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ラーメン食べたい
しおりを挟む好きな人に対して本音を言わないのが大人の恋愛なんだとそう思い込んでた。
あの人の前で笑ったことは手で数えるぐらいしかなかった気がする。大袈裟かもしれないけど、それぐらい自分はそっけない態度ばかりしてた。
◇
雨足が強まってきた早朝の街中を早足で歩く。傘の意味を持たないぐらい雨が強まってきた頃、目的地に着いた。
「らっしゃい」
朝までやっているラーメン屋の暖簾をくぐって引き戸を開けるとガラガラと音が鳴り、タオルを頭に巻いて柄が付いたざるで麺をきる店長と店内には二、三人お客がいた。食券機でこの店定番のしょうゆラーメンのボタンを押し、出てきた食券を店長に渡す。適当に席に着くとおしぼりとお冷が出てきて、机に置かれた振動で揺れている透き通った水をぼんやりみつめる。
自分はついさっき恋人に振られてきた。
「ご馳走様」
そう言い残して客が一人帰っていく。チラッと見えた扉の向こうの景色は先ほどと変わらず土砂降りだった。
きっかけはこの間、あの人と店で飲んでいる時だった。自分が二人分の飲み物を取りに行っているほんの少しの間にあの人がナンパされていた、しかもすごく可愛い子に。目ざとくあの人に接触したらしいそいつと二人で楽しそうにしている姿に、アメーバのようなどろどろしたものが胸に広がっていって止まらなかった。強がっていたなと思う。
知ってる、あの人がナンパとかされて相手を邪険にできないタイプだって。でも許せなかった。
変なところで意地張って、女々しくベタベタしたくないとかと言い訳したり。ほんとはもっとキスしたかったし、抱きしめて欲しかったのに、気持ちが全部あべこべになって口に出る言葉全てが生意気な事ばかりだった。
可愛い子だったじゃん、俺じゃなくてあの子にすれば?と拗ねた一言から始まった小さな喧嘩だった。向こうは大人だから最初のうちは宥めようとしてくれたが、自分の生意気な態度に対して積もり積もったものがあったんだろう。最後は言い合いになって終わった。あっけないものだった。
その時のことを思い出してきたら鼻の奥がつんとしてきた。やばい、泣きそうだと思った時、へい、お待ちとラーメンが出てきた。出来立てのラーメンを目の前にして、失恋のつらさより腹の空き具合の方が混ざ勝って涙が引っ込んでくれた。
ラーメンを目の前に置いて、割り箸を割って、早速食べ始めた。なんだかおかしい、さっきまであんなにつらかったのに食欲には勝てないなんて。スープが絡んだ麺が美味しくて箸が進む。雨に濡れて冷えていた体が温まっていく。
ついでに脳みそまで温まってきたのか、楽しかった思い出が頭をよぎる。いつもセックスをした後はこってりしたラーメンを食べたくなって、よく色んなラーメン屋に連れて行ってもらった。付き合いたての頃、好きにトッピングしてくれていいと言われたことがある。嬉しくて柄にもなく食券機の前ではしゃいで本気で何にするか悩んでいたら笑われた。その時のあの人の笑顔が今でも鮮明に思い出せる。
ちゃんとまっすぐ、正直に、好きって言えばよかったんだろうか。でも好きって素直に言える自分だったら、あの人と出会えなかった気がする。今の自分で向き合えたらいいのに。でももう遅い。
気づいたらもうすぐ食べ終わる。夢中になって食べていたようだった。器を持ってスープを飲む、机に置くとラーメンの器の中を見つめて動けなくなった。明日もお待ちしてますの文字、中華な柄と共に描かれてる龍のプリントが掠れている。あの人の背中にも左上の方にそんなに大きくはないけれど龍の刺青があった。セックスの後たまに甘えたくなると、裸のあの人に後ろから抱きついてその刺青に頬を擦り寄せるのが好きだった。
それを見た途端、止まったはず涙がぶわっと溢れてきた。大好きだったなあと。今更実感するなんて、本当にバカな自分。
カラン、とお冷の氷が鳴った。雨の音が聞こえないことにきづく。外はもう雨が止んだようだが、自分の涙は止まらなかった。
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