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第一話 木漏れ日
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「ワタルにいちゃ~ん!」
銀杏の若葉が瑞々しく緑に色づいて、初夏の並木道を爽やかな風が街を吹き抜ける。その風と共に元気な声と駆けてくる足音が聞こえ、ブレザーの学生服を着たワタルが振り返るとランドセルを背負ったトモヤが走ってくる姿が見えた。トモヤはワタルに追いつくとカーゴパンツから見える膝小僧に手を置いて大袈裟にはあはあと肩を上下に動かしながら呼吸をする。トモヤのワタルを見上げる目はきらきらとしていて、学校の帰り道に偶然ワタルに会えて嬉しくて仕方ないという喜びが溢れ出し、まるで尻尾を振る飼い犬のようだ。トモヤは代謝がいいので襟足まで伸びた黒髪の下、首筋には薄っすらと汗が滲んでいる。ワタルはそんなトモヤのことを静かに見下ろす形になり、その瞳からは感情が読み取れない。ワタルはトモヤのように汗はかいておらず、短めの髪は涼しげだ。
「もう帰り?早いじゃん!部活は?」
「ない」
「何で?」
「テスト前だから」
二人で新緑の並木道の歩道を歩く。トモヤとワタルは歳が離れているが母親同士が仲が良く、お互いの家が近い事もありこうして会う機会も接点も多い。トモヤにはワタルより年下の姉がいるがトモヤ自身は兄が欲しかったらしく、それもあってワタルに積極的に絡みに行くような明るい性格だ。だが一方のワタルはあまり社交的ではなく大人しい性格で感情を表に出さないタイプだった。
大きい影と少し小さい影、二つが舗装された道に写る。身長が比較的高いワタルを羨ましがっているトモヤの身長はクラスの中では半分より後ろぐらいだが、発育のいい女子には身長が負けていることが悔しいらしい。ふと後ろからチリンチリーンと自転車のベルが鳴る。知らぬ間に歩道を横に広がって歩いていたらしい二人は歩道の隅に寄って自転車を通した。テスト前と聞いたトモヤは、ふーんと呟きながら足を遊ばせながら歩く。
「トモヤ、危ないからちゃんと前を向いて歩け」
「なあ、ワタルにいちゃん家行ってもいい?」
全く話を聞いていないトモヤにワタルは溜息をつく。トモヤはそんなワタルをお構いなしにニコッと笑うと、特徴的な八重歯が見える。
「何しに来るんだ」
「ゲーム」
「自分の家でやればいいだろ?」
ワタルがそう言った途端表情が一転、気まずそうなものに変わる。
「…母さんに取り上げられたから無理」
「はあ?」
ワタルは心底呆れた声を挙げた。呆気にとられるのも無理はない。
「またか?この間もいたずらしておばさんに取り上げられて、やっと返してもらったばっかりだろ。今度は何したんだ?」
唇をアヒルのようにツンと尖らせつん、としているトモヤが気だるそうに口を開く。
「公園で遊んでたらさ、カマキリの卵、見つけたから枝ごと家に持って帰ってたら…」
カマキリの卵と聞いただけでワタルは嫌な予感がし、それ以上先を聞きたくなかったがトモヤはそんなワタルの心の内を知る由もなく話を続ける。
「帰ったら母さんにシャワー浴びろって言われたんだよ。とりあえずカマキリの卵の枝、リビングのテーブルにあるペン立てに差しといたんだけど」
なぜそこでとりあえずリビングのペン立てにカマキリの卵が付いた枝を置いておく?ワタルの嫌な予感は増していく。歩行者用の信号がチカチカと点滅して赤になり、二人とも立ち止まる。日陰でないこの場所は暖かく、暑いぐらいの陽気だ。
「そしたら風呂場で母さんのすっごい叫び声が聞こえてさ、何だと思ったら、俺がシャワー浴びている間にカマキリの卵が羽化しちゃって、しかも夕ご飯の準備してる時だったから余計被害がさ…」
ワタルは頭を抱えた。おばさんが不憫でならない。
「めちゃめちゃ怒られて、ゲーム没収されたんだよね」
トモヤは心底深くため息をつく。肺が萎むほどため息をつきたいのはおばさんの方だろう。
「あーあ、なんで俺自分の部屋に持っていかなかったんだろ…」
「お前、反省してないな」
「してるって!なぁ、お願いゲームやらせて!勉強の邪魔しないから!」
この通り!と掌を合わせて深く頭を下げてくる。もうすぐ役目を終える年季の入ったランドセルが今にもひっくり返りそうだった。信号が青に変わって歩道を歩き出す。
「…本当に反省してるか?」
「してる!してる!」
「してるは一回」
「し、してる!」
歩道を渡りながらワタルの答えの行く末を固唾を飲んで待つトモヤ。両手を握って構えているのは何か意味があるのか。ワタルは難しそうな少し呆れたような複雑な顔をしてトモヤを見やると、歩道を渡り切ったところで口を開いた。
「…少しだけだ、いいな?おばさんには誤魔化して出てこい」
トモヤは瞳をパッと輝かせると感激のあまりガバッとワタルに抱きついた。
「にいちゃあああん!大好きいいいい!」
「お、おいこら!暑苦しいから離れろ!」
歩行者用信号はすっかり赤信号になり車道の車が忙しなく行き交う。木漏れ日がじたばたする二人を包んでいた。
◇
にいちゃんにとって俺は特別らしい。
トモヤがそう意識したのはある日、ワタルが通う高校の同級生に会ったのがきっかけだった。
休日、母が買い忘れがあったからというのでスーパーにおつかいを頼まれた帰りだった。自宅に向かって自転車を走らせているとふと、電線の向こうにワタルの自宅の屋根が見える。別に会う用事があるわけでもないのだが、何となくにワタルの家の前を通りたくなった。ほんの少しだけ遠回りになるのだが、それぐらいなら母親にも怒られないだろうと道を曲がる。
先週会ったばかりだけれど、今度はいつ会えるだろうか。にいちゃんのことを考えると心臓の鼓動が少し早くなる。
そう思いながらワタルの自宅が建つ通りに出た時だった。ワタルの自宅前に数人の人影が見え、目を凝らすとトモヤは驚いた。その中にワタルがいたからだ。ワタル本人の自宅前なのだからいてもおかしくはないのだが、トモヤはこんな偶然があるんだと顔を綻ばせる。自転車の速度を早めて走り進めるとワタルの同級生だろうか。ワタルが通う学校と同じ制服の男子が二人、ワタルを含めて三人が門の前に立っていた。
「にいちゃん!」
ワタルがまさか外にいるなんて、思わず名前を叫んでしまった。突然の黄色い声に三人が振り返る。ワタルの同級生らしき二人は自転車のハンドルを握っていて、これから帰るところだろうか。ワタルの家で何をしていたのだろう、今度テストでもあるのだろうか、それとも課題というやつだろうか、三人でワタルの自宅で勉強していたのだろうか。それよりもにいちゃんに一目会えた事が嬉しくて。
「トモヤ?」
三人の近くで自転車を止める。ワタルやワタルの同級生達は突然現れたトモヤに純粋に驚いているようだった。
「何してるんだ?こんなところで」
「母さんのおつかいの帰り」
自転車のカゴに入ったビニール袋をワタルに向かって得意気に掲げて見せる。突然現れたトモヤの存在に呆気に取られているワタルの同級生であろう二人へ、自転車のハンドルを持ったまま向き直る。
「俺トモヤって言います。ワタルにいちゃんの学校の友達ですか?いつもにいちゃんがお世話になってま、いてっ!」
「おいトモヤ、調子に乗るな」
スパーンといい音がしたと思ったら、丸めたノートで叩かれたらしい。ゲンコツで殴られなかっただけマシだがヒリヒリ痛い。
「何も叩くことないじゃんよぉ!」
「それぐらいしないと黙らないだろうがお前は」
頭を抑えてほっぺたを膨らめるトモヤをよそに、ワタルは「あ」と呟いた。
「ちょうどいい、母さんからトモヤのとこのおばさんへ土産の菓子がある。持ってくるから待ってろ」
すまん、ちょっと待っててくれと友人の二人に言い残してワタルは家の中に戻っていく。ちょうどいいって何だよ、会えて嬉しいのは俺だけなのかとしょんぼりしていたら、ワタルの同級生二人が笑いを堪えるようにしていたのが不思議に感じて尋ねてみる。
「え、どうしたんですか?」
「びっくりした」
「な」
二人の反応に首を傾げる。
「学校であんな風にノートで誰か叩いたりしないぞ、あいつ」
「そうそう」
どうやらにいちゃんは学校では普段以上に大人しくて愛想がないを通り越して本当に無口らしい。元々無表情がちなタイプだけど、それでも普段からちょっとした表情の変化はある、と思う。あ、これは怒ってるなとか。でも自分をはじめ、近しい人以外には分かりづらいらしい。俺だけに見せる姿。何だかちょっと誇らしい。
「でもよ、その無愛想な感じが返って女子にはウケるんだよな」
「そうそう、本人は全然その気ないのがな。不公平すぎるだろ。あ~、モテオーラ分けてほしいわ」
ドキッとする。にいちゃんって、女の子にモテるのか?確かに背は割と高いし、魅力的な所はそれだけではないが確かにわかる気がする。上手く言葉に出来ないのがもどかしいけれども。ワタルの同級生の一人がため息を吐きながら口を開く。
「前に一年下の子に告られた時も平然としてたよな、あいつ」
「ほんとな」
「えっ」
そんな話にいちゃんから聞いてない。恐る恐る付き合ったの?と聞いたらよく知らない相手と付き合えないから断ってたよ、と聞いてホッとした自分が居る。女の子に告白されたと聞いて少しモヤモヤした気持ちになったのは何でだろう。頭に浮いたクエスチョンマークを打ち消すように、ワタルの友人の1人にぽんぽんと頭を撫でられた。
「特別なんだな、トモヤには」
とくべつ。その言葉が頭から離れなくて、その夜はなかなか眠れず灯りを消した天井の照明をずっと見つめていた。
俺はにいちゃんのことが好きだ。にいちゃんも俺のこと好きでいてくれているんだろうか。男同士なのに変だけれど、にいちゃんなら構わなかった。でも好きって何だろう。何でにいちゃんならいいんだろう。その答えがわかったのは、小学生最後の夏休みのあの日だった。
銀杏の若葉が瑞々しく緑に色づいて、初夏の並木道を爽やかな風が街を吹き抜ける。その風と共に元気な声と駆けてくる足音が聞こえ、ブレザーの学生服を着たワタルが振り返るとランドセルを背負ったトモヤが走ってくる姿が見えた。トモヤはワタルに追いつくとカーゴパンツから見える膝小僧に手を置いて大袈裟にはあはあと肩を上下に動かしながら呼吸をする。トモヤのワタルを見上げる目はきらきらとしていて、学校の帰り道に偶然ワタルに会えて嬉しくて仕方ないという喜びが溢れ出し、まるで尻尾を振る飼い犬のようだ。トモヤは代謝がいいので襟足まで伸びた黒髪の下、首筋には薄っすらと汗が滲んでいる。ワタルはそんなトモヤのことを静かに見下ろす形になり、その瞳からは感情が読み取れない。ワタルはトモヤのように汗はかいておらず、短めの髪は涼しげだ。
「もう帰り?早いじゃん!部活は?」
「ない」
「何で?」
「テスト前だから」
二人で新緑の並木道の歩道を歩く。トモヤとワタルは歳が離れているが母親同士が仲が良く、お互いの家が近い事もありこうして会う機会も接点も多い。トモヤにはワタルより年下の姉がいるがトモヤ自身は兄が欲しかったらしく、それもあってワタルに積極的に絡みに行くような明るい性格だ。だが一方のワタルはあまり社交的ではなく大人しい性格で感情を表に出さないタイプだった。
大きい影と少し小さい影、二つが舗装された道に写る。身長が比較的高いワタルを羨ましがっているトモヤの身長はクラスの中では半分より後ろぐらいだが、発育のいい女子には身長が負けていることが悔しいらしい。ふと後ろからチリンチリーンと自転車のベルが鳴る。知らぬ間に歩道を横に広がって歩いていたらしい二人は歩道の隅に寄って自転車を通した。テスト前と聞いたトモヤは、ふーんと呟きながら足を遊ばせながら歩く。
「トモヤ、危ないからちゃんと前を向いて歩け」
「なあ、ワタルにいちゃん家行ってもいい?」
全く話を聞いていないトモヤにワタルは溜息をつく。トモヤはそんなワタルをお構いなしにニコッと笑うと、特徴的な八重歯が見える。
「何しに来るんだ」
「ゲーム」
「自分の家でやればいいだろ?」
ワタルがそう言った途端表情が一転、気まずそうなものに変わる。
「…母さんに取り上げられたから無理」
「はあ?」
ワタルは心底呆れた声を挙げた。呆気にとられるのも無理はない。
「またか?この間もいたずらしておばさんに取り上げられて、やっと返してもらったばっかりだろ。今度は何したんだ?」
唇をアヒルのようにツンと尖らせつん、としているトモヤが気だるそうに口を開く。
「公園で遊んでたらさ、カマキリの卵、見つけたから枝ごと家に持って帰ってたら…」
カマキリの卵と聞いただけでワタルは嫌な予感がし、それ以上先を聞きたくなかったがトモヤはそんなワタルの心の内を知る由もなく話を続ける。
「帰ったら母さんにシャワー浴びろって言われたんだよ。とりあえずカマキリの卵の枝、リビングのテーブルにあるペン立てに差しといたんだけど」
なぜそこでとりあえずリビングのペン立てにカマキリの卵が付いた枝を置いておく?ワタルの嫌な予感は増していく。歩行者用の信号がチカチカと点滅して赤になり、二人とも立ち止まる。日陰でないこの場所は暖かく、暑いぐらいの陽気だ。
「そしたら風呂場で母さんのすっごい叫び声が聞こえてさ、何だと思ったら、俺がシャワー浴びている間にカマキリの卵が羽化しちゃって、しかも夕ご飯の準備してる時だったから余計被害がさ…」
ワタルは頭を抱えた。おばさんが不憫でならない。
「めちゃめちゃ怒られて、ゲーム没収されたんだよね」
トモヤは心底深くため息をつく。肺が萎むほどため息をつきたいのはおばさんの方だろう。
「あーあ、なんで俺自分の部屋に持っていかなかったんだろ…」
「お前、反省してないな」
「してるって!なぁ、お願いゲームやらせて!勉強の邪魔しないから!」
この通り!と掌を合わせて深く頭を下げてくる。もうすぐ役目を終える年季の入ったランドセルが今にもひっくり返りそうだった。信号が青に変わって歩道を歩き出す。
「…本当に反省してるか?」
「してる!してる!」
「してるは一回」
「し、してる!」
歩道を渡りながらワタルの答えの行く末を固唾を飲んで待つトモヤ。両手を握って構えているのは何か意味があるのか。ワタルは難しそうな少し呆れたような複雑な顔をしてトモヤを見やると、歩道を渡り切ったところで口を開いた。
「…少しだけだ、いいな?おばさんには誤魔化して出てこい」
トモヤは瞳をパッと輝かせると感激のあまりガバッとワタルに抱きついた。
「にいちゃあああん!大好きいいいい!」
「お、おいこら!暑苦しいから離れろ!」
歩行者用信号はすっかり赤信号になり車道の車が忙しなく行き交う。木漏れ日がじたばたする二人を包んでいた。
◇
にいちゃんにとって俺は特別らしい。
トモヤがそう意識したのはある日、ワタルが通う高校の同級生に会ったのがきっかけだった。
休日、母が買い忘れがあったからというのでスーパーにおつかいを頼まれた帰りだった。自宅に向かって自転車を走らせているとふと、電線の向こうにワタルの自宅の屋根が見える。別に会う用事があるわけでもないのだが、何となくにワタルの家の前を通りたくなった。ほんの少しだけ遠回りになるのだが、それぐらいなら母親にも怒られないだろうと道を曲がる。
先週会ったばかりだけれど、今度はいつ会えるだろうか。にいちゃんのことを考えると心臓の鼓動が少し早くなる。
そう思いながらワタルの自宅が建つ通りに出た時だった。ワタルの自宅前に数人の人影が見え、目を凝らすとトモヤは驚いた。その中にワタルがいたからだ。ワタル本人の自宅前なのだからいてもおかしくはないのだが、トモヤはこんな偶然があるんだと顔を綻ばせる。自転車の速度を早めて走り進めるとワタルの同級生だろうか。ワタルが通う学校と同じ制服の男子が二人、ワタルを含めて三人が門の前に立っていた。
「にいちゃん!」
ワタルがまさか外にいるなんて、思わず名前を叫んでしまった。突然の黄色い声に三人が振り返る。ワタルの同級生らしき二人は自転車のハンドルを握っていて、これから帰るところだろうか。ワタルの家で何をしていたのだろう、今度テストでもあるのだろうか、それとも課題というやつだろうか、三人でワタルの自宅で勉強していたのだろうか。それよりもにいちゃんに一目会えた事が嬉しくて。
「トモヤ?」
三人の近くで自転車を止める。ワタルやワタルの同級生達は突然現れたトモヤに純粋に驚いているようだった。
「何してるんだ?こんなところで」
「母さんのおつかいの帰り」
自転車のカゴに入ったビニール袋をワタルに向かって得意気に掲げて見せる。突然現れたトモヤの存在に呆気に取られているワタルの同級生であろう二人へ、自転車のハンドルを持ったまま向き直る。
「俺トモヤって言います。ワタルにいちゃんの学校の友達ですか?いつもにいちゃんがお世話になってま、いてっ!」
「おいトモヤ、調子に乗るな」
スパーンといい音がしたと思ったら、丸めたノートで叩かれたらしい。ゲンコツで殴られなかっただけマシだがヒリヒリ痛い。
「何も叩くことないじゃんよぉ!」
「それぐらいしないと黙らないだろうがお前は」
頭を抑えてほっぺたを膨らめるトモヤをよそに、ワタルは「あ」と呟いた。
「ちょうどいい、母さんからトモヤのとこのおばさんへ土産の菓子がある。持ってくるから待ってろ」
すまん、ちょっと待っててくれと友人の二人に言い残してワタルは家の中に戻っていく。ちょうどいいって何だよ、会えて嬉しいのは俺だけなのかとしょんぼりしていたら、ワタルの同級生二人が笑いを堪えるようにしていたのが不思議に感じて尋ねてみる。
「え、どうしたんですか?」
「びっくりした」
「な」
二人の反応に首を傾げる。
「学校であんな風にノートで誰か叩いたりしないぞ、あいつ」
「そうそう」
どうやらにいちゃんは学校では普段以上に大人しくて愛想がないを通り越して本当に無口らしい。元々無表情がちなタイプだけど、それでも普段からちょっとした表情の変化はある、と思う。あ、これは怒ってるなとか。でも自分をはじめ、近しい人以外には分かりづらいらしい。俺だけに見せる姿。何だかちょっと誇らしい。
「でもよ、その無愛想な感じが返って女子にはウケるんだよな」
「そうそう、本人は全然その気ないのがな。不公平すぎるだろ。あ~、モテオーラ分けてほしいわ」
ドキッとする。にいちゃんって、女の子にモテるのか?確かに背は割と高いし、魅力的な所はそれだけではないが確かにわかる気がする。上手く言葉に出来ないのがもどかしいけれども。ワタルの同級生の一人がため息を吐きながら口を開く。
「前に一年下の子に告られた時も平然としてたよな、あいつ」
「ほんとな」
「えっ」
そんな話にいちゃんから聞いてない。恐る恐る付き合ったの?と聞いたらよく知らない相手と付き合えないから断ってたよ、と聞いてホッとした自分が居る。女の子に告白されたと聞いて少しモヤモヤした気持ちになったのは何でだろう。頭に浮いたクエスチョンマークを打ち消すように、ワタルの友人の1人にぽんぽんと頭を撫でられた。
「特別なんだな、トモヤには」
とくべつ。その言葉が頭から離れなくて、その夜はなかなか眠れず灯りを消した天井の照明をずっと見つめていた。
俺はにいちゃんのことが好きだ。にいちゃんも俺のこと好きでいてくれているんだろうか。男同士なのに変だけれど、にいちゃんなら構わなかった。でも好きって何だろう。何でにいちゃんならいいんだろう。その答えがわかったのは、小学生最後の夏休みのあの日だった。
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