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とあるお城にて
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「ラヴィーナ・ローゼンベルグ侯爵令嬢、お前との婚約は破棄させてもらう。」
王宮のホールの中央で高らかに宣言しているのはこの国の王太子、ジルフィニアン殿下です。
今日はわたくし、ラヴィーナとジルフィニアン殿下の婚約式です。
主役であるわたくしはそれに相応しい、派手で重いドレスを身につけて、それだけでもストレスだと言うのに。
何事でしょうか?
「どういうことでしょうか?」
わたくしは気力を振り絞って笑顔でお答えしました。
疲労とストレスでうまく笑えていたかはわかりませんけれども。
ジルフィニアン殿下はたまにこのような騒ぎを起こして困らせるのですわ。
困った方ですこと。
またいつものイタズラだと、この時は思っていましたの。
「アンジェに対する嫌がらせは度を越している。この国を去れば命は見逃してやろう。」
「アンジェ様?とはどなたでしょうか?」
「しらばっくれるか?彼女の苦しみをその身で思い知るがいい。」
「わたし、毎日怖くて…。」
「アンジェ、もう心配はいらないよ。君は僕が守ろう。」
「ジル様…!」
ピンクの髪をふわりと揺らした可愛らしい方がジルフィニアン殿下の腕にしがみついていて目を輝かせています。
あの方がアンジェ様でしょうか?
わたくし、記憶力に自信はありましたが見覚えはありません。
どうやらわたくしは見も知らぬアンジェ様になにか恐ろしいことをしていたようですわね。
王太子様がそう仰るのでしたら、そうなのでしょう。
それにしても、この騒ぎはどう収束すればいいのでしょうか?
本日は婚約式。
いつもより多くのお客様がいらっしゃいますわ。
他国の要人の皆様には申し訳なく思いますわ。
するとそこで思いもよらぬ方が声を上げました。
「何の騒ぎだ。」
「陛下…!」
サロンの方で他国の要人の方と過ごされていた陛下が騒ぎを聞きつけてやってきたようです。
皆、一斉に頭を垂れます。
「面をあげよ。これは何の騒ぎであるか。」
「父上、わたしはこの卑劣なラヴィーナに日々苦しめられている学友を救いたいのです。」
「ラヴィーナ嬢が卑劣とは?」
「学園でアンジェ嬢の持ち物を隠し、ドレスを引き裂き、階段から突き落としたのです。それだけでなく、他にも…」
「その話は誠か、ラヴィーナ嬢?」
突然に話を振られて戸惑いましたが、ここは事実だと語るしかありませんわね。
国の王太子に恥をかかせるわけにはいきませんものね。
「どうやらそのようです。アンジェ様とは面識もございませんが、そのような無関係な方に無慈悲なことを致しましたようで申し訳ございません。」
罪を認めながらも、さりげなく心当たりがないことを匂わせておきます。
これはつまり、面識もない令嬢に手をだした覚えはありませんが、王太子様が言うならそう言うことにしておきます、という意味ですわ。
もちろん陛下もおわかりですわね。
実はわたくし、隣国に留学をしていましたから、学園には入学をしていませんの。
お客様の中にはその隣国の方もいらっしゃるので、嘘だということはすぐにバレてしまいますわね。
これは悪手をしてしまいましたかしら?
「そうです、わたし酷い目に遭わされて…それで…」
聞かれもしないのに、アンジェ様が発言を始めました。
発言の許しは得たのでしょうか?
「ラヴィーナ嬢、嘘をつくことは許さぬ。再度聞くが、それは誠か?」
陛下はアンジェ様を無視し、わたくしに再度お聞きになりました。
これはもう仕方ありませんわね。
陛下のご命令ですから、真実を語っても王太子への不敬罪にはならないでしょう。
「わたくしは隣国に留学をしていたため、学園には入学はしておりませんの。アンジェ様のことも、本日初めてお見かけ致しましたわ。」
「嘘だ!アンジェはいつも虐められていたのだ!」
ジルフィニアン殿下は顔を赤くして否定なさっております。
ですが、引くに引けない状況でしょうか。
「ジルフィニアンよ。ラヴィーナ嬢の留学は余が許可した。当然お前も知っているはずだ。お前が男爵令嬢と親しげにしておることは耳に入っておる。色恋に惑わされたか?」
「そのようなことはありません。わたくしは…。」
「もうよい。このような場所で騒ぎを起こしたことの責任をどう取るつもりなのだ?」
ジルフィニアン殿下は青くなって震えています。
赤くなったり青くなったり大変ですわね。
ここは、人肌脱ぐことにいたしましょうか。
「陛下、発言をお認めいただけますか?」
「ラヴィーナ嬢、申してみよ。」
「王太子さまは非常に聡明な方ですわ。これは、そう。先見の明。これから起こりうる未来なのですわ。」
そう言ってわたしはアンジェ様の胸元に光るサファイアのネックレスを引きちぎり、美しく飾られたケーキのクリームの中に突っ込んだ。
「ちょ、なにするのよ!」
真っ赤になったアンジェ様がこちらを睨んでいます。
陛下もお客様方も、呆気にとられて見ておりますわね。
それにしても、ジルフィニアン様の瞳と同じ色の宝石を身につけているとは。
お二人の関係は並々ならぬ物なのですわね?
「持ち物を隠しましたわ。次は…ドレスでしたかしら?」
わたくしはアンジェ様のドレスを勢いよく引き裂きました。
上から下までずざーっと。
おかげでアンジェ様の前は上から下まで丸見えになりました。
「きゃああ!」
「アンジェ!!ラヴィーナ、なにをする!」
ジルフィニアン様はアンジェ様を抱きかかえて隠しています。
お客様方もわたくしを非道だと、噂を始めました。
騎士の1人がわたくしの腕を取り押さえました。
まだお楽しみはこれからですのよ?
「仕方がございませんの。わたくしがやらなくては…王太子様は侯爵令嬢を嵌めた罪に問われてしまいますのよ?」
わたくしが嘘泣きで訴えると、騎士の方はすぐに手を離してくださいました。
お次は階段から突き落とすのでしたか…。
ちょうどバルコニーに階段がありますわね。
3段程度の低い階段ですが、仕方ないですわよね?
わたくしはアンジェ様の腕を取ると、おりゃーっと投げました。
アンジェ様は綺麗に階段を転がっておりますわね。
わたくしは王太子様の方を向き、本日最高の笑顔を振りまきます。
「それだけでなく、他にも…なにを致しましたらよろしいの?」
その後どうなったか、ですって?
罪を犯したわたくしは王太子様と婚約破棄をして、ご命令通り国を去りましたわ。
隣国の王子と留学中に懇意にしておりましたので、そちらでお世話になることにいたしましたの。
「ラヴィ、今日も美しいね。」
「ふふふ。旦那様も素敵でしてよ。」
finーー
王宮のホールの中央で高らかに宣言しているのはこの国の王太子、ジルフィニアン殿下です。
今日はわたくし、ラヴィーナとジルフィニアン殿下の婚約式です。
主役であるわたくしはそれに相応しい、派手で重いドレスを身につけて、それだけでもストレスだと言うのに。
何事でしょうか?
「どういうことでしょうか?」
わたくしは気力を振り絞って笑顔でお答えしました。
疲労とストレスでうまく笑えていたかはわかりませんけれども。
ジルフィニアン殿下はたまにこのような騒ぎを起こして困らせるのですわ。
困った方ですこと。
またいつものイタズラだと、この時は思っていましたの。
「アンジェに対する嫌がらせは度を越している。この国を去れば命は見逃してやろう。」
「アンジェ様?とはどなたでしょうか?」
「しらばっくれるか?彼女の苦しみをその身で思い知るがいい。」
「わたし、毎日怖くて…。」
「アンジェ、もう心配はいらないよ。君は僕が守ろう。」
「ジル様…!」
ピンクの髪をふわりと揺らした可愛らしい方がジルフィニアン殿下の腕にしがみついていて目を輝かせています。
あの方がアンジェ様でしょうか?
わたくし、記憶力に自信はありましたが見覚えはありません。
どうやらわたくしは見も知らぬアンジェ様になにか恐ろしいことをしていたようですわね。
王太子様がそう仰るのでしたら、そうなのでしょう。
それにしても、この騒ぎはどう収束すればいいのでしょうか?
本日は婚約式。
いつもより多くのお客様がいらっしゃいますわ。
他国の要人の皆様には申し訳なく思いますわ。
するとそこで思いもよらぬ方が声を上げました。
「何の騒ぎだ。」
「陛下…!」
サロンの方で他国の要人の方と過ごされていた陛下が騒ぎを聞きつけてやってきたようです。
皆、一斉に頭を垂れます。
「面をあげよ。これは何の騒ぎであるか。」
「父上、わたしはこの卑劣なラヴィーナに日々苦しめられている学友を救いたいのです。」
「ラヴィーナ嬢が卑劣とは?」
「学園でアンジェ嬢の持ち物を隠し、ドレスを引き裂き、階段から突き落としたのです。それだけでなく、他にも…」
「その話は誠か、ラヴィーナ嬢?」
突然に話を振られて戸惑いましたが、ここは事実だと語るしかありませんわね。
国の王太子に恥をかかせるわけにはいきませんものね。
「どうやらそのようです。アンジェ様とは面識もございませんが、そのような無関係な方に無慈悲なことを致しましたようで申し訳ございません。」
罪を認めながらも、さりげなく心当たりがないことを匂わせておきます。
これはつまり、面識もない令嬢に手をだした覚えはありませんが、王太子様が言うならそう言うことにしておきます、という意味ですわ。
もちろん陛下もおわかりですわね。
実はわたくし、隣国に留学をしていましたから、学園には入学をしていませんの。
お客様の中にはその隣国の方もいらっしゃるので、嘘だということはすぐにバレてしまいますわね。
これは悪手をしてしまいましたかしら?
「そうです、わたし酷い目に遭わされて…それで…」
聞かれもしないのに、アンジェ様が発言を始めました。
発言の許しは得たのでしょうか?
「ラヴィーナ嬢、嘘をつくことは許さぬ。再度聞くが、それは誠か?」
陛下はアンジェ様を無視し、わたくしに再度お聞きになりました。
これはもう仕方ありませんわね。
陛下のご命令ですから、真実を語っても王太子への不敬罪にはならないでしょう。
「わたくしは隣国に留学をしていたため、学園には入学はしておりませんの。アンジェ様のことも、本日初めてお見かけ致しましたわ。」
「嘘だ!アンジェはいつも虐められていたのだ!」
ジルフィニアン殿下は顔を赤くして否定なさっております。
ですが、引くに引けない状況でしょうか。
「ジルフィニアンよ。ラヴィーナ嬢の留学は余が許可した。当然お前も知っているはずだ。お前が男爵令嬢と親しげにしておることは耳に入っておる。色恋に惑わされたか?」
「そのようなことはありません。わたくしは…。」
「もうよい。このような場所で騒ぎを起こしたことの責任をどう取るつもりなのだ?」
ジルフィニアン殿下は青くなって震えています。
赤くなったり青くなったり大変ですわね。
ここは、人肌脱ぐことにいたしましょうか。
「陛下、発言をお認めいただけますか?」
「ラヴィーナ嬢、申してみよ。」
「王太子さまは非常に聡明な方ですわ。これは、そう。先見の明。これから起こりうる未来なのですわ。」
そう言ってわたしはアンジェ様の胸元に光るサファイアのネックレスを引きちぎり、美しく飾られたケーキのクリームの中に突っ込んだ。
「ちょ、なにするのよ!」
真っ赤になったアンジェ様がこちらを睨んでいます。
陛下もお客様方も、呆気にとられて見ておりますわね。
それにしても、ジルフィニアン様の瞳と同じ色の宝石を身につけているとは。
お二人の関係は並々ならぬ物なのですわね?
「持ち物を隠しましたわ。次は…ドレスでしたかしら?」
わたくしはアンジェ様のドレスを勢いよく引き裂きました。
上から下までずざーっと。
おかげでアンジェ様の前は上から下まで丸見えになりました。
「きゃああ!」
「アンジェ!!ラヴィーナ、なにをする!」
ジルフィニアン様はアンジェ様を抱きかかえて隠しています。
お客様方もわたくしを非道だと、噂を始めました。
騎士の1人がわたくしの腕を取り押さえました。
まだお楽しみはこれからですのよ?
「仕方がございませんの。わたくしがやらなくては…王太子様は侯爵令嬢を嵌めた罪に問われてしまいますのよ?」
わたくしが嘘泣きで訴えると、騎士の方はすぐに手を離してくださいました。
お次は階段から突き落とすのでしたか…。
ちょうどバルコニーに階段がありますわね。
3段程度の低い階段ですが、仕方ないですわよね?
わたくしはアンジェ様の腕を取ると、おりゃーっと投げました。
アンジェ様は綺麗に階段を転がっておりますわね。
わたくしは王太子様の方を向き、本日最高の笑顔を振りまきます。
「それだけでなく、他にも…なにを致しましたらよろしいの?」
その後どうなったか、ですって?
罪を犯したわたくしは王太子様と婚約破棄をして、ご命令通り国を去りましたわ。
隣国の王子と留学中に懇意にしておりましたので、そちらでお世話になることにいたしましたの。
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