23 / 36
第22話 [監督不行き届き]
しおりを挟む
「まあね。おれとしてはヒイロが二人と一緒にいることのほうが驚きだよ。久しぶり元気だった二人とも。ま、大方、昨日のヒイロの活躍に目がくらんだ主役馬鹿が突っかかったってところだろうけどさ。行動が手に取るように解るよね。ユラさんも子守が大変だよ、ほんとさ」
「うるさいばーか。ばーかばーか。あんたは島の外で戦えばいいでしょ。いっぱい魔動歩兵いるんだからさ。それとも何? 兄と一緒に戦わないといけないのかしら!?」
「喧嘩すんなよ」
呆れて僕は言う。
何があったのか知らないけど、今一応さらし者みたいになってんだからさ。なんでより目立つようなことをするかな。
「ふん!」
とネネカが鼻息荒く言って、スナオから離れるように、距離をとると、スナオは、
「怒ってるねえ。もっと再会を喜べば良いのに。その方が絶対人生楽しいよね。ヒイロもそう思わない?」
「お前は人生を楽しみすぎというか面白がりすぎだからもう少し自重した方が良い。島が沈んではしゃいでるんだろうけどさ」
「そんなわけないじゃん!」
スナオはむっとした。
結構本気で怒ってるのを見て僕は少し驚きつつ、
「いや、だってそう思うだろ。鍛冶場で炉が爆発したときもお前、目キラキラさせて竜火石追加しようとしてたし」
「それとこれとは別だよ」
「別じゃねえよ! 僕の働き口がなくなるところだったんだぞ!」
スナオは「ああそうか」と苦笑して、
「それは悪かったよ。でもさ、今の状況は誰も笑ってられないでしょ。おれの故郷が沈んだんだからそこは大真面目だよ。だから、逃げ遅れた人を助けてたのもほんと。……ちょっと戦闘に集中し過ぎたけど」
「ちょっとね」
もう一度スナオの首にぶら下がった札を見て、それからユラと、少し離れた場所にいるネネカをみると、
「で、ユラたちとスナオは知り合いなんだな」
「…………そう。スナオは訓練生時代の同期」
唐突にユラが話し出した。
「え、なに?」
「…………わたしとネネカとスナオは守護官の訓練生時代の同期。第二一六期生。キキョウ島で一緒に学んでた」
「ああ、そういうこと? それで知り合いなのか」
「そうだよ!」
とスナオは言って笑みを浮かべる。
「その頃からネネカとは犬猿の仲なの?」
「んー……」
スナオは苦笑して黙ってしまったけれど、対して、心的障壁をまったく持たないユラは口を開いて、
「…………んんん。二人は昔、恋仲だった」
「あ?」
「…………すきすきちゅっちゅの仲だった」
「気持ち悪い言い方しないでよ!」
少し離れた場所で聞いていたネネカが結局戻ってきて言う。
地獄耳かよ。
というか……、え?
全然想像できない。
ネネカもそうだけど、特にスナオに恋人とか全然想像できない。
「それに別に恋仲だったわけじゃないわ! ただの腐れ縁よ! 家同士の関係が深かったってだけ!」
「…………でも幼なじみで、小さい頃はすきすきちゅっちゅだった」
「ユラ! うるさい! 若気の至りって奴よ! 訓練生時代にはもう嫌いだったわ、こんな奴!」
主役馬鹿は若気の至りではないのか。
でもま、つい最近まで恋人同士というのは想像できなかったけれど幼い頃に、幼なじみとして、ちょっと好き合うみたいな関係なら容易に想像できた。
それを恋人同士と呼ぶのかは疑問だけど。
すきすきちゅっちゅかは知らないけど。
幼なじみ、家同士が深い仲、と聞いて、僕は二人の目を見た。
共に竜眼。
その希少性についてはそれほど詳しくないけれど、少なくとも、ヨヒラ島の守護官では数えるほどしかいなかったし、九の船でもあまり見かけない。
ふむ。
「ネネカの家もスナオのとこみたいに代々続くような守護官の家系なの?」
「そうよ! 過去の血族には巫女だっているし、『数字持ち』だっているわ! 主役のあたしにふさわしいでしょ」
「それは物語によるだろ」
とそこに、罰を受けている僕たちが逃げていないか見に来たのか、九の字がやってくる。
その首には、
[監督不行き届き]
と書いた札が下がっている。
自分で書いたのか。
「さてさて罰を受けている諸君。そろそろその札を外してもいい時間なンだけどね、その前にアタシ直々にお話しておきたいことがあるンだ」
九の字は両手を腰に当てて言う。
「なになに? ご褒美くれるの!?」
ネネカが顔を輝かせる。
お前いま罰受けてたんだぞ。もう忘れたのか。
九の字は、しかし、ネネカのその言葉を受けて、
「まあね、ネネカちゃんにとってはご褒美になるのかな? まあ受け取り方次第だよね」
そう言って、僕たち全員を見回すと、
「情報収集が終わって、準備が完了したよ。明日、妖精の華を討伐に行く。華が咲いて、魔動歩兵を生み出し始めてて、時間が許されないからね」
ついにそのときが来た。
コハクの目を隠し、魔法の暴発を防ぐ薬を作るために必要な素材。
妖精の華を討伐する。
「きっと大変な戦いになる。特に妖精の華は真っ赤で、竜源装を持ってるからね。……ヒイロ君、君がそれを壊すンだ」
「はい」
もちろん、僕は頷いた。
「さて、そこで、この四人で一つの班を作ってもらうことにしたンだ。真っ赤な妖精の華が持つ竜源装をヒイロ君に壊してもらうには、超至近距離まで近づかなきゃいけないからね。……君たちはその戦闘方法にこの船の中で誰よりも慣れてる。この班はいわば、ヒイロ君護衛班って訳だね」
――――――――――――――
次回は明日12:00頃更新です。
「うるさいばーか。ばーかばーか。あんたは島の外で戦えばいいでしょ。いっぱい魔動歩兵いるんだからさ。それとも何? 兄と一緒に戦わないといけないのかしら!?」
「喧嘩すんなよ」
呆れて僕は言う。
何があったのか知らないけど、今一応さらし者みたいになってんだからさ。なんでより目立つようなことをするかな。
「ふん!」
とネネカが鼻息荒く言って、スナオから離れるように、距離をとると、スナオは、
「怒ってるねえ。もっと再会を喜べば良いのに。その方が絶対人生楽しいよね。ヒイロもそう思わない?」
「お前は人生を楽しみすぎというか面白がりすぎだからもう少し自重した方が良い。島が沈んではしゃいでるんだろうけどさ」
「そんなわけないじゃん!」
スナオはむっとした。
結構本気で怒ってるのを見て僕は少し驚きつつ、
「いや、だってそう思うだろ。鍛冶場で炉が爆発したときもお前、目キラキラさせて竜火石追加しようとしてたし」
「それとこれとは別だよ」
「別じゃねえよ! 僕の働き口がなくなるところだったんだぞ!」
スナオは「ああそうか」と苦笑して、
「それは悪かったよ。でもさ、今の状況は誰も笑ってられないでしょ。おれの故郷が沈んだんだからそこは大真面目だよ。だから、逃げ遅れた人を助けてたのもほんと。……ちょっと戦闘に集中し過ぎたけど」
「ちょっとね」
もう一度スナオの首にぶら下がった札を見て、それからユラと、少し離れた場所にいるネネカをみると、
「で、ユラたちとスナオは知り合いなんだな」
「…………そう。スナオは訓練生時代の同期」
唐突にユラが話し出した。
「え、なに?」
「…………わたしとネネカとスナオは守護官の訓練生時代の同期。第二一六期生。キキョウ島で一緒に学んでた」
「ああ、そういうこと? それで知り合いなのか」
「そうだよ!」
とスナオは言って笑みを浮かべる。
「その頃からネネカとは犬猿の仲なの?」
「んー……」
スナオは苦笑して黙ってしまったけれど、対して、心的障壁をまったく持たないユラは口を開いて、
「…………んんん。二人は昔、恋仲だった」
「あ?」
「…………すきすきちゅっちゅの仲だった」
「気持ち悪い言い方しないでよ!」
少し離れた場所で聞いていたネネカが結局戻ってきて言う。
地獄耳かよ。
というか……、え?
全然想像できない。
ネネカもそうだけど、特にスナオに恋人とか全然想像できない。
「それに別に恋仲だったわけじゃないわ! ただの腐れ縁よ! 家同士の関係が深かったってだけ!」
「…………でも幼なじみで、小さい頃はすきすきちゅっちゅだった」
「ユラ! うるさい! 若気の至りって奴よ! 訓練生時代にはもう嫌いだったわ、こんな奴!」
主役馬鹿は若気の至りではないのか。
でもま、つい最近まで恋人同士というのは想像できなかったけれど幼い頃に、幼なじみとして、ちょっと好き合うみたいな関係なら容易に想像できた。
それを恋人同士と呼ぶのかは疑問だけど。
すきすきちゅっちゅかは知らないけど。
幼なじみ、家同士が深い仲、と聞いて、僕は二人の目を見た。
共に竜眼。
その希少性についてはそれほど詳しくないけれど、少なくとも、ヨヒラ島の守護官では数えるほどしかいなかったし、九の船でもあまり見かけない。
ふむ。
「ネネカの家もスナオのとこみたいに代々続くような守護官の家系なの?」
「そうよ! 過去の血族には巫女だっているし、『数字持ち』だっているわ! 主役のあたしにふさわしいでしょ」
「それは物語によるだろ」
とそこに、罰を受けている僕たちが逃げていないか見に来たのか、九の字がやってくる。
その首には、
[監督不行き届き]
と書いた札が下がっている。
自分で書いたのか。
「さてさて罰を受けている諸君。そろそろその札を外してもいい時間なンだけどね、その前にアタシ直々にお話しておきたいことがあるンだ」
九の字は両手を腰に当てて言う。
「なになに? ご褒美くれるの!?」
ネネカが顔を輝かせる。
お前いま罰受けてたんだぞ。もう忘れたのか。
九の字は、しかし、ネネカのその言葉を受けて、
「まあね、ネネカちゃんにとってはご褒美になるのかな? まあ受け取り方次第だよね」
そう言って、僕たち全員を見回すと、
「情報収集が終わって、準備が完了したよ。明日、妖精の華を討伐に行く。華が咲いて、魔動歩兵を生み出し始めてて、時間が許されないからね」
ついにそのときが来た。
コハクの目を隠し、魔法の暴発を防ぐ薬を作るために必要な素材。
妖精の華を討伐する。
「きっと大変な戦いになる。特に妖精の華は真っ赤で、竜源装を持ってるからね。……ヒイロ君、君がそれを壊すンだ」
「はい」
もちろん、僕は頷いた。
「さて、そこで、この四人で一つの班を作ってもらうことにしたンだ。真っ赤な妖精の華が持つ竜源装をヒイロ君に壊してもらうには、超至近距離まで近づかなきゃいけないからね。……君たちはその戦闘方法にこの船の中で誰よりも慣れてる。この班はいわば、ヒイロ君護衛班って訳だね」
――――――――――――――
次回は明日12:00頃更新です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる