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修学旅行の英雄譚 Ⅱ

The true power"Demi-dieu"あの過去を乗り越えられずとも

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 僕はただみんなを助けたかったんだ──。
 奇襲を受けた僕達の本拠地は全壊してしまい、大多数の負傷者を出してしまった。
「こうなったら僕が一人でいくよ」
 仲間を治療する手段も無くし消耗する一方──今満足に戦えるのは僕とオリヴィエとゴートの三人だけだった。
「僕が直接敵の本陣を叩く」
 彼さえ倒してしまえば統率を失い相手に混乱を与えることができる。巨大すぎる組織であればなおさらなことだ。
「無理だよ!ローランも分かってるでしょ?向こうにはあの三人がいるんだよ。勝てるわけないでしょ?」
 それは分かっている。あの三人を僕がまとめて相手するのは不可能だ。特に死なない奴もいるわけで……でも一人ずつならまだチャンスはある。
「なら、俺もいく。こいつ一人だけじゃ心配だからな」
 ゴートが手を挙げて言う。
「俺は悪魔だ。身体能力とかは人間よりはるかに上だぜ?そこらへんの雑兵くらいなら相手してやれる」
 そして仲間みんなに絶対に勝って帰ってくると約束した僕は戦いに敗れ別れも言えずに転生を繰り返し今に至る。
 すまないみんな……約束を守れなくて……。それが僕の第一の生の最後の言葉だった。
「オリヴィエは僕に仲間をくれた。姉さんは僕に家と、家族と、温かさをくれた。そんな人達に恩を仇で返してしまった自分が憎くてしかたがない」
 悠斗君に氷翠さん、そして新條君だって──。
 三人が僕を探して見つけて、絶対に逃がすまいと見張っている時に思ってしまった。
「本当はもう、教会への復讐なんていらない」と──。
 僕との付き合いの浅く、本当なら助ける義理もないのに必死になって探してくれて、叱ってもくれる。そんな人達に囲まれた僕は幸せ者だったんだ。
 しかし僕がここで戦うことをやめてしまえば彼らに顔向けすることができなくなる。そう思ってデュランダルを探すこと、復讐の刃を捨てることができなかった。
 でも、あいつらは敗けて裏切った僕を『英雄』だと、過ごした時間を宝だと言ってくれたんだ!
「だからといってあの時代を許すわけじゃない。しかもそれ再来を望むなんてあっちゃいけない」
 あの苦しみは僕が一番分かっている。戦火に呑まれた世界で本当の幸せなんてつかめやしないんだ!
「人が死ぬなどいくらでもあろう?それがいまさら増えることで何が悪い?」
 この人は……絶対に生かしてはいけない!
「ローラァァァァン!負けんなぁ!ステインと、お前の過去をぶった斬れぇぇぇ!」
 悠斗君……。
「ローラン!君は強い!でも仲間がいればより強くなれる!俺達がいる!」
「そうだよ!私だって仲間だよ!」
結斗さん、氷翠さん。
「やりなさいローラン。私の弟は聖剣なんかに負けやしないわ」
姉さん……分かりました。
「まだ戦いは続くだろ?俺もやられっぱなしは癪だからな。本気を出そう」
 いつの間にか隣に立っていた光崎が空を見上げながら、
『天道、地を這い、そのあぎとを以て砕け』
 そう唱えると空が割れ、東洋のドラゴンの形をした光が大地にぶつかる。すると地面が割れて一本の剣が出現した。
「暴れるぞ、天叢雲剣」
 この剣は一体?感じられるオーラは聖剣と同一のものだけど?
「なーもうそういう感動的なシーンいらないんですよねー。俺っちそういうの大嫌いですから?仲間?友情?そんな綺麗事なんかうんざりなんですよ!所詮聖剣に見捨てられた雑魚のくせにいきがんじゃねぇっての!」
 ステインがデュランダルを構えながらそう言う。
 確かに僕は選ばれたはずの剣に見捨てられた剣士の恥だ。それが強引なものだったとしても僕がもっとしっかりしていれば所有権を奪われることなんてなかった。それはなぜか?
 僕が忘れていたからだ。オリヴィエは転生しても自分の剣を失わなかった。それは彼女がそれが求めるものを追い、それに刃が応えているから。
 だから僕は再度またそれを追い求めよう。
「──僕は英雄デミディーユだ」
 僕は戦おう。君達の魂を継いで、あの時乗り越えられなかった勝利を今一度手にするために──。
 自分たちの自由と正義のために目の前の悪を打ち砕こう!
「僕は剣だ。自由と平和を勝ち取るための一本の剣なんだ!もう逃げたりなんかしない、もう!捨てたりなんかしない!だから僕に応えてくれッッ!デュランダル!」
ステインの手に握られていたデュランダルがカタカタと震え出し、弾け飛ぶように彼の手から逃れる。そのまま弧を描きながら宙を舞い、僕の目の前に突き刺さる。
「バカな!聖剣の所有権を自らの意思で取り戻しただと!?そんなの神でなければ不可能なはず!」
 動揺するヨイワース。
「ママママ、マスター!どういうことなんすかぁ!」
 ステインがヨイワースに慌てた様子で言う。
 僕の体の中にある仲間の魂と、デュランダルが同調し、融合していく。
 ──この感覚、初めての感覚だけど僕には分かる。仲間が、デュランダルが教えてくれている。
 これは恐ろしいものではない。これは──僕の進化なのだと。
 目の前でできあがった輝かしい球体は僕の体に再度取り込まれる。
 そうか……これがお前の言っていたことなんだな、ゴート。
超越化トランス・エンド英傑の剣ソール・ソウル』不屈の英雄の力、その身で受けてみろ!」
 僕はコールブランドのレプリカを構えるステインに向かって駆け出す。
 僕の武器は瞬速とデュランダル、そしてかつての仲間達が使っていた装備だ。
 その特性を活かして何度もフェイントをしかけたり亜空間から様々な武器を射出したりとステインに予測する時間すら与えないほど連続して仕掛ける。
 ガン!ガキン!キィィィン!
 しかしそれを多少の漏れはあるがほとんどを躱す。
 まったく、たいしたはぐれ悪魔祓いエクソシストだよ君は!
「かー!しつこいっすよ!何回攻撃しようがねぇ、俺には触れられないって言ってんでしょ!」
「いやね、思い出したんだよ。僕は諦めの悪いやつだってね」
 舌打ちをしたステインが僕を押しのけて後退する。しかし僕と入れ替わるように光崎とオリヴィエが彼に詰め寄る。
「三対一、剣士同士の戦いとしては気が引けるが、俺はお前らを戦う者と見ていない。単なる排除対象だ」
「せっかくローランが復活してくれたもんね!私もこれができる!張り切ってこー!」
 オリヴィエが高く飛び上がり高らかに叫ぶ!
 その手に握られている物は、彼女の相棒であり、僕もよく知る物だ。
 羽ばたけ……。
「いくよー!オートクレール!」
 彼女の持つ剣が輝き変化をもたらす。頭の上に光の輪が現れ、背中に二枚の翼が生える。その姿はまるで天使のようだ。
「天使っすか!天使っすか!憎たらしいっすね!あっしを追放した奴らなんざ殺してやりますよ!」
 オリヴィエが上から素早い斬撃を、光崎が下から力強い斬撃を繰り出し防がれてはいるが確実にステインを追い詰めている。彼の顔には狂楽の他に焦りが見え始めた。いくら未来が見える能力を持っていたとしてもそれを防ぐ技量がなければ意味が無い。彼は確かな剣の腕を持っているが、流石にあの二人を相手するのは手に余るようだ。
「追放って言うけどあんたが勝手に武器を持ち出したのが悪いんでしょ!教会の武器庫をこじ開けて勝手なことするなんてミカエル様に追放されて当然よ!」
 ステインの左腕にオリヴィエの刃が届いた。
「痛ぁ!あー!クソアマの分際で俺様に傷をつけるって分かってんだろうなぁ!殺すぞ!」
 ついに完全に余裕がなくなったステインが鬼の形相で二人に詰寄る。そんなステインにオリヴィエが歯を食いしばった笑顔を見せながら言う。
「ローランが立ったんだもん。なら私だって本気だすよ!」
 それに続くのは光崎。
「俺は教会に属してないから貴様らのことなどどうでもいいが、個人的な恨みがある。さっさとそれを吐いて死んでもらう。そして──」
 光崎がこっちを一瞬だけ向いて、
「あいつも剣士だった。それを愚弄した俺はその責任を負う必要がある」
 君はそんなことを思っていたのか。確かにあの時、ホテルの屋上で戦った最後に、
『それを捨てろ、お前にそれは似合わない』
 と言われてショックだったけどそれと同時に自分の足りないものが見つかったんだよ。
 姉さん、結斗さん、悠斗君、氷翠さん、新條君、久瀬君、オリヴィエに光崎……いろんな人が僕のために戦ってくれている。なら次は僕がそれに応える番だ。
「戦え!『英謳の華景色グランド・グラウンド』」
 僕がそう叫ぶと先程まで草原だった周りの景色が一変して硬く冷たい大地となる。そして空から数え切れないほどの武器が降り注ぎその大地へ吸収されていった。その光景にこの場にいるキード以外の全員が驚き僕に注目する。
 次にその吸収された武器全てが僕の周りに現れる。これら全ては僕の知る武器、僕とデュランダルに託された仲間達の武器だ。
デュランダルをステインに向けて一直線上に構える。すると刺さっていた武器がひとりでに動き出して魔法陣のようなものを何層も作りだした。
 これは魔力が放出できない僕が唯一使える『魔法』。皆が僕に残してくれた僕だけの魔法陣。武器が形を成す物質的な魔法陣なんて笑われるかもしれないけど半端者と馬鹿にされてきた僕にはもってこいの魔法陣だ。
「オリヴィエ!光崎!あとは僕が決める!」
 二人はすぐにその場を退いて、僕のために道を空けてくれた。
「それで俺を殺そうってか!無理に決まってるでしょ!なんてったってこちとら最強の聖剣様ですからね!」
 ステインがコールブランドのオーラを爆発させて自身の何倍もの大きさの剣を作りだし、僕に向かって突進してきた。
「あぁ、越えてみせるよ、だってそうじゃなきゃ英雄じゃないんだから!」
 幾重にも積み重なった魔法陣が周りだしその速度を上げていく。一つ一つが空気を切り裂く音を出し始めそれがピークに達した時殲滅の光が打ち倒すべき敵に放たれる!
「いけぇ!『勝利への極光トゥライアンフ・バスター!』」
 ステインの巨大な剣と僕の放った光が衝突して空気を振動させる。
「そんな紛い物の技で本物が倒せるわけないだろぁぁ!」
 彼は口から血が出るほど歯を食いしばり踏ん張る。しかし地面にめり込んだ足で跡をつけながら押されていく。柄にさらに力を込めて剣を巨大化させる。これはレプリカのコールブランドが持つ全てのオーラを集中させた結果だろう。
「でも所詮は模造品レプリカ。彼が持つあのオーラとは比べるまでもないね」
 バキンッ!
 レプリカのコールブランドの真ん中からヒビができた。
「んな!?なんで折れてやがるんですか!聖剣なんでしょうが!最強なんでしょうが!ちゃんと仕事しやがれ!」
 綺麗なオーラを放っていた剣がステインの邪気を受けたのか一変してドス黒い禍々しいオーラへと変化し、それと同時にレプリカのコールブランドが本来の姿を捨て、異形の剣となった。
「おほー!いいっすねぇ、さっきまでよりかは随分ましなフォルムになったじゃないの?なんだか俺も力がみなぎってきたぁ!」
 オーラで形作られていた大きな刀身もその影響を受けて醜く染る。完全に自身と同調したのかさっきよりも彼の力が増している。
 しかしいつまでもその場にとどまっているほど僕は馬鹿じゃない。相手が自分の攻撃に集中しているならその意識の外側から叩けばいい。恐らくあの剣はコールブランドとしての効力はもう完全に失われて全く別物の剣となっている。だから彼が僕に気づくことは無い。
英傑の剣ソール・ソウル!」
 ステインの周りの空間を覆い尽くすほどの武器が彼に狙いを定めて待機する。僕が手を振り下ろすと同時にそれら全てが射出されて土煙を立てながら彼に襲いかかる。僕もそれに乗って、デュランダルを構えて走り出す。
 鋼鉄の雨の中を走る中で僕は彼が血塗れになりながらもほとんどの武器を捌いていることに驚いてしまった。
 この技を使っている僕でさえこれを捌けるか分からないのに……純粋な剣技での勝負は僕の負けだな。
 でも!
 右脚で力一杯大地を踏み締めてステイン目掛けて横なぎ一閃──。
「六道五輪──七・虚穿」
 横腹から抉るように切られた彼は膝を着き、血飛沫を上げてそのまま倒れた。
 あの過去が乗り越えられなくとも。
「僕は、僕達の思いは決して折れたりしない」
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