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私を乗せた馬車は、貴族の馬車で混み合う王宮の正門を避けて、目立たぬ小さな門から城に入った。
侍女長と別れ、騎士たちに護衛されて舞踏会が開かれる大広間に案内される。
私が会場入りした事に気づいた公爵令嬢が駆け寄って来た。
「一人だけ? 計画は失敗したの?」
「いえ、大成功と言うか……。伯爵家の馬車が、私を置いて先に行ったのよ」
「ぷっ、さすがにそれは想定外ね。私たちの理解を超えた行動をしてくれるわ」
などと話していたら、
「貴様、こんな所で何をしている!」
と、伯爵の怒鳴り声が会場に響いた。
私に向かって、目を血走らせた伯爵がズンズンとやって来た。後ろに伯爵夫人とジュリアがニヤニヤして付いて来る。
その異様な雰囲気に会場中の注目を集めているが、気づいていないようだ。
伯爵が私の真ん前に立った時、私は淑女の笑顔で言った。
「ご機嫌よう伯爵」
「何がご機嫌ようだ。貴様と言う奴は」
「貴様? 私をご存知なのかしら。初めまして、王妹のアンリエッタです」
「…………」
「ご挨拶が遅れまして。先日からミレーネの部屋にお邪魔していたのですが、食事には呼ばれない、使用人には働け働けとドアをドンドン叩かれる、で、すっかり挨拶しそびれてしまいましたわ」
私は正確には国王の家族では無いので、公式行事などで表舞台に立つ事は無いため、あまり顔は知られていない。
唖然として言葉も無く私の顔を凝視する伯爵に、公爵令嬢が呆れた声を出す。
「娘の顔を知らない父親がいるのですね」
「ミレーネは今、彼女のお祖母様と一緒に別荘で療養してますわ」
「り、療養?」
「ええ、長期に渡って虐待されてたもので。ああ、ミレーネがいなくても、私と侍女たちがミレーネが置かれていた状況について裁判で証言しますからご心配なく」
「さ、さ、裁判だなど。こ、これは家庭の問題で」
「お忘れでしたのね。ミレーネのお祖母様は先代国王の妹ですわ。ミレーネは現国王の従妹の娘。王家にとって他人事じゃありませんの」
ひっと息を呑む伯爵。
「だから、私とミレーネは髪も目も同じ色でしょう? メイクで多少似せましたが、まさか別人だと気付かれないとは思いませんでしたわ」
「………」
「そして、ミレーネと思い込んだ私を、あなたは伯爵邸に置いてきぼりにしましたわね。国王陛下がミレーネを舞踏会に連れて来るように言ったのをお忘れなの? どれほど王家を侮辱するのかしら」
「あ………」
「私たちは、あなた方にチャンスを与えていたのです。伯爵がミレーネが別人だと気づいたら、着飾ったミレーネを伯爵家の一員として舞踏会に連れて行ったら、少しでも父親らしい面を見せたら、虐待は公にはしないでおこうと。その場合、今頃は皆さんは別室で穏便に国王と会見をしている予定でしたのに」
無駄でしたわね……、としおらしく見せるが、内心この男が父親らしい事をするなんて全く思って無かった。
どうせ掴む事は出来ないと思っていたからこそ与えたチャンスだ。生涯、逃がしたチャンスを悔やむがいい。
音も立てず、衛兵たちが伯爵家の三人の背後に控えた。
私の合図で、衛兵たちがすっかり沈黙した三人を連れ出す。
「今日からしばらく牢で過ごしていただきますが、ミレーネの部屋よりは快適ですわ」
ジュリアが公爵令嬢に救いを求める目をしたが、公爵令嬢は笑顔でそれを無視した。お茶会での優しさは、ジュリアをミレーネから引き離すためだったと気付いたのだろう、絶望的な表情になって覚束ない足取りで衛兵に引きずられるように去って行った。
やがて、何事もなかったかのように会場にざわめきが戻る。
「上手く行ったから良かったですけど、無茶な計画を立てるのはお控えあそばせ。アンリエッタ」
「お説教は勘弁して。馬車の中で侍女長にみっちり叱られたから!」
「いくら言ってもお説教が無駄になる侍女長の方に同情しますわ……」
ううっ、返す言葉もない……。
侍女長と別れ、騎士たちに護衛されて舞踏会が開かれる大広間に案内される。
私が会場入りした事に気づいた公爵令嬢が駆け寄って来た。
「一人だけ? 計画は失敗したの?」
「いえ、大成功と言うか……。伯爵家の馬車が、私を置いて先に行ったのよ」
「ぷっ、さすがにそれは想定外ね。私たちの理解を超えた行動をしてくれるわ」
などと話していたら、
「貴様、こんな所で何をしている!」
と、伯爵の怒鳴り声が会場に響いた。
私に向かって、目を血走らせた伯爵がズンズンとやって来た。後ろに伯爵夫人とジュリアがニヤニヤして付いて来る。
その異様な雰囲気に会場中の注目を集めているが、気づいていないようだ。
伯爵が私の真ん前に立った時、私は淑女の笑顔で言った。
「ご機嫌よう伯爵」
「何がご機嫌ようだ。貴様と言う奴は」
「貴様? 私をご存知なのかしら。初めまして、王妹のアンリエッタです」
「…………」
「ご挨拶が遅れまして。先日からミレーネの部屋にお邪魔していたのですが、食事には呼ばれない、使用人には働け働けとドアをドンドン叩かれる、で、すっかり挨拶しそびれてしまいましたわ」
私は正確には国王の家族では無いので、公式行事などで表舞台に立つ事は無いため、あまり顔は知られていない。
唖然として言葉も無く私の顔を凝視する伯爵に、公爵令嬢が呆れた声を出す。
「娘の顔を知らない父親がいるのですね」
「ミレーネは今、彼女のお祖母様と一緒に別荘で療養してますわ」
「り、療養?」
「ええ、長期に渡って虐待されてたもので。ああ、ミレーネがいなくても、私と侍女たちがミレーネが置かれていた状況について裁判で証言しますからご心配なく」
「さ、さ、裁判だなど。こ、これは家庭の問題で」
「お忘れでしたのね。ミレーネのお祖母様は先代国王の妹ですわ。ミレーネは現国王の従妹の娘。王家にとって他人事じゃありませんの」
ひっと息を呑む伯爵。
「だから、私とミレーネは髪も目も同じ色でしょう? メイクで多少似せましたが、まさか別人だと気付かれないとは思いませんでしたわ」
「………」
「そして、ミレーネと思い込んだ私を、あなたは伯爵邸に置いてきぼりにしましたわね。国王陛下がミレーネを舞踏会に連れて来るように言ったのをお忘れなの? どれほど王家を侮辱するのかしら」
「あ………」
「私たちは、あなた方にチャンスを与えていたのです。伯爵がミレーネが別人だと気づいたら、着飾ったミレーネを伯爵家の一員として舞踏会に連れて行ったら、少しでも父親らしい面を見せたら、虐待は公にはしないでおこうと。その場合、今頃は皆さんは別室で穏便に国王と会見をしている予定でしたのに」
無駄でしたわね……、としおらしく見せるが、内心この男が父親らしい事をするなんて全く思って無かった。
どうせ掴む事は出来ないと思っていたからこそ与えたチャンスだ。生涯、逃がしたチャンスを悔やむがいい。
音も立てず、衛兵たちが伯爵家の三人の背後に控えた。
私の合図で、衛兵たちがすっかり沈黙した三人を連れ出す。
「今日からしばらく牢で過ごしていただきますが、ミレーネの部屋よりは快適ですわ」
ジュリアが公爵令嬢に救いを求める目をしたが、公爵令嬢は笑顔でそれを無視した。お茶会での優しさは、ジュリアをミレーネから引き離すためだったと気付いたのだろう、絶望的な表情になって覚束ない足取りで衛兵に引きずられるように去って行った。
やがて、何事もなかったかのように会場にざわめきが戻る。
「上手く行ったから良かったですけど、無茶な計画を立てるのはお控えあそばせ。アンリエッタ」
「お説教は勘弁して。馬車の中で侍女長にみっちり叱られたから!」
「いくら言ってもお説教が無駄になる侍女長の方に同情しますわ……」
ううっ、返す言葉もない……。
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