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あなたの幸せのために
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「リリアナ! 貴様とは今日で婚約破棄だ! 私はこのジャネットと婚約する!」
ざわついていた王立学園の食堂が静まり返った。
いつものように、婚約者のハロルドの分も昼食を運んでいたリリアナの動きが止まる。
ゆっくりと顔が動き、ハロルドとジャネットを見る。華やかな顔立ちの二人は、並ぶと絵のようだ。
かばいあうように寄り添う二人を見ていたリリアナが破顔した。
「まあ! 婚約破棄をご自分で言えるようになったのですね! ご立派です!」
「……へ?」
嬉しそうなまま、自分の持っていたハロルドの昼食に気付いて
「あら、もうお世話してはご迷惑ですわね」
と、昼食が載ったトレイをハロルドに渡し、自分はさっさと席について食事を始めた。
……あれは何だ?
ハロルドたちだけではなく、皆も不思議に思った。
リリアナと言えば、ハロルドの婚約者であることを振りかざしてハロルドに付きまとっている独占欲の強い令嬢だ……と思われていたのに。
あんなに束縛したら、ジャネット嬢に気持ちが移るのも仕方が無いだろうと……。
トレイを持ったハロルドは、ぎこちなくリリアナの前の席に着く。ジャネットもその横に座った。
二人を気にせず食事していたリリアナだが、ふと思い出したという感じで
「あ、ハロルド様。今日はヴァイオリンの先生がいらっしゃる日ですので、いつもみたいにジャネット様と話していて時間を忘れるなんて無いようになさってくださいね。もう、私がお二人に割り込む事は出来ませんもの」
……二人を引き裂いてたんじゃないのか?
「それと、明後日がレポートの締め切りですから、お忘れないように。これからは万年筆のインクの吸引をしてあげられませんので、ご自分で出来るようになってくださいね」
……そんな事までやってもらってたのか?
「次の休日はご友人のエドソン子爵令息のお宅に遊びに行く約束なので、前の晩に夜更かししないでくださいね。それから、10日後はお父様のお誕生日ですわ。忘れずにプレゼントの準備をなさるんですよ」
……これって、独占欲が強い婚約者と言うより世話好きな母親……?
唖然としている周囲に全く気付かず、リリアナは満足そうに食事を進める。いや、本当に満足していた。
これで、亡くなったハロルドの母クリスティーナとの約束を果たすことが出来たのだから。
五年前、ハロルドとの婚約が整ったのを待っていたかのようにクリスティーナが病に倒れた。
お見舞いに行ったリリアナが、クリスティーナに手を取られて「ハロルドを幸せにしてあげて」と言われた時、自分の前世を思い出したのだ。
前世の自分も、幼い子供を残して逝かなくてはならない若い母親だった。病気の進行が早くて、あっという間に起き上がれなくなった。お見舞いに来てくれた我が子に、何もしてあげられない。
あなたの幸せを祈っている……、でも本当は私が幸せにしてあげたかった!!
前世の自分の血を吐くような叫びが耳元で聞こえた気がした。
リリアナは、クリスティーナの手を握りしめて、きっと自分がハロルドを幸せにすると約束した。前世の自分の子供の分も。
……あれから五年。ハロルドは良い子の青年に育ち、私に婚約破棄を申し渡すほど愛する女性を見つけた。これでクリスティーナ様との約束が果たせた……!
嬉しそうに食事を終えたリリアナは、トレイを持って立ち上がる。慌てて声を掛けたのはジャネットだった。
「リリアナ様! お怒りではありませんの?」
「なぜ怒るんですか?」
「だって……、あんなにハロルド様を愛していらしたのに」
「いいえ? 愛してなんていませんからご心配無く!」
リリアナは笑顔で答える。大切なのはクリスティーナとの約束の方だ。
「で……、でもリリアナはずっと僕のために尽くしてきただろう?」
「はい! ハロルド様の幸せを祈ってました! だから、私がいない方が幸せなら喜んで婚約破棄されます!」
ではさようなら!、と去っていくリリアナを、二人は呆然と見送るしか出来なかった。
ざわついていた王立学園の食堂が静まり返った。
いつものように、婚約者のハロルドの分も昼食を運んでいたリリアナの動きが止まる。
ゆっくりと顔が動き、ハロルドとジャネットを見る。華やかな顔立ちの二人は、並ぶと絵のようだ。
かばいあうように寄り添う二人を見ていたリリアナが破顔した。
「まあ! 婚約破棄をご自分で言えるようになったのですね! ご立派です!」
「……へ?」
嬉しそうなまま、自分の持っていたハロルドの昼食に気付いて
「あら、もうお世話してはご迷惑ですわね」
と、昼食が載ったトレイをハロルドに渡し、自分はさっさと席について食事を始めた。
……あれは何だ?
ハロルドたちだけではなく、皆も不思議に思った。
リリアナと言えば、ハロルドの婚約者であることを振りかざしてハロルドに付きまとっている独占欲の強い令嬢だ……と思われていたのに。
あんなに束縛したら、ジャネット嬢に気持ちが移るのも仕方が無いだろうと……。
トレイを持ったハロルドは、ぎこちなくリリアナの前の席に着く。ジャネットもその横に座った。
二人を気にせず食事していたリリアナだが、ふと思い出したという感じで
「あ、ハロルド様。今日はヴァイオリンの先生がいらっしゃる日ですので、いつもみたいにジャネット様と話していて時間を忘れるなんて無いようになさってくださいね。もう、私がお二人に割り込む事は出来ませんもの」
……二人を引き裂いてたんじゃないのか?
「それと、明後日がレポートの締め切りですから、お忘れないように。これからは万年筆のインクの吸引をしてあげられませんので、ご自分で出来るようになってくださいね」
……そんな事までやってもらってたのか?
「次の休日はご友人のエドソン子爵令息のお宅に遊びに行く約束なので、前の晩に夜更かししないでくださいね。それから、10日後はお父様のお誕生日ですわ。忘れずにプレゼントの準備をなさるんですよ」
……これって、独占欲が強い婚約者と言うより世話好きな母親……?
唖然としている周囲に全く気付かず、リリアナは満足そうに食事を進める。いや、本当に満足していた。
これで、亡くなったハロルドの母クリスティーナとの約束を果たすことが出来たのだから。
五年前、ハロルドとの婚約が整ったのを待っていたかのようにクリスティーナが病に倒れた。
お見舞いに行ったリリアナが、クリスティーナに手を取られて「ハロルドを幸せにしてあげて」と言われた時、自分の前世を思い出したのだ。
前世の自分も、幼い子供を残して逝かなくてはならない若い母親だった。病気の進行が早くて、あっという間に起き上がれなくなった。お見舞いに来てくれた我が子に、何もしてあげられない。
あなたの幸せを祈っている……、でも本当は私が幸せにしてあげたかった!!
前世の自分の血を吐くような叫びが耳元で聞こえた気がした。
リリアナは、クリスティーナの手を握りしめて、きっと自分がハロルドを幸せにすると約束した。前世の自分の子供の分も。
……あれから五年。ハロルドは良い子の青年に育ち、私に婚約破棄を申し渡すほど愛する女性を見つけた。これでクリスティーナ様との約束が果たせた……!
嬉しそうに食事を終えたリリアナは、トレイを持って立ち上がる。慌てて声を掛けたのはジャネットだった。
「リリアナ様! お怒りではありませんの?」
「なぜ怒るんですか?」
「だって……、あんなにハロルド様を愛していらしたのに」
「いいえ? 愛してなんていませんからご心配無く!」
リリアナは笑顔で答える。大切なのはクリスティーナとの約束の方だ。
「で……、でもリリアナはずっと僕のために尽くしてきただろう?」
「はい! ハロルド様の幸せを祈ってました! だから、私がいない方が幸せなら喜んで婚約破棄されます!」
ではさようなら!、と去っていくリリアナを、二人は呆然と見送るしか出来なかった。
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