「おまえを愛する事は無い」が最期の言葉でした

あんど もあ

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 朝食後のフレイアは、庭を歩いていたら庭師が花に撒くはずだった水を頭から掛けられてプルプル震えていたそうだ。

 シェフ渾身のみすぼらしい昼食を持っていったら、
「これを出しておいて」
と、手紙と銅貨を渡された。
 早速実家に泣きつくつもりらしい。

 笑い出したいのを堪えて部屋を下がる。
 手紙は捨てて、銅貨はポケットに入れた。

 フレイアは午後は馬小屋を見に行って、馬丁に馬糞ばふんをかけられたそうだ。
 大量に購入した貴族用の高級菓子店のケーキを食べながら大笑いする。余ったケーキは皆で家に持ち帰りだ。
 
 
 夕食を運んだ時、フレイアはタオルで髪を乾かしていた。馬糞を浴びたので、自分で準備して風呂に入ったのだろう。
みじめなもんだね」
 笑いが堪えられない。

 フレイアは怒った顔も、傷付いた顔もせず
「ゼニアの家族は、ゼニアがこんな事をしているって知ってるの?」
と言った。
 そんな事を言われたらあたしが良心の呵責を感じるとでも思ってんのか?
「残念ながら知ってるよ。『もっとやれ』ってさ」
 うちは金が無いんだから、金持ちの貴族から搾り取るのは当然の権利だ。
「そう……」
 何か言いたげなのに、感情を読ませない。貴族のそういう所がイラッとする。
 あたしは思いっきり力を込めてドアを閉めた。


 フレイアが廊下を歩くと、掃除をしていたメイドの手が滑って濡れた雑巾が顔に飛んで来る。
 フレイアの服は洗濯メイドが石にこすり付けて洗濯するのでボロボロになる。
 フレイアが庭を歩くと、下男が伐採していた木の枝が頭に落ちて来る。
 フレイアの食事はますます貧相になっていく。
 フレイアが書庫に入ると、家令がうっかり鍵を閉める。


「全然懲りていないな。なぜ酷い目に遭うとわかっていて出歩くのか」
 家令のファランクスがお茶を飲みながらいぶかしげに言った。
「そう言えばそうだねぇ。ずっと部屋にこもってくれれば楽なのにさ」
 日に一度、二・三時間かかる皆のお茶タイム。
 今日も高級店のお菓子は美味しい。でも在庫が少なかったので、余った予算は皆で持ち帰りだ。

「暇だからじゃない?」
「いや、あれだよ。自分の味方を探してるんじゃない?」
 皆が好き勝手に推理する。

 あたしも考えてみた。
 フレイアが来て十日か……。
 あれから何度か手紙を預かった。もちろん全部捨ててる。
 一度中を見たら「空は高く、雲雀ひばりは鳴き甘く風は吹き………」とかなんとか、訳が分からない文が書いてあった。ファランクスに見せたら
「有名な詩だ」
と、言われた。何かの符牒かもしれないと言われ、ますます手紙を握り潰す事にする。
 もしかして、あたし以外に手紙を出してくれる人を探しているのかな。

「いやいや、味方じゃなく男を探してんじゃないのか?」
「違いねえ。侯爵様に相手をしてもらえなくて、体がうずくってか?」
 ギャハハと品の無い笑い声が響く。

 そうだ、こいつらにフレイアを襲わせて「不貞をはたらいた」って追い出すのはどうだろう。
 身も心もぼろぼろになって出て行くフレイアを想像するだけでワクワクする。
 あたしが口を開こうとした時、玄関のドアを激しく叩く音がした。

 お客だなんて珍しい。いつも門番が追い返してるからね。
 今はその門番がここでお茶を飲んでるんだから仕方ないけど。
「どれ、追い返してくるか」
 門番が立ち上がってゆっくりと玄関に向かった。
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