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後編
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「じゃじゃ馬でお恥ずかしい」
と、言う父の声に
「さすがは王太子の婚約者マルティーナ様!」
「次期王妃なだけあって、なんという堂々とした対応」
「彼女が王妃になったら我が国は安泰ですわね」
と、言う声が重なる。
「どうやら婚約破棄にはならなそうだな」
と、隣で笑うアンジェロ様は、これでも王太子だ。
幼少の頃は病弱で、お忍びで田舎に静養に行ったのだが、すっかり地元の悪ガキたちとなじんでしまったそうだ。
八歳の私が見合いだとは知らされずに「王様や王子様とお茶会」と、城に連れて行かれたら、そこにいたのは意地悪でイタズラなガキ大将のようなクソガキ。ダンゴムシやカメムシの強制的プレゼントにキレました。
「何なのこいつ! 王子様って言うのは、私のお兄様のような人よ!」
「はあ? この国の王子様は俺だけだよ!」
「ふんっ! お兄様のように勉強してからおっしゃいませ!」
お父様は頭を抱えたが、国王陛下と王妃様は大笑いして気に入られた。他の令嬢は、泣かされてすぐに帰ってしまったそうだ。ああっ、その手があったのか!と、思ったが後の祭り。
その後婚約したり、アンジェロ様に弟と妹が生まれたり、アンジェロ様が人前では王子様っぽく振る舞えるようになったり、王太子になったり。
……私は、変わらずお兄様一筋でした。
「マルティーナ!」
お兄様とルシンダ様がやって来た。今も恐怖に震えてるルシンダ様の肩を、お兄様は優しく抱いている。
「ルシンダを助けてくれてありがとう」
「マルティーナ様、ありがとうございました」
ずるい。お兄様と結婚出来るのに、さらにお兄様に庇ってもらえるなんて。
「本当、情け無いですわ! ルシンダ様! お兄様を愛するのなら、あんな男は蹴飛ばすくらいでなくては!」
ほのぼのとしていた周りが凍りつく。
「まずはドングリで練習ですわ!」
私は有無を言わさずルシンダ様を林に引っ張って行った。
::::::::::::::::
ドングリ?という顔をしたルシンダと、興味を持った女性陣が、マルティーナに連れられて林の中に消えてゆく。その後を、護衛騎士たちが慌てて追いかけて行く。
それらを優しく見守っていた隣の男は、皆の姿が見えなくなってその笑顔を消した。
俺に向き合い、
「この度は尊いお体を危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした」
と、深く頭を下げる。
「いや、これは予測しようも無いだろう。気にするな」
こいつの前で王子ぶった態度を取る必要は無いので、雑に返す。
「ありがとうございます」
「ところで……マルティーナとの仲は相変わらずのようで」
『相変わらず』。……まったく、マルティーナは俺が王子様っぽくなっても、立太子しても、他の女たちと違って全然態度を変えない。一貫してお兄様ファーストだ。
そして、俺が親に言われて嫌々マルティーナと婚約していると信じている。
「その事は心配するな。マルティーナの初恋は、もうじき相手が結婚して終わる。そしたら俺に目が行くだろうさ」
「それはどうでしょう……。マルティーナの魅力に気付いてるのは殿下だけではありませんので」
「そんな男がいたら、全力で潰しに行くさ」
「たとえ他に誰もいなくなっても、マルティーナが本気で婚約を嫌がったら何としてもこのご縁は無かった事にしますから」
「残念ながらそんな日は来ねぇよ」
こいつは、マルティーナを妹としてしか見ていない。それも当然で、マルティーナが覚えていないだけで、こいつの方はマルティーナがおむつの頃から可愛い従妹として見てきたのだから。
だが、マルティーナを愛する気持ちはかなり重い。
「流行り病で両親をあっという間に亡くして、私の世界は色を無くしました。引き取られて伯爵家に行った時、幼いマルティーナが『今日からお兄様になってくださるの?』と、嬉しそうに迎え入れてくれたのです。そして、もじもじして『だっこ、してくださる?』と言った時の可愛らしさ! マルティーナを抱っこしたのを見たリリーナが『あたちも!』と乱入し、それでも離れないマルティーナに伯父夫婦や侍女たちももみくちゃの大騒ぎになり……、私は笑う事を思い出したのです。そんなマルティーナの笑顔を守るためなら、王家と刺し違えてもいい覚悟ですから」
もう何度も聞いた。マルティーナの前では決して見せない黒い笑顔と共に。
「安心しろ。マルティーナを幸せにできるのは俺だけだ」
マルティーナは気付いていない。
お兄様が自分が思っている以上にシスコンな事を。
俺が王座目当てで婚約してるのでは無い事を。
とりあえずは、早く失恋して俺に落ちてくれ。
と、言う父の声に
「さすがは王太子の婚約者マルティーナ様!」
「次期王妃なだけあって、なんという堂々とした対応」
「彼女が王妃になったら我が国は安泰ですわね」
と、言う声が重なる。
「どうやら婚約破棄にはならなそうだな」
と、隣で笑うアンジェロ様は、これでも王太子だ。
幼少の頃は病弱で、お忍びで田舎に静養に行ったのだが、すっかり地元の悪ガキたちとなじんでしまったそうだ。
八歳の私が見合いだとは知らされずに「王様や王子様とお茶会」と、城に連れて行かれたら、そこにいたのは意地悪でイタズラなガキ大将のようなクソガキ。ダンゴムシやカメムシの強制的プレゼントにキレました。
「何なのこいつ! 王子様って言うのは、私のお兄様のような人よ!」
「はあ? この国の王子様は俺だけだよ!」
「ふんっ! お兄様のように勉強してからおっしゃいませ!」
お父様は頭を抱えたが、国王陛下と王妃様は大笑いして気に入られた。他の令嬢は、泣かされてすぐに帰ってしまったそうだ。ああっ、その手があったのか!と、思ったが後の祭り。
その後婚約したり、アンジェロ様に弟と妹が生まれたり、アンジェロ様が人前では王子様っぽく振る舞えるようになったり、王太子になったり。
……私は、変わらずお兄様一筋でした。
「マルティーナ!」
お兄様とルシンダ様がやって来た。今も恐怖に震えてるルシンダ様の肩を、お兄様は優しく抱いている。
「ルシンダを助けてくれてありがとう」
「マルティーナ様、ありがとうございました」
ずるい。お兄様と結婚出来るのに、さらにお兄様に庇ってもらえるなんて。
「本当、情け無いですわ! ルシンダ様! お兄様を愛するのなら、あんな男は蹴飛ばすくらいでなくては!」
ほのぼのとしていた周りが凍りつく。
「まずはドングリで練習ですわ!」
私は有無を言わさずルシンダ様を林に引っ張って行った。
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ドングリ?という顔をしたルシンダと、興味を持った女性陣が、マルティーナに連れられて林の中に消えてゆく。その後を、護衛騎士たちが慌てて追いかけて行く。
それらを優しく見守っていた隣の男は、皆の姿が見えなくなってその笑顔を消した。
俺に向き合い、
「この度は尊いお体を危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした」
と、深く頭を下げる。
「いや、これは予測しようも無いだろう。気にするな」
こいつの前で王子ぶった態度を取る必要は無いので、雑に返す。
「ありがとうございます」
「ところで……マルティーナとの仲は相変わらずのようで」
『相変わらず』。……まったく、マルティーナは俺が王子様っぽくなっても、立太子しても、他の女たちと違って全然態度を変えない。一貫してお兄様ファーストだ。
そして、俺が親に言われて嫌々マルティーナと婚約していると信じている。
「その事は心配するな。マルティーナの初恋は、もうじき相手が結婚して終わる。そしたら俺に目が行くだろうさ」
「それはどうでしょう……。マルティーナの魅力に気付いてるのは殿下だけではありませんので」
「そんな男がいたら、全力で潰しに行くさ」
「たとえ他に誰もいなくなっても、マルティーナが本気で婚約を嫌がったら何としてもこのご縁は無かった事にしますから」
「残念ながらそんな日は来ねぇよ」
こいつは、マルティーナを妹としてしか見ていない。それも当然で、マルティーナが覚えていないだけで、こいつの方はマルティーナがおむつの頃から可愛い従妹として見てきたのだから。
だが、マルティーナを愛する気持ちはかなり重い。
「流行り病で両親をあっという間に亡くして、私の世界は色を無くしました。引き取られて伯爵家に行った時、幼いマルティーナが『今日からお兄様になってくださるの?』と、嬉しそうに迎え入れてくれたのです。そして、もじもじして『だっこ、してくださる?』と言った時の可愛らしさ! マルティーナを抱っこしたのを見たリリーナが『あたちも!』と乱入し、それでも離れないマルティーナに伯父夫婦や侍女たちももみくちゃの大騒ぎになり……、私は笑う事を思い出したのです。そんなマルティーナの笑顔を守るためなら、王家と刺し違えてもいい覚悟ですから」
もう何度も聞いた。マルティーナの前では決して見せない黒い笑顔と共に。
「安心しろ。マルティーナを幸せにできるのは俺だけだ」
マルティーナは気付いていない。
お兄様が自分が思っている以上にシスコンな事を。
俺が王座目当てで婚約してるのでは無い事を。
とりあえずは、早く失恋して俺に落ちてくれ。
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