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間もなくして、全力疾走した門番が帰ってきた。
「王様だ! 国王様が何十人もの騎士団と来た!!」
あたしたちは硬直した。
「ど……どうしたらいいんだい?」
ファランクスに聞いても答えられない。だろうね、王様の接待なんてしたことないんだろ。
「アニータ! 急いでジェラルミン侯爵に知らせて! ファランクス! 王様を応接室に案内だよ!」
あたしだって分からないから他の人にやらせる。
名指しされた二人があたふたと動き出した。
しかし、応接室を掃除したのって何年前だろう。どうせ客なんて来ないからとずっとほっといたんだけど……。
「埃が積もってて不敬と言われたら、メイドの責任だからね」
それを聞いてメイドたちの顔色が変わったが、あたしには関係無い。
ファランクスに案内されて王様と二人の護衛が応接室に入り、すぐに必死に駆けてきたジェラルミン侯爵が入室する。
部屋から出されたファランクスと、話が気になるあたしたち使用人は、全然声が漏れてこないドアの前でたたずむしか無かった。
そこに、軽い足取りでフレイアが来た。
皆が応接室のドアを見ているので「ここにいらっしゃるのね?」とドアをノックしようとするので、慌てて止める。
「いいのよ。伯父様が私を迎えに来たのはわかっているから」
「伯父様……?」
「私の母は国王の妹よ。母がリロイ伯爵家に降嫁したのはあなたたちが生まれる前なので、知らなかったみたいだけど」
「あ、あんたが……?」
「ええ。だから王命の結婚なのよ。国王の姪がこの家に潜り込むために」
な、なんか話が大きくなってきた……?
「女にのめり込んで、国力になるどころか使用人たちにいいように食い物にされてる腐り切ったジェラルミン侯爵家。本来なら、忠告して改善を促すべきなのでしょうが、国はその価値は無いと判断しました。だから侯爵家を潰す事にしたのよ。国民の娯楽になるくらい派手に」
潰す……?
「そのために私が来たの。不正の証拠も手に入れたから、今ごろは領地の執務官たちも粛清されてるわ」
「……あんた、どうやって王様に連絡を取ったんだ? 手紙は全部握り潰したのに」
「ああ、手紙はダミーですわ。手紙を書いていれば、あなたたちは『手紙しか連絡方法が無い』って思い込むでしょう? 実際は私について来た王家の影が全て報告してましたの」
必要も無い手紙を何通も書くのは大変でしたのよ、と楽しそうに笑うこの女は本当にあのフレイアなのか?
「私の役目は、ジェラルミン侯爵家を徹底的に叩き潰す事。無能なジェラルミン侯爵だけでは無く、厚顔無恥な全ての使用人も地獄に送るの」
笑顔で何て事を言ってんだ。
「そのための王命の結婚でしたのに、誰も不審に思わなかったのですね。田舎貴族の私が侯爵に一目惚れしたなんて話を鵜呑みにして」
鵜呑み。そもそも、誰がそんな事を言ったんだっけ……?
あたしたちは最初から踊らされていたのか。
「何故、一人くらいリロイ伯爵家が本当に田舎貴族か確認しなかったの? リロイ伯爵夫人が国王の妹だなんてすぐに分かったのに」
ああ、虫けらを見るようなこの目は知ってる。いや、何故忘れてたんだ? 貴族にはあたしたちなんて虫けらだって事を。
「あなたたちは、最後のチャンスをドブに捨てました。私を侯爵夫人として扱えば横領罪だけなので労働刑ですんだのに、あなたたちは国王の姪であり王位継承権を持つ私を虐待しました」
キーンと音がしそうなほど、沈黙が落ちる。
「みなさんは、国家反逆罪で死刑です」
え………………?
「五年も甘い汁を吸ったので心残りは無いでしょう? でもご存知? 国家反逆罪って、家族も連座で処刑されますのよ」
そんな、弟や妹たちが……。
「そ、そんな事、ジェラルミン侯爵が許さないよ!」
彼が、レナと仲が良いあたしたちを見捨てるものか!
「そうそう、何故かジェラルミン侯爵と私は結婚していないので、これは夫婦の問題では無く、ジェラルミン侯爵が客人のリロイ伯爵令嬢であり国王の姪を監禁して虐待したという事になりますの。彼も極刑は免れないでしょうね」
あなた達に救いの手を差しのべる人はいない、と仄めかす。
ファランクスは本当に結婚届を出さなかったんだ。
「庭師のあなた、三ヶ月前に結婚したばかりですよね。お二人の愛は本当に『永遠の愛』になりそうですわ」
「洗濯メイドのあなたのお子さんは三歳と五歳とか。可愛い盛りなのに哀れなこと」
「処刑場には、いったいいくつの首が並ぶ事になるんでしょうねぇ」
他人事のように楽しそうに話すフレイア。
そうか、これが「国民の娯楽」か。あたしたちは、愚かな犯罪者として処刑場に首を晒すんだ。
「か、家族は関係無いだろう!」
誰かが血を吐くような声で言ったが
「あら、ゼニアさんのご家族は『もっとやれ』と言ってたそうですわ」
と、あっさり返されてしまう。
全員の目が私に突き刺さる。あんたたちだって楽しんでたくせに!
「王様だ! 国王様が何十人もの騎士団と来た!!」
あたしたちは硬直した。
「ど……どうしたらいいんだい?」
ファランクスに聞いても答えられない。だろうね、王様の接待なんてしたことないんだろ。
「アニータ! 急いでジェラルミン侯爵に知らせて! ファランクス! 王様を応接室に案内だよ!」
あたしだって分からないから他の人にやらせる。
名指しされた二人があたふたと動き出した。
しかし、応接室を掃除したのって何年前だろう。どうせ客なんて来ないからとずっとほっといたんだけど……。
「埃が積もってて不敬と言われたら、メイドの責任だからね」
それを聞いてメイドたちの顔色が変わったが、あたしには関係無い。
ファランクスに案内されて王様と二人の護衛が応接室に入り、すぐに必死に駆けてきたジェラルミン侯爵が入室する。
部屋から出されたファランクスと、話が気になるあたしたち使用人は、全然声が漏れてこないドアの前でたたずむしか無かった。
そこに、軽い足取りでフレイアが来た。
皆が応接室のドアを見ているので「ここにいらっしゃるのね?」とドアをノックしようとするので、慌てて止める。
「いいのよ。伯父様が私を迎えに来たのはわかっているから」
「伯父様……?」
「私の母は国王の妹よ。母がリロイ伯爵家に降嫁したのはあなたたちが生まれる前なので、知らなかったみたいだけど」
「あ、あんたが……?」
「ええ。だから王命の結婚なのよ。国王の姪がこの家に潜り込むために」
な、なんか話が大きくなってきた……?
「女にのめり込んで、国力になるどころか使用人たちにいいように食い物にされてる腐り切ったジェラルミン侯爵家。本来なら、忠告して改善を促すべきなのでしょうが、国はその価値は無いと判断しました。だから侯爵家を潰す事にしたのよ。国民の娯楽になるくらい派手に」
潰す……?
「そのために私が来たの。不正の証拠も手に入れたから、今ごろは領地の執務官たちも粛清されてるわ」
「……あんた、どうやって王様に連絡を取ったんだ? 手紙は全部握り潰したのに」
「ああ、手紙はダミーですわ。手紙を書いていれば、あなたたちは『手紙しか連絡方法が無い』って思い込むでしょう? 実際は私について来た王家の影が全て報告してましたの」
必要も無い手紙を何通も書くのは大変でしたのよ、と楽しそうに笑うこの女は本当にあのフレイアなのか?
「私の役目は、ジェラルミン侯爵家を徹底的に叩き潰す事。無能なジェラルミン侯爵だけでは無く、厚顔無恥な全ての使用人も地獄に送るの」
笑顔で何て事を言ってんだ。
「そのための王命の結婚でしたのに、誰も不審に思わなかったのですね。田舎貴族の私が侯爵に一目惚れしたなんて話を鵜呑みにして」
鵜呑み。そもそも、誰がそんな事を言ったんだっけ……?
あたしたちは最初から踊らされていたのか。
「何故、一人くらいリロイ伯爵家が本当に田舎貴族か確認しなかったの? リロイ伯爵夫人が国王の妹だなんてすぐに分かったのに」
ああ、虫けらを見るようなこの目は知ってる。いや、何故忘れてたんだ? 貴族にはあたしたちなんて虫けらだって事を。
「あなたたちは、最後のチャンスをドブに捨てました。私を侯爵夫人として扱えば横領罪だけなので労働刑ですんだのに、あなたたちは国王の姪であり王位継承権を持つ私を虐待しました」
キーンと音がしそうなほど、沈黙が落ちる。
「みなさんは、国家反逆罪で死刑です」
え………………?
「五年も甘い汁を吸ったので心残りは無いでしょう? でもご存知? 国家反逆罪って、家族も連座で処刑されますのよ」
そんな、弟や妹たちが……。
「そ、そんな事、ジェラルミン侯爵が許さないよ!」
彼が、レナと仲が良いあたしたちを見捨てるものか!
「そうそう、何故かジェラルミン侯爵と私は結婚していないので、これは夫婦の問題では無く、ジェラルミン侯爵が客人のリロイ伯爵令嬢であり国王の姪を監禁して虐待したという事になりますの。彼も極刑は免れないでしょうね」
あなた達に救いの手を差しのべる人はいない、と仄めかす。
ファランクスは本当に結婚届を出さなかったんだ。
「庭師のあなた、三ヶ月前に結婚したばかりですよね。お二人の愛は本当に『永遠の愛』になりそうですわ」
「洗濯メイドのあなたのお子さんは三歳と五歳とか。可愛い盛りなのに哀れなこと」
「処刑場には、いったいいくつの首が並ぶ事になるんでしょうねぇ」
他人事のように楽しそうに話すフレイア。
そうか、これが「国民の娯楽」か。あたしたちは、愚かな犯罪者として処刑場に首を晒すんだ。
「か、家族は関係無いだろう!」
誰かが血を吐くような声で言ったが
「あら、ゼニアさんのご家族は『もっとやれ』と言ってたそうですわ」
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