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本編

準備ってかなり楽しい

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曲がりなりにも上流貴族の婚約が決まった事で、婚約パーティーが開かれる事になりましたわ。

シャルトル公爵家はこういうことはあまり得意でないため、主にシャルトル公爵夫人が出張して、パーティーの準備を当家でやる事になりましたの。

「やはり、女主人がいると、こういう段取りは手早くできるものですな!」

今回は財布の紐を握るだけで準備をしなくて良くなったお父様はホクホク顔。

「無骨な家では洒落たパーティーも開けませんから、お言葉に甘えて、思いっきり華やかにさせていただきますわ!」

シャルトル公爵夫人も微笑まれて、その一言で、お父様は「執務があるので」と私たちを置き去りにしてサロンを出て行ってしまわれましたわ。

なので、ここにはシャルトル公爵夫人とわたくし、それに控えの侍女たちとサラスだけ。

優雅にお茶をしながらのミーティング。

テーブルには色とりどりの鮮やかなお菓子。

「ああ、レティーちゃんがお嫁に来てくれたら、華やかになるから、もっとパーティーを増やしましょうね?シャルロットも社交に慣れさせないといけないし!」

「そうですね。わたくしもお手伝いいたしますから、なんでもいってくださいね?シャルトル公爵夫人」

「あら、もうすぐ家族になるんだもの、お義母様って呼んでくれてもいいのよ?」

「あっ、ありがとうございます。お義母様」

「招待状のリストはできたかしら?」

「ええ。家が招待している方達はこれぐらいですけれど、シャルトル家でこの方々以外にご招待するお家はありますか?」

「いえ、ないわね。こんなもんでしょう」

「お料理は社交が中心になるから摘めるものと、フィンフードを運ぶ給仕とブッフェのコーナーを設ければいいわね?」

「ええ」

できるだけカジュアルにしたいというわたくしとアリステア様のお願いで、家の庭園で婚約パーティーを行う事になったので、あまり飾りつけはしないと決まりましたの。

立食形式で、ご婦人方やご老人のために何テーブルか休憩用に用意されているけれど、要は社交の場所なので、それをあまり利用する貴族はいなくて、常に会話に勤しんでいますわ。

おめでたい席なので普段の決まり「上の者から話しかけられない限り、話さない」や「自分から自己紹介しない」などというルールはこの日は適用されないので、顔を売りたい貴族や、親しくなりたい相手がいる場合、こういう席でじっとしているのはもったいないから。

飾りつけは我が家の名高い庭園の花々が彩ってくれるので、あまり必要ありませんでした。

「ファーストダンスの時のドレスは決まったの?」

「いえ、まだどれにしたらいいのか迷っていて」

「アリステアは黒の正装でにすると思うわ。一見軍服に見えるけれど、それが我が家の正装なのよ?旦那様が珍しく口を出されて長年のヒラヒラした礼服から変えられたから、知らないと思いけれど、タッセルや勲章もつくから見た目は豪華かしらね?」

「アリステア様が黒にされるなら、わたくしは淡い色にしたほうがいいかしら」

「そうねえ。あなたの銀の髪と緑の瞳のなら…淡い若草色のドレスとか、シフォンの。そうかアリステアの色である淡い空色もいいかもしれないわねえ」

この国では好きな人の色を纏うと永遠に幸せな結婚ができるといういい伝えがある。お義母様もそれを知っているのか、アリステア様の瞳の色を提案してこられた。

「では、薄空色のドレスにしますわ」

「そうね。それがいいわ。柔らかいシフォンで妖精のようにして、可愛らしく仕上げましょう」

「はい」

「では、ドレスのデザイナーを呼んで急いで仕立ててもらう事にしましょうね」

「はい。お義母様。うちの専属は仕事が早いので1ヶ月ほどで仕上がるかと」

「まあ、それはすごいわ」

「わたくしの好みを把握しておりますから。一応採寸にきてもらいますけれど」

「そうね。婚約パーティーに充分間に合うわね。シャルロットのドレスもその方に頼んでいいかしら?」

「ええ。お義母様のドレスも一緒に仕立ててもらいましょう」

「そうね、それがいいわ。当家の仕立て屋は実直なドレスしか作らないから」

それからお義母様とどんどん話を詰めて、婚約パーティのプランが決まっていきましたわ。わたくし小さい頃にお母様を亡くしたから、こういう段取りを侍女以外としたことがなかったから、お義母様とかなり楽しい時間を過ごしましたの。

トントン拍子に行ったのはここまでで、肝心の婚約パーティーでは波乱が待っていましたの。


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