攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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新章 第三幕【NEO: Crossing】

Re:第三十五話「破滅のセカイ」Part2

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 「どうじゃ、オーディン。もうここらでやめにしてやらんか」

 ……声は届かない。

 ルクスの内側に引きこもった神は、かつてのような応答を返すことはなかった。

 「……どうやら返事はないようですよ」

 ゲンは穏やかな声音で、けれどどこか寂しそうに目を伏せた。

 その眼差しに滲むのは、諦めでも怒りでもなく、わずかな“後悔”だった。

 「そうか。ワシが救えんかったからか」

 (……違う)

 ルクスの胸の奥、まるで小さな泡が浮かぶように、微かな声が届く。

 「違うそうです」

 「……じゃが、遊びはここまでじゃ。このままだと本当に取り返しの付かないことになる。それはお主も分かっとるじゃろう」

 (もう無駄だよ)

 言葉の温度は冷たい。  
 まるで、自らの存在をも切り捨てるような響きだった。

 「……無駄だそうです」

 「無駄、か。……ワシが最初の“神”としてやれることは、お主を仲間の世界へ戻すことじゃ」

 「……私を、ですか」

 「そうじゃ。お主も戻りたかろう?」

 「……どうでしょうか。この世界で過ごした時間は私を狂わせるには十分でした。今更戻って私に何が出来るというのでしょうか」

 その呟きには疲弊があった。  
 責める言葉ではなかった。ただ、静かな問いかけだった。

 「……出来ることならある。『純粋なアスフィ』」

 「純粋なアスフィ……ですか」

 「世界の在り方を変え、作り変えたのは紛れもなくオーディンじゃ」

 (……)

 沈黙。  
 だが、その沈黙は否定でも肯定でもなく──ただ、耳を傾けるような沈黙だった。

 「じゃが、オーディンも知りたかったんじゃ。人間をな」

 「それで世界が滅茶苦茶になってしまった……私がこんな目にあったのも」

 「じゃからアスフィじゃ。ワシがお主を彼等のいる世界へ送る」

 「そんなことが……?」

 「世界も武具も、創造する原理は同じじゃわい!!」

 ゲンの声が一際強く響いた。  
 それはただの理屈ではない。神として、創造主としての“確信”だった。

 「……それで、私はどうすれば」

 「奪え」

 「……奪う?」

 「赤子のアスフィ・シーネットを」

 「……奪ってどうするんですか」

 「その後は育てるなり、放置するなり任せるわい」

「……どちらも難しい選択ですね」

 ゲンの言葉はいい加減なものだった。
 
 「ま、お嬢さんならもう一つの選択をするじゃろうのう。……して、問題はアリア。彼女については知っておろう。あやつもオーディンから想像された神じゃ。一筋縄ではいかんとは思うが──」

 「出来ます。この世界は私を狂わせた。……ですが、私はこの『才能』だけが支配する世界で、否定されながらも強くなりました」

 その言葉には、もう迷いはなかった。  
 すでに少女の目には、立ち向かう者の光が戻っていた。

 「今の私は”誰よりも強い”」

 「いいのう!ワシは好きじゃ!……オーディンよく聞いておけ。お主がこのお嬢さんの制御をするんじゃ」

 「……何で私がって言ってます」

 「お主がそのお嬢さんから離れれば、そのお嬢さんは間違いなく壊れる」

 「……え?それはどういう──」

 「この世界でまだ正気を保てているのは、オーディンがいるからじゃ」

 「オーディンが私を……なぜですか?」

 「それは本人に直接聞くことじゃな」

 (……)

 「答えてくれそうにありません」

 「じゃろうな。……さて、こうしているうちにも世界は崩壊の道へと進んでいる。……オーディン、お主とワシは同じ作り手として相性が最悪じゃったな。でも、お主にも考えがあることはワシも知っておる。いや、ワシだけがお主のたった一人の理解者じゃ」

 (……ゲン)

 心を揺らすのは、名を呼ばれたその瞬間だけだった。

 「……羽虫がおる」

 「羽虫?エーシル、ですか」

 「彼ではない。いずれ出会うことになる。何、お主らが相手なら向こうさんも手出しは出来まい。……最悪なことにならなければのう」

 ゲンの手に、どこからともなく剣が現れる。  
 それは空間を超えて現れた、“意志”を帯びた武器だった。

 「どこから……」

 「ワシに出来るのは、世界と世界の繋がりを断ち切る事くらいじゃ」

 「それはどういう──」

 「このお主にとって最悪な世界のループの連鎖を断ち切り、お主を待っている元達の元へ返す。それが今のワシにできる事じゃな」

 ゲンは何もない空間を振るった。  
 その一撃は、空すら裂いた。

 ……
 …………
 ………………

 何も起きない。

 「……あの何も起きませんが」

 (いいや、断ち切られたよ)

 「さて、あとはオーディン。お主に任せた。……『例え何度世界を間違えようと、ワシらは何度でも救うとそう決めた』。そうじゃろう」

 (──ッ)

 心を突き動かしたのは、かつて自身が作り上げた一人目の神。

 「もう負の連鎖は起きん!はよう出ていかんか!」

 「あなたは!?」

 「……ワシはここに残る。やる事があってのう」

 (行くよ、ルクス……………またね、ゲン)

 次の瞬間、光が弾けた。  
 ルクスの姿はその中へと溶け、そして──

 最恐の世界から、確かに“救われた”。

「……さて、ワシの孫は上手くやっとるかのう」
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