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修学旅行の英雄譚 Ⅱ

Au revoir La France

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「ねぇ、結局なんのことだったのよ?あんたが言うからついていったのになんもなかったじゃない」
「だーからあれは俺の気のせいだったって言ってんだろ。ネチネチしつこいんだよ」
 飛行機がフランスから飛び立ってから俺の前の席で黒澤と拓翔が何か言いあっている。氷翠は俺の隣でぐったりと寝ている。
 あれから無事に修学旅行が終わった。先輩達は先に日本へ帰り、光崎とオリヴィエは今回の件を教会に報告するらしい。その後に二人は日本に来て俺達のいる学校に入学するって言ってたんだけどうちに編入とかってあるっけ?来るとしたらオリヴィエは同学年、光崎は……あれが先輩だって思いたくないけど年上っぽいんだよな。
『ほっとしてるな?人生のライバルが現れたというのに呑気なものだ』
 あー、それも思い出したよ。お前が前に言ってた「戦う運命にある二体のドラゴン」ってやつだろ?あいつがもう一体の邪龍クロウ・クルワッハか。あの地面を割った一撃……圧倒的だった。しかもあの姿はなんだったんだ?俺の『紅煉クリムゾン』とも『氷獄の悪魔アブソリュート・メリス』みたいに体に纏う系統の力なんだろうけど魔力とも言えないもっと違う力のように感じたんだけど……?
『あれはお前がまだ到達できていない段階だ。あれが完成されたドラゴンとしての力の発揮「龍気解放ドラグ・ドライブ」だ。見に宿るドラゴンと使用者のイメージから成る最終形態……お前が目指すべき段階だ』
 俺達で言うとお前と俺のイメージの一致ってことか?
『少し違う。お前が俺をどう想像おもい、それに俺が応える。しかしそれはこのお前に刻まれた紋様がこの世界の真理に波を立てることで起こる現象だ』
 ローランの『超越化トランス・エンド』みたいなもんか?デュランダルがローランの思いに応えて世界に投げかける。そうやって手に入れた力はあいつを何段階も飛ばして強くした。
『まぁ言ってしまえばそうだな。ローランのような超越化トランス・エンドとまではいかないが、数少ない世界最強の力だ。それを振るうのがお前の役目だ』
 そんな物騒な……。でも俺はそんなお前をただの使われる兵器みたいな扱いはしたくないな。
 俺がその考えにアジ・ダハーカが笑いだした。
『フハハハハハハ!全くお前はおかしなことばかりだ!この俺を道具ではなくお前と対等に扱うなど、これまでの人間はどいつもこいつもこの力を限度無しに振り回し酔っていたが──なるほど、弱さがそうさせるのか』
 まーた俺が弱いって話かよ。人間そんなに早く強くなれねぇよ。
『だがお前には俺がいるだろう?強いやつと弱いやつの差はそこだ。強くなる"きっかけ"は誰にでもいくらでもある。それを掴めるか掴めないか、それに気づくか気づかないかが大きな違いとなる』
 きっかけは掴むよ。俺が卒業するため、それからリーナ先輩に恩を返すためにも強くならないとだけなんだ。
 ……あ、やっば!家族にお土産買ってない!ドタバタしすぎて完全にすっぽ抜けてた!なー、あいつらー!大事なこと忘れさせやがって!
 バイバイフランス!
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