1 / 5
1
王都学園の女子寮の食堂では、明日の入学式を前に空気が二分していた。
寮生分の食事の準備があっても、一度に大量に作れない。品数の多い夕食は、学年ごとに時間が決められていた。
今は一年生、いや、明日入学して一年生となる女生徒が八人が、二つのテーブルで食事をしていた。
ネガティブな空気のテーブルは、長い黒髪の少女を中心に嘆いている。
「いよいよ明日ですわねぇ…」
「王都学園と言えば、学校と言えど社交界の縮図。私のような田舎貴族には敷居が高いですわ…」
「特に、王都にタウンハウスの無い寮生なんて、下に見られて肩身が狭いと兄も言ってました…」
一方、赤茶色の髪の少女を中心としたテーブルは明るかった。
「田舎だと、勉強するのにも先生がいなくて大変だったんだ。王都学園に入学出来て良かった~! あ、あたしのことはディアナって呼んでね」
「うちの領地も田舎だから、王都は初めてなの。私は、モートン子爵家のロッティです」
「ごめん! 家名とか全然分からないの。ロッティって呼んでいい?」
「いいわよ。じゃあ、私もディアナって呼ぶわ」
「私はエリーよ。よろしく」
「私はスザンナ」
「ロッティって、食事の仕草が綺麗ですわね」
「本当、見事ですわ」
「ありがとう。『外で恥をかかないように』って、厳しく躾けてくれた母のおかげね。エリーも、長くて綺麗な指をしてるわね」
「これは、ピアノを弾くのに便利なのよ」
「まあ、ピアノを弾かれるの? この指が鍵盤の上を流れるのって、想像しただけでうっとりしちゃう」
「皆、立派な令嬢なんだなぁ。あたしの手なんて、剣ダコだらけだ」
「あら、女剣士ですの? すごいわ」
なるほど、令嬢らしからぬ振る舞いと言葉遣いは、男性に交じって剣を振るっていたせいか、と納得する。
和気藹々としたテーブルは食事が進み、食べ終えたディアナは、給仕が出入りするとば口を覗き、
「ご馳走様! 美味しかった、さすが王都学園だね! 煮るか焼くだけのあたしの料理が不評なわけが分かったよ」
と、声をかけた。
入り口に控えていた中年の給仕は
「それはようごさいました。ここのシェフは、以前王宮の厨房におりましたから」
と、慇懃に返す。
「へえー、王族に作るより、これから国を支える人の体を作ろうと思ったわけだ!」
パーテーションの向こうで、来週からの献立を作っていた「左遷された」と思ってるシェフが慌てているのを感じながら、給仕は「さようです」と答えておいた。
「ところで……、人手が足りてないんじゃない?」
中を覗き込んだディアナは、下働きが忙しく働く横に、先輩たちが食べ終わった食器が積み重ねられているのを見つける。
「学校が始まるのは、明日からですから……。明日になれば、人が戻って来ますよ」
「じゃあ、今日はあたしが皿洗いするね!」
と、中に入って来ようとするディアナ。
「いけません! 令嬢がなさる事ではありません!」
「自分が汚したお皿を洗う事の、何がいけないの」
と、さっさと袖を捲りだした。
更には、それを見ていた同じテーブルの生徒たちも
「私もやりますわ。実は、家でやってましたの」
「私も手伝います」
「じゃあ、私はお皿を拭きますね」
と、参加して来る。
食堂に残されたテーブルの少女たちは、厨房の賑やかさに
「私たちも手伝うべきかしら…」
と不安げだが、黒髪の少女が断言した。
「いいえ。大勢で行ってはかえってご迷惑です」
少女は続ける。
「なので、私たちは食堂の掃除をいたしましょう」
「では、掃除道具置き場を聞いてまいります!」
「私、掃除ってやったことが無いの……」
「教えてさしあげますわ」
「まずは、テーブルの上を片づけましょう!」
食堂も賑やかになった。
寮生分の食事の準備があっても、一度に大量に作れない。品数の多い夕食は、学年ごとに時間が決められていた。
今は一年生、いや、明日入学して一年生となる女生徒が八人が、二つのテーブルで食事をしていた。
ネガティブな空気のテーブルは、長い黒髪の少女を中心に嘆いている。
「いよいよ明日ですわねぇ…」
「王都学園と言えば、学校と言えど社交界の縮図。私のような田舎貴族には敷居が高いですわ…」
「特に、王都にタウンハウスの無い寮生なんて、下に見られて肩身が狭いと兄も言ってました…」
一方、赤茶色の髪の少女を中心としたテーブルは明るかった。
「田舎だと、勉強するのにも先生がいなくて大変だったんだ。王都学園に入学出来て良かった~! あ、あたしのことはディアナって呼んでね」
「うちの領地も田舎だから、王都は初めてなの。私は、モートン子爵家のロッティです」
「ごめん! 家名とか全然分からないの。ロッティって呼んでいい?」
「いいわよ。じゃあ、私もディアナって呼ぶわ」
「私はエリーよ。よろしく」
「私はスザンナ」
「ロッティって、食事の仕草が綺麗ですわね」
「本当、見事ですわ」
「ありがとう。『外で恥をかかないように』って、厳しく躾けてくれた母のおかげね。エリーも、長くて綺麗な指をしてるわね」
「これは、ピアノを弾くのに便利なのよ」
「まあ、ピアノを弾かれるの? この指が鍵盤の上を流れるのって、想像しただけでうっとりしちゃう」
「皆、立派な令嬢なんだなぁ。あたしの手なんて、剣ダコだらけだ」
「あら、女剣士ですの? すごいわ」
なるほど、令嬢らしからぬ振る舞いと言葉遣いは、男性に交じって剣を振るっていたせいか、と納得する。
和気藹々としたテーブルは食事が進み、食べ終えたディアナは、給仕が出入りするとば口を覗き、
「ご馳走様! 美味しかった、さすが王都学園だね! 煮るか焼くだけのあたしの料理が不評なわけが分かったよ」
と、声をかけた。
入り口に控えていた中年の給仕は
「それはようごさいました。ここのシェフは、以前王宮の厨房におりましたから」
と、慇懃に返す。
「へえー、王族に作るより、これから国を支える人の体を作ろうと思ったわけだ!」
パーテーションの向こうで、来週からの献立を作っていた「左遷された」と思ってるシェフが慌てているのを感じながら、給仕は「さようです」と答えておいた。
「ところで……、人手が足りてないんじゃない?」
中を覗き込んだディアナは、下働きが忙しく働く横に、先輩たちが食べ終わった食器が積み重ねられているのを見つける。
「学校が始まるのは、明日からですから……。明日になれば、人が戻って来ますよ」
「じゃあ、今日はあたしが皿洗いするね!」
と、中に入って来ようとするディアナ。
「いけません! 令嬢がなさる事ではありません!」
「自分が汚したお皿を洗う事の、何がいけないの」
と、さっさと袖を捲りだした。
更には、それを見ていた同じテーブルの生徒たちも
「私もやりますわ。実は、家でやってましたの」
「私も手伝います」
「じゃあ、私はお皿を拭きますね」
と、参加して来る。
食堂に残されたテーブルの少女たちは、厨房の賑やかさに
「私たちも手伝うべきかしら…」
と不安げだが、黒髪の少女が断言した。
「いいえ。大勢で行ってはかえってご迷惑です」
少女は続ける。
「なので、私たちは食堂の掃除をいたしましょう」
「では、掃除道具置き場を聞いてまいります!」
「私、掃除ってやったことが無いの……」
「教えてさしあげますわ」
「まずは、テーブルの上を片づけましょう!」
食堂も賑やかになった。
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします
柊
ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。
マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。
それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。
※複数のサイトに投稿しております。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。