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そして次の朝、伯爵邸の玄関前には王宮から派遣された侍女たちと、彼女たちが持ち込んだ今日の舞踏会のためのドレス一式とヘアケア・ボディケアグッズの山で大騒ぎになった。
「お帰りください」
と追い返そうとする執事に
「私たちはアンリエッタ姫にミレーネ様の着付けを手伝うよう命じられています。国王陛下もご了承されています。美しくなったミレーネ様を舞踏会にお連れするようにと」
と、堂々と侍女長が言い返す。
「アンリエッタ姫? ミレーネがどうやってそんな方とお近づきに」
騒ぎを聞いてやって来た伯爵夫妻は
「先日の公爵令嬢のお茶会です。何でも、とても時代錯誤なファッションだったとか」
と、言われて赤くなって黙るしか無かった。
「ジュリア。お茶会でミレーネはアンリエッタ姫と話していたの?」
遅れてやって来たジュリアに聞いても「分かんない」としか返ってこない。高位の令嬢たちに囲まれ、下座のミレーネの事など気にもしてなかったのだろう。
アンリエッタ姫。先代国王の末っ子で、現国王の妹。「おてんば姫」とか「じゃじゃ馬姫」と呼ばれる彼女なら、下座に座っていた毛色の変わった令嬢に興味を持つのもあり得る。
了承を得たと認識した侍女たちは荷物を抱えて「部屋は階段の下ですね!」と乗り込むが、間もなく
「何ですのこの部屋はネズミの巣ですか?」
「綺麗な水とお湯を! いえお風呂の準備を!」
「まず他の部屋に替えてください!」
「お腹すいたと言ってますが、お食事はまだですの?」
と、執事に矢継ぎ早の文句が殺到した。
侍女たちが伯爵家の客間を奪い取り、半日かけて私を磨き上げて髪を巻いてドレスを着付けてアクセサリーも着けた所で一息ついていると、
「伯爵家の皆さんが出発します!」
と侍女の一人が 部屋に飛び込んで来た。
ほほう、私に黙って出発する気でしたのね? 内心の焦りを表に出さずに速足で玄関に向かい、伯爵家の人たちの前に笑顔で現れる。艶めく髪に瑞々しい肌、華やかだけど上品なドレスに、控えめだけど質の高い宝石を使ったアクセサリー。
ふんだんに使った繊細なレースの衣擦れの音をさせながら、内心ドヤ顔で三人の元へ進む。
三人からの目線は、分かりやすい「怒り」だった。
伯爵夫妻の露骨な邪魔者を見る目。ジュリアの、自分のドレスより豪華なドレスを着ている私への嫉妬。
私はそんな感情など気づいていません、という表情で伯爵家の人たちと一緒に馬車に向かった。
だが、三人の後に乗ろうとした私の顔の前で馬車のドアは閉まり、そのまま走り出して行ってしまった。
唖然とする私を見送りに並んだ使用人たちがクスクス笑うが、侍女長の
「あの男! 国王陛下の下命を何だと思っているの!」
の一言で固まった。
青くなっている使用人たちに、慌てて
「すぐに別の馬車の用意を!」
と騒ぐ執事を無視して、侍女たちが乗って来た馬車が私の前に滑り込む。
降りて来た御者は、恭しく王家の紋章を馬車の左右に嵌め込んだ。「この馬車には、王族か、王家に命じられた者が乗っている」という証だ。
私は執事に
「伯爵たちは、二度と戻る事は無いでしょう。使用人の彼女たちは労働刑ですむと思うけど、あなたは覚悟をしておいて」
と、言って侍女長と馬車に乗り込んだ。
血の気が引いた執事が、すがるように馬車を見送るのをわざと目を逸らす。
同情はしない。お前は、家の平和のためにミレーネを犠牲にした無能だ。
「お帰りください」
と追い返そうとする執事に
「私たちはアンリエッタ姫にミレーネ様の着付けを手伝うよう命じられています。国王陛下もご了承されています。美しくなったミレーネ様を舞踏会にお連れするようにと」
と、堂々と侍女長が言い返す。
「アンリエッタ姫? ミレーネがどうやってそんな方とお近づきに」
騒ぎを聞いてやって来た伯爵夫妻は
「先日の公爵令嬢のお茶会です。何でも、とても時代錯誤なファッションだったとか」
と、言われて赤くなって黙るしか無かった。
「ジュリア。お茶会でミレーネはアンリエッタ姫と話していたの?」
遅れてやって来たジュリアに聞いても「分かんない」としか返ってこない。高位の令嬢たちに囲まれ、下座のミレーネの事など気にもしてなかったのだろう。
アンリエッタ姫。先代国王の末っ子で、現国王の妹。「おてんば姫」とか「じゃじゃ馬姫」と呼ばれる彼女なら、下座に座っていた毛色の変わった令嬢に興味を持つのもあり得る。
了承を得たと認識した侍女たちは荷物を抱えて「部屋は階段の下ですね!」と乗り込むが、間もなく
「何ですのこの部屋はネズミの巣ですか?」
「綺麗な水とお湯を! いえお風呂の準備を!」
「まず他の部屋に替えてください!」
「お腹すいたと言ってますが、お食事はまだですの?」
と、執事に矢継ぎ早の文句が殺到した。
侍女たちが伯爵家の客間を奪い取り、半日かけて私を磨き上げて髪を巻いてドレスを着付けてアクセサリーも着けた所で一息ついていると、
「伯爵家の皆さんが出発します!」
と侍女の一人が 部屋に飛び込んで来た。
ほほう、私に黙って出発する気でしたのね? 内心の焦りを表に出さずに速足で玄関に向かい、伯爵家の人たちの前に笑顔で現れる。艶めく髪に瑞々しい肌、華やかだけど上品なドレスに、控えめだけど質の高い宝石を使ったアクセサリー。
ふんだんに使った繊細なレースの衣擦れの音をさせながら、内心ドヤ顔で三人の元へ進む。
三人からの目線は、分かりやすい「怒り」だった。
伯爵夫妻の露骨な邪魔者を見る目。ジュリアの、自分のドレスより豪華なドレスを着ている私への嫉妬。
私はそんな感情など気づいていません、という表情で伯爵家の人たちと一緒に馬車に向かった。
だが、三人の後に乗ろうとした私の顔の前で馬車のドアは閉まり、そのまま走り出して行ってしまった。
唖然とする私を見送りに並んだ使用人たちがクスクス笑うが、侍女長の
「あの男! 国王陛下の下命を何だと思っているの!」
の一言で固まった。
青くなっている使用人たちに、慌てて
「すぐに別の馬車の用意を!」
と騒ぐ執事を無視して、侍女たちが乗って来た馬車が私の前に滑り込む。
降りて来た御者は、恭しく王家の紋章を馬車の左右に嵌め込んだ。「この馬車には、王族か、王家に命じられた者が乗っている」という証だ。
私は執事に
「伯爵たちは、二度と戻る事は無いでしょう。使用人の彼女たちは労働刑ですむと思うけど、あなたは覚悟をしておいて」
と、言って侍女長と馬車に乗り込んだ。
血の気が引いた執事が、すがるように馬車を見送るのをわざと目を逸らす。
同情はしない。お前は、家の平和のためにミレーネを犠牲にした無能だ。
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