1 / 3
前編
「『お前を愛する事はない』と言ったのは三年前か。それだけ言われたのに、よくも三年も図々しく居座ったものだ」
レギオス様が、ロマナさんを隣に座らせて私に言い放った。
ここは、ブラウンフォード伯爵家の応接室。
年代を刻んだ優美なクラシックの猫足に反して、ファブリックは最近他国から輸入されるようになった繊細なキリカ織りが使われているソファーは、ブラウンフォード家に歴史があるという事と、最新の流行に張り替えが出来るという経済力を物語っている。
先日、ブラウンフォード伯爵夫妻が事故で亡くなった。
爵位を継いだレギオス様とレギオス様の妻の私が向かい合って座っているのに、レギオス様の横にぴったり侍っているのが長年のレギオスの恋人のロマナ・パドス子爵令嬢というのが三人の関係を表している。
「居座るだなんて。私はレギオス様の妻ですわ」
「はっ! 新興男爵家の娘が」
メイドが三人分のお茶を用意する。
シェイプされた白磁のティーセットにはハンドペイントの薔薇が描かれていて、今大人気のシリーズだ。
「私が男爵家の娘という事は最初からご存じでしょう?」
出されたお茶のいつもの甘い香りに、伯爵夫妻が亡くなった悲しみも理不尽なレギオス様の不愉快さもわずかに癒される。
一口飲んで落ち着いた私に、レギオス様は更に言い募った。
「ただの男爵じゃないだろう。お前の家は商家だ。アレクシア、お前は商人の娘だ」
見下すように言うレギオス様。
私には、貴族の持つ「働くことは恥だ」という考えが理解できない。
私の家は、祖父が家業の商家を大きくしたことによって叙爵されたものだ。今は父が爵位と商家を継いでいる。
そんな環境だからか、親戚たちも建築の会社を作ったり土木工事の会社をやっていたり、日用品の店や服飾の店など、皆働いている。父は皆の会社の物流の交通整理のような役目もしているので、うちは男爵家と言ってもその財産は計り知れない。
「男爵家がお嫌なら、縁談を断ればよろしかったのに」
「ち、父上と母上が強制的に縁談を進めたからだ!」
亡くなった伯爵夫妻はそんな方ではなかった。
優しくおっとりとしていて息子の幸せを第一に考える方だった。
今も玄関にあるお二人の肖像画は、そのお二人に合わせた優美な透かし彫りの額縁で縁取られている。
「それで、文句を言わずに結婚してから『お前を愛する事はない』と言ったわけですか」
まあ、デートをすればレストランでもコンサートでも歌劇でも最高の席で最高の扱いをされて、請求書は私の父に、でしたものね。こんな金蔓を逃がしたくはないと思ったのでしょう。
結婚してから、自由になるお小遣いの額も跳ね上がった事でしょう。
「それももう終わりだ。伯爵家は私の物になった。これからはロマナの父のパドス子爵が力になってくれる」
勝ち誇ったようなレギオス様。
パドス子爵家ってそんなに経済力がありましたっけ。
まあ、いいか。
「あー。つまり、私と離縁して愛人を連れ込みたいと。伯爵夫妻の野辺送りが終わったばかりだというのに」
「まったく、ろくでもない男ですね」
メイドがあきれた声で三人のティーカップを片づけていく。
レギオス様が怒って注意する声も無視だ。
「こうなると思っていましたので、準備は出来ています」
中年の執事がテーブルに離縁手続きの書類を並べて、ペンとインク壺を用意する。
気が利くな、と満足そうにサインするレギオス様。続いて私もサインする。
書類はすぐに侍従に渡されて法務省に届けられる。
執事は、私に書類の束を渡して部屋を出て行った。
レギオス様が、ロマナさんを隣に座らせて私に言い放った。
ここは、ブラウンフォード伯爵家の応接室。
年代を刻んだ優美なクラシックの猫足に反して、ファブリックは最近他国から輸入されるようになった繊細なキリカ織りが使われているソファーは、ブラウンフォード家に歴史があるという事と、最新の流行に張り替えが出来るという経済力を物語っている。
先日、ブラウンフォード伯爵夫妻が事故で亡くなった。
爵位を継いだレギオス様とレギオス様の妻の私が向かい合って座っているのに、レギオス様の横にぴったり侍っているのが長年のレギオスの恋人のロマナ・パドス子爵令嬢というのが三人の関係を表している。
「居座るだなんて。私はレギオス様の妻ですわ」
「はっ! 新興男爵家の娘が」
メイドが三人分のお茶を用意する。
シェイプされた白磁のティーセットにはハンドペイントの薔薇が描かれていて、今大人気のシリーズだ。
「私が男爵家の娘という事は最初からご存じでしょう?」
出されたお茶のいつもの甘い香りに、伯爵夫妻が亡くなった悲しみも理不尽なレギオス様の不愉快さもわずかに癒される。
一口飲んで落ち着いた私に、レギオス様は更に言い募った。
「ただの男爵じゃないだろう。お前の家は商家だ。アレクシア、お前は商人の娘だ」
見下すように言うレギオス様。
私には、貴族の持つ「働くことは恥だ」という考えが理解できない。
私の家は、祖父が家業の商家を大きくしたことによって叙爵されたものだ。今は父が爵位と商家を継いでいる。
そんな環境だからか、親戚たちも建築の会社を作ったり土木工事の会社をやっていたり、日用品の店や服飾の店など、皆働いている。父は皆の会社の物流の交通整理のような役目もしているので、うちは男爵家と言ってもその財産は計り知れない。
「男爵家がお嫌なら、縁談を断ればよろしかったのに」
「ち、父上と母上が強制的に縁談を進めたからだ!」
亡くなった伯爵夫妻はそんな方ではなかった。
優しくおっとりとしていて息子の幸せを第一に考える方だった。
今も玄関にあるお二人の肖像画は、そのお二人に合わせた優美な透かし彫りの額縁で縁取られている。
「それで、文句を言わずに結婚してから『お前を愛する事はない』と言ったわけですか」
まあ、デートをすればレストランでもコンサートでも歌劇でも最高の席で最高の扱いをされて、請求書は私の父に、でしたものね。こんな金蔓を逃がしたくはないと思ったのでしょう。
結婚してから、自由になるお小遣いの額も跳ね上がった事でしょう。
「それももう終わりだ。伯爵家は私の物になった。これからはロマナの父のパドス子爵が力になってくれる」
勝ち誇ったようなレギオス様。
パドス子爵家ってそんなに経済力がありましたっけ。
まあ、いいか。
「あー。つまり、私と離縁して愛人を連れ込みたいと。伯爵夫妻の野辺送りが終わったばかりだというのに」
「まったく、ろくでもない男ですね」
メイドがあきれた声で三人のティーカップを片づけていく。
レギオス様が怒って注意する声も無視だ。
「こうなると思っていましたので、準備は出来ています」
中年の執事がテーブルに離縁手続きの書類を並べて、ペンとインク壺を用意する。
気が利くな、と満足そうにサインするレギオス様。続いて私もサインする。
書類はすぐに侍従に渡されて法務省に届けられる。
執事は、私に書類の束を渡して部屋を出て行った。
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。