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神様が怒っています、と理系聖女は言った
「やった! 聖女召喚は成功だ!」
床に書かれた魔法陣の中に影が揺らめき、人の形になる。魔法陣を取り囲んでいた十数人の男たちは湧き立った。
だが、やがて現れた女性は彼らの予想した「聖女」とは違い、髪は短く眼鏡をかけていて、シミがたくさん付いた白くて丈の長い上着を羽織った二十代くらいの女性だった。
彼女は不機嫌な顔で自分を見ている周りの男たちを見渡す。
慌てて王子が聖女の元へ駆け寄った。
「ようこそいらっしゃいました、聖女様。我々は……」
言い終わらぬうちに、王子の姿が消えた。
「何事だ! 召喚は成功したのではないのか! 魔法師たちは何をしてる!」
奥にいた豪奢な身なりの中年男性が怒ると、周りに控えた騎士たちが腰の剣に手をかける。
「召喚は成功です! 確かに成功したのに、何故殿下のお姿が消えたか……」
「我々にはさっぱり!」
長い布を巻き付けたような服装の一団が、わたわたと困り果てたように答える。
すっかり蚊帳の外に置かれていた聖女が、白い上着のポケットに手を入れて揉めている皆の後ろに立って言った。
「王子様は、どこかの異世界に召喚されましたよ」
一瞬にして場が沈黙する。
「瘴気が発生して困ったあなたたちは、異世界から聖女を召喚するという他力本願に走った。神様はかなり怒ってますよ。王子様を同じ目にあわせるそうです」
全員の視線を浴びながら、淡々と聖女は言った。
「そ、そんな」
「いや、我々はただ」
長い布を纏った男たちが戸惑っていると、豪奢な服の男が怒り出した。
「何としても息子を取り戻せ! 役立たずの聖女は処分してしまえ!」
物騒なことを言う男に、平然と聖女が言い返す。
「同じ目にあうと言ったでしょう。私を殺したら王子様も殺されますよ。懲りずに新しい聖女を召喚したら、また誰かが異世界に飛ばされますけどいいんですか?」
眼鏡をクイと持ち上げ、理路整然と言われては誰も返事ができない。
「そもそも、私が聖女と言う根拠はあるのですか?」
長い布を巻き付かせた服の人たちの中から装飾の付いた布を纏った男が、光沢のある布の上に載せた水晶玉を恭しく両手で掲げて出てきた。
「この水晶に触れていただければ、あなた様が聖女であることが証明できます」
聖女は水晶を一瞥すると、
「それは召喚する前に確認すべき事でしょう」
と、にべもなく答える。
「つまり、聖女がどうか分からない人を召喚したのですね。自分たちで瘴気を何とかしようともせずに」
「わ、我々も必死だったのです。この国を救うために」
「ええ、昔、他の国が聖女を召喚して瘴気を祓ったそうですね。でも、その国は瘴気を祓ったのに滅んだんですよね。何故だと思います?」
そうだ。せっかく瘴気を祓ったのに、かの国はもう存在していない。
皆がやっとその事に気付いた。
「まさか……」
「そう、神様がその国を滅ぼしました。聖女様が頑張って瘴気を祓ってくれたので、聖女様が生きている間は『聖女が救った美しい国』を楽しんでもらったのですが、聖女様が亡くなった夜に国を海に沈めました」
顔色を無くす一同。聖女は気にせず話を続ける。
「だから、聖女召喚の記録は残っても国が滅んだ理由は残らなかったわけです。さあ、どうしますか? 私が聖女とやらで瘴気を祓ってこの国を救ったら、この国は私が亡くなると同時に滅びますよ。まあ、多分あと50年くらいは生きると思うので、皆さんの方が先に亡くなるからいいですか?」
それでは、子供や孫たちが……。
黙りこくった一同を見渡して、聖女が問う。
「それとも、自力で瘴気を祓う方法を見つけますか?」
「…………」
「見つけると言うなら、手伝ってあげますよ。手伝い程度なら許す範疇だ、と神様も言ってます」
皆の目に希望が灯る。
「聖女よ……。我々に手を貸してくれると言うのか」
「私も、科学者としてこの国の魔法という現象にとても興味がありますから」
「そなた、女なのに学者なのか」
「はい。うちは手に職をつけろというのが家訓なもので」
異世界の「手に職」は、こちらの概念と少し違うなと思うが、今はそれどころじゃない。
「お願いします!」
魔法師たちが聖女を取り囲む。やっと出会えた最後の希望だ。
頷いた聖女は、早速問いかける。
「それで、瘴気の色や臭いは? 解明されている成分はある? 動植物に影響を与える濃度はどれくらい?」
誰も答えられない。
「……何も調べていないのね。じゃあまず瘴気のフィールドワークに行くわよ」
「無理です!」
「自殺行為だ!」
悲鳴のような声で騒ぐ魔法師たちに、聖女は優しく諭す。
「『無理』とは、不可能である事が証明されてから言う言葉ですよ」
初めての聖女の微笑みは、周りの者たちを震え上がらせた。
数か月後、ヨレヨレの魔法師たちに瘴気の消し方を解明させた聖女は、その技術を無償で他の国にも提供することを国王に約束させて、元の世界の召喚された時間へと戻った。
同時にヨレヨレになった王子が帰って来て、この国は聖女の召喚を永久に禁止したのだった。
床に書かれた魔法陣の中に影が揺らめき、人の形になる。魔法陣を取り囲んでいた十数人の男たちは湧き立った。
だが、やがて現れた女性は彼らの予想した「聖女」とは違い、髪は短く眼鏡をかけていて、シミがたくさん付いた白くて丈の長い上着を羽織った二十代くらいの女性だった。
彼女は不機嫌な顔で自分を見ている周りの男たちを見渡す。
慌てて王子が聖女の元へ駆け寄った。
「ようこそいらっしゃいました、聖女様。我々は……」
言い終わらぬうちに、王子の姿が消えた。
「何事だ! 召喚は成功したのではないのか! 魔法師たちは何をしてる!」
奥にいた豪奢な身なりの中年男性が怒ると、周りに控えた騎士たちが腰の剣に手をかける。
「召喚は成功です! 確かに成功したのに、何故殿下のお姿が消えたか……」
「我々にはさっぱり!」
長い布を巻き付けたような服装の一団が、わたわたと困り果てたように答える。
すっかり蚊帳の外に置かれていた聖女が、白い上着のポケットに手を入れて揉めている皆の後ろに立って言った。
「王子様は、どこかの異世界に召喚されましたよ」
一瞬にして場が沈黙する。
「瘴気が発生して困ったあなたたちは、異世界から聖女を召喚するという他力本願に走った。神様はかなり怒ってますよ。王子様を同じ目にあわせるそうです」
全員の視線を浴びながら、淡々と聖女は言った。
「そ、そんな」
「いや、我々はただ」
長い布を纏った男たちが戸惑っていると、豪奢な服の男が怒り出した。
「何としても息子を取り戻せ! 役立たずの聖女は処分してしまえ!」
物騒なことを言う男に、平然と聖女が言い返す。
「同じ目にあうと言ったでしょう。私を殺したら王子様も殺されますよ。懲りずに新しい聖女を召喚したら、また誰かが異世界に飛ばされますけどいいんですか?」
眼鏡をクイと持ち上げ、理路整然と言われては誰も返事ができない。
「そもそも、私が聖女と言う根拠はあるのですか?」
長い布を巻き付かせた服の人たちの中から装飾の付いた布を纏った男が、光沢のある布の上に載せた水晶玉を恭しく両手で掲げて出てきた。
「この水晶に触れていただければ、あなた様が聖女であることが証明できます」
聖女は水晶を一瞥すると、
「それは召喚する前に確認すべき事でしょう」
と、にべもなく答える。
「つまり、聖女がどうか分からない人を召喚したのですね。自分たちで瘴気を何とかしようともせずに」
「わ、我々も必死だったのです。この国を救うために」
「ええ、昔、他の国が聖女を召喚して瘴気を祓ったそうですね。でも、その国は瘴気を祓ったのに滅んだんですよね。何故だと思います?」
そうだ。せっかく瘴気を祓ったのに、かの国はもう存在していない。
皆がやっとその事に気付いた。
「まさか……」
「そう、神様がその国を滅ぼしました。聖女様が頑張って瘴気を祓ってくれたので、聖女様が生きている間は『聖女が救った美しい国』を楽しんでもらったのですが、聖女様が亡くなった夜に国を海に沈めました」
顔色を無くす一同。聖女は気にせず話を続ける。
「だから、聖女召喚の記録は残っても国が滅んだ理由は残らなかったわけです。さあ、どうしますか? 私が聖女とやらで瘴気を祓ってこの国を救ったら、この国は私が亡くなると同時に滅びますよ。まあ、多分あと50年くらいは生きると思うので、皆さんの方が先に亡くなるからいいですか?」
それでは、子供や孫たちが……。
黙りこくった一同を見渡して、聖女が問う。
「それとも、自力で瘴気を祓う方法を見つけますか?」
「…………」
「見つけると言うなら、手伝ってあげますよ。手伝い程度なら許す範疇だ、と神様も言ってます」
皆の目に希望が灯る。
「聖女よ……。我々に手を貸してくれると言うのか」
「私も、科学者としてこの国の魔法という現象にとても興味がありますから」
「そなた、女なのに学者なのか」
「はい。うちは手に職をつけろというのが家訓なもので」
異世界の「手に職」は、こちらの概念と少し違うなと思うが、今はそれどころじゃない。
「お願いします!」
魔法師たちが聖女を取り囲む。やっと出会えた最後の希望だ。
頷いた聖女は、早速問いかける。
「それで、瘴気の色や臭いは? 解明されている成分はある? 動植物に影響を与える濃度はどれくらい?」
誰も答えられない。
「……何も調べていないのね。じゃあまず瘴気のフィールドワークに行くわよ」
「無理です!」
「自殺行為だ!」
悲鳴のような声で騒ぐ魔法師たちに、聖女は優しく諭す。
「『無理』とは、不可能である事が証明されてから言う言葉ですよ」
初めての聖女の微笑みは、周りの者たちを震え上がらせた。
数か月後、ヨレヨレの魔法師たちに瘴気の消し方を解明させた聖女は、その技術を無償で他の国にも提供することを国王に約束させて、元の世界の召喚された時間へと戻った。
同時にヨレヨレになった王子が帰って来て、この国は聖女の召喚を永久に禁止したのだった。
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