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第三章 ヒーラー 愛の逃避行篇 《第一部》
第43.5話「儚き静寂に抱かれて」
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俺はレイラが眠っている部屋に戻った。静けさが支配するその空間に足を踏み入れると、ようやく全てが終わった実感がじわりと胸に広がる。それと同時に、圧倒的な虚無感が押し寄せてきた。
「……お疲れ様です、アスフィ……」
ルクスが振り返り、穏やかな声を掛けてくる。その声には、戦いの中では見せなかった優しさが滲んでいた。
「……ああ」
短い返事を返すと、ルクスがこちらをじっと見つめた。
「アスフィ……でいいんですよね?」
当たり前のことを聞かれる。その言葉に違和感を覚えたが、視線を合わせると、彼女の目はどこか不安げだった。
「……ああ」
俺の答えを聞くと、ルクスはほっと息をついた。そのまま、少し戸惑ったように言葉を続ける。
「その……髪色もそうですが、身長が高くなっているものですから……」
確かに、以前より目線が高くなっているのを感じる。けれど、それが自分の変化によるものだと、ようやく気づいた。髪の色――今は何色に変わっているのかは分からないが、彼女が続けた言葉が答えを教えてくれた。
「……私とお揃いですね。カッコイイと思いますよ?」
笑顔を向けられる。その言葉にはどこか救いがあった。白髪か。お揃い――そう思うと、不思議と悪い気分ではなかった。
「エルザは……」
口を開くと、ルクスが表情を引き締めて答えた。
「大丈夫です、息はしています。ただ腕が……もう剣は振れないでしょう」
「……そうか」
短い言葉を返しながら、心の中でわずかな安堵と深い無力感が混ざり合う。無くなった部位は俺の回復魔法でも治せない。それは、この世界での絶対的なルールなのだろう。
あの後、辺りを必死に探したが、エルザの腕と思われるものは見つからなかった。
俺のベッドに横たわるエルザ。その横では、レイラが安らかに眠っているように見える。だが、それはもう戻らない命だった。
「……くそっ」
思わず壁を殴った。鈍い痛みが拳に走るが、それでも収まらない怒りと悔しさが胸を掻きむしる。
「……アスフィのせいではありません。悪いのはやつらですから」
静かに諭すルクスの言葉。それでも、自分の中にある罪悪感は簡単には消えなかった。
「そう……なのかな」
自分でも分からない。けれど、ルクスが真っ直ぐな目で頷いてくれた。それだけが、心の重荷を少しだけ軽くしてくれる。
俺たちはただ黙って、エルザとレイラの眠る姿を見つめた。これからどうすればいいのか、何をすべきなのか――答えはどこにも見えない。ただ、静かに時が流れる中、ミスタリス王国の未来も、自分たちの道も全てが不透明だった。
やがて、エルザがゆっくりと目を開けた。
「………アスフィ……君なのか」
その声に、ルクスが反応する。エルザの名を呼びながら、彼女の上半身を強く抱きしめた。けれど、エルザの目は虚空を見つめている。
「アスフィ……君、イメチェンでもしたのかな?……それともそれが君の本来の姿……なのかな」
ゆっくりと顔をこちらに向けた彼女の瞳には、困惑と微かな安堵が混ざっていた。
「……どう……だろうな。……どっちも俺かもしれないな」
その答えに、エルザはわずかに笑い、再び目を閉じた。彼女が再び眠りに落ちるまで、俺たちはただそばに座り続けた。
しばらくの間、静かな時が流れた。それは、戦いの後に訪れる、一時の安らぎだった。けれど、その安らぎには、どこか切なさと虚しさが混じっていた。
静寂に包まれた部屋の中で、俺は目を閉じた。疲労が全身を蝕む。心も体も限界に近かったのだろう。ベッドに横たわるレイラを見下ろしながら、その端に腰掛けた。
「……レイラ」
小さく名前を呼ぶ。その声は誰にも届かない。それでも言葉にすることで、自分の中の感情を少しでも紛らわせたかったのかもしれない。
暖かなはずのレイラの寝顔。けれど、その温もりはもうどこにもない。俺は手を伸ばし、そっと彼女の髪に触れた。柔らかな感触に、胸が締め付けられる。
「……俺がもっと早く来ていれば……」
後悔と無力感が、再び心を押し潰そうとする。けれど、今はもう泣くことすらできなかった。ただ疲れ切った体をベッドに預け、深く息を吐き出す。
「終わったんだよな……」
小さく呟きながら、俺は目を閉じた。そのまま意識は深い闇へと沈んでいく。どこかで聞いたような、レイラの穏やかな笑い声が耳元に響いた気がした。
「……おやすみ、レイラ」
俺もまた、眠りについた。彼女が安らかに眠るベッドに、そっと寄り添うようにして。
「……お疲れ様です、アスフィ……」
ルクスが振り返り、穏やかな声を掛けてくる。その声には、戦いの中では見せなかった優しさが滲んでいた。
「……ああ」
短い返事を返すと、ルクスがこちらをじっと見つめた。
「アスフィ……でいいんですよね?」
当たり前のことを聞かれる。その言葉に違和感を覚えたが、視線を合わせると、彼女の目はどこか不安げだった。
「……ああ」
俺の答えを聞くと、ルクスはほっと息をついた。そのまま、少し戸惑ったように言葉を続ける。
「その……髪色もそうですが、身長が高くなっているものですから……」
確かに、以前より目線が高くなっているのを感じる。けれど、それが自分の変化によるものだと、ようやく気づいた。髪の色――今は何色に変わっているのかは分からないが、彼女が続けた言葉が答えを教えてくれた。
「……私とお揃いですね。カッコイイと思いますよ?」
笑顔を向けられる。その言葉にはどこか救いがあった。白髪か。お揃い――そう思うと、不思議と悪い気分ではなかった。
「エルザは……」
口を開くと、ルクスが表情を引き締めて答えた。
「大丈夫です、息はしています。ただ腕が……もう剣は振れないでしょう」
「……そうか」
短い言葉を返しながら、心の中でわずかな安堵と深い無力感が混ざり合う。無くなった部位は俺の回復魔法でも治せない。それは、この世界での絶対的なルールなのだろう。
あの後、辺りを必死に探したが、エルザの腕と思われるものは見つからなかった。
俺のベッドに横たわるエルザ。その横では、レイラが安らかに眠っているように見える。だが、それはもう戻らない命だった。
「……くそっ」
思わず壁を殴った。鈍い痛みが拳に走るが、それでも収まらない怒りと悔しさが胸を掻きむしる。
「……アスフィのせいではありません。悪いのはやつらですから」
静かに諭すルクスの言葉。それでも、自分の中にある罪悪感は簡単には消えなかった。
「そう……なのかな」
自分でも分からない。けれど、ルクスが真っ直ぐな目で頷いてくれた。それだけが、心の重荷を少しだけ軽くしてくれる。
俺たちはただ黙って、エルザとレイラの眠る姿を見つめた。これからどうすればいいのか、何をすべきなのか――答えはどこにも見えない。ただ、静かに時が流れる中、ミスタリス王国の未来も、自分たちの道も全てが不透明だった。
やがて、エルザがゆっくりと目を開けた。
「………アスフィ……君なのか」
その声に、ルクスが反応する。エルザの名を呼びながら、彼女の上半身を強く抱きしめた。けれど、エルザの目は虚空を見つめている。
「アスフィ……君、イメチェンでもしたのかな?……それともそれが君の本来の姿……なのかな」
ゆっくりと顔をこちらに向けた彼女の瞳には、困惑と微かな安堵が混ざっていた。
「……どう……だろうな。……どっちも俺かもしれないな」
その答えに、エルザはわずかに笑い、再び目を閉じた。彼女が再び眠りに落ちるまで、俺たちはただそばに座り続けた。
しばらくの間、静かな時が流れた。それは、戦いの後に訪れる、一時の安らぎだった。けれど、その安らぎには、どこか切なさと虚しさが混じっていた。
静寂に包まれた部屋の中で、俺は目を閉じた。疲労が全身を蝕む。心も体も限界に近かったのだろう。ベッドに横たわるレイラを見下ろしながら、その端に腰掛けた。
「……レイラ」
小さく名前を呼ぶ。その声は誰にも届かない。それでも言葉にすることで、自分の中の感情を少しでも紛らわせたかったのかもしれない。
暖かなはずのレイラの寝顔。けれど、その温もりはもうどこにもない。俺は手を伸ばし、そっと彼女の髪に触れた。柔らかな感触に、胸が締め付けられる。
「……俺がもっと早く来ていれば……」
後悔と無力感が、再び心を押し潰そうとする。けれど、今はもう泣くことすらできなかった。ただ疲れ切った体をベッドに預け、深く息を吐き出す。
「終わったんだよな……」
小さく呟きながら、俺は目を閉じた。そのまま意識は深い闇へと沈んでいく。どこかで聞いたような、レイラの穏やかな笑い声が耳元に響いた気がした。
「……おやすみ、レイラ」
俺もまた、眠りについた。彼女が安らかに眠るベッドに、そっと寄り添うようにして。
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