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【2】
そんな訳で、パーちゃんはあと半年で卒業という時期に護衛の俺付きで王立高等学院に編入した。
当然ながら、全生徒から怪しい奴認定された。「オーズ」の名に王太子との仲を疑ってる奴もいるだろう。
そんな空気の中、ブライト教授の授業しか眼中に無いパーちゃんだけは上機嫌だが。
留学初日、午前のカリキュラムを終了すると生徒が一斉に教室を出た。そんなに急いで食堂に行きたいのか?
ワンテンポ遅れて教室を出ようとしたパーちゃんが、教室のドアのノブを回そうとしたが動かない。
「あれ?」
「俺にやらせて」
やっぱりノブが動かない。どうやら外から鍵を掛けたようだ。
ノブを握って力任せに回すと、バキッと音がしてノブが外れた。
「うーん、壊れてるね。この学校古いから」
ポイっとノブを放り投げるとドアに思いっきり蹴りを入れた。
分厚くて大きい扉が、地響きを立てて廊下に倒れる。
安全確認に廊下の左右を見渡すと、既に食堂に行ったと思った級友たちが廊下にそろっていた。パーちゃんが教室から出られなくなって困るのを見て笑おうとしたんだな。どの家がどんな対応をしたか、その姿を王家の影がチェックしてるのに。
俺は皆の視線を無視してパーちゃんを食堂にエスコートした。
その夜、王太子が
「登校初日というのに、早速色々あったようだね」
と、俺たちが滞在している離宮にやって来た。
王家の依頼で留学した俺たちは、王宮にある離宮の一つに滞在している。
最小限の使用人しか出入りを許されないこの離宮の滞在客を、謎の存在と思っている者もいるそうだ。単にパーちゃんの世話は俺がするから人手が要らないだけなのだが。
そしてこの王太子は、打ち合わせも兼ねて公務が無い日はここで夕食を摂る。
「はい! ブライト教授にお目通りが叶いました!」
「……そっち?」
「パーちゃんにはそれ以上の出来事は無いから」
脱力している王太子に気づかずにパーちゃんが続ける。
「ブライト教授、私をご存知だったんです! 光栄で舞い上がりそうでした。あれが絶頂というものなのですね」
「いや、違うから」
何で知らんオッサンと絶頂する。
「教授は昨年奥様を亡くされて、不規則な研究職を辞めて教師になったんだそうです。分かりますわ。私もラルフ様がいなくなったら生きていけない……!」
「ほう……」
テーブルに突っ伏したパーちゃんに王太子が感心しているが、あれは俺はパーちゃんの人間らしい生活のための万能便利グッズだという意味だよ? 留学前に王都のパーちゃんの実家にご挨拶に行ったら、ご家族に「パトリシアがまるで令嬢のようになって……!」と涙ぐまれたっけ。
その後、嬉しそうに教授と盛り上がったマニアックな話を報告するパーちゃんに相槌を打ちながら、俺と王太子は情報交換をした。
そんな風にちまちました嫌がらせを躱しつつ、ブライト教授と毎日のように意見交換して、パーちゃんの学院生活は充実したものだった。
それなのに……。
「はぁ? パーちゃんが第三王子を狙ってるだぁ?」
オクターブ低い声が出る。
いつもの夕食後のティータイム。王太子からとんでもない情報が入った。パーちゃんは本に没頭して、こちらの話など耳に入って無い。
「てか、第三王子って誰?」
「王立高等学院の第一学年棟と教授棟の間の中庭のベンチに、いつも女生徒を侍らせている一年生の男子生徒がいるだろう?」
「あれか……」
パーちゃんの正体を教えて無いという事は、王太子には第三王子も「膿」なのか……。
「パトリシア嬢が毎日のように第三王子に会いに行き、熱い眼差しで見つめているそうだ。きっと王太子の婚約者の座を諦めて、第三王子の婚約者の座を狙っているのだろう、だそうだ」
「アホらしい。ブライト教授に会いに行く時に前を通るだけじゃねーか。熱い眼差しどころか毛虫を見る目だよ。いや、毛虫なら『なぜ虫には魔素が溜まらないのか』という研究素材になるから、毛虫以下だな」
弟が毛虫以下と言われて笑ってる王太子。色々と闇が深そうだ。
当然ながら、全生徒から怪しい奴認定された。「オーズ」の名に王太子との仲を疑ってる奴もいるだろう。
そんな空気の中、ブライト教授の授業しか眼中に無いパーちゃんだけは上機嫌だが。
留学初日、午前のカリキュラムを終了すると生徒が一斉に教室を出た。そんなに急いで食堂に行きたいのか?
ワンテンポ遅れて教室を出ようとしたパーちゃんが、教室のドアのノブを回そうとしたが動かない。
「あれ?」
「俺にやらせて」
やっぱりノブが動かない。どうやら外から鍵を掛けたようだ。
ノブを握って力任せに回すと、バキッと音がしてノブが外れた。
「うーん、壊れてるね。この学校古いから」
ポイっとノブを放り投げるとドアに思いっきり蹴りを入れた。
分厚くて大きい扉が、地響きを立てて廊下に倒れる。
安全確認に廊下の左右を見渡すと、既に食堂に行ったと思った級友たちが廊下にそろっていた。パーちゃんが教室から出られなくなって困るのを見て笑おうとしたんだな。どの家がどんな対応をしたか、その姿を王家の影がチェックしてるのに。
俺は皆の視線を無視してパーちゃんを食堂にエスコートした。
その夜、王太子が
「登校初日というのに、早速色々あったようだね」
と、俺たちが滞在している離宮にやって来た。
王家の依頼で留学した俺たちは、王宮にある離宮の一つに滞在している。
最小限の使用人しか出入りを許されないこの離宮の滞在客を、謎の存在と思っている者もいるそうだ。単にパーちゃんの世話は俺がするから人手が要らないだけなのだが。
そしてこの王太子は、打ち合わせも兼ねて公務が無い日はここで夕食を摂る。
「はい! ブライト教授にお目通りが叶いました!」
「……そっち?」
「パーちゃんにはそれ以上の出来事は無いから」
脱力している王太子に気づかずにパーちゃんが続ける。
「ブライト教授、私をご存知だったんです! 光栄で舞い上がりそうでした。あれが絶頂というものなのですね」
「いや、違うから」
何で知らんオッサンと絶頂する。
「教授は昨年奥様を亡くされて、不規則な研究職を辞めて教師になったんだそうです。分かりますわ。私もラルフ様がいなくなったら生きていけない……!」
「ほう……」
テーブルに突っ伏したパーちゃんに王太子が感心しているが、あれは俺はパーちゃんの人間らしい生活のための万能便利グッズだという意味だよ? 留学前に王都のパーちゃんの実家にご挨拶に行ったら、ご家族に「パトリシアがまるで令嬢のようになって……!」と涙ぐまれたっけ。
その後、嬉しそうに教授と盛り上がったマニアックな話を報告するパーちゃんに相槌を打ちながら、俺と王太子は情報交換をした。
そんな風にちまちました嫌がらせを躱しつつ、ブライト教授と毎日のように意見交換して、パーちゃんの学院生活は充実したものだった。
それなのに……。
「はぁ? パーちゃんが第三王子を狙ってるだぁ?」
オクターブ低い声が出る。
いつもの夕食後のティータイム。王太子からとんでもない情報が入った。パーちゃんは本に没頭して、こちらの話など耳に入って無い。
「てか、第三王子って誰?」
「王立高等学院の第一学年棟と教授棟の間の中庭のベンチに、いつも女生徒を侍らせている一年生の男子生徒がいるだろう?」
「あれか……」
パーちゃんの正体を教えて無いという事は、王太子には第三王子も「膿」なのか……。
「パトリシア嬢が毎日のように第三王子に会いに行き、熱い眼差しで見つめているそうだ。きっと王太子の婚約者の座を諦めて、第三王子の婚約者の座を狙っているのだろう、だそうだ」
「アホらしい。ブライト教授に会いに行く時に前を通るだけじゃねーか。熱い眼差しどころか毛虫を見る目だよ。いや、毛虫なら『なぜ虫には魔素が溜まらないのか』という研究素材になるから、毛虫以下だな」
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