婚約破棄が聞こえません

あんど もあ

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後編

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 ふんっ!、とその場を離れようとしたらまた腕を引かれて、今度は思いっきり横に倒れる。
 もう! 見えないのだから身構えられないって、何で学習しないの!

「デイジー!」
 マークス様の手は借りず、駆け寄って来たデイジーに立たせてもらう。

「マリーベル。『王子に挨拶もなく去る気か』って」
「そんな事で暴力をふるったのですか?」
 呆れた。

「デイジー。頼んだ物は?」
「用意出来てます」
 デイジーが合図すると、庭師が白い粉の入ったバケツを持って駆け寄って来た。
 ありがたくバケツを受け取る……ととっ、粉を入れるとバケツって案外重いのですね。

 アマンダ様の前へ行き、全力でアマンダ様の右側にバケツの粉をぶちまけた。アマンダ様にも掛かったのは不可抗力という事で。
 バケツの中身は庭師が使う承石灰しょうせっかい。見事に白い人型が出来た。

「マークス様。お目にかかれて光栄ですが、これにて御前を失礼いたします。床を汚した事、お詫び申し上げます」
 人型に優雅にカーテシーをして会場を去った。





 
 その後、マークス様とアマンダ様と、真実の愛を焚き付けていた側近たちは、揃って北の果ての王領に飛ばされた。


 もちろん簡単に決まったわけではなく、私の前代未聞の症状に、医者や学者や神官や呪術師や法律家や貴族院のご意見番まで集めて聴聞会ちょうもんかいが行われたので、ここぞとばかりに今までの事を訴えたのだ。

 頭脳も器量も凡庸な第三王子との結婚に旨味はないと名家の令嬢が皆辞退したために伯爵家の私と婚約になったのを、自分が好きで他の令嬢を蹴落としたのだろうと思い込まれ。
 アマンダ様と真実の愛に目覚めてから、勝手に私を仮想敵にして、お茶会やエスコートはわざわざ約束してすっぽかし、私の誕生日にはクズ石のペンダントを放り投げて目の前でアマンダ様に高価なネックレスを贈り、学園でうっかり顔を合わせると「何を企んでいる」「私を解放しろ!」と罵られ。
 陛下や王妃様に婚約解消を願っても、「ちゃんと結婚させてあげる」と見当違いの励ましをされ。

 皆がこれは病むわ……という顔になった時、マークス様のお言葉を暗唱して聞かせたら、全員がテーブルの端の椅子を見つめた……。
 そこにいらっしゃったんですね、マークス様。
 
 私は、マークス様に心を傷つけられたせいでマークス様が見えなくなった哀れな被害者と判定された。


 見えなくなった本当の理由は、
「この世から消えてしまえ!」
と言われた時、
「お前が消えろ!」
って思ったからじゃないかな。まあいいか。
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