7 / 7
カーライルの婚活
しおりを挟む
「ようこそクラリッサ嬢。私はカーライル、ここではカールと名乗っています。ベータムの国王の三番目の弟です。五人兄弟の末っ子なので自由にしていいと言われてきたので、婚約者はいなかったのですが、今回の終戦を機にアルファスの方と縁を結ぼうと考えました」
私は今、王宮の小さな客間でクラリッサ・アルノー伯爵令嬢と顔合わせをしている。俗に言う「お見合い」だ。
「このような場所ですみません。あまり人目を引かない方があなたの名誉を守れると思っての事です」
私も目立たぬよう、王族の服ではなく、いつもの騎士服に眼鏡だ。
「私のため…ですか?」
「あなたの婚約者は先の戦で亡くなったと聞きました。その原因のベータムの王族との縁談など、あなたの名誉を傷つけるかもしれません。この縁談を断っても、あなたの家に咎はありませんので」
「よろしいのですか?」
「ええ」
貴族なら、好きでもない王子からの縁談でも「光栄です」って言うものだと教えられたからなぁ…。
シモンズ伯爵を捕らえ、アイリスの家に報告に行ったのは、あの騒ぎの二日後だった。
護衛騎士二人と三人で馬でアイリスの家に行くと、庭の惨状と人の気配の無い家に、最悪の状態を想像して血の気が引いた。近くの家々にアイリスの事を聞いても、皆言葉を濁す。絶望に包まれた時
「あれっ? カーラっ、カール様!」
と、アイリスの声が聞こえた。村の人たちに「この人たちは大丈夫」と話しているのを見ると、私たちは怪しまれてアイリスの居場所を教えてもらえなかったのか。その中の一人がアイリスに連絡に走ったようだ。
「もうっ! 皆さんのせいで庭がグチャグチャですからね!」
と、家に連れて行かれて、スコップや箒などの道具を渡され、庭の後片付けをさせられた。
あらかた片付いた頃、アイリスがお茶とクッキーを振る舞ってくれた。やたらと固いクッキーがこの国の流行なのかと思ったら、あっさりと失礼な返しをされた。
「いえ、それ失敗作です。ジェイクには食べさせられないから」
「女性は皆菓子作りが得意なのだと思っていたのだが、こういう犠牲があってのことだったのだな……」
と言うと、傍の騎士たちは吹き出し、アイリスは「言い方!」と怒った。あの男なら失敗作でも私には食べさせたくないだろうと思ったが、それは言わない。
ちょっとだけジェイクに優越感を感じていたが、アイリスの
「あ、私とジェイク、結婚しました」
という報告に撃沈した。
「結婚!? あれからまだ二日しか!」
「平民には国王の許可も要らないし、結婚準備が無いから婚約期間も要らないんですよ。二人で教会に行くだけです。それで来週結婚パーティをするので、今回の迷惑料代わりにごちそうを届けてくださいね!」
落ち込んだが、「おめでとう」と言った自分を褒めたい。
「ごちそうの代わりに、私の結婚相手を紹介しろ」
「どういう理屈ですか!」
「王妃にと望んだ女性が他の男と結婚したんだ、責任もって次を紹介しろ!」
「何の責任ですか~!」
アイリスが推薦したのが、今、目の前にいるクラリッサ・アルノー伯爵令嬢だった。
「もう五年も会っていないので、独身かどうか分かりませんが」
と言うので調べたら、婚約者が先の戦で戦死して未だ独身だった。これは運がいいのか悪いのか。
「私の婚約者が亡くなったのは、ベータムのせいではありません」
「え?」
「婚約者の心と命はシモンズ伯爵のものでした。私や彼の両親や友人たちが何を言っても、シモンズ伯爵の言葉を覆す事はできず……婚約者は志願兵として前線に行きました。剣の腕も体力も無いのに……。私たちの心は、亡くなる前から離れていたのです。私がベータムに縁付いても、不名誉な事はありません」
見た目のたおやかさとは違って芯がある令嬢のようだ。
「アイリスさんと同じ思いをされたのですね」
「アイリス? アイリス・コンウォール様ですか!? ご無事だったのですね! 五年前の処遇が非公開だったのでずっと心配していたんです。ベータムに匿われていたのですね」
よほどアイリスが好きだったようで、なんだか私の評価が爆上がりだ。でも、匿われるどころか王都で自活してましたよ…。
この女性は、今の、口が悪く、使用人がいないので自分で動き回って、ドレスも化粧もしない平民の生活のアイリスを見たらどう思うだろう。
「きっと、『幸せそう』って言うんだろうな」
「はい?」
彼女なら、アイリスが農民と結婚したと知っても「農民なんかと」とは言わない。そんな気がする。
「アイリスさんは王都にいます。もしよければ、次に二人で会う時はアイリスさんに会いにいきませんか?」
人をダシにするなー! うちをデートスポットにするなー!、とアイリスが怒鳴るのが目に浮かぶ。が、クラリッサ嬢を逃したく無いのだ。
「よ、喜んで!」
「良かった。あなたとなら、アルファスを良い国に治められる気がします」
「は? 治める? ……あの、三番目で末っ子では……?」
あれ? もしかして私、一番重要な事を言って無かった……?
私は今、王宮の小さな客間でクラリッサ・アルノー伯爵令嬢と顔合わせをしている。俗に言う「お見合い」だ。
「このような場所ですみません。あまり人目を引かない方があなたの名誉を守れると思っての事です」
私も目立たぬよう、王族の服ではなく、いつもの騎士服に眼鏡だ。
「私のため…ですか?」
「あなたの婚約者は先の戦で亡くなったと聞きました。その原因のベータムの王族との縁談など、あなたの名誉を傷つけるかもしれません。この縁談を断っても、あなたの家に咎はありませんので」
「よろしいのですか?」
「ええ」
貴族なら、好きでもない王子からの縁談でも「光栄です」って言うものだと教えられたからなぁ…。
シモンズ伯爵を捕らえ、アイリスの家に報告に行ったのは、あの騒ぎの二日後だった。
護衛騎士二人と三人で馬でアイリスの家に行くと、庭の惨状と人の気配の無い家に、最悪の状態を想像して血の気が引いた。近くの家々にアイリスの事を聞いても、皆言葉を濁す。絶望に包まれた時
「あれっ? カーラっ、カール様!」
と、アイリスの声が聞こえた。村の人たちに「この人たちは大丈夫」と話しているのを見ると、私たちは怪しまれてアイリスの居場所を教えてもらえなかったのか。その中の一人がアイリスに連絡に走ったようだ。
「もうっ! 皆さんのせいで庭がグチャグチャですからね!」
と、家に連れて行かれて、スコップや箒などの道具を渡され、庭の後片付けをさせられた。
あらかた片付いた頃、アイリスがお茶とクッキーを振る舞ってくれた。やたらと固いクッキーがこの国の流行なのかと思ったら、あっさりと失礼な返しをされた。
「いえ、それ失敗作です。ジェイクには食べさせられないから」
「女性は皆菓子作りが得意なのだと思っていたのだが、こういう犠牲があってのことだったのだな……」
と言うと、傍の騎士たちは吹き出し、アイリスは「言い方!」と怒った。あの男なら失敗作でも私には食べさせたくないだろうと思ったが、それは言わない。
ちょっとだけジェイクに優越感を感じていたが、アイリスの
「あ、私とジェイク、結婚しました」
という報告に撃沈した。
「結婚!? あれからまだ二日しか!」
「平民には国王の許可も要らないし、結婚準備が無いから婚約期間も要らないんですよ。二人で教会に行くだけです。それで来週結婚パーティをするので、今回の迷惑料代わりにごちそうを届けてくださいね!」
落ち込んだが、「おめでとう」と言った自分を褒めたい。
「ごちそうの代わりに、私の結婚相手を紹介しろ」
「どういう理屈ですか!」
「王妃にと望んだ女性が他の男と結婚したんだ、責任もって次を紹介しろ!」
「何の責任ですか~!」
アイリスが推薦したのが、今、目の前にいるクラリッサ・アルノー伯爵令嬢だった。
「もう五年も会っていないので、独身かどうか分かりませんが」
と言うので調べたら、婚約者が先の戦で戦死して未だ独身だった。これは運がいいのか悪いのか。
「私の婚約者が亡くなったのは、ベータムのせいではありません」
「え?」
「婚約者の心と命はシモンズ伯爵のものでした。私や彼の両親や友人たちが何を言っても、シモンズ伯爵の言葉を覆す事はできず……婚約者は志願兵として前線に行きました。剣の腕も体力も無いのに……。私たちの心は、亡くなる前から離れていたのです。私がベータムに縁付いても、不名誉な事はありません」
見た目のたおやかさとは違って芯がある令嬢のようだ。
「アイリスさんと同じ思いをされたのですね」
「アイリス? アイリス・コンウォール様ですか!? ご無事だったのですね! 五年前の処遇が非公開だったのでずっと心配していたんです。ベータムに匿われていたのですね」
よほどアイリスが好きだったようで、なんだか私の評価が爆上がりだ。でも、匿われるどころか王都で自活してましたよ…。
この女性は、今の、口が悪く、使用人がいないので自分で動き回って、ドレスも化粧もしない平民の生活のアイリスを見たらどう思うだろう。
「きっと、『幸せそう』って言うんだろうな」
「はい?」
彼女なら、アイリスが農民と結婚したと知っても「農民なんかと」とは言わない。そんな気がする。
「アイリスさんは王都にいます。もしよければ、次に二人で会う時はアイリスさんに会いにいきませんか?」
人をダシにするなー! うちをデートスポットにするなー!、とアイリスが怒鳴るのが目に浮かぶ。が、クラリッサ嬢を逃したく無いのだ。
「よ、喜んで!」
「良かった。あなたとなら、アルファスを良い国に治められる気がします」
「は? 治める? ……あの、三番目で末っ子では……?」
あれ? もしかして私、一番重要な事を言って無かった……?
501
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
公爵閣下、社交界の常識を学び直しては?
碧井 汐桜香
ファンタジー
若い娘好きの公爵は、気弱な令嬢メリシアルゼに声をかけた。
助けを求めるメリシアルゼに、救いの手は差し出されない。
母ですら、上手くやりなさいと言わんばかりに視線をおくってくる。
そこに現れた貴婦人が声をかける。
メリシアルゼの救いの声なのか、非難の声なのか。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます
ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」
「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」
シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。
全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。
しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。
アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――
いつまでもドアマットと思うなよ
あんど もあ
ファンタジー
二年前に母を亡くしたミレーネは、後妻と妹が家にやって来てからすっかり使用人以下の扱いをされている。王宮で舞踏会が開催されるが、用意されたのは妹のドレスだけ。そんなミレーネに手を差し伸べる人が……。
その婚約破棄、卒業式では受け付けておりません
柊
ファンタジー
卒業パーティの最中、第一王子アデルは突如として婚約者クラリッサに婚約破棄を宣言する。
いわゆる『公開断罪』のはずだった。
しかし、周囲は談笑を続け、誰一人としてその茶番に付き合おうとしない。
困惑する王子と令嬢たちの前に立ったのは……。
※複数のサイトに投稿しています。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる