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1章

9話 シスコンと不器用さを兼ね備えている(?)

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私たちはチトセから逃れるため、あいつに会うために、次元の歪みを生じさせる。
すぐに楕円形に裂かれている次元の歪みが出現した。
…ただ、これだけではあいつの元へ…へ行くことは出来ない。
行き先を頭の中でイメージして初めて転移というものは完成する。
…まあ、例外はあるが。

「逃がすとでも!」

チトセがこちらへ迫ってくる。
こちらとしては、実力差が分かっている分、恐怖という感情が溢れてくる。

(兄が妹をそんな形相で…まあ、そうさせてしまったのは私もなのかもしれない)

そうだ。
私は兄さんを救うのではなかったのか。
兄さんの絶望…それを救うために希望を与えるのではなかったのか。

何をやっているんだ。
兄さんがどうした。
兄さんを救う為ならば、私は…

―悪役にだってなれる

気がつけば兄さんは目の前。
ただ、それと同時に鈍い音がする。
それは私からではなく、セツナからでもない。
それは

「っぐ…!イブ…お前…かはっ」

目の前で吐血したのは、兄さんだ。
そう、私が兄さんの腹を思いっきり殴った。
身体強化魔法を何倍にもかけて。
それぐらいでないと止まらない。
兄さんが、あの兄さんが、止まるはずもない。

「兄さん…兄さんのこと、私はよく知ってる。誰よりも…兄さん自身よりも!」

不器用な兄さん。
レイナを殺したのはアレだけど。今でも憎いと思ってるけど。
…でも、のは知っている。
防御魔法もかけていなかった。
、あれを受けとめたのである。
それで生きているだけでも凄いが。
まあ、それで十分。

おそらく兄さんはわかっている。
レイナの行方が。
…でも、妹にその眷属を殺させるって…どうよ?

「イブ!繋がった!行くぞ…!」

セツナがこちらを引っ張り、行こうと促す。
どうやら目的の場所へと繋がったらしい。
これでようやくあいつの元へ行ける。

「兄さん…待ってるから…」

兄さんは必ず来る。
私の元へ。

―そういう運命だからね…兄さんとは



……


ーーーーーーーーーーーーーーー

チトセside

「あ~あ、負けちゃったんですか?実の妹に?」

耳障りな声がする。
不快だ。
今この状況でなければ、そこまで思わなかったかもしれないが。

「そうやって言えば殺されるよ、リク」

「やっぱりそうですか~、すごい顔でこっち睨んできていますしね~」

なんだ。ユウもいるのか。
今は目障りで仕方がないが、それは、イブのせいでもある。
僕の眷属たちの力が…いや、が通用しなかった。
まあ、人間ではもうないのだから仕方がないのかもしれない。
他の人外は効くやつの方が多いのだが。

「イブは…僕らは…特別…か…」

「……?何言ってんですか?」

「さあ…というか、俺のやめたんだな」

「ええ、警戒を解いてもらうってことで~、一番いい方がおりましたのでその方の真似を…と。結構似てなかった気もしますけど…」

「そういう理由なのか…やっぱり敬語の方が俺はしっくりくるよ」

リクとユウは話をしている。
それは、後輩と先輩の姿のようで…いや、実際そうなのだ。
僕は眷属を4人従えている。
そして2人はその中の一番最初に眷属になった者と、1番最後に眷属になった者だ。
今は紫苑の幹部としてまとめてもらっている。

「…ぐ、お前ら…いや…リク…!なぜ最大まで力を行使しなかった…?」

「だって効きそうになかったんですもん…唯一人間の1人は効いていましたけど~」

「なら、ユウ…!カバーに入れなかった理由は…」

「それは…俺は専門外だしねぇ…?」

リクの力というのは《》というもので、
相手の考えていること、これから考えるであろうことの価値観や、考えを変えるものだ。
聞いただけであれば最強かもしれない…が、人間の中にもごく稀だが効かない奴もいる。
人外はその数倍ぐらいのやつが効かない。その分人外も数は多い。

本来であれば《思念操作》を使ってここへ誘導し、抵抗させずに捕らえるつもりであった。
が、しかし、そう簡単にもいかずこういうことになってしまった。

そして、ユウ。
ユウの力というのは《力を授ける者》という、その名の通り自分以外に力を授ける力だ。
紫苑に入ってくる奴らの担当を任せており、そいつらの中の力を持たない者に力を授けるのだ。
授かる者の力はそれぞれ違い、それぞれの個性、特徴、性格、過去などに影響され、
力が反映される。

…とまあ、説明してきたが…

「さっきからうるさい」

「あ…そっか~…殴られたとこ、自分で治しちゃったんですね~残念」

治癒。
それで治していたのだが、案外時間がかかる。
どれだけ強化魔法をかければこうも…兄に対してこんな…
仕方ないのはわかっている。
自分が何をしたのかも。




…そうやって…僕を恨んでくれ。頼む、イブ…そうすれば、僕は…




「さあて…我らが主もいいようだし…そろそろここを離れるか」

「ああ…次の世界へ行こう」

「どうせなら死んでいきますか~?」

「いや、それは効率的ではないから。というか転生を繰り返すって時点で狂っているよ」

そう…繰り返している。
ということは…

「…?ってことは…もう何年生きて死んでを繰り返してましたっけ?」

「…僕とユウが…4000くらいで…リクが3000くらいか」

「うわぁ…ざっと言ってるけど合っているから…言い返せないですよ~…」

「俺らの方が歳とって…あ、妹ちゃんと双子でしょ?なら…」

そうだ。
僕達は双子。であれば僕と同じ歳。
あの眷属達は………いや…も、同い歳くらいか。

「…4000歳…やばいですね…ああ見えて、ばば…」

「それ以上言ったらあいつに殺されるぞ」

「ひえ…双子揃って恐ろしいですね~…」

そろそろ…と、ユウが急かせる。
言わなくてもわかってる…と返事をする。

「じゃあ…って、どこに行くのか決まってるの?」

「…どうせ、どこに行ってもあいつと会うよ。それならどこでも」

「ふぅん…やっぱり運命ってやつですか~?」

「似たようなもの……今回ので僕達のなにかに歪みが生じた。だから、次から同じ世界に2人一緒に存在させられることになる」

「ああ…めんどくさいやつだな…でも、やっぱり面白いよな。イブ。自分の記憶を封印するなんてさぁ」

「確かに…でも僕…あの人のこと好きかもしれないです…結構タイプなんですよね~」

なんだと…?
こいつが…イブを…?
いや、それは…それは、

「ダメだ」

「え…?」

「ダメなものはダメだ」

「…ああ、シスコンが…始まっちゃった…」

「シスコン…だったんですか…いやあ…そういう雰囲気も出さなかったもので…気づきませんでした」

「そりゃそうさ。誰にも…実の、当の本人にも気づかれないほど普段は隠しているからな」

「わ~隠れシスコンなんですね~」

「隠れ…?なにそれ?」

隠れ?
シスコン?
意味がわからないのだが…

「シスコンだよ。知らないのか…」

「え…知っておいた方がよかったやつ…?」

「い、いえ、知らない方がいいかと思われます~…はい~…」

なんだ。
ではなぜ今話題にした?

「で…そろそろって言ったのに…どうしてこうも話が脱線しまくるんだ…」

「それもそうだ…じゃあ、行こうか。次はこことは似ているものも少しあり、似ていないものだらけの世界だ」


そう…ここで言うファンタジーが詰まった世界へ



そうして、僕の固有空間に出口を開けて、行き先を思い浮かべる。
次に瞬きをした時には…そこは青い空が広がる草原であった…
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