令嬢失格な私なので

あんど もあ

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 王都学園の女子寮の食堂では、明日の入学式を前に空気が二分していた。

 寮生分の食事の準備があっても、一度に大量に作れない。品数の多い夕食は、学年ごとに時間が決められていた。
 今は一年生、いや、明日入学して一年生となる女生徒が八人が、二つのテーブルで食事をしていた。

 ネガティブな空気のテーブルは、長い黒髪の少女を中心に嘆いている。
「いよいよ明日ですわねぇ…」
「王都学園と言えば、学校と言えど社交界の縮図。私のような田舎貴族には敷居が高いですわ…」
「特に、王都にタウンハウスの無い寮生なんて、下に見られて肩身が狭いと兄も言ってました…」

 一方、赤茶色の髪の少女を中心としたテーブルは明るかった。
「田舎だと、勉強するのにも先生がいなくて大変だったんだ。王都学園に入学出来て良かった~! あ、あたしのことはディアナって呼んでね」
「うちの領地も田舎だから、王都は初めてなの。私は、モートン子爵家のロッティです」
「ごめん! 家名とか全然分からないの。ロッティって呼んでいい?」
「いいわよ。じゃあ、私もディアナって呼ぶわ」
「私はエリーよ。よろしく」
「私はスザンナ」

「ロッティって、食事の仕草が綺麗ですわね」
「本当、見事ですわ」
「ありがとう。『外で恥をかかないように』って、厳しく躾けてくれた母のおかげね。エリーも、長くて綺麗な指をしてるわね」
「これは、ピアノを弾くのに便利なのよ」
「まあ、ピアノを弾かれるの? この指が鍵盤の上を流れるのって、想像しただけでうっとりしちゃう」
「皆、立派な令嬢なんだなぁ。あたしの手なんて、剣ダコだらけだ」
「あら、女剣士ですの? すごいわ」
 なるほど、令嬢らしからぬ振る舞いと言葉遣いは、男性に交じって剣を振るっていたせいか、と納得する。

 和気藹々わきあいあいとしたテーブルは食事が進み、食べ終えたディアナは、給仕が出入りするとば口を覗き、
「ご馳走様! 美味しかった、さすが王都学園だね! 煮るか焼くだけのあたしの料理が不評なわけが分かったよ」
と、声をかけた。

 入り口に控えていた中年の給仕は
「それはようごさいました。ここのシェフは、以前王宮の厨房におりましたから」
と、慇懃いんぎんに返す。
「へえー、王族に作るより、これから国を支える人の体を作ろうと思ったわけだ!」
 パーテーションの向こうで、来週からの献立を作っていた「左遷された」と思ってるシェフが慌てているのを感じながら、給仕は「さようです」と答えておいた。

「ところで……、人手が足りてないんじゃない?」
 中を覗き込んだディアナは、下働きが忙しく働く横に、先輩たちが食べ終わった食器が積み重ねられているのを見つける。
「学校が始まるのは、明日からですから……。明日になれば、人が戻って来ますよ」
「じゃあ、今日はあたしが皿洗いするね!」
と、中に入って来ようとするディアナ。
「いけません! 令嬢がなさる事ではありません!」
「自分が汚したお皿を洗う事の、何がいけないの」
と、さっさと袖をまくりだした。

 更には、それを見ていた同じテーブルの生徒たちも
「私もやりますわ。実は、家でやってましたの」
「私も手伝います」
「じゃあ、私はお皿を拭きますね」
と、参加して来る。

 食堂に残されたテーブルの少女たちは、厨房の賑やかさに
「私たちも手伝うべきかしら…」
と不安げだが、黒髪の少女が断言した。
「いいえ。大勢で行ってはかえってご迷惑です」
 少女は続ける。
「なので、私たちは食堂の掃除をいたしましょう」

「では、掃除道具置き場を聞いてまいります!」
「私、掃除ってやったことが無いの……」
「教えてさしあげますわ」
「まずは、テーブルの上を片づけましょう!」
 食堂も賑やかになった。

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