罪の卵

山田ポミエ

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第九話 羽化

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まず最初に感じたのは柔らかく滑らかな感触で、すぐに寝具の上だとわかった。
布で口を押さえられた時に吸った薬のせいか頭が重い。朧げな意識を手繰り寄せているうちに、微かに話し声が聞こえてきた。

「この子はいいよ、絶対人気が出る」

佐伯が誰かと話している。両手に力を入れて重い上半身を持ち上げようとしたが思うように力が入らず、すぐにベットに倒れ込んでしまった。トモヤが起きあがろうとしていることに気がついた佐伯は振り返った。

「あ、気がついた?」
「あの、っ、ここは…」

額をシーツに押し付けてなんとか起きあがろうとするトモヤは肘に力を入れて顔を上げようとする。だんだんマシになってきたが、まだ身体が重い。

「ここはよく使うホテルだよ」
「ホテル…?」

なんでそんな所に。ようやく顔を上げたトモヤは佐伯の隣に樋口が佇んでいることに驚く。

「えっ、何で樋口さんまで」
「何でって、樋口さんが君をここまで連れてきたからね」

トモヤは驚愕する。まさか店のドアを開けた瞬間、自分を羽交い締めにして眠り薬か何かが塗布された布で口元を覆ったのも。

「な、何で、こんなこと」
「そんなに怯えないでよ」

ベットに乗り上げ楽しげにトモヤに近づいてくる佐伯に反射的に後ずさろうとするトモヤだが、もつれた脚でスカートを押さえてしまい上手く動けない。

「あっ!?」
「捕まえた」

佐伯に追いつかれて抱きしめられたトモヤは抵抗するがびくともしない。力が強くて、それに胸板が厚く自分とはくらべものにならないくらい逞しい男の身体だった。訳のわからない事態にトモヤは先ほどから愉快そう事態を眺めていた樋口に向かって叫ぶ。

「なんで、っ、何なんですかっ!?樋口さん!俺が一体何を…!」
「おめでとう、合格です、トモヤくん」

そう言いながら、ゆっくりと拍手をする樋口。ますます訳のわからない事態にトモヤは混乱していた。

「ご、合格って、何の…」
「言葉だけでは実感が湧きませんよね。これを」

樋口はスーツの内ポケットから封筒を取り出し、中身をベットの近くの小さなテーブルに置いた。トモヤは息を呑んだ。テーブルに置かれたのは大量の札束だった。見たこともない数の万札、とんでもない金額にトモヤは唖然とする。佐伯はこの状況を変わらず楽しんでいるようで、怯えているトモヤの髪をすくっては撫でていた。

「樋口さ、…っ、これ、何ですか」

恐る恐るトモヤが口にすると樋口はニコリと笑った。

「これはお店に来られた皆さん、お客様達が君に出資した金です」

店の皆さんが、お客様達が出資した?一体何のことだ?心臓が早鐘を打つ。それ以上先を聞いてはいけないと警笛が鳴っているのに、樋口はお構いなしに話を続ける。

「私は富裕層向けに男娼の斡旋もしてましてね。トモヤくんはとある会員制男娼グループに属するにふさわしいとされました」

富裕層?男娼?聞きなれない言葉にトモヤは益々混乱するばかりだった。

「何で、そんなことして何になるんですか…!?」

折角忘れようとしていたのに、やっと忘れられると思っていたのに。ワタルのことを。あの店の人達と過ごしていればきっとできると思っていたのに。

「それは君が魅力的なせいですよ」
「えっ…」

背筋を冷たいものが駆けていく。それ以上聞きたくない。

「初めて会った時言ったでしょうトモヤ。男を知っているというのは、隠せないものですよ」

その言葉に愕然とする。訳のわからない状況に混乱したトモヤは次第に目頭が熱くなり目尻から涙が溢れてきた。

「…っ!?」

涙が頬を伝うと突然べろりと拭われ、舌で舐められたことに気づく。はっとして見上げると佐伯があっかんべーをしながらニヤリと笑っていた。

「そんな悲しまないでよ、選ばれるのはすごいことなんだからさあ」
「やっ、舐めるな…っ!」
「最近は不作でさあ、君の同僚ちゃん達皆可愛いんだけどなかなかパッとしなくてね」

トモヤはその言葉にハッとした。

「えっ!?そ、そんな、先輩たちも⋯?」
「ああ、みんなではないよ」
「垢抜け具合で引き抜いています。君は最初からそのつもりで声をかけましたが」

震え上がった、一緒に仕事に勤しんでいる仲間の中に自分と同じように選ばれてしまった者がいる。お客も優しい人達だと認識していたが全て察した。自分の悩みを親身になって聞いてくれたのも、何もかも全部自分に対する下心だった事に。益々裏切られたような気分に心が底の見えない沼底のように濁っていく。泥のような心を持て余してたトモヤは突然ぐい、と顎を掴まれ顔を引き寄せられると佐伯の顔が目の前にあってびくりと身体が震える。

「君の初めては俺がもらうよ、何たって一番出資したからね」

その言葉にトモヤはハッとする。それだけは嫌だった。トモヤは全力で暴れて抵抗しようとする。

「嫌だっ、離せっ…!」
「おっと、随分じゃじゃ馬だな」

両腕を掴まれてベットに押し倒される。体重をかけて身体の上に馬乗りにされて身動きができない。佐伯の手はトモヤより遥かに大きく、片手でトモヤの手首を一纏めにすると片方の手でトモヤの顔を前に向かせて唇に噛み付いた。

「ううっ!?」

誰かとキスするのはワタルとした以来で、身体全身がワタル以外の誰かとの口付けを拒否しているのがトモヤにはわかった。だが佐伯の力が圧倒的に強くどんどん舌が入り込んできて逃げるトモヤの舌を絡め取ってじゅるじゅると音を立てて吸った。

「ん、ふっ、っん…ん!」

後頭部を枕に押し付けられ、隙間なく唇を吸われて食べられるようなキスに頭がくらくらして過呼吸になりかけたところで唇を離された。

「ふ、は、ぁはあ、…」

肺いっぱいに息を吸い込み懸命に息をするトモヤの純白のレーヨンのブラウスのボタンをなれた手つきで一つずつ片手で外す佐伯は、涎で濡れた唇を舐めながら目を細めてトモヤを見つめた。

「トモヤくんえっろ、俺のものにしたいよ。だめ?樋口さん?」
「ダメです」
「ちぇ、じゃあ、トモって呼ぼ。トモ肌白いね、美味しそ」
「は、あ、…あぁ!」

トモヤの耳にしゃぶりついた佐伯は耳朶をなぞるように舐め取り、わざと粘着音が聞こえるようびちゃびちゃと音を立てて耳を舐めた。トモヤは脳まで犯されてる感覚に身悶えし、ビクビクと身体を震わせた。

「ふふっ、震えちゃって可愛いの」
「いや、っ耳、やめて…っ!あっ!?」
「じゃあ首とか乳首ならいい?」

つぅっと伝うように舌が首から乳首へ下りていく。乳暈の周りを舐められ、焦ったさに身悶えするとふうっと吐息を吹きかけられ、それだけでも身体がおかしくなりそうだったトモヤは身を捩ったが、すぐに身体を戻され片方の乳首にしゃぶりつかれた。

「ん、あっ!?」

乳首はワタルにも触られなかった場所だった。吸われたり、舐められたり、少し歯を立てられたりと痛みと違う感覚に体がびくびくと震える。

「ひ、あ、やだっ、いやだ…っ!」
「乳首好きなんだ?今度乳首だけでイけるようにしてあげるよ」

心臓がドクンと跳ねる。乳首だけで?そんなことになったら自分は本当に後戻りできなくなる。焦りと次から次へとやってくる未知の快楽に飲まれかけている自分に怖くなる。

「樋口さんあれちょうだい」

トモヤは唾液まみれになった乳首を指でいじられながら、へそ周りを舐められていると樋口が見慣れぬボトルを持ってきた。中に透明な液体が入っている。トモヤの少し明るめの髪色のウェーブのかかったウィッグの髪が快楽で乱れ、本物の髪のようにシーツに波打って散っていた。

「せんきゅ。じゃ、トモ、スカートとパンツ、下全部脱ごうか」
「えっ、あっ!?」

佐伯にスカートを剥ぐように脱がされ、下着も脱がされ、一糸纏わぬ姿になったトモヤは身体を隠す暇も与えられず両足を開かされた。

「小さいお尻だな、桃みたいだ」
「ひ、っ!?」

気づいた時には樋口が持ってきたローションを尻の谷間にぶち撒けられた。ひんやりした感触にトモヤは小さく身震いした。

「な、何をっ…!」
「痛いのは嫌でしょ?だからならさないとね」

佐伯はそう言いながら後ろの入り口の周りを撫で、にっこり笑った。トモヤはその言葉の意味がわかった瞬間、抵抗しようと脚に力を込めた時だった。横から手が伸びてきて脚を掴まれ、はっと振り返ると樋口の顔があった。

「大人しくしていた方が痛くないですよ、トモヤ」

樋口は顔は微笑んでいたが、声は笑っていなかった。

「あっ!?」

つぷ、と佐伯の指が入り込んできて、ローションを絡めた指でゆっくり掻き回される。

「ひ、つぅ、やだっ…あ」

今にも消えてしまいそうなトモヤの抵抗する声はグチュグチュという佐伯のトモヤの中を抜き差しする音でかき消された。

「やだ、もっ、抜いてっ…!あっ…」

形容し難い圧迫感がもの凄くて反射的に脚を閉じようとしても樋口の押さえる手の力は強く、絞り出した声で訴えても佐伯を喜ばせるだけで指の動きや身体を弄る手のひらの動きはいやらしさを増すばかりだった。

「わぁ、グチュグチュ言ってるよ、やらし。早く入れてぇ」
「い、ぅうっ」

トモヤの戸惑いなどお構いなしに指が増やされグチュグチュと耳を塞ぎたくなる音が部屋に響く。佐伯が上の方を弄った時だった。

「ぁっ!??」

電気が走ったように身体が震えた、何、今のは。見上げると佐伯が心底嬉しそうに笑っていた。

「お、トモのいいところはここだ?みーっけ」
「あっ!?、うあ、だ、っ…!あ!」

そこを押されると腰が勝手に跳ねてしまう。自分の身体じゃないみたいだ。自分の身体に悪魔でも取り憑いたんだろうか。

「声裏返っちゃって、そんな気持ちいい?」
「ヒッ、あ、触らな、あっ!」

突然指が抜けた。あんなに圧迫感を感じていたのに一瞬物足りなさを感じた自分がいた事にトモヤは羞恥心を感じたが、これでようやく終わりだろうか。そう安堵したのも束の間、熱くて硬い何かが押し付けられたと思った瞬間だった。すぶっと入り込んできてあまりの衝撃に体がのけぞってしまった。性器を挿入された、と遅れて理解した頃には腰を強く掴まれ性器を抜き差しされていた。

「うっ!?あ、ひ、あっ!」

抵抗したくても樋口に上半身を固定され動けない。後ろでするのは初めてで、身体が真っ二つに裂けてしまうんじゃないかと思うほどの事態に呆然とした。

「はっ、あ、は⋯っ、はっ」
「ちょっと痛い?でもそのうちすごくよくなるよ」
「ん、あっ!?」

屈んできた佐伯に乳首を再びべろりと舐められて吸われる。そのまま前後に動かれ、感じたことのない感覚と猛烈な圧迫感にもう何が何だかわからない。

「うっわ、トモの中めっちゃうねってる」
「どうですか?トモヤは」
「この子最っ高、絶対売れっ子になるよ」
「はっ、あぁっ!あ、ぁっ!」

苦しい、苦しいよう。助けてにいちゃん。

「いや、っ、あ!や、めぁ!」
「嫌?でもさあ?わかる、君も勃ってんの」

ハッとして下半身に目を見やると自分がゆるく立ち上がって、鈴口から透明な先走りが少し垂れていた。

「そんな、嘘⋯」

怖い、今まで満たされなかったものが満たされようとしている、なのに何でもっと欲しいのだろう。戸惑うトモヤを愉快そうに眺めた佐伯はトモヤの性器を大きな掌で包み込む。トモヤはびくりと身体を震わせてよじった。

「な、何をっ…あッ!?」
「後ろ突かれながら前を扱かれるとみんな泣いて悦ぶんだ」
「んぁ、ぃあああ…っ!!」

グチュグチュと先走りを絡めながら性器を扱かれる。自分より大きな掌は指も太くて力も強くて、自分でするのとは全然感覚が違う。トモヤはガクガクと身体を震わせて喘いだ。

「いやっ、やだっ、ひぁ、んん!」
「ピクピクしちゃって可愛いね、イってもいいよ?」

先端の割れ目をグリッっと抉られた途端、身体に電流が流れたようにビリビリとしたと思ったら頭が真っ白になり、トモヤは絶頂を迎えた。

「ひ、あぁ、ああ!あ…」

ドクンドクンと脈打つように自分のペニスから精液が溢れ出し、トモヤ自身の腹にかかる。

「気持ちよかった?」
「ひ、はぁ…あ、はあ…アッ!?」
「ほら、四つん這いになって」

身体を回転させられ四つん這いにさせられる。ずるりとペニスが一度抜けた感触に身震いし、トモヤは物足りなさを感じてしまった。早くもう一度挿入して欲しい。確かにそう感じた自分がいたこと、トモヤは自分がどんどん快楽に身を委ね始めていることがわかった。尻を高く上げるように指示され、言われた通りにすると自分がまるで獣にでもなったような気持ちになる。おまけに腕を背中で固定させられてしまい、自由が効かない。枕に顔を押し付けてはあはあと息をすると涎が垂れてしまってみっともないのに、気持ちが昂りひどく興奮している自分がいることにトモヤは困惑しつつも止められなかった。

「入れるよ?トモ」
「あ、あああっ…!」

後ろから入れられるのは前から入れられるのとはまた違った快感だった。自分自身がまるで物になったような、そんな感覚。ゆるく動かれると先ほど指でいじられたいいところに届きそうで届かなくてもどかしくて、でも気持ちよくて。

「ははっ、眺め最高。トモ気持ちいいね?」
「は、ひっ、あっ!気持ちいい、れ…っ、ひっ!」

ゆるく動いていた佐伯の腰の動きがいきなり激しさを増す。

「ほら、俺の腰の動きに合わせて腰動かして」
「はあ、ぁっ、あっ、あっ」
「そうそう上手じゃん、最高だよ」

トモヤと佐伯の肌がぶつかり合う音が部屋に響く。

「ハッ、もう限界っ…、顔にかけてあげるよ、トモ」
「ひ、ああっ…!あっ、あっ!」

自分の尻を打つ佐伯の陰嚢がぱんぱんに膨れ上がっているのがわかり、言葉通り佐伯の限界が近い感覚にトモヤは身慄いする。

「っ…イくっ…!」

ずるりと佐伯がペニスを抜き、扱きながらトモヤの顔の近くまでくるとトモヤの顔に向かって射精をした。

「はあ…っ!んっ、ふぅ…ん」

佐伯のペニスが弾る。どくどくとマグマのように溢れる性液は、あの日ワタルが射精した瞬間をまざまざと思い出させられた。顔にかかった温かい精液をゆっくりと舐めとる。ワタルに敵わないが脳みそが蕩けそうな味がして、これがずっと求めてた男の味だった。

「はぁっ、はぁっ、めっちゃ気持ちよかった…なあ?トモ?」

トモヤは顔についた精液をすくって口に運ぶ。独待の味が口いっぱいに広がる、ずっとこれが舐めたかった。ずっとこれが欲しかった。心が、脳が歓喜に震えている。

「うわえっろ、トモ。めちゃめちゃエロいよ」
「綺麗ですよ、トモヤ。これからお客様にたくさんその姿を見てもらいましょう」

皆自分の必要としてくれる、あの日のワタルのように。トモヤは夢中になってシーツに溢れた精液を舐め啜る。

「ザーメン好きか?トモ?」
「好き、っ、もっと⋯ちょうだい⋯っ」
「泣くほど美味しいんだ?じゃあこれからいっぱい舐めような」

佐伯に頭を撫でられて心の底から満ち足りた気持ちになる。あの日ワタルに頭を撫でられた事を思い出す。自分を解放するってこんなに気持ちいいんだ。トモヤは快感に咽び泣いた。

ただ、もう一人の自分がショックでひどく心を痛めて泣いているのが分かった。いつまでも健気にワタルを待ち続けている自分、初めてをワタル以外の誰かに差し出したこと。心では涙が溢れて止まらない、初めてはにいちゃんがよかったのに。これは罰だ。同類だったと思い込んでいた輪のぬるま湯に浸かって、ワタルに対する気持ちを紛らわそうとしていた自分に対する。お前は求めていただろう、ワタルのことを。誤魔化そうとしていた愚か者にはお似合いの罰だ。そう何かに叱責されたような気分だった、何にだろう、わからない。あの日拾ったカマキリの卵の母親にだろうか。交尾をし逃げ遅れた父親を食すカマキリの母親がこちらを見ている気がした。

今晩の事がなかったら気づかず済んだのだろうか、多分違う。自分はこうなる以外道はなかったんだと思う。にいちゃんに恋したあの日から。
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