あなたが恋をしなければ

あんど もあ

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あなたが恋をしなければ

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「貴様とはたった今婚約破棄する! 私が愛するのはファリナだけだ!」

 我が国の第一王子が、王立学園の卒業パーティーで婚約者である私に言い放った。
 『あーあ、言っちゃった』なんて思ってる私に、殿下は更に言いつのる。

「貴様は、私の愛するファリナの教科書を破いたり、ノートを噴水の中に捨てたり」
「あ、婚約破棄の理由は結構です」
 不敬にも殿下の言葉をさえぎる。
「たった今をもって、私たちの婚約は解消されました。そして、殿下はファリナ様の子爵家へ婿入り、王位は第二王子が継承する事が決まりました。おめでとうございます」
 私の言葉に、周りの人たちがざわめく。それほど驚いてないのは、予想出来たからだろう。
 
「ご安心ください。ファリナ様のお兄様は、今頃王家の紹介した家に向かっています。嫡男を事故で亡くして、妹さんに優秀な婿を探していたお家がありましたので」
 何人か、その家に心当たりがあるようだ。家名がざわめきのように伝わる。
「ファリナ様のお兄様も、自分の能力を省みず本気で王妃を夢見る妹や、それをいさめない両親に思う所があったようで、紹介された家のお嬢様やご両親とすぐに打ち解けましたのよ。殿下と入れ違いになるよう、もう家を出ているはずですわ」

 殿下は左右に目線を走らせて
「…………な、何故だ」
とだけ言った。
「何故って、元々殿下は私の事がお嫌いでしょう?」
「………き、嫌いなど。ちゃんと婚約者として」
「決められた日時に決められた場所で決められた時間、顔を合わせてお茶を飲むだけですよね。『あ~面倒くさいな。仕方ないからこいつと結婚してやるよ』というのを隠しきれてませんでしたよ? ねえ殿下、私の好きな花を知ってますか? そもそも『私の好きな花』を婚約してから四年間で何度聞いたか覚えていますか?」

 私の好きな花はコスモス。華奢で可憐で繊細な花に見えるのに、実は荒野でも花を咲かせるたくましい花なのだと庭師に教えられて以来、憧れの花だ。
 それを、二度三度と聞かれると、「コスモスなんて平凡だから忘れてしまうのかしら」と考え、次からアガパンサスとかグロリオサとかアンスリウムとか言ってみて、やっと気付いた。
 この人、私の好きな花を知りたいんじゃない。ただの時間潰しの質問なんだ、と。
 殿下が下さる花束は、いつも無難なバラだった。

「私を嫌いなのは構わないんです。私も嫌いですし」
 殿下が驚いた顔をしてる。
 どうやら私は、完璧に感情を隠せてたらしいですわね。
「問題は、それを全然隠せてない事です」
 お茶会で周りに控えている人達にまで、殿下の感情は読み取れた。

「陳情を規定時間聞いたからって、相手が納得すると思いますか? 規定通りの歓迎式典をしたからって、相手が歓迎されていると思うと思いますか?」
 義務でやってます、と思っているのは伝わるのだ。本人に自覚が無いなら尚更。

「それでも、対人関係は私たちがフォローすれば、政務は優秀な殿下に任せられると思ってたのですが…」
 私はファリナ様に目をやる。
「殿下は恋に落ちましたわね」

「それの何がいけない! 貴様が何と言おうと私たちは真実の愛で」
「ああ、そう言うのはいいですから」
 私は再び殿下の話を止める。

「嫌いなのを隠しきれないのは、まだ仕方ないと言えたんです。でも、あなたは好きな気持ちも隠せない。すっかり舞い上がって、用事も無いのにファリナ様に会いに行き、欲しがる物は何でも買い与え……、王妃の座まで与えるおつもりでしたね」

 好きな感情を隠せないという事は、自分の弱味を隠す事が出来ないという事だ。

「国王となる人間としては、さすがにこれはまずいです。陛下や重臣たちは、決断しました。殿下が私に婚約破棄を宣言したら、私たちの婚約は解消。殿下はファリナ様の家に婿に行く、と」

 殿下もファリナ様も何も言わない。せっかく恋が叶ったのに。
 とりあえず、伝えるべきことは伝えたので私は退場しましょう。

「ご結婚おめでとうございます。どうぞお幸せに」
「…ああ」
 殿下なら、子爵家程度の領地は簡単に運営できると思いますわ。今まで見下してきた他の貴族に頭を下げる事を覚えてくだされば。今までは、私や側近が貴族たちとの緩衝材役をしてましたけど……。

「ファリナ様。私はあなたに何もしてません。『次期王妃』と傲慢な態度で敵を作ったのはあなたです」
「……そんな」



 そして私は卒業パーティーを後にした。続けて会場を出て来たのは、殿下の側近だった人。
「殿下、今日私がお側にいない事に、全然気付いてなかったな……」
「気付いてたわよ。目線で探していた。今になってやっと、トラブルになりそうな時はあなたが上手く収めていたんだと気付いたんでしょうね」
「そうか……。ならちょっと、報われたかな」

 気を取り直した彼が明るい声で言う。
「役目から解放された事だし、明日、街に遊びに行かないか? 午後に花束を持って迎えに行くよ」
「いいわね!」


 明日、私はコスモスの花束をもらえるでしょうか。
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