婚約破棄は農協の夜明け

あんど もあ

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婚約破棄は農協の夜明け 後編

 ううっ、手を出したい。渾身の力で二、三発引っ叩きたい……けど我慢。すーはー、すーはー。
「貴殿の考えは了得した。斯様かような考えで我が家を貶めるのであれば、当主から然るべき抗議をさせて頂く」
 部長がお貴族モードに入った!、と部員たちが怯えている。失礼な。俺は元々貴族だ。
「我が国の穀物庫と言われるモーリッツ侯爵領への侮辱、モーリッツ家次男ウォルターが確かに承った!」

 婚約者の顔色が変わった。
「う、嘘だ……。お前が侯爵令息……?」
「つくづく失敬な奴だな」
「いや、仕方ないのでは」
 セージも失敬な事を呟いてる。 

 安心しろ。侯爵家を継ぐのは兄上で、俺は農民相手の実働部隊だ。
 おかげでいつもの平民のような言葉遣いも「仕事上必要」と、咎められる事は無い。

「我が領も、初めから肥沃な土地だったわけでは無い。我らの様な者が何十年、何百年とかけて少しずつ良くしていったのだ。何もせず『国の穀物庫』になれる訳がないであろう!」
 何で分かんないかな~。
「貴殿は我々ばかりでなく、先人たちの努力をも嘲罵ちょうばした。このような者を婿に迎えぬよう、オールソン子爵へも申し伝えておこう。もうよい、下がれ!」

 思いっ切り睨み付けて言ったら、泡を食って逃げ出した。ふんっ!

「でさぁ、ミモザの新しい婚約者だけど」
 コロッといつものモードに戻った俺にミモザが呆れる。
「私、たった今婚約破棄した所なんですが」
「だって、皆見てるんだもの、すぐに新しい縁談がオールソン子爵に届き出すよ。急がないと」
「何を急ぐんです」
「ミモザとセージの婚約」

 あれ? 何で皆固まったの?

「いや~、何で二人がくっつかないんだと思ってたんだよ。ミモザに婚約者がいると知らなくって。婚約破棄したんだから、もう問題無いよね」
「も、問題無いと言うか……」
 おおっ、キックラビットが赤くなってる。

「あの、僕はあなたのお兄様の事務官に雇ってもらう約束では」
「兄には、惜しい人を亡くしたと伝えとくよ」
「殺すな!」
 本当に惜しい……。好き勝手に活動する我がクラブを決して赤字にしなかったその手腕。
 だが、さらばだセージ。


「部長! デリカシー!」
「何でこんな衆人環視の所で言うかな!」
 感傷に浸りたいのにブーイングの嵐だ。


 こういう場合、何て言うか知ってる。

「後は、お若い人同士で!」

 興味津々の皆の注目を集めている二人を会場に残して、俺と部員たちは二次会へと走り去ったのだった。

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