あなたの幸せを祈ってる

あんど もあ

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前編

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 寒い……。
 ベッドの中にいるのに凍えそう。
 毛布をもう一枚持って来て欲しいけど、忙しそうに駆け回る足音が聞こえるわ。きっと私の事は後回しね。
 ……? 何台もの馬車の音がする。お客様かしら。
 もしかして、今日はローゼリアとヒース様の婚約パーティーの日?
 嫌だわ、私ったらすっかりお寝坊。急いで支度を……。
 ……いえ、無理だわ。体中に力が入らなくて、起き上がれない。これじゃあ、パーティーで立ってもいられないわ。
 
 ごめんね、ローゼリア。
 15年前にあなたと私は一緒に産まれたのに、私だけが丈夫で。
 体の弱いあなたが捕まえた幸せを、一緒に祝いたかったわ。
 たとえ、その婚約の相手が私の婚約者だったとしても。






 こんにちは、先生。往診ありがとうございます。
 容態はとても良いですわ。私、とても丈夫なんです。あっという間に治ったでしょう?
 ……え? あれから十日も経っているのですか? 

 私の話を聞きたいのですか? はい、全然構いません。もう体を起こしても平気です。関係者に部屋に入ってもらうのも構いませんよ。
 まあ、お父様、お母様、ローゼリア、ヒース様も。えっと、こちらは……? 先生の助手の方ですか。診察の記録を書き残すのですね。ご苦労様です。

 お客様が来る事なんて無いので、貧相な部屋でお恥ずかしいですわ。ローゼリアは病弱なので寝室を華やかにして慰めなくてはいけませんが、私は丈夫なので寝るだけの部屋を飾っても仕方ないのです。どうせ眠れば見えません。
 口の悪い従妹なんて、「うちの狩猟小屋より質素だ」と笑ってましたわ。
  やだ、そんな事まで記録しますの?
 
 そうそう、病気についてですわね。
 お父様に呼ばれて、明日の私とヒース様の婚約パーティーを、ローゼリアとヒース様の婚約パーティーに変更する、と言われたんです。驚きましたけど、仕方ありません。
 ただ、部屋への帰り道どんどん頭が痛くなって、ベッドに倒れ込んで横になったと思ったら眠ったようで、目が覚めたら婚約パーティーが始まる頃でした。その後また眠ったみたいで……。
 え? 眠ったのではなく、意識を失っていたのですか。
 お祖母様が『いつまで不貞腐ふてくされているんです!』と私の部屋に入らなかったら、完全に手遅れになる所だったなんて。

 ぐったりしてぴくりとも動かぬ私を見て、お祖母様が『ルイーゼが死んでる!』と叫んで大騒ぎになったのですか。まあ、お祖母様ったらあわてんぼう。
 私はとても丈夫なのに。

 「何故、頭が痛くなった時に医者を呼ばなかったのですか」と言われましても……。
 私は丈夫なので、医者を呼べませんの。医者と言うのは、ローゼリアのような病弱な人のためのものでしょう? 幼い頃、具合が悪いと言ったらそう教えられました。

 「君は病気になった事は無いのか?」ですか? そりゃあ風邪をひいたり、頭が痛くなったり、お腹が痛くなったりする事はあります。そういう時は、布団の中で丸くなって自分を抱きしめるんです。そうやって何時間か、何日か我慢していると、自然に治ります。
 幼い頃は、いつの間にかお父様とお母様がローゼリアと出掛けていたり、お父様やお母様がローゼリアの我儘を優先して私との約束を反故ほごにしたり、ローゼリアだけにお土産があって私には忘れていたりなど、今思えばお恥ずかしい理由でも布団の中に潜り込みましたわ。
 
 でも、今回は布団の中でも病状がどんどん悪化して行って、自分ではどうしようもありませんでした。何か命を奪う病気にかかったのかと思って、死を覚悟しましたわ。
 風邪? 肺炎になっていた? まあそうでしたの。

 看病ですか? 私がベッドにいる時は誰も来ないので……。
 え? お父様が「ルイーゼが不貞腐れている時は放っておけ」と言ったのですか。それでは誰も来ませんね。いつもお腹が空いて大変でした。
 お母様の看病? はあ、確かに小説では病気のシーンには枕元に母親がいますけど、それってドラゴンやユニコーンのような架空の話でしょう? そんな絵空事に憧れるほど子供じゃありませんわ。

 「もう充分です。虐待として、当主の許可が無くても国王陛下が養子の認可をくだします」って……?
 先生、その方、先生の助手では無いのですか? 王宮書記官? 一体何が起こっているんです。
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