた方は俺を、回復するだけの無能とぐらいにしか思ってないのでしょう?」
「なに……が………ほ……しい……んだ」
「報酬です。組む前に二割と言われましたが、半々でいきましょう。そうすれば助けてあげます」
俺は腹から大量の血を流し倒れているマクスに提案する。
「分かっ……た」
「ありがとうございます。忘れないで下さいね、今の言葉」
マクスは了承してくれたようだ。ヒーラーだからって分け前が減るのは不公平だからな。これで平等だ。
「『ヒール』」
俺はマクスに初級魔法の『ヒール』を掛けた。腹の傷は塞がり、その傷跡すら無い。
「…………うそだろ。この傷を初級魔法の『ヒール』で治したってのか」
マクスは死を覚悟していた。駆け出しのヒーラーごときが治せる傷では無いと理解していたのだ。だから藁にもすがる思いで頼んだ。それがまさか、初級魔法である『ヒール』で致命傷が完治した。驚くのも無理は無い。
「…………そうだ! おいヒーラー! てめぇ! 回復できんならさっさとやりやがれ!」
マクスは俺の胸ぐらをつかんだ。
「だから治しました。報酬を半々にする事を条件に」
「くそ! そんなの無効だ!」
「……約束、破るんですか?」
「知らねぇな! そんなもん!」
「……本当ならあなたは死んでいましたよ、マクスさん。あなたも分かっていたはずです。あなたの傷は、駆け出しのヒーラーに治せる傷では無いと」
胸ぐらを掴んで離さないマクスに俺は続ける――
「ヒーラーは道具じゃありません。人間です。それをよく考えて下さい」
「ってめぇぇぇぇ! 俺に説教だと? ぶち殺してやる!!」
マクスは俺から手を離し、足元に落ちていた剣を拾い、それを俺に突きつけてきた。
「僕を殺したら回復出来ないですよ? 彼、まだマンティコアと戦っています。いいんですか?」
俺は未だにマンティコアと持久戦を繰り広げている盾を持った男に指を差した。さっきより押され気味だ。やられるのも時間の問題だな。
「…………くそっ! 覚えとけヒーラー! マンティコアの次はてめぇだ!」
マクスは盾の男の元へ加勢しに行った。
「……さて、俺はどうしようか」
俺はローブに着いたホコリを払う。
彼らはきっとマンティコアに勝てない。かと言って無限に回復させて戦わせるのも酷だろう。俺はその地獄を痛いほど知っている。
「帰るか」
俺が出した結論は帰宅だ。マンティコアのターゲットは盾の男だ。マクスが加勢したことで二人に増えたが。俺はその中に入ってはいない。よって逃げる。
理由は彼らを早く楽にさせてやろうという気持ちだ。B級の駆け出し冒険者の癖にA級のマンティコアに挑んだんだ。自業自得だ。
ちなみに俺は一応止めた。つまり、彼らが選んだ事だ。俺は関係ない。
「よし……俺は関係ないっと」
「――関係ない事はないよ、アスフィ」
誰かが俺の名を呼んだ。俺はその声がする方向に視線を向けた。
そこに居たのは、ナイスバディな獣人の女性だ。長くて艶のある綺麗な黒髪に、思わず齧りつきたくなるくらいキュートな猫耳。そして、その黒をより際立たせる純白のバトルドレス。
「おぉ……」
俺の視線は無意識にその大きな胸に吸い寄せられていた。
「…………どこ見てるの? ……えっち」
「誰がえっちだ! ……ってなんで俺の名前知ってるんだ?」
何だか見た事あるというか、懐かしい。そんな気持ちだ。
「もしかして――」
俺が声を掛けようとした瞬間、獣人の彼女の姿が消えた。
「……え? 消えた?」
その直後、マンティコアとマクス達が争っていた音が消えた。
場は静寂に包まれた。俺は違和感を感じ、マクス達の方を見た。
「……うそん」
マンティコアが真っ二つに切断され、先程の獣人の彼女がそのすぐ傍に立っていた。右手に持っていた黒刀から血が滴っている。
「あの一瞬で……誰だお前!」
「誰って。助けてあげたのに、一言目がそれなの?」
「あぁ? 助けて欲しいなんて誰が言ったよ!獲物を取りやがって!この乳デカ女!」
「乳デッ!? …………許さない」
マクスと獣人の彼女が争っていた。
「……それだけじゃないよ」
「あぁ?」
「アスフィを虐めた罪は万死に値する」
「アスフィ? そこのヒーラーの事か? まさかお前、そこのヒーラーとデキてんのか? カッハッハッハッ!! 趣味悪りぃな!」
「カチン」
今あの子カチンって言った? 口に出して言う人初めて見たな。
……って見てる場合じゃない! 止めないと!
「――ねぇ、マクスさん! 助けて貰ったんですから、ちゃんとお礼を言わないと!」
「黙れ、無能! テメェがさっさと俺を回復しねぇからこんな事になったんだ!」
何俺のせいにしてんだコイツ。今のお前がどれだけ頑張ってもマンティコアには勝てねぇよ。
「……自分の実力を分かっていないの?」
「あぁ? 乳デカ女、マンティコアを不意打ちで倒したくらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ! あれは俺達の獲物だったんだ! 横取りしてんじゃねぇ!」
助けて貰ってこれか。コイツまじで救いようが無いバカだな。
「もういい。アスフィ、行こう」
彼女も流石に争っても意味が無いと感じた様だ。
と、突然ナイスバディの獣人の彼女が俺の手を握ってきた。
「乳デカ女と無能にはお似合いだぜ! 乳デカ! 乳デカ!」
ガキかコイツ……。
「……………………ねぇアスフィ。ちょっと待っててくれる?」
「……え?」
「アイツら死なない程度に殺してくるから」
それ絶対殺しちゃうやつだ。
「…………ところで、君は誰?」
「…………え?」
「いや、助けてくれたのは感謝しているんですけど、誰なのかなと。俺の名前を知っている様だし、多分俺の関係者なのかなと思うんですけど。……まだ駆け出しだからファンでは無いでしょうし」
「…………うそ。そんな…………」
え、俺なんかまずいこと言った? この子今にも泣きそうなんだけど……。こういう時どうしたらいいんだろうか。『ヒール』でもかけてみるか?
「…………もういい……これならどう?」
「え? なにちょっとなんですか!?」
彼女は握っていた俺の手を自分の胸へと押し当てた。
「柔らかい……」
ん? ……この感触、どこかで……。片手じゃ分からないな。よし、両手で確かめてみよう。
「……ふむふむ…………なるほど…………この感触…………」
「…………恥ずかしい」
彼女は顔を赤らめている。
俺は胸を揉みしだき、ついに答えを導き出した。
……というか、既に一揉みで分かったんだけど。後の考えていたフリはお楽しみタイムだ。
「――久しぶりだね、レイラ」
「……遅いよ、アスフィ」
感動の再会だ。昔と変わらない。変わったと言えば、スタイルか。俺が見間違う程のナイスバディな大人の女性へと進化していた。俺好みの女性へと……。
「……ねぇアスフィ。いつまで揉んでるの?」
「一生」
「流石にそれはダメだよ。……でも、その代わり好きな時に触って……いいよ?」
「え、ほんとに?」
「うん」
わーいやったーーー! …………って何してんだ俺は。こんなマンティコアの死体と冒険者が居るところで。二人がドン引きだ。
「乳デカ女……お前、こんなやつがいい……のか?」
「これがいいんだよ。アスフィはいつもこんな感じだよ」
「このヒーラーが、まさか……」
こんなやつだったのかって言いたげな顔だな。ほっとけ!
「では、皆さん。冒険者協会へ行きましょうか」
「……は、はぁ!? なんで俺らがお前らと一緒に行かなきゃなんねーんだ!?」
「報酬、ですよ。半々です」
「だからそれは――」
と、マクスが言いかけた瞬間、レイラの短剣、黒刀がマクスの首に触れた。
「――ヒャッ!?」
マクスは驚いて変な声を出した。黒刀は首に触れ、首の肉に食い込んでいた。しかし、驚いたのはここからだ。マクスの首からは一滴足りとも血が流れていない。見るからに斬れ味が良さそうな黒刀だ。入念に手入れされているのが一目で分かる。それにレイラは常人の目では追えない程の速さで動いたのだ。普通ならその速度で首に刃物を当てれば、血が出る。最悪、首が飛ぶ。
それをレイラは一滴の血を流さずにやって見せた。
「……分かった。半々でいい」
流石のマクスも彼女の実力を認めた様だ。
「分かればいい。アスフィ、行こう?」
「……クソが」
マクスは苛立ちを隠せない。しかし、さっきのような突っかかるような言動はしなくなった。
……
…………
………………
「……いやぁ、ありがとうレイラ」
「いいよ。アスフィも良かったね」
「よかったよかった」
これにて一件落着だ。
「ところでアスフィ」
「どうしたの、レイラ?」
「いつまでレイラの胸揉んでるの?」
「……あ」
俺の右手は無意識にレイラのお乳様を揉んでいた。
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「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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