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修学旅行の英雄譚 Ⅱ

不屈の英雄

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 茂みから抜け出し堂々と正面から入る。
 先輩に言われた通り『氷獄の悪魔アブソリュート・メリス』の準備をして敵陣に足を踏み入れる。これを使ってしまえば俺はすぐに使い物にならなくなるが、そんなことは言ってられない。むしろ早期決着が求められてる今はこれがベストなんだ。弱い俺は常に最高を出さないと勝てない。
 ───っ。
 異様な光景に声が詰まる。
 大きな刀身の剣がいくつかの魔法陣に囲まれ、その真ん中から天に向けて放たれる光の中央で浮いている。
「な、なんだよこれ……」
 疑問を口にする俺。
「ククク、分からんか。そうだろうなぁ。これはデュランダルの所有者権限の消去と移行の儀式だ。お前らはそこで私の計画の完成を見てるがいい」
ヨイワースがおかしそうに答える。
「権限の移行は済んだか?」
「ッッ!」
 全員が声のする空の方を向くと豪勢なローブを羽織った男が空に立っていた。
「あと十分もしないさ。もう少し待っていてくれよキード」
「そうか、まぁゆっくりとやってくれ」
 キードと呼ばれた男は先輩に視線を移す。
「ファウストとソロモンは来ないのか?」
「残念ながらあなたのことは私達だけで倒すわ。団長達の力なんて必要無い」
ドッ!ゾァァァ……。
「そうか、それは非常につまらんな」
 キードからドス黒いオーラが溢れ出る。その瞬間に俺たちの周りの草木が急に枯れ初め、風に流れて消えていった。オーラの強さと今の一瞬の出来事に戦慄が走り、背中に寒気を感じた。
 な、なんなんだよあいつ……今のは、地面が死んだ……のか?しかもあのオーラ量、俺がこれまで会ってきたやつの何倍の魔力量……半分とはいえ神のアンラマンユと同等、下手したらそれ以上あるぞ!
『なんだ相棒、ビビってるのか?』
 そりゃビビるに決まってるだろ!あんなのを相手するなんて……!次元が違いすぎる!
『まぁそうだろうな。あいつはあの時代を生き抜き、いくつもの戦いに勝利してきたんだ。そんじゃそこらの魔法使いなど相手にならん。それに加えて何かしらの強化を得ている』
 そんなんにどうやって勝てばいいんだよ。
『まぁせいぜい戦え。なに、もし負けそうになっても俺がなんとしてでも勝たしてやるさ。たとえお前の命を使ってでも、この先に消えない傷を刻もうともな。勝てなくともあとからくる援軍の為にくらいならな』
 ……なるほどね、それほどの相手ってことか。
 それなら俺もビビってないで肚をくくるしかないのか。俺の最終技『氷獄の悪魔アブソリュート・メリス』は、一度使えば魔力、体力を無視して莫大な力を得ることができる。発動してしまえばほぼ無敵だ。……そうだと確信していたのに!
 使うなら一か八かの瀬戸際だろう。
「俺が直接殺すのもいいが、ここは一度俺の下僕共と戦ってもらおうか」
 キードが指を鳴らす。死んだ地面から体長六メートル位の簡素な人形が出てきた。
「目覚めろ」
 人形の目が赤く光、鈍い音をたてながら身体中から刃が出てくる。首、肩、腕、脚が考えられない方向に曲がって、醜い姿へと変貌した。綺麗に噛み合った楔型の歯を見せる笑顔は吐き気を促してくる。
「キラードール!?」
 ローランが驚いた声を出す。
「『殺人形キラードール』キードが殺しの体現者と言われる所以にもなった武器の一つ。あの刃に触れたモノはなんであろうと生命力を吸い取られ、あの人形の糧にされる。あの時私が壊したので最後じゃなかったの?」
 生命力を吸い取られる!?そんなにやばい代物なのかよ!
「先輩!」
「やるしかないわ。あんなものがここから放たれたらローランの故郷が、いえ、この世界が危険にさらされる。いくわよ悠斗!」
 おおっ!先輩もやる気マックスだ。それなら俺もギア上げてかないとな!
「はい!先輩!いくぜ!クリムゾォォォン!」
『紅く染まれあの星よ!灼熱の爪牙の担い手へと!』
 ザスターさん達と戦った時に使用したのと全く同じ『紅煉クリムゾン』を使ったはずなのに、俺を包む炎がその時よりも明るく、紅く、強烈になっていく。みんなも俺の急な変化に少し驚いているようだ。
な、なにしたんだよ。まさかここにきての暴走か?
『違う。せっかくの相手だ、今まで抑えて使用させていたこの技の一部を解放してやったのさ。そして新たに追加された力は───』
 そんな力があったのか!よっしゃ、それならまだなんとかなるかもしれない!
「先輩!俺はサポートに回ります!全力であの気持ち悪い人形をぶっ飛ばしてください!」
「……?よく分からないけど分かったわ。それはどれくらいかかるの?」
「だいたい一分程度です。それまで何とか耐えてください、俺は氷翠を守ります」
「一分ね?任せてちょうだい。結斗、いくわよ。ローランとオリヴィエさんはデュランダルの奪取を。急いで」
ローランとオリヴィエはその場から飛び出して、人形の股下をくぐって魔法陣の方に走っていった。
「結斗」
『水鏡、天を覆い、そのあぎとを以て砕け』
 ヒョォォォォ……。
 結斗さんの体が朧になっていき、ついには完全な闇になった。
人形が錆びた金属が擦れ合うような音をさせながら一気に襲いかかってきた!
 ビュオン!
 人形の肘から巨大な刃が飛び出してきた!うわ!見てるだけでホラー映画だぜ!
『甘い』
 しかし勢いよく飛び出した刃は結斗さんの作りだした闇にドプンと音を立てて消えていった。
「これで!」
 闇の中から巨大な黄金の塊が人形に向かって放たれる。
 竜種の力──。
 いつかの夢の中でアジ・ダハーカから教えてもらった。
 この世で最も神に近く、世界最強の種族の力。それを手にした者は極めれば大陸一つを沈め、文明を滅ぼすのが容易になるほどの強さを手にする。
先輩のあの黄金はそれほどまでに強力な力。
 ガガガガガガガッ!
 黄金の塊が人形の目の前でいくつもの短刀へと変化して人形の身体中に突き刺さる。
 しかしそれを意にも介せずこちらに向かって突進してくる!
 しかもそれだけじゃなく、背中が大きく開きそこからもう一体、一回り小さいサイズの人形が出てきた。
 一体じゃなかったのかよ!
『リーナ!』
 先輩が結斗さん目掛けて自身の攻撃を繰り出し、それを吸収した結斗さんが人形に向けて黒い炎としてぶつける。
 しかし動きが一時的に停止したのは一体だけでもう一体は小柄故のスピードでそれを躱して氷翠に向かって走っていく。
「氷翠ぃぃぃぃ!」
クッソ!まだ準備中で発動できないってのに!あと少しってところで!
『悠斗!ここは俺達でなんとかするから力を使え!』
 結斗さんからそう指示される。
 そうだよな、氷翠を守るためなら仕方ないよな!
 そう俺が決心して準備していたのもを解除しかけた時だった。
 ズバッ!
 同時に三つの剣筋が現れて人形の首が体とおさらばしていた。
 誰だ?ローランか?オリヴィエか?いやでもあの二人はあっちに駆け出したはず──?
 しかし氷翠の前に立っていたのは宝石が鏤められた剣を地面に突き立て堂々と立つ青年──光崎だった。
斬られた人形の腕は剣のオーラに当てられて消滅した。
「加勢に来たぞ。禁龍、お嬢を守れないとはどういうことだ」
 ダッ!
 そう言うやいなや光崎は駆け出して人形のあらゆる方向からそ襲ってくる斬撃を難なくかわして宝剣の腹で人形を吹き飛ばす。その衝撃で脚が折れて動けなくなった人形に輝きの増した宝剣が深く突き刺さりそのまま停止して腕と同じく塵となって消えてしまった。
「すげぇ、一人であいつを倒しやがった」
「聖剣、あらゆる魔物、魔兵器に無類のダメージを与える──」
ゴウッ!
 炎の色が変化して紅から灰色となる。
「な、なんだこれ?」
『さぁ、準備が整った。しかし気をつけろよ?あの二人には絶対に当てるな』
 あぁ、分かってるよ!
「先輩!結斗さん!準備が整いました!そこから一旦離れてください!」
『んな!?あんやろ!あれを解禁しやがったのか!嬢ちゃん!結斗!絶対当たるんじゃねぇぞ!』
 ファーブニルまで二人にそう指示を出す。
 二人が人形にでかい一撃を与えて俺のために隙を作ったところでその場から退く。
 ありがとうございます!
 心の中でそう感謝しながら、目の前に二重の魔法陣を展開してそこから灰色の炎を放つ!
「いくぜ!燃障却ギフト・デリート!」
 放たれた炎が飛ぶ中で矢の形になり高速で動けない人形を貫通する。
 すると人形の目から光が失われていき、ついには本当に動かなくなった。
燃障却ギフト・デリート』灰色の炎の矢で貫いた相手の異能を一時的に消滅させる。消滅させてられる時間は俺と相手の力量や、相手の体制によって変わってしまうが、今回は一瞬でも消せられたらそれでいい。
「よくやったわ悠斗。あとは私に任せて!金魔星ノヴァ・スター
 先輩と人形の間に眩い球体が現れ、それが更に光を増して爆発する。その威力で人形は粉々に砕け散りそのままさっきの人形と同じように塵となって消えていった。
「『くらえ!』」
 人形が消えたと同時に先輩二人がキード目がけて黒い炎をしかける。
「でかい!」
 つい声に出してしまったがそう驚くほどの規模だった。そうか、あの人形とのやり取りの間にも先輩は結斗さんに攻撃を与えてたんだ。なんてコンビネーション!
 しかしキードは方腕を前に突き出すだけだった。
 完全に舐めてやがる!そのまま燃え尽きろ!
 完全な勝利を確信したのは束の間、黒い炎はキードの手のひらで難なく受け止められそのまま軌道をずらされてどこかに行ってしまった。
「ククク、なるほどな。紛い物とはいえ、神器と龍王の力が合わさればここまでのものとなるのか。面白い」
 そう言いつつも余裕な表情なキード。
「無駄だ。その魔法陣に囲まれた結界は貴様では破壊できぬよ」
 ヨイワースの声。そっちを見るとローランが結界に自身の剣を何回も叩きつけ破壊を試みている。その後ろではオリヴィエがステインと一進一退の攻防を繰り広げていた。
「無理か……!どうかは……分かんないよ!それを決めるのは僕だ!」
「ハハハ、笑わせてくれるな!そもそもその剣は既にステインの物、貴様が誰かは知らぬがそれを手にしたところで消滅するだけよ。それでも欲しければその中に身を投じることだな」
 ヨイワースは完全に勝利の笑みを浮かべている。所有者権限の移行?が完了したことで完全に余裕ぶってやがる!
 しかしそれを聞いたローランは絶望するどころか逆に嬉しそうに口を開く。
「そうか、自分の手で無理やり引き抜けばいいんじゃないか」
 両手に握った剣を仕舞い、両手を光の中に突っ込んで大きな剣の鞘を握る。
「ガッ…アァァァァァァァ!」
 ローランが苦痛に歪んだ声を上げる。
「馬鹿が、聖剣を自ら掴みにいくなど『魔』を操る貴様にとってどれほどなのか理解してなかったのか?」
 やれやれといった様子でその姿を傍観するヨイワース。
「たしかにそうだね。自分でも何やってるんだろうって思うよ。下手したら自分が消えて、目的を達成出来なくなってしまうかもしれない。そのまま潰えるのはあまりいいことじゃないな」
 ローランから煙が立ち出し、両腕は完全に焼けてしまっている。
「でも、それが!僕の諦める理由にはならない!何度でも立ち上がって、何度でも走り出した彼のように!」
 宙に浮く聖剣が、少しだけローランの方に傾いた。ローランは必死に、口から血が出るほど歯を食いしばって聖剣を引き抜いた!
「はぁ……はぁ……さぁ、権限を返してもらおう」
「マゼスト、その戦いに俺が参戦しても?俺はあいつのせいでちょっとしたことにあっていてな。ついでだ」
「はいはーい!私も参戦しちゃうよ?」
 ヨイワースに剣先を向けるローランの隣に光崎とオリヴィエが立った。見ると、疲弊した様子のステインがヨイワースの隣に立っている。
「ヨイワース。僕の名前はローラン、ローラン・デミディーユだ。あの戦いの戦士、皆の言う英雄だ」
ローランが自分を名乗ったところでヨイワースが語り出した。
「そうか、それは光栄だな。なぜなら私は英雄や、伝説が大好きなのだよ」
チッ、ジジイの一人語りか、興味もねぇ。
「しかし英雄とは戦火の中で生まれるもの、こんな平穏でつまらん世の中では本物を見ることなどできやしない。貴様も本物の英雄だと言うのならそれは理解できよう?」
「確かに僕は戦いの最中に英雄だと言われるようになった。でも僕はそこに何も望みはなかった」
 美術館で見たあいつの絵を見てもあいつがただみんなを導きたいだけだったってのは分かる。それを曲解しやがって。
「いつまでたっても人々は文明の進化に甘え、争いを起こそうとはしない。そして私は気づいたのだ『起こらないものなら無理やりにでも起こしてしまえばいいではないか』とか」
「なるほどな、だから貴様は聖剣や、魔道具、神兵器、魔兵器に固執していたのか」
 光崎が納得言ったかのように明らかな怒りを見せる。
「だから、返してもらおう。ステイン」
「ほいなぁ。それじゃぁかいいかわいいデュランダルちゃん?僕の元においでなせー」
 ステインがそう言って片手を出すと、ローランに握られていたデュランダルがそこから飛び出してステインの手に納まった。
「渡さない!」
 ローランがボロボロの両手で二刀流を握り、ステインに高速で詰め寄る。オリヴィエと光崎もそれに続く。ステインはデュランダルと自身の聖剣を両手に持ち、三人を迎え撃つ。
「おほー!俺っちモテモテじゃないですかー?でもぉ…その程度で勝てると思うなよぉ」
ステインは三人から繰り出される斬撃を紙一重のところで体を曲げ、剣でいなし、弾きながらして防ぎきっている。しかもそれだけじゃなく、慣れてきたのか反撃までし始めた。
「どれだけ攻めてこようとですね?私にゃ動きがぜーんぶ、ぜーんぶ分かるんですわぁ!」
 あいつが持っている『予言の聖剣コールブランド・プレディクション』はあらゆる未来を所有者に見せる。野性的で素早い動きを持つステインとは相性がよすぎる。
 ローランの姿が消え、次の瞬間にステインの目の前に銀色の筋が現れる。
 あれは俺に見せてくれた神速の斬撃!これなら未来が見えていたってよけれやしない!
 完全に相手の虚を着いた一撃、しかしステインは全くのノーダメージで逆にローランが地面を転がっていた。
「ローラン!」
 オリヴィエが戦闘から抜けてローランの元に駆け寄る。
「勝手に抜けるな!チッ!」
 光崎が一人でステインを相手しているが完全に押されてしまっている。
「ローラン!ねぇローラン!起きてよ!」
オリヴィエが体を揺らして呼びかけるが何も反応がない。
 まさかあいつ!
「先輩!ローランが!」
「……ッ!ローラン!」
 先輩もローランが心配になり二人の元に駆け出す。
「おそらくデュランダルを引き抜いた時に相当なダメージを負っていたんだろう。ローランの体は既に限界に達していたんだ」
 いつの間にか元の姿に戻っていた結斗さんが冷静に言う。
「そんな!それじゃぁあいつはあのまま……!」
「そうとの言いきれない。どうする、逃げるか?」
 俺と結斗さんがどうするか悩んでいるときだった。
『────!』
 なにかが聞こえた。
「結斗さん。今なにか聞こえませんでしたか?」
「え?いや、俺には何も聞こえなかったけど」
 おっかしいな……。
「ふん、英雄というのだから期待したというのに……これっぽっちだったとは。残念だ」
 さっきまで戦いを静観していたヨイワースが三人のものに歩み、ローランにそう言う。
 先輩とオリヴィエがヨイワースを睨むが、むしろそれが面白おかしいのか悪趣味な笑みを更に醜悪にゆがめる。
「ローランはそんなんじゃない!あの時だって私達のために一人で苦しんで、戦ってくれた!あんたなんかと比べ物にならないくらいの人間よ!」
 オリヴィエが涙ながらにヨイワースに言い返す。しかしそれがやつに届くことは無かった。
「立ってよ!立ってよローラン!あんたはいつも立ってきたじゃない!私達を導いてよ!また!私の隣で一緒に戦ってよ!」
先輩が優しく話しかける。
「ローラン。起きなさい。みんなあなたのことを待ってるのよ?私はあなたの過去を知らない。でもね、この何年かであなたが強く、優しい子だってのは嫌という程分かったわ。ほら、助けを求めてる人がここに一人いるわよ」
 オリヴィエの涙がローランの頬をつたい地面に落ちた時、ローランを中心に何かが走ったのが分かった。
そしてまたあの声が聞こえる。
『────!』
 また何を言っているのか分からない。しかし次に聞こえたものははっきりと俺の耳にも届いた。
『立て!立て!』
 その声は周りに反響し広がり、形となっていく。
『俺達の英雄!』
 な、なんだ!なんだか心が……いや、魂が……。
『いつでも俺達を導いた!』
 人の形となったそれは徐々に増えていく、そしてそれらは全てローランの方を向いていた。
『負けるな!諦めるな!屈するな!』
 ローランの指が少し動く。
『お前はひとりじゃない!俺達がいる!』
 動いた指は少しずつ少しずつ動き、強く地面を握る。
「あぁ!アァァァァアアア!」
 似合わない叫び声をあげてボロボロな体を無理やり起こし、握った拳を天に向けて掲げる。
「僕は!多くの過ちを起こした。必ず勝利へと導くと言いながら期待したみんなを裏切った、僕だけが転生なんて手を使って逃げた、みんなを見捨てた!」
 ローランの放つ一言一言は、あいつ自身の自白に聞こえるが、それ以上に──。
「でも次は、次こそは!みんなの意志を継ぎ!戦いに勝利する!」
 そこで初めて気づいたのか、ローランは自分の周りを見渡して戸惑う。
「こ、これは?」
「みんなの魂だよ。みんながローランの復活を願ってた。誰もあんたのことを恨んでなんかいないんだよ?」
 涙ぐみながらオリヴィエがローランに言う。
 ローランから涙が一筋、しかしそれをすぐに拭い、決意ある目で周りを見渡す。
「ありがとう!そしてすまなかった!魂の英雄なんて呼ばれておいて僕がそれを捨てていた」
 一人がローランに近寄り、手を差し出す。
『あんたはいつも俺達を導いてくれた。……まぁなんだ、結果はどうあれ、あの時間は俺達にとって最高の宝だ』
 少し照れくさそうに言われると、ローランは涙を流しながら俺の見たことのない屈託のない本当の笑顔を見せた。
「……全くお前は、いつも嬉しいことばかり言う」
 差し出された手を握る。
『さぁ、じゃぁ今度は俺達があんたへ恩返しだ』
 全員が頷き、声を合わせて叫ぶ。
『『『立ち上がれ英雄!俺達の英雄!』』』
 そして彼等が形を崩してローランを中心に渦を巻く。次第に収束していき、全員がローランの中に入った。
「みんな、この戦い、必ず勝とう」
 ローランが一言。
 ドクン!
 なんだ?胸が高鳴る!胸が熱くなる!
『クハハハハ!ついに至るか!』
 は?いきなりどうしたんだよ?
『神器の所有者が世界を揺らす程の変化をし、神器がそれに応え自身と所有者を次の段階、もしくは別の段階へと昇華させる』
 アジ・ダハーカは嬉しそうに言う。
『──それが、『超越化トランス・エンド』だ』
 万雷の喝采と、辺り一体が吹き飛ぶほどの歓声が聞こえる。
 それはまるで、英雄の復活をこの世界が喜んでいるかのようだった。
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