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170:討伐軍6
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「第六部隊後退して休息に入れ! 半包囲に不足が生じないよう前進して包囲を狭めよ第二部隊前進!」
昼過ぎに始まった戦闘は、既に夕方になっても状況に変化はなかった。戦闘開始時に血気盛んだったガザフの領軍も、長引く戦いに既に疲労の色が見えてきている。
「義勇軍! 若い奴等が疲れてきたようだ! 昼間ノンビリやってたワシらの出番のようだ。前進するぞ!」
義勇軍のリーダーである元騎士の老騎士ニールセンの号令のもと、義勇軍の老騎士達が若いガザフの領軍を押し退けるように戦いの場に割り込んだ。
普段であれば如何に大先輩たる老人達とはいえ、このような無茶をすれば反感を買いそうな行いだったが――
「ここは先輩方に譲れ! 後退する!」
いくら倒しても次々と浸入してくるゴブリンに、屈強な領軍の騎士達も替わって貰えるなら大歓迎いった様子で徐々に後退を始めた。
一方、マリアさんの依頼を切っ掛けに、土壁で簡易的な倉庫等を幾つか作り終えた僕は、魔石の回収と魔素吸収に熱心に取り組んでいたサラと再度合流して作業に当たっていた。
キャロ達は輸送してきた物資をマリアさんの指示のもと土壁倉庫に収納するために、僕と交代する事になった。
「サラ、僕達も行こう!」
義勇軍と共にラルフさんやゼダさん達も戦いに参加を始めた。扱いとしてはエルフィーデの調査隊の依頼で動いている形となる僕だったが、戦いに参加する事にしたのだ。
近接戦闘要員として役に立てる機会は、騎士団が疲労してきた今が一番人が必要とされるタイミングだと思われたからだ。
「そうね、そろそろ魔石回収にも飽きた頃だったし……成長限界が来そうなくらい魔素吸収もさせてもらったから、ゴブリン達に恩返ししないと」
思った以上のやる気を見せるサラに、若干気後れしそうになりながら、僕達は義勇軍の戦っている場所に向かったのだった。
◻ ◼ ◻
「体が軽い! ゴブリンの動きが遅く感じるくらいだ」
ゴブリンの群れにサラと共に飛び込んだ僕が感じたのは、自分自身の成長だった。十一層に到達してからの僕は、とても密度の高い経験を積むことになった。
その経験の中でもやはり二匹のゴブリンジェネラルの魔素吸収を行った事で、僕の身体能力は飛躍的に向上したように思う。
そして――
「【ストーン・レイン】」
ニースが使う魔法を僕も使う事が出来るようだった。降り注ぐ小石の数はニースの物より少なく五個程の小石が降り注いだ。劣化しているが幸い威力はゴブリンを一撃で倒せる程度の威力を持っていた。
「うーん、やっぱりユーリと探索者やってる方が強くなれそうだわ」
ゴブリンの魔素吸収を繰り返していたサラの動きも、少し良くなっているのが最近の付き合いからも見てとれた。
「でもユーリに既に追い抜かれているわね」
つい数日前迄はサラの能力は僕より明らかに上だったのだが、ゴブリンジェネラル二匹の魔素吸収の効果で逆転してしまった感はあった。
「おいおい、坊主! あんまり飛ばすと直ぐにバテちまうぜ!」
ドルフさんが僕の戦闘を見て注意してきた。
「ああそうだ、坊主、俺達の役割は領軍の休息時間を稼ぐ言わば、繋ぎの役割だ。それを忘れるなよ」
冷静なゼダさんにも注意され、僕は周囲の戦いに目を向けた。
「そこ押さえ込め! 浸入するゴブリンの数を減らせ! 奴等を外壁に押し返せ!」
ニールセンと呼ばれた老騎士が号令し、先ほど迄は誘い込んで叩いていた戦術から、義勇軍で扱える程度に敵の数を最低限に絞って戦う方針に変更するつもりらしい。
それでもゴブリンの浸入を完全に押さえきるのは数が多いだけになかなか困難な作業だった。なにせゴブリン達の進撃は普通の状態とは明らかに違うっていたのだ。つまるところ、常に敵対心を持った狂乱状態といった表現が正しかった。
それでも、僕自身が成長したことにより見えてきたこともあった。
(義勇軍の老騎士達は冷静で余裕がある、手を抜いているのとは違った力の抜き方を心得ている感じだ……この人達は凄く強い)
そしてゼダさんや、ラルフさんもまだまだ僕より格上だと理解出来た。
「【ストーン・レイン】」
僕がそんな想いにとらわれている間に、前線で聞き慣れたニースの声が響いた。
外壁の外で上空から魔法攻撃を行っていたニースの姿がそこにあった。
「ニース、ユーリが戦っている……戻ってきた」
いつの間にか側で弓を放っていたディーネがそう呟くように教えてくれた。
「ニースは加護精霊だから当然よね~」
サラと共に戦っていたフィーネも、そのノンビリした相変わらずの口調でそう言ってきた。
ニースには自由に戦って良いと指示していたので、戦い始めた僕の側に戻ってきてくれたようだった。
断続的に放たれるニースの魔法はなかなか凶悪で、次々とゴブリンを葬っていく。
「よし! 余裕が出てきた! 多少後退してゴブリンどもを引き込め!」
ニースという範囲魔法の使い手の出現で、義勇軍の戦いは安定したようだった。
「ニールセン殿! 一旦浸入口は私が【氷雪】で凍結致します。ご協力お願いします」
それは、突然姿を見せたマリアさんの一言だった。
昼過ぎに始まった戦闘は、既に夕方になっても状況に変化はなかった。戦闘開始時に血気盛んだったガザフの領軍も、長引く戦いに既に疲労の色が見えてきている。
「義勇軍! 若い奴等が疲れてきたようだ! 昼間ノンビリやってたワシらの出番のようだ。前進するぞ!」
義勇軍のリーダーである元騎士の老騎士ニールセンの号令のもと、義勇軍の老騎士達が若いガザフの領軍を押し退けるように戦いの場に割り込んだ。
普段であれば如何に大先輩たる老人達とはいえ、このような無茶をすれば反感を買いそうな行いだったが――
「ここは先輩方に譲れ! 後退する!」
いくら倒しても次々と浸入してくるゴブリンに、屈強な領軍の騎士達も替わって貰えるなら大歓迎いった様子で徐々に後退を始めた。
一方、マリアさんの依頼を切っ掛けに、土壁で簡易的な倉庫等を幾つか作り終えた僕は、魔石の回収と魔素吸収に熱心に取り組んでいたサラと再度合流して作業に当たっていた。
キャロ達は輸送してきた物資をマリアさんの指示のもと土壁倉庫に収納するために、僕と交代する事になった。
「サラ、僕達も行こう!」
義勇軍と共にラルフさんやゼダさん達も戦いに参加を始めた。扱いとしてはエルフィーデの調査隊の依頼で動いている形となる僕だったが、戦いに参加する事にしたのだ。
近接戦闘要員として役に立てる機会は、騎士団が疲労してきた今が一番人が必要とされるタイミングだと思われたからだ。
「そうね、そろそろ魔石回収にも飽きた頃だったし……成長限界が来そうなくらい魔素吸収もさせてもらったから、ゴブリン達に恩返ししないと」
思った以上のやる気を見せるサラに、若干気後れしそうになりながら、僕達は義勇軍の戦っている場所に向かったのだった。
◻ ◼ ◻
「体が軽い! ゴブリンの動きが遅く感じるくらいだ」
ゴブリンの群れにサラと共に飛び込んだ僕が感じたのは、自分自身の成長だった。十一層に到達してからの僕は、とても密度の高い経験を積むことになった。
その経験の中でもやはり二匹のゴブリンジェネラルの魔素吸収を行った事で、僕の身体能力は飛躍的に向上したように思う。
そして――
「【ストーン・レイン】」
ニースが使う魔法を僕も使う事が出来るようだった。降り注ぐ小石の数はニースの物より少なく五個程の小石が降り注いだ。劣化しているが幸い威力はゴブリンを一撃で倒せる程度の威力を持っていた。
「うーん、やっぱりユーリと探索者やってる方が強くなれそうだわ」
ゴブリンの魔素吸収を繰り返していたサラの動きも、少し良くなっているのが最近の付き合いからも見てとれた。
「でもユーリに既に追い抜かれているわね」
つい数日前迄はサラの能力は僕より明らかに上だったのだが、ゴブリンジェネラル二匹の魔素吸収の効果で逆転してしまった感はあった。
「おいおい、坊主! あんまり飛ばすと直ぐにバテちまうぜ!」
ドルフさんが僕の戦闘を見て注意してきた。
「ああそうだ、坊主、俺達の役割は領軍の休息時間を稼ぐ言わば、繋ぎの役割だ。それを忘れるなよ」
冷静なゼダさんにも注意され、僕は周囲の戦いに目を向けた。
「そこ押さえ込め! 浸入するゴブリンの数を減らせ! 奴等を外壁に押し返せ!」
ニールセンと呼ばれた老騎士が号令し、先ほど迄は誘い込んで叩いていた戦術から、義勇軍で扱える程度に敵の数を最低限に絞って戦う方針に変更するつもりらしい。
それでもゴブリンの浸入を完全に押さえきるのは数が多いだけになかなか困難な作業だった。なにせゴブリン達の進撃は普通の状態とは明らかに違うっていたのだ。つまるところ、常に敵対心を持った狂乱状態といった表現が正しかった。
それでも、僕自身が成長したことにより見えてきたこともあった。
(義勇軍の老騎士達は冷静で余裕がある、手を抜いているのとは違った力の抜き方を心得ている感じだ……この人達は凄く強い)
そしてゼダさんや、ラルフさんもまだまだ僕より格上だと理解出来た。
「【ストーン・レイン】」
僕がそんな想いにとらわれている間に、前線で聞き慣れたニースの声が響いた。
外壁の外で上空から魔法攻撃を行っていたニースの姿がそこにあった。
「ニース、ユーリが戦っている……戻ってきた」
いつの間にか側で弓を放っていたディーネがそう呟くように教えてくれた。
「ニースは加護精霊だから当然よね~」
サラと共に戦っていたフィーネも、そのノンビリした相変わらずの口調でそう言ってきた。
ニースには自由に戦って良いと指示していたので、戦い始めた僕の側に戻ってきてくれたようだった。
断続的に放たれるニースの魔法はなかなか凶悪で、次々とゴブリンを葬っていく。
「よし! 余裕が出てきた! 多少後退してゴブリンどもを引き込め!」
ニースという範囲魔法の使い手の出現で、義勇軍の戦いは安定したようだった。
「ニールセン殿! 一旦浸入口は私が【氷雪】で凍結致します。ご協力お願いします」
それは、突然姿を見せたマリアさんの一言だった。
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