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王都学園女子寮は「淑女養成の虎の穴」と、呼ばれたとか呼ばれないとか……。
※原案 書庫裏真朱麻呂様
明日は王都学園の入学式。今日からお世話になる女子寮にやって来た私を出迎えたのは、虎のマスクを被った三人の女性だった。
黒や濃紺の飾りの無いドレスに、おしゃれな目の部分だけを隠すマスクではなく、頭にすっぽり被る虎のマスク。髪の毛もマスクの中だから、ドレスの上に虎の頭が乗っているみたいだ。
はい、訳がわかりません。
「入学おめでとう。王都学園女子寮にようこそ」
声から察するに、寮の先輩ですね?
「これから私たちが、あなたたち一年生を淑女にするための指導をします」
しかし、よく出来たマスクですね。まさか、本物の虎とか?
「女子寮にいる時間は、すべて自分を高めるための学びの時間だと思ってください」
いやいや、そんなの頼んでませんけど?
「ここでマナーを身に着けて、王子と結婚された方もいらっしゃるのよ」
……誰がそんな夢物語を信じますか。
三人の虎令嬢は有言実行だった。
歩いても座っても食べても、厳しい観察と指導で、気の休まる暇が無い。
超可愛い男爵令嬢なんか、
「自分がモテないから、可愛い私たちでうさを晴らしてるのよ!」
と、言ってた。
まあそれはオーバーでも、こうやって愚痴を言い合えて、寮の同級生たちと仲良くなれたのは良かったかな。
「久しぶりー! 元気でした?」
ある日、寮の部屋にいたら、玄関から女性の大きな声が聞こえた。その人はそのまま誰かと話し込んだみたいで、興味を持った私はこっそり覗きに行った。
廊下の角から覗いていると、同じことを考えた同級生たちも覗きに来た。
「そう! 肉の臭みを消す方法とか、野菜のえぐみを取る方法とか、本当に遠征で役立ってるんですよ!」
「それは良かった」
と、言ったのは、いつも仏頂面のシェフ?
いや、それよりその相手! あの騎士服に長い赤茶の髪は『赤の女神』ことディアナ様! 何でシェフと知り合いなの?
……しかし、国家式典のドレス姿の時は剣も持てなさそうな優雅さなのに、騎士服の時はこんな話し方なのね。
あ、給仕の人まで来た! 何で仲がいいの?
『赤の女神』のディアナ様って言ったら、公爵令嬢でありながら最強の女性騎士で、第三王子の伴侶。今は子供もいたよね。
ん? 第三王子の伴侶……?
まさか、王子と結婚した寮生って!
廊下の隅で同じことを考えた私たちは、顔を見合わせた。
そこに、虎令嬢たちがやって来た。
「いらっしゃいませ」
「ようこそ。赤の女神様」
ディアナ様が引くかと思ったのに
「わあ! 今も使ってくれてるんだ!」
と、喜んでいる。
「はい。大切に引き継いでいますわ。赤の女神さまから頂いたこのマスク」
「嬉しいな。王都学園を卒業する時に、私の討伐した動物でマスクを作りたいって後輩に言われた時は驚いたけど」
「赤の女神と、赤の女神を作った方たちは卒業してしまいましたが、その偉業を決して忘れないよう、寮で『淑女』と認められた三人は、後輩を立派な淑女に育てていく使命をこのマスクと共に受け継いでおります」
「私たちも、先輩に指導される前は、身の程知らずの田舎貴族の娘でしたわ」
そう言って、三人はマスクを外した。
長い髪が溢れ出て、匂い立つような三人の美女が現れた。
三人の礼に、ディアナ様は笑顔で応える。
「見事よ。王族と並んでも引けを取らないわ」
私は感動していた。
これが、淑女。
美しさを内に秘め、感謝もしない生意気な後輩のために指導に明け暮れる。自分がしてもらったのだからと。
私も、淑女になりたい。
そう心に誓った。
そして、「淑女養成の虎の穴」伝説は続く……。
※ 後輩は、素材をもらってオシャレなマスクを作るつもりだったのですが、ディアナがさっさと虎を仕留めて虎の頭でマスクを作ってしまいました。
明日は王都学園の入学式。今日からお世話になる女子寮にやって来た私を出迎えたのは、虎のマスクを被った三人の女性だった。
黒や濃紺の飾りの無いドレスに、おしゃれな目の部分だけを隠すマスクではなく、頭にすっぽり被る虎のマスク。髪の毛もマスクの中だから、ドレスの上に虎の頭が乗っているみたいだ。
はい、訳がわかりません。
「入学おめでとう。王都学園女子寮にようこそ」
声から察するに、寮の先輩ですね?
「これから私たちが、あなたたち一年生を淑女にするための指導をします」
しかし、よく出来たマスクですね。まさか、本物の虎とか?
「女子寮にいる時間は、すべて自分を高めるための学びの時間だと思ってください」
いやいや、そんなの頼んでませんけど?
「ここでマナーを身に着けて、王子と結婚された方もいらっしゃるのよ」
……誰がそんな夢物語を信じますか。
三人の虎令嬢は有言実行だった。
歩いても座っても食べても、厳しい観察と指導で、気の休まる暇が無い。
超可愛い男爵令嬢なんか、
「自分がモテないから、可愛い私たちでうさを晴らしてるのよ!」
と、言ってた。
まあそれはオーバーでも、こうやって愚痴を言い合えて、寮の同級生たちと仲良くなれたのは良かったかな。
「久しぶりー! 元気でした?」
ある日、寮の部屋にいたら、玄関から女性の大きな声が聞こえた。その人はそのまま誰かと話し込んだみたいで、興味を持った私はこっそり覗きに行った。
廊下の角から覗いていると、同じことを考えた同級生たちも覗きに来た。
「そう! 肉の臭みを消す方法とか、野菜のえぐみを取る方法とか、本当に遠征で役立ってるんですよ!」
「それは良かった」
と、言ったのは、いつも仏頂面のシェフ?
いや、それよりその相手! あの騎士服に長い赤茶の髪は『赤の女神』ことディアナ様! 何でシェフと知り合いなの?
……しかし、国家式典のドレス姿の時は剣も持てなさそうな優雅さなのに、騎士服の時はこんな話し方なのね。
あ、給仕の人まで来た! 何で仲がいいの?
『赤の女神』のディアナ様って言ったら、公爵令嬢でありながら最強の女性騎士で、第三王子の伴侶。今は子供もいたよね。
ん? 第三王子の伴侶……?
まさか、王子と結婚した寮生って!
廊下の隅で同じことを考えた私たちは、顔を見合わせた。
そこに、虎令嬢たちがやって来た。
「いらっしゃいませ」
「ようこそ。赤の女神様」
ディアナ様が引くかと思ったのに
「わあ! 今も使ってくれてるんだ!」
と、喜んでいる。
「はい。大切に引き継いでいますわ。赤の女神さまから頂いたこのマスク」
「嬉しいな。王都学園を卒業する時に、私の討伐した動物でマスクを作りたいって後輩に言われた時は驚いたけど」
「赤の女神と、赤の女神を作った方たちは卒業してしまいましたが、その偉業を決して忘れないよう、寮で『淑女』と認められた三人は、後輩を立派な淑女に育てていく使命をこのマスクと共に受け継いでおります」
「私たちも、先輩に指導される前は、身の程知らずの田舎貴族の娘でしたわ」
そう言って、三人はマスクを外した。
長い髪が溢れ出て、匂い立つような三人の美女が現れた。
三人の礼に、ディアナ様は笑顔で応える。
「見事よ。王族と並んでも引けを取らないわ」
私は感動していた。
これが、淑女。
美しさを内に秘め、感謝もしない生意気な後輩のために指導に明け暮れる。自分がしてもらったのだからと。
私も、淑女になりたい。
そう心に誓った。
そして、「淑女養成の虎の穴」伝説は続く……。
※ 後輩は、素材をもらってオシャレなマスクを作るつもりだったのですが、ディアナがさっさと虎を仕留めて虎の頭でマスクを作ってしまいました。
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