使い捨て聖女の反乱

あんど もあ

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前編

 王城の無駄に豪華な一室で、私は婚約者の王子と向かい合ってお茶を飲んでいる。

 と言っても甘い雰囲気は全くなく、仏頂面の王子と聖女の法衣を着た私が事務的に向かい合ってるだけだ。

 あ、どうもアネットと言います。田舎に生まれた平民ですが、瘴気を消す力・神力に目覚めて王都の中央神殿に勤めることになって3年の16歳。神力が大きいので「聖女」の称号をもらってます。お向かいの王子は7歳上の23歳。さっさと婚約破棄して貴族の令嬢と結婚したいというのが見え見えです。

「私も忙しい身だが、婚約者のためなら時間を空けるのもやぶさかではない。本来なら下賤げせんな平民が入れない王宮だ。ありがたく思え」
「ありがとうございます」
 夜中に西の町から延々馬車に揺られて帰って来たの知ってんだろ! もっと寝かせろ! こっちはわざわざ身支度して中央神殿からここまで来ないといけないんだぞ!

「残りの浄化は東の町だな」
「はい」
 東の町が終われば、とりあえず瘴気の被害が大きい町は全て浄化されて、やっと一息つける。 

「お前の神力が大きくて予定より早く終わりそうだ」
「ありがとうございます」
 この神力のおかげで「聖女」なんて立場になって、「王子の婚約者」なんて要らないおまけまで付いてきましたけどね!

 いや、婚約したころは歩み寄り分かり合おうと思ったんよ。でもこの人は無理! 今はひたすら「ありがとうございます」と「はい」を交互に言ってやり過ごすだけ。

「なので、褒美をやろう」
「はい」
 ビロード張りの小箱を渡される。開けて見ると……でっかいエメラルドのネックレス! いつ付けろって言うの? 趣味悪っ! 超イラネー!

「エメラルドという宝石だ」
「ありがとうございます」
 いやこれ色は濁ってるし、内包物インクルージョンだらけだし……。私にはクズ石でいいって事? それとも宝石屋のカモにされてる?

「大きいだろう。とても高価な宝石だ」
「はい」
 ……後者か。

「大切にするがいい」
「ありがとうございます」
 礼儀として深く頭を下げておく。
 しかし、神官は魔石を作るため宝石貴石に詳しいって知らないのかな。知らないんだな。

「今回の浄化は、途中で野獣に襲われたそうだな」
「はい」
 ……護衛騎士が猪に追われて逃げてった事かな?

「帰路では、騎士に盗賊から守ってもらったそうだな」
「ありがとうございます」
 一番みすぼらしい馬車に乗ってるのが浄化を済ませた聖女だと知って、盗賊さんに同情されてアメをもらったよ……。

「しかし、あまり騎士たちと親しくしてはいかんぞ。王子の婚約者が身持ちが悪いと噂される」
「はい」
「まあ、お前など高貴な騎士たちが相手するわけ無いがな」
「ありがとうございます」
「は?」
 間違えた。



 眠い~~寝かせろ~~、とヨロヨロしつつ中央神殿に帰ると、貴族神官に捕まった。

 “貴族神官”とは、本来“貴族の家に生まれて神官になった人”という意味なのだけど、神殿内では“貴族をかさに着て何もしない神官”という意味で使われる。継ぐ爵位は無いし働くのも嫌だから、ちょこっとある神力で神殿にでも入るか、と神官になった人たちだ。貴族の家の出身だけどちゃんと働いてる人たちは、そんな風に呼ばない。

「アネット。今回の浄化の報告書がまだなんだけど」
 王子に呼ばれたのを知ってますよね?
「大至急出せよ」
 寝かせろ~~~!
 お前は私の報告書に文句を付けて二、三回書き直させるしか仕事が無いんだろうけどな!、とヤツの後ろ姿に栗のイガを次々と投げつけるのを夢見て我慢する。

 私室に行くつもりだったのを公務室に変えて歩き出すと、別な貴族神官に捕まる。
「アネット。今日の礼拝がまだだろう」
 仕方なく礼拝室に向かうと
「祭壇の掃除もしておけよ。お供え物の入れ替えもな」
と、追撃が来た。てめーがやれよ!、と思っても口には出さない賢い私。

 礼拝室に行くと、一般参拝で来ていた子供連れのお母さんに声をかけられた。
「聖女アネット様ですね! 南の村を救ってくださってありがとうございます! 実家の皆が元の生活に戻れました」
 ううっ、こういう言葉をもらえるから聖女はやめられない。お母さんの横で私をキラキラとした瞳で見上げる少年よ、そのつぶらな瞳があればお姉さんは睡眠不足にも馬車酔いにも耐えてみせるぞ。

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