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第35話 僕の道
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「お兄ちゃん、起きてえ、朝だよお」
と僕を起こしたのはコハクではなくシズクさんで、なんであなたにお兄ちゃん呼ばわりされなければならないのだと思う。
コハクにだってまともに起こされたことないのに!
「ひどい目覚めです。コハクを呼んできてください」
「コハっちゃんなら、もうとっくに起きて九の字と遊んでるよ」
「…………九の字が来てるんですか!?」
僕がガバッと起き上がると、シズクさんの前でちゃっちゃか服を着替え始める。
「ヒーロー君はあーしを女としてみてないんじゃないかって思うよねえ」
「女としてみてる方が問題だと思いますけど」
「しどい! あーしだってまだ若いのに! ワカイカラダを持て余しているというのに!」
「僕じゃなくて他の人にぶつけてください。相手が打撲するくらいぶつければいいですよ。投擲です」
「あーしをぶん投げろって言うのかい?」
着替え終えた僕はシズクさんとの会話を切り上げると、縁側に向かった。
キキョウ島で与えられた僕たちの新しい家は元はヨヒラ島の守護官が使っていたもので、此度の不祥事により持ち主がいなくなったところを僕が譲り受けたものだった。
本当はもっとたくさんの報奨金があったし、僕はヨヒラ島全域を取り戻した功労者の一人と言うことになっているけれど、とどめを刺したのはネネカだし、それに過分な金を持て余すつもりはない。
コハクと一緒に暮らしていける分だけもらって、残りは返してしまった。
コハクの目にはもう魔眼はない。
共に竜眼。
すでに妖精の華を素材とする目薬は完成していて、キキョウ島の外でコハクにつけたあと問題なく僕たちは島に出入りできるようになっていた。
しばらくはもらったその一本で問題なく暮らしていけるだろう。
そのコハクは縁側に九の字と一緒に座っている。
「や、ヒイロ君。疲れはとれたかな?」
「あれから何日経ったと思ってるんですか」
妖精の華を討伐し、ヨヒラ島を出てキキョウ島まで来て、薬の完成を待ち、諸々の報告を終えたのが今日である。
実に六日が過ぎている。
僕はコハクの隣に座ると、
「それで、今日は何の用事で来たんです?」
「用事がなくちゃ来ちゃいけないのかな?」
「忙しい身でしょ?」
「ふふ、まあね。でも今は妖精の華も討伐して少し余裕があるから休息ってところ。船員たちも一仕事終えて疲れてるだろうし」
九の字は言って微笑むと、
「そう、用事って言うか伝えることがあったから来たンだ。大魔女の第一目標がなんなのかわかったから話しておこうと思ってね」
アギトがすぐにわかるとネネカに文句を言っていたな。
妖精の華を咲かせて島を沈める、と言うのも同じくらい重要な目標だったはずなのに、それよりも重要なことってなんだろう。
「僕としてはユンデの眼の衝撃が強すぎたんですけど」
「それはアタシもだよ。まさかまだいたなンてね。それも、使い魔と大魔女っていうンだからさ。あの魔法には本当に驚いたよ。対処のしようがない」
それに、と九の字は続けて、
「巫女や守護官たち、特に他の『数字持ち』への衝撃がすごかった。ただでさえ竜源装が効かない魔動歩兵というのであたふたしているのにね。まったく。狼狽ってのはああいうことを言うンだろうね」
「ユンデは、危険なようには見えませんでした。僕たちを直接攻撃してきた訳ではなかったですし」
「うん。そうだね。それでも宣戦布告としては十分な意味を持っていたと思うよ。アタシたちの生活はいつ何時でも崩壊する。どこにも安全な場所なんてないンだってことを大魔女は証明しちゃったンだ」
「宣戦布告……あの、結局それが大魔女の第一目標なんじゃないんですか?」
「そうかもしれない。ただそれは今回の一手だったんだよね。目標にしていたのは次の一手だった」
「次?」
九の字は縁側に後ろ手をついて空を見上げるような姿勢になる。
「ユンデとアギトだったかな。二人の使い魔は妖精の華が持っていた『竜の鱗』を回収しに来ていた。あれが重要な要素だったンだよ。彼らにとって竜の鱗は貴重なものだったンだよ。わざわざ回収しなければならないほどに。次の妖精の華を作り出すために」
「……竜の鱗が、あの赤い魔動歩兵には必要ってことですね」
「そう。ヒイロ君がユンデたちから聞きだした話の一つだね。妖精の華の身体の中で竜源装も作り出している」
九の字は大きく頷いて、
「結局ね、大魔女の第一目標はヨヒラ島にある大量の竜の鱗だったんだ。そしてそれは見事に盗まれてしまった。まったくひどい有様だよ。ヨヒラ島は『第二区』では最大の竜源装の産出場所だったからね。大きな痛手だよ。新しい竜源装を作れない訳ではないけれど、今までのようにはいかないだろうね。竜墓山からまた竜の鱗を採取しないといけないし、巫女の浄化を待たないといけない」
「代わりに、魔女たちは妖精の華さえ咲かせれば、真っ赤な魔動歩兵を大量に作り出せるようになってしまったってわけですね」
「そう。そういうこと。まったく嫌になるよねほんと」
嫌になるどころではない。危険も危険。
安全な場所など無いというのは本当だった。
僕はコハクの頭を撫でる。
押しのけられる。
「撫でていいって許可してないの」
「コハクさん頭撫でていいですか」
「……いいの」
じゃあ何で一回拒否したんだ。
ここ数日は僕にべったりとまではいかないけれど冷たい対応が鳴りを潜めていたのに、六日も経っちゃって徐々に元のコハクに戻りつつあった。
元に戻ったら頭を撫でるなんて完全に拒否されるだろう。
それはいいこと……なのか?
僕から離れていくのは成長だからいいことなんだろう、と僕は自分に言い聞かせる。
成長。
「九の字、聞きたいことがあるんですけど」
「なにかな? 魔女のこと?」
「いえ。コハクには薬が必要ですけど、それは、九の字だってそうでしょう? 今回だってわけてもらったという方が適切です」
作り方を知る人物だって、僕は知らない。僕一人で妖精の華を討伐できる訳でもない。
それに……、
僕はずっと考えていたことを尋ねる。
「……聞きますが、妖精の華一つからどれくらい薬ができるんですか? 九の字にはどれくらい必要なんですか?」
「どうしてそんなことを聞くのかな?」
「あなたはコハクの未来だから。二つの意味で」
妖精の華を討伐する希望であり、
二つの目を持つものとして将来なるであろう姿。
九の字は僕をみて、コハクをみて、ふっと息を吐く。
「一つの妖精の華からとれる素材で、薬はあの小瓶で十個作れるよ」
「あんなに大きいのに、それだけ……?」
「そう。まあ一部の素材は別のことに使うんだけど、それでも、凝縮が必要だからね。量が減るンだ」
だからあんなに黒い薬なのかと思う。妖精の華の元の色というだけじゃないのだろう。
「で、アタシに必要な量だけどね。うーん、やっぱり気づいてたンだね、ヒイロ君」
「ええ」
僕は頷く。
「と言っても、気づいたのはコハクに使ってからですけど。九の字の持っていた小瓶とコハクがもらった小瓶って形が違いますよね」
そうなのだった。
コハクのものは目にさしやすいように、一滴ずつ垂れるように口が小さく工夫がされていたのに対し、はじめに九の字に見せてもらった小瓶は口が大きく作られていた。
「九の字の小瓶は目に使うには口が大きすぎるんですよ。九の字は、あれを飲んでますよね?」
九の字は苦笑して、
「鋭いね、その通りだよ」
「気づいたのはシズクさんですけど」
「そっか、侮れないね。うん、その通りだよ。アタシはあの小瓶を飲んでる。ものすっごく苦いンだよねあれ。味を改良してほしいよ」
「あの小瓶まるまる一つを飲んでるんですよね?」
「そう、しかも、九日に一度。もっと言えば、大けがをすればそのたびに一つ」
計算、計算。
九日に一度、一つの妖精の華から十の小瓶。
妖精の華一つからたった、九十日分。
「いつから……いつからその量なんです?」
「徐々に増えていったからねえ。うーん。アタシが今、十八か十九だから……」
若いとは思ってたけどほんとに若かったのか、と僕が驚いている間にも九の字は続けて、
「三年前、十五くらいの頃にはもう、一本飲んでたかな。でもその頃はまだ一本で九十日はもったんだけどね」
コハクはもうすぐ十歳になる。
今は一滴で十分でも、あと五年で、それだけの量が必要になる。
一本がさらに貴重になってくる。
「……九の字は、コハクのためにその一つ、貴重な九日分をわけてくれたんですね」
「何言ってンの。ヒイロ君がいなかったらもっと船員に犠牲が出ていたはずだし、それどころか討伐できていたかもわからないンだよ? アタシの九日分なんて安いもンだよ」
言って九の字は笑った。
これから先、赤い妖精の華は増え続けるだろう。それはつまり、九の字たちだけで討伐できる数が減るということだ。
妖精の華のために動いていると九の字は言った。
けれどそれと同じくらい、九の船の船員を気にかけている。
その重圧は計り知れないのに、秘密だってあるのに、九の字は戦い続けている。
僕はその手助けをしなければならない。
九の字を手助けすることが、コハクを守ることに繋がるから。
薬を手に入れることに繋がるから。
そう、自分のためだ。
コハクのためだ。
九の字と同じだ。
だから僕も、九の字と同じように、
船員を守ろう。
仲間を守ろう。
ユラを、ネネカを、スナオを守ろう。
「九の字、相談があります」
「ん? 何かな?」
「僕を九の船に乗せてください」
僕がいうと、九の字は驚いたようにその竜眼を見開いた。
「それは……こちらからお願いしようと思っていたことだったンだけどね。コハクちゃんの手前、言わない方がいいかとも思ってたンだ。……どうして乗ろうと考えたのかな?」
「それは……」
僕は考えていたことを話した。
今止めてしまえば、それは見殺しにするのと変わりない。
あの日、逃げないと誓った僕がそれを許さない。
僕はあの時、見つけたんだ。
託し、託される。
置いていくんじゃなく、その場を託す。
その代わり僕に託されたことを全力でやる。
それこそが僕の道だ。
――――――――――――――
これにて一旦完結です!
お読みいただきましてありがとうございました!
と僕を起こしたのはコハクではなくシズクさんで、なんであなたにお兄ちゃん呼ばわりされなければならないのだと思う。
コハクにだってまともに起こされたことないのに!
「ひどい目覚めです。コハクを呼んできてください」
「コハっちゃんなら、もうとっくに起きて九の字と遊んでるよ」
「…………九の字が来てるんですか!?」
僕がガバッと起き上がると、シズクさんの前でちゃっちゃか服を着替え始める。
「ヒーロー君はあーしを女としてみてないんじゃないかって思うよねえ」
「女としてみてる方が問題だと思いますけど」
「しどい! あーしだってまだ若いのに! ワカイカラダを持て余しているというのに!」
「僕じゃなくて他の人にぶつけてください。相手が打撲するくらいぶつければいいですよ。投擲です」
「あーしをぶん投げろって言うのかい?」
着替え終えた僕はシズクさんとの会話を切り上げると、縁側に向かった。
キキョウ島で与えられた僕たちの新しい家は元はヨヒラ島の守護官が使っていたもので、此度の不祥事により持ち主がいなくなったところを僕が譲り受けたものだった。
本当はもっとたくさんの報奨金があったし、僕はヨヒラ島全域を取り戻した功労者の一人と言うことになっているけれど、とどめを刺したのはネネカだし、それに過分な金を持て余すつもりはない。
コハクと一緒に暮らしていける分だけもらって、残りは返してしまった。
コハクの目にはもう魔眼はない。
共に竜眼。
すでに妖精の華を素材とする目薬は完成していて、キキョウ島の外でコハクにつけたあと問題なく僕たちは島に出入りできるようになっていた。
しばらくはもらったその一本で問題なく暮らしていけるだろう。
そのコハクは縁側に九の字と一緒に座っている。
「や、ヒイロ君。疲れはとれたかな?」
「あれから何日経ったと思ってるんですか」
妖精の華を討伐し、ヨヒラ島を出てキキョウ島まで来て、薬の完成を待ち、諸々の報告を終えたのが今日である。
実に六日が過ぎている。
僕はコハクの隣に座ると、
「それで、今日は何の用事で来たんです?」
「用事がなくちゃ来ちゃいけないのかな?」
「忙しい身でしょ?」
「ふふ、まあね。でも今は妖精の華も討伐して少し余裕があるから休息ってところ。船員たちも一仕事終えて疲れてるだろうし」
九の字は言って微笑むと、
「そう、用事って言うか伝えることがあったから来たンだ。大魔女の第一目標がなんなのかわかったから話しておこうと思ってね」
アギトがすぐにわかるとネネカに文句を言っていたな。
妖精の華を咲かせて島を沈める、と言うのも同じくらい重要な目標だったはずなのに、それよりも重要なことってなんだろう。
「僕としてはユンデの眼の衝撃が強すぎたんですけど」
「それはアタシもだよ。まさかまだいたなンてね。それも、使い魔と大魔女っていうンだからさ。あの魔法には本当に驚いたよ。対処のしようがない」
それに、と九の字は続けて、
「巫女や守護官たち、特に他の『数字持ち』への衝撃がすごかった。ただでさえ竜源装が効かない魔動歩兵というのであたふたしているのにね。まったく。狼狽ってのはああいうことを言うンだろうね」
「ユンデは、危険なようには見えませんでした。僕たちを直接攻撃してきた訳ではなかったですし」
「うん。そうだね。それでも宣戦布告としては十分な意味を持っていたと思うよ。アタシたちの生活はいつ何時でも崩壊する。どこにも安全な場所なんてないンだってことを大魔女は証明しちゃったンだ」
「宣戦布告……あの、結局それが大魔女の第一目標なんじゃないんですか?」
「そうかもしれない。ただそれは今回の一手だったんだよね。目標にしていたのは次の一手だった」
「次?」
九の字は縁側に後ろ手をついて空を見上げるような姿勢になる。
「ユンデとアギトだったかな。二人の使い魔は妖精の華が持っていた『竜の鱗』を回収しに来ていた。あれが重要な要素だったンだよ。彼らにとって竜の鱗は貴重なものだったンだよ。わざわざ回収しなければならないほどに。次の妖精の華を作り出すために」
「……竜の鱗が、あの赤い魔動歩兵には必要ってことですね」
「そう。ヒイロ君がユンデたちから聞きだした話の一つだね。妖精の華の身体の中で竜源装も作り出している」
九の字は大きく頷いて、
「結局ね、大魔女の第一目標はヨヒラ島にある大量の竜の鱗だったんだ。そしてそれは見事に盗まれてしまった。まったくひどい有様だよ。ヨヒラ島は『第二区』では最大の竜源装の産出場所だったからね。大きな痛手だよ。新しい竜源装を作れない訳ではないけれど、今までのようにはいかないだろうね。竜墓山からまた竜の鱗を採取しないといけないし、巫女の浄化を待たないといけない」
「代わりに、魔女たちは妖精の華さえ咲かせれば、真っ赤な魔動歩兵を大量に作り出せるようになってしまったってわけですね」
「そう。そういうこと。まったく嫌になるよねほんと」
嫌になるどころではない。危険も危険。
安全な場所など無いというのは本当だった。
僕はコハクの頭を撫でる。
押しのけられる。
「撫でていいって許可してないの」
「コハクさん頭撫でていいですか」
「……いいの」
じゃあ何で一回拒否したんだ。
ここ数日は僕にべったりとまではいかないけれど冷たい対応が鳴りを潜めていたのに、六日も経っちゃって徐々に元のコハクに戻りつつあった。
元に戻ったら頭を撫でるなんて完全に拒否されるだろう。
それはいいこと……なのか?
僕から離れていくのは成長だからいいことなんだろう、と僕は自分に言い聞かせる。
成長。
「九の字、聞きたいことがあるんですけど」
「なにかな? 魔女のこと?」
「いえ。コハクには薬が必要ですけど、それは、九の字だってそうでしょう? 今回だってわけてもらったという方が適切です」
作り方を知る人物だって、僕は知らない。僕一人で妖精の華を討伐できる訳でもない。
それに……、
僕はずっと考えていたことを尋ねる。
「……聞きますが、妖精の華一つからどれくらい薬ができるんですか? 九の字にはどれくらい必要なんですか?」
「どうしてそんなことを聞くのかな?」
「あなたはコハクの未来だから。二つの意味で」
妖精の華を討伐する希望であり、
二つの目を持つものとして将来なるであろう姿。
九の字は僕をみて、コハクをみて、ふっと息を吐く。
「一つの妖精の華からとれる素材で、薬はあの小瓶で十個作れるよ」
「あんなに大きいのに、それだけ……?」
「そう。まあ一部の素材は別のことに使うんだけど、それでも、凝縮が必要だからね。量が減るンだ」
だからあんなに黒い薬なのかと思う。妖精の華の元の色というだけじゃないのだろう。
「で、アタシに必要な量だけどね。うーん、やっぱり気づいてたンだね、ヒイロ君」
「ええ」
僕は頷く。
「と言っても、気づいたのはコハクに使ってからですけど。九の字の持っていた小瓶とコハクがもらった小瓶って形が違いますよね」
そうなのだった。
コハクのものは目にさしやすいように、一滴ずつ垂れるように口が小さく工夫がされていたのに対し、はじめに九の字に見せてもらった小瓶は口が大きく作られていた。
「九の字の小瓶は目に使うには口が大きすぎるんですよ。九の字は、あれを飲んでますよね?」
九の字は苦笑して、
「鋭いね、その通りだよ」
「気づいたのはシズクさんですけど」
「そっか、侮れないね。うん、その通りだよ。アタシはあの小瓶を飲んでる。ものすっごく苦いンだよねあれ。味を改良してほしいよ」
「あの小瓶まるまる一つを飲んでるんですよね?」
「そう、しかも、九日に一度。もっと言えば、大けがをすればそのたびに一つ」
計算、計算。
九日に一度、一つの妖精の華から十の小瓶。
妖精の華一つからたった、九十日分。
「いつから……いつからその量なんです?」
「徐々に増えていったからねえ。うーん。アタシが今、十八か十九だから……」
若いとは思ってたけどほんとに若かったのか、と僕が驚いている間にも九の字は続けて、
「三年前、十五くらいの頃にはもう、一本飲んでたかな。でもその頃はまだ一本で九十日はもったんだけどね」
コハクはもうすぐ十歳になる。
今は一滴で十分でも、あと五年で、それだけの量が必要になる。
一本がさらに貴重になってくる。
「……九の字は、コハクのためにその一つ、貴重な九日分をわけてくれたんですね」
「何言ってンの。ヒイロ君がいなかったらもっと船員に犠牲が出ていたはずだし、それどころか討伐できていたかもわからないンだよ? アタシの九日分なんて安いもンだよ」
言って九の字は笑った。
これから先、赤い妖精の華は増え続けるだろう。それはつまり、九の字たちだけで討伐できる数が減るということだ。
妖精の華のために動いていると九の字は言った。
けれどそれと同じくらい、九の船の船員を気にかけている。
その重圧は計り知れないのに、秘密だってあるのに、九の字は戦い続けている。
僕はその手助けをしなければならない。
九の字を手助けすることが、コハクを守ることに繋がるから。
薬を手に入れることに繋がるから。
そう、自分のためだ。
コハクのためだ。
九の字と同じだ。
だから僕も、九の字と同じように、
船員を守ろう。
仲間を守ろう。
ユラを、ネネカを、スナオを守ろう。
「九の字、相談があります」
「ん? 何かな?」
「僕を九の船に乗せてください」
僕がいうと、九の字は驚いたようにその竜眼を見開いた。
「それは……こちらからお願いしようと思っていたことだったンだけどね。コハクちゃんの手前、言わない方がいいかとも思ってたンだ。……どうして乗ろうと考えたのかな?」
「それは……」
僕は考えていたことを話した。
今止めてしまえば、それは見殺しにするのと変わりない。
あの日、逃げないと誓った僕がそれを許さない。
僕はあの時、見つけたんだ。
託し、託される。
置いていくんじゃなく、その場を託す。
その代わり僕に託されたことを全力でやる。
それこそが僕の道だ。
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これにて一旦完結です!
お読みいただきましてありがとうございました!
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