2 / 3
後編
しおりを挟む
「ひどぉい。ガイア様ぁ~」
と、ガイア王子に身を押し付ける度に髪飾りとイヤリングとネックレスとブレスレットの宝石がキラキラ輝きます。あなた、平民でしたわよね…?
「きっとアルテミス様には、私なんていじめられて死んじゃっても気にならない存在なんですぅ」
「なんと傲慢な!」
「だから、何もしていませんわ」
「いじめた」「いじめてない」と、頭の悪い水掛け論が続く。証拠くらい捏造しといていただきたいわ。
「アルテミス様ぁ、どうして罪を認めてくださらないのですかぁ?」
サンディが私に駆け寄る。
「やっていないことを認めるわけにはいきません」
悪役令嬢としては、断罪されるのは仕事の一環ですが、冤罪をかけられるのは許容できません。
「私、怖かったのにぃ。一言、謝ってさえくだされば…」
ウルウルと私を見上げるサンディ。ガイア王子はサンディの健気さに打ち震えているようですが、そのサンディは
「あんたには分からないだろうけどぉ、あんたは悪役令嬢なんだからどっちみち断罪されんのよ」
と、小さな声で嬉しそうに伝えてますわよ。
「知ってますわ。前のサンディが教えてくれました。若くしてお亡くなりになったそうですね。お気の毒に」
「…えっ?」
あら、『乙女ゲームとは乙女がするゲーム』と聞いたので乙女だったのだと思ったのですが。そうですね、乙女と決めつけるのは早計でしたわ。
「私が……死んだ?」
あ、そっちでしたか。死んだと自覚の無い方もいらっしゃるのですね。
バッと後ろを振り向き、自分を見つめるガイア王子に目を見開くサンディ。
「何よこれ、もうエンディングじゃない」
「王子ルート攻略成功、ですね。おめでとうございます」
「エンディングの後、どうなるの? …まさか地獄?」
物騒な言葉が聞こえました。そうだわ、亡くなる理由は病気とは限りません。このサンディは、ろくな死に方をしなかったのかもしれませんわね。
「さあ……。私はまた入学式で新しいサンディと出会うので」
失礼します、とカーテシーをして背を向ける。出口へと歩き出すと、後ろから「嫌よ! こんなクソな世界…冗談じゃないわ!」と声が聞こえ、サンディが私を追い越して走り去って行きました。
皆、サンディが扉の向こうに消えるのを、呆然と見送るしかありません。
そして、サンディはそのまま姿を消してしまいました。扉の横に立っていた衛兵にすら気付かれずに。
なぜか、もう時間は巻き戻りませんでした。
多分、ゲームの神様(?)が、ヒロインのサンディにこの世界を否定されたことで、もうサンディを招くのはやめたのではないかしら。(神様のくせに打たれ弱い…)
初めて迎える、卒業パーティの後の生活。
ガイア王子は勝手な婚約破棄を国王陛下に叱責され、挽回を目指して公務に励んでいます。サンディは逃走中(という事に)。
私は王子有責の婚約解消となり、「これからはキズモノ令嬢として念願の地味で静かな生活を…!」と、思っていたのですが。
「ニシダ王国は鳥を神の遣いと考え、決して食べません。晩餐会には鶏料理を出さないでください。特に第三王子は神官になる清浄なお身体なので、卵も禁止です」
「ミナミノ王国の王妃様は職人の手作業を尊びますので、お土産にクフ織を差し上げては? 我が国では地味だとあまり人気が無いクフ織ですが、あの緻密な地模様は王妃様のお気に召すはずです」
「クフ織の職人ですか? クフ山の麓の村に三人いますわ」
うんざりするほど繰り返した日々のおかげでたっぷり溜まった知識を求められるままに使っていたら、宰相補佐室に私の机が用意されました。
「それはいいのですが、何故か私がどの補佐官とくっつくか皆さんの話題になってるみたいなんですの」
仕事で顔を合わせたガイア王子とおしゃべり。強制力が無くなり、婚約者でも無くなったガイア王子は、今は話しやすい元同級生です。
「そりゃそうだよ。王子を振った君が次に誰を選ぶか、皆興味津々だから」
「王子を振った? 王子が私を振ったんですよ?」
「世間では、才女の君がアホな王子を見限ったと思ってるのさ。君を狙ってるのは宰相補佐官たちだけじゃないよ。蝗害予防の防御魔法を打ち合わせに行った魔法省の人や、土砂崩れへの救助を頼みに行った騎士団の人とか、貧民街への定期的な炊き出しの予算をもぎ取りに行った財務省の人とか…」
「女子力のカケラもない仕事の事しか話してませんわよ?」
「ちなみに君を国外に出させないように、誰かが君を射止めるように父上も彼らを煽ってる」
「……めんどくさい」
つい、淑女らしからぬ声が出て、ガイア王子が大笑いしてます。
ねえゲームの神様、まさか私がヒロインの乙女ゲームが始まっていませんよね…?
と、ガイア王子に身を押し付ける度に髪飾りとイヤリングとネックレスとブレスレットの宝石がキラキラ輝きます。あなた、平民でしたわよね…?
「きっとアルテミス様には、私なんていじめられて死んじゃっても気にならない存在なんですぅ」
「なんと傲慢な!」
「だから、何もしていませんわ」
「いじめた」「いじめてない」と、頭の悪い水掛け論が続く。証拠くらい捏造しといていただきたいわ。
「アルテミス様ぁ、どうして罪を認めてくださらないのですかぁ?」
サンディが私に駆け寄る。
「やっていないことを認めるわけにはいきません」
悪役令嬢としては、断罪されるのは仕事の一環ですが、冤罪をかけられるのは許容できません。
「私、怖かったのにぃ。一言、謝ってさえくだされば…」
ウルウルと私を見上げるサンディ。ガイア王子はサンディの健気さに打ち震えているようですが、そのサンディは
「あんたには分からないだろうけどぉ、あんたは悪役令嬢なんだからどっちみち断罪されんのよ」
と、小さな声で嬉しそうに伝えてますわよ。
「知ってますわ。前のサンディが教えてくれました。若くしてお亡くなりになったそうですね。お気の毒に」
「…えっ?」
あら、『乙女ゲームとは乙女がするゲーム』と聞いたので乙女だったのだと思ったのですが。そうですね、乙女と決めつけるのは早計でしたわ。
「私が……死んだ?」
あ、そっちでしたか。死んだと自覚の無い方もいらっしゃるのですね。
バッと後ろを振り向き、自分を見つめるガイア王子に目を見開くサンディ。
「何よこれ、もうエンディングじゃない」
「王子ルート攻略成功、ですね。おめでとうございます」
「エンディングの後、どうなるの? …まさか地獄?」
物騒な言葉が聞こえました。そうだわ、亡くなる理由は病気とは限りません。このサンディは、ろくな死に方をしなかったのかもしれませんわね。
「さあ……。私はまた入学式で新しいサンディと出会うので」
失礼します、とカーテシーをして背を向ける。出口へと歩き出すと、後ろから「嫌よ! こんなクソな世界…冗談じゃないわ!」と声が聞こえ、サンディが私を追い越して走り去って行きました。
皆、サンディが扉の向こうに消えるのを、呆然と見送るしかありません。
そして、サンディはそのまま姿を消してしまいました。扉の横に立っていた衛兵にすら気付かれずに。
なぜか、もう時間は巻き戻りませんでした。
多分、ゲームの神様(?)が、ヒロインのサンディにこの世界を否定されたことで、もうサンディを招くのはやめたのではないかしら。(神様のくせに打たれ弱い…)
初めて迎える、卒業パーティの後の生活。
ガイア王子は勝手な婚約破棄を国王陛下に叱責され、挽回を目指して公務に励んでいます。サンディは逃走中(という事に)。
私は王子有責の婚約解消となり、「これからはキズモノ令嬢として念願の地味で静かな生活を…!」と、思っていたのですが。
「ニシダ王国は鳥を神の遣いと考え、決して食べません。晩餐会には鶏料理を出さないでください。特に第三王子は神官になる清浄なお身体なので、卵も禁止です」
「ミナミノ王国の王妃様は職人の手作業を尊びますので、お土産にクフ織を差し上げては? 我が国では地味だとあまり人気が無いクフ織ですが、あの緻密な地模様は王妃様のお気に召すはずです」
「クフ織の職人ですか? クフ山の麓の村に三人いますわ」
うんざりするほど繰り返した日々のおかげでたっぷり溜まった知識を求められるままに使っていたら、宰相補佐室に私の机が用意されました。
「それはいいのですが、何故か私がどの補佐官とくっつくか皆さんの話題になってるみたいなんですの」
仕事で顔を合わせたガイア王子とおしゃべり。強制力が無くなり、婚約者でも無くなったガイア王子は、今は話しやすい元同級生です。
「そりゃそうだよ。王子を振った君が次に誰を選ぶか、皆興味津々だから」
「王子を振った? 王子が私を振ったんですよ?」
「世間では、才女の君がアホな王子を見限ったと思ってるのさ。君を狙ってるのは宰相補佐官たちだけじゃないよ。蝗害予防の防御魔法を打ち合わせに行った魔法省の人や、土砂崩れへの救助を頼みに行った騎士団の人とか、貧民街への定期的な炊き出しの予算をもぎ取りに行った財務省の人とか…」
「女子力のカケラもない仕事の事しか話してませんわよ?」
「ちなみに君を国外に出させないように、誰かが君を射止めるように父上も彼らを煽ってる」
「……めんどくさい」
つい、淑女らしからぬ声が出て、ガイア王子が大笑いしてます。
ねえゲームの神様、まさか私がヒロインの乙女ゲームが始まっていませんよね…?
366
あなたにおすすめの小説
転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!
柊
ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」
卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。
よくある断罪劇が始まる……筈が。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ある平民生徒のお話
よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。
伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。
それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる