「おまえを愛する事は無い」が最期の言葉でした

あんど もあ

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「ちくしょう……!」
 フレイアに飛び掛かろうとしたが、どこからか降ってきた奴にあっという間に殴られて反対側の壁に吹き飛ばされた。

 目から星が散り意識が飛びそうな中、なんとか壁にもたれ掛かって立っていると、玄関から騎士たちがなだれ込んで来た。
 抵抗する使用人たちを軽くいなして次々と拘束していく。

 大騒ぎの中、ゆっくりと応接室のドアが開き、護衛の後から部屋を出た国王がフレイアを見つけた。
「フレイア、無事か」
「大丈夫ですわ、伯父様」
 寄り添った二人は、あたしの事など見向きもせずに玄関へ去って行く。

 へたり込んだあたしは、開け放たれた応接室のドアの向こうでこれ以上なく肩と頭を落としたジェラルミン侯爵がソファに沈み込んでいるのを見つつ、意識を失った。




* * * * * * * * * * 




「フレイア、痩せたのではないか」
「全然痩せていませんよ。むしろ、伯父様の差し入れが多すぎて太りそうでしたわ」

 ジェラルミン侯爵家を離れ、私は今伯父様と馬車でリロイ伯爵家に向かっている。

「それより、私と彼の結婚を認めるという約束は守ってくださいね」
 嫌そうな顔をする伯父様。
「もう! 私が隣国に嫁いだって、いつでも遊びに来ればいいじゃないですか。国王なんてもうお従兄にい様に押し付けて」
「……そうか。そうだな、そうするか」
 うんうんと納得してる。譲位をそんなに簡単に決めていいの? まあ、お従兄様は優秀だし、もう結婚もされてるし、問題無いわよね。


 

 兄と八歳離れて生まれた私は、家族だけではなく、男の子しかいない国王一家からも愛されて育った。
「フレイアがどんな人を好きになっても私が結婚させてあげるから、婚約者など要らない!」
という伯父様により、私には婚約者がいなかった。
 
 だが、留学してきた隣国の伯爵令息と結婚したいと言ったら、伯父様は自分の言った事を忘れて猛反対だった。
「私の時とそっくり……」
と、母がこぼした。

 だから、ジェラルミン家潰しに協力する事にした。
 横領だけでは大した罪にならない使用人たちを、国家反逆罪にして一掃する。
 私がか弱い小娘じゃ無い、他国に嫁いでもやっていけるたくましい女性だと証明するために。

 そもそも、国王夫妻と王子たちから愛されている私が、貴族たちから嫌がらせの一つや二つや三つ受けてない訳がない。
 両親と兄夫婦と笑い飛ばして、無視したり反撃したり裏から手を回したり(元王女だった母は、こういう事が得意だ)してた。

 そんな貴族の陰湿な嫌がらせに比べたら、使用人たちの「私がやりました」と分かりやすい虐待など微笑ましいものだ。頭から水を被った時など、笑い出すのを堪えるのが大変だった。

 暴力や夫からの性行為の強制に備えて護衛を兼ねた影を付けてくれたので、伯父様への連絡も私への差し入れも自由自在。

 私が歩くだけで彼らの有責カウンターは面白いように回り続け、彼らは何時間もお茶をするのでその間執務室の書類は読み放題。
 侯爵家の人間は一人しかいないのに、何なんですこの莫大な食費は。
 私が放置された結婚届を発見して、回収した事など気付いてもいないのだろう。
 隠し戸棚も裏帳簿も見つけた。
 
 裏を取って伯父様が迎えに来るまで、私は大人しく耐えるふりをしてただけだ。

「でも、連座で処刑される家族はお気の毒ですね……」
「なら、強制労働にして使い込んだ金を回収させるか?」
 それも可哀想ですが、死ぬよりはマシなのでしょうか。

「……伯父様たちにお任せしますわ。口出しして申し訳ありません」

 もう、あの者たちのために心を動かすのはやめましょう。

 そう言えば、ジェラルミン侯爵とは「おまえを愛する事は無い」しか話して無いわ。あれが遺言になるのかしら。

 まあ、もう全ては終わった事よね。
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