婚約破棄が聞こえません

あんど もあ

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前編

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「マリーベル・ラトレア伯爵令嬢! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」

 王立学園の卒業パーティーでマークス第三王子がそう叫んだらしい。私には聞こえなかった。


「あらマリーベル。今日も殿下のエスコートは無し?」
「そうみたい。何の連絡も無かったわ。またアマンダ様を連れてるんじゃない?」
「卒業パーティーというのに、相変わらずね」
「別にいいわ。皆といる方が楽しいし」
 などと、ローラ達と話がはずんでいたせいもあるのだが……。

「きゃっ!」
 いきなり後ろから腕を引かれて、私は思いっきり尻餅をついた。痛たたた……。
 誰のいたずら?、と振り返っても誰もいない。

 おかしいわね、と思ってローラに
「今、誰か私の腕を引かなかった?」
と聞くと、皆私の後ろを見ている。
「何? どうかしたの?」
 ローラが視線を私に落とす。
「見えないの……? 今、そこで殿下が怒っているわ」
 振り返っても誰もいない。
 
 怖っ!
「マークス様、お亡くなりになったの!?」
「違うっ! 見えないのはマリーベルだけよ」
 本当に、ここにいるの……?

「マークス様、いらっしゃるのでしたら手を貸してください」
 尻餅をついたまま手を差し出すと、誰かに雑に手を握られた感触と共に引っ張り起こされた。うん、この大雑把さはマークス様だ。
 後ろからアマンダ様がてててとやってきて、空間に腕を絡めた。うん、間違いなくマークス様だ。

 壁際に控えていた侍女のデイジーが駆け寄って来て、私のドレスの裾を直す。全く、マークス様ったら淑女に何て事をしてくれるのかしら。
 私はデイジーにある物を用意するようにお願いする。

「マリーベル。殿下が『見えないふりはよせ』って言ってるわ」
「え?」
「『私の気を引きたいのだろう』ですって」
「はあ?」

 私は振り返ってアマンダ様の右隣の空間に向き合う。

「きっと、私がマークス様が見えなくなったのは、マークス様のご希望を叶えるためですわ。先週のお茶会でご自分が言ったことをお忘れですの?」
 ローラは何も言わない。ということは忘れてますのね。

 息を吸い込んで思いっきり大音量で再現する。
「貴様は私とアマンダを苦しめたくて私の婚約者の座にしがみついているのであろう? なんという底意地の悪い女だ! 貴様のような心根の醜い女が私に相応しいわけがない! さっさと身を引け! いっそこの世から消えてしまえ!!」

 何度でも復唱できますわ。
 忘れようにも忘れられなくて、毎晩ベッドの中で枕をボスボス叩いてましたもの。
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