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婚約破棄より大切な事
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「マリアナ・ドーク公爵令嬢! お前とは婚約破棄する!」
王立学園の卒業パーティーで、アーノルド王子の声が響き渡った。
「お前はこのモニカ・ルーナー男爵令嬢の教科書を破り、ドレスを切り裂き、噴水に突き飛ばし、階段から突き落とすという虐めをはたらいた! そのような女に国母となる資格は無い!」
アーノルドの横にはモニカが縋り付くように立ち、アーノルドに守られている。
優雅な足取りで二人に対峙したマリアナは、困惑した顔で答えた。
「私は、そんな事をした覚えはありませんわ」
「とぼけるな! 証拠はここにある!」
王子の言葉に、黙って後ろに控えていた宰相の息子が書類の束を掲げる。
「まあ、証拠があるなんて不思議ですわね。それより、一つだけ質問に答えていただけます?」
「命乞いか! よかろう」
「ではお聞きしますが…、殿下は、何故今ごろ言い出したのです?」
「何?」
「だって、教科書を破られた時点で問題にすれば、ドレスや噴水や階段の件などは起こらなかったと思うのですが…。それに、卒業した後に言われても、もうモニカ様は円滑な学生生活を取り戻す事はできませんわ」
「は、犯人が何をぬけぬけと…!」
「どうぞ質問にお答えください。ご自分が、質問に答えると言いましたのよ」
「だから、婚約破棄が」
「まさか、婚約破棄できるだけの罪状になるまで待っていたら、卒業してしまったとか?」
「い、いや!」
「ですわよね。では、お答えを」
「………」
殿下を見る周りの目が次第に冷たくなる。
「あぁ、簡単に言えないほどの事情がおありになるのですね」
「そ、そうだ!」
「しかし、それは為政者としては問題です」
「何!?」
「例えて言いますと、ある領で水害がありました。畑も道路も流されて、伝染病が発生しました。民は飢えと病気に苦しんでいます。なのに、殿下は『あそこは水害にあって可哀相だから、来年の予算を多くしてあげよう』としたのです」
自分の領で想像したであろう周りの目が、一気に氷点下になる。
「即断即決、臨機応変、初動の早さが為政者に必要なのに…。もう、モニカ様には取り返しがつきませんわ。きっと、もっと学びたい、何の憂いも無く勉学に励みたいと思ってらっしゃったでしょうに…」
『いやいや、遊びに忙しくて成績は低空飛行でしたよ』
と、一同が内心で突っ込む。
アーノルドと一緒になってマリアナを断罪するつもりだったモニカも、自分を心配されては何も言えない。
「殿下は、そんな愚鈍な自分の不甲斐なさの責任をとって、私との婚約を破棄してモニカ様と結婚するとおっしゃるのですね」
いつの間にかモニカとの結婚が罰ゲームのようになっているが、アーノルドは悲しそうなマリアナの表情のせいで気付かない。
「婚約破棄を承ります。どうぞお幸せに」
マリアナのした深いカーテシーが合図のように、誰からともなく拍手がわきおこり、卒業パーティーは円満に終わった。
「アーノルドお兄様が卒業パーティーでやらかした事は、国中の貴族に広まりましたわ。『学生間のトラブルも放置するような奴には、国どころか領地も任せられない』という声があがって、アーノルドお兄様は王位に就く事も、臣籍降下して領地を賜る事も憚られる身となったので、王位継承権を返上して王家の裏方として働くことになりましたの」
「まあ…」
マリアナは、今日はティナ王女に招かれて王宮でお茶会だ。
「それでは、弟のフォルト様が王太子になられるのですか?」
「ええ。今10歳だから、これから教育することになるわ」
「きっと立派な王太子になられますわ」
「アーノルドお兄様という悪い見本を見てるからね」
「まあ、ティナ様ったら」
笑い声が響く。
「それでは、モニカ様との婚約はどうなりますの?」
「お兄様の今後の努力次第で話をすすめるって事になっているけど、モニカ様は結婚出来ても王家の裏方って聞いて逃げ腰みたい。だからって、今更他の家との縁談なんて無理でしょうけどね。それより、マリアナ様の縁談は?」
「殿下から婚約破棄された私なのに、ありがたい事に何件かお申し込みをいただいてますの」
そりゃあ来るでしょう。マリアナ様、ご自分が冤罪で断罪されているという時に、その断罪をしているモニカ様の心配してたんですよ。女神か。
と、思うが口には出さない。
本人が自覚していないなら、言わないでおこうと思ってるのだ。
きっと、求婚者から聞かされた方がずっと幸せな気持ちになれるから。
王立学園の卒業パーティーで、アーノルド王子の声が響き渡った。
「お前はこのモニカ・ルーナー男爵令嬢の教科書を破り、ドレスを切り裂き、噴水に突き飛ばし、階段から突き落とすという虐めをはたらいた! そのような女に国母となる資格は無い!」
アーノルドの横にはモニカが縋り付くように立ち、アーノルドに守られている。
優雅な足取りで二人に対峙したマリアナは、困惑した顔で答えた。
「私は、そんな事をした覚えはありませんわ」
「とぼけるな! 証拠はここにある!」
王子の言葉に、黙って後ろに控えていた宰相の息子が書類の束を掲げる。
「まあ、証拠があるなんて不思議ですわね。それより、一つだけ質問に答えていただけます?」
「命乞いか! よかろう」
「ではお聞きしますが…、殿下は、何故今ごろ言い出したのです?」
「何?」
「だって、教科書を破られた時点で問題にすれば、ドレスや噴水や階段の件などは起こらなかったと思うのですが…。それに、卒業した後に言われても、もうモニカ様は円滑な学生生活を取り戻す事はできませんわ」
「は、犯人が何をぬけぬけと…!」
「どうぞ質問にお答えください。ご自分が、質問に答えると言いましたのよ」
「だから、婚約破棄が」
「まさか、婚約破棄できるだけの罪状になるまで待っていたら、卒業してしまったとか?」
「い、いや!」
「ですわよね。では、お答えを」
「………」
殿下を見る周りの目が次第に冷たくなる。
「あぁ、簡単に言えないほどの事情がおありになるのですね」
「そ、そうだ!」
「しかし、それは為政者としては問題です」
「何!?」
「例えて言いますと、ある領で水害がありました。畑も道路も流されて、伝染病が発生しました。民は飢えと病気に苦しんでいます。なのに、殿下は『あそこは水害にあって可哀相だから、来年の予算を多くしてあげよう』としたのです」
自分の領で想像したであろう周りの目が、一気に氷点下になる。
「即断即決、臨機応変、初動の早さが為政者に必要なのに…。もう、モニカ様には取り返しがつきませんわ。きっと、もっと学びたい、何の憂いも無く勉学に励みたいと思ってらっしゃったでしょうに…」
『いやいや、遊びに忙しくて成績は低空飛行でしたよ』
と、一同が内心で突っ込む。
アーノルドと一緒になってマリアナを断罪するつもりだったモニカも、自分を心配されては何も言えない。
「殿下は、そんな愚鈍な自分の不甲斐なさの責任をとって、私との婚約を破棄してモニカ様と結婚するとおっしゃるのですね」
いつの間にかモニカとの結婚が罰ゲームのようになっているが、アーノルドは悲しそうなマリアナの表情のせいで気付かない。
「婚約破棄を承ります。どうぞお幸せに」
マリアナのした深いカーテシーが合図のように、誰からともなく拍手がわきおこり、卒業パーティーは円満に終わった。
「アーノルドお兄様が卒業パーティーでやらかした事は、国中の貴族に広まりましたわ。『学生間のトラブルも放置するような奴には、国どころか領地も任せられない』という声があがって、アーノルドお兄様は王位に就く事も、臣籍降下して領地を賜る事も憚られる身となったので、王位継承権を返上して王家の裏方として働くことになりましたの」
「まあ…」
マリアナは、今日はティナ王女に招かれて王宮でお茶会だ。
「それでは、弟のフォルト様が王太子になられるのですか?」
「ええ。今10歳だから、これから教育することになるわ」
「きっと立派な王太子になられますわ」
「アーノルドお兄様という悪い見本を見てるからね」
「まあ、ティナ様ったら」
笑い声が響く。
「それでは、モニカ様との婚約はどうなりますの?」
「お兄様の今後の努力次第で話をすすめるって事になっているけど、モニカ様は結婚出来ても王家の裏方って聞いて逃げ腰みたい。だからって、今更他の家との縁談なんて無理でしょうけどね。それより、マリアナ様の縁談は?」
「殿下から婚約破棄された私なのに、ありがたい事に何件かお申し込みをいただいてますの」
そりゃあ来るでしょう。マリアナ様、ご自分が冤罪で断罪されているという時に、その断罪をしているモニカ様の心配してたんですよ。女神か。
と、思うが口には出さない。
本人が自覚していないなら、言わないでおこうと思ってるのだ。
きっと、求婚者から聞かされた方がずっと幸せな気持ちになれるから。
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