毒苺

植木みかん

文字の大きさ
6 / 6

しおりを挟む
(誰だろう、この人……)

 マジマジと見つめると、美丈夫は先ほどまでさえが見つめていた毒苺をちぎり、ひょいっと口に入れてしまった。 

「あ!!それ毒苺ですよ!」
「うーん、食べたのは初めてだけど、やっぱり美味しくないね」
「毒があるのに!」

 さえが叫ぶと、美丈夫は一瞬キョトンとした顔をしたが、次の瞬間にクスクスと笑った。

「毒苺なんて名前がついているけれど、これに毒なんて無いよ。無毒だからね」
「そう……なんですか?」

 てっきり毒があるのだと思っていたのに。

「毒だと思って、口にしようとしていたの?」
「あ…」

 毒だと誤認して口に入れようとしたと言えば、自殺未遂をしようとした気持ちの悪い子供だと思われる。

 どうせ一時の出会いでしかない相手だが、何故か彼にはそんな風に思われたくなかった。

「いえ……あの、食べられるのかなって思って……」

 口ごもりながらも否定すると、又もや美丈夫にクスリと笑われた。

「お腹でも空いてるの?」

 どの道恥ずかしい返答をしてしまったと、さえは頬を赤らめる。

「ところで、この辺に赤沼建設って会社があると思うんだけど、君は知らないかい?」

 赤沼建設なら知っている。
 子供でも知っているような、有名な大きな会社だ。

「あの道をまっすぐ行けば、大きな看板がありますよ」
「そう、ありがとう。私の名前は高屋敷直哉。君の名前を聞いてもいい?」
「は、はい。井上さえです」
「さえ君か…。ありがとう、またね」

 それはただ道を聞かれただけの、ただそれだけの事だった。それなのに、どうしても彼の事が忘れられず、時折思い出してはあの日の事を反芻していた。

 半年後、麗子の再婚相手として紹介されるまで……。






(痣を見ていたから、僕を引き取ってくれたのかもしれない……)

 そうでなければ、麗子が嬉々として自分の事を迎え入れるはずが無かった。
 全ては麗子の事を思っての事だったのだろう。麗子がこれ以上、子供の事で罪を犯さないようにと。

 与えられた真実に、さえは知らず唇を噛み締めていた。

「さえ、唇を噛んではいけないと言っただろう。悪い子だ」
「ぁ…ンっ…」

 ちゅ…と唇を吸う音が耳を刺激する。
 それだけでゾクゾクと熱が下に落ちる。

 直哉の技巧に、ショックに沈静していた脳まで煽られる。
 苦しくて悲しいのに、それとは別だというように、身体はどんどん熱を発していく。

「やっぁ…」

 晒されていた胸の粒を押しつぶされ、優しく吸われる。

「私のお嫁さんは嫌?」

(嫌だ……)

 男だからお嫁さんが嫌なのではない。
 身代わりだから嫌なのだ。

 だが、嫌だと言えば、直哉は何と言うのだろう。

(どうしよう)
(どうしよう)
(どうしよう)

 ここでこの手を取らなければ、永遠に直哉と会えなくなるかもしれない。

(そんなの……)

 決断はすでに決まっていた。

 例え身代わりでも、直哉の傍にいたい。
 去らなければいけない日がくるギリギリまで、直哉の傍にいたい。

 これが答えだというように、おずおずと直哉の背に腕を回すと、いい子だと髪にキスを落とされた。

「ベッドまで行く余裕が無いから、ここで我慢してね」
「は…はい」

 それがどういう意味を指しているのかなど理解していなかったが、さえはただ従順に頷いた――――。

「ぁッ……んっ、…ちゅ……」

 行為の間ずっとキスをされ、それに答えるのが精一杯で、這い回る手にまでは意識がいかなかったが、気づけば申し訳程度にまとっていた服も全て剥ぎ取られていた。肌のいたるところにキスを落とされ、強く吸われる。ちりっとした痛みが走るたびに、ビクビクと身体が震えた。

「いぁっ……!!」

 圧迫感に、朦朧としていた意識が浮上する。

 強い痛みでは無いが、無視できない違和感にさえは不安げな声を上げた。

「なお……や、さん?」
「時間をかけて慣らすから大丈夫だよ」
「……は、い?」

 どう聞いても疑問符がついている返事に、直哉はクスクス笑っている。

 けれど、笑いながらも指の動きは止まらない。

「ぇ?…あっ…そ、そこっ…!」

 どこを触れられているのか理解したさえは、慌てて身をよじった。

「危ないから動いちゃ駄目だよ」

 傷ついたら大変だと囁かれても、さえは困惑に身体を後退させる。

「だ、だって……えっ…えっ…」

 必至に逃げをうっても指は挿入されたままで、ぐちゅ、っと湿った音が耳を犯した。
 既に何度も直哉の指によって吐精させられたもので、そこを慣らされている。

 さえは、やっとどこまでこの行為を行うのかを理解した。

 だがここまできて逃げられるはずもなく、時間をかけて慣らす指に、ただ翻弄されるだけ。

 永遠に続くような長い時間の後、直哉に「痛くしないからね…」と艶めいた声で捕らわれ、さえはぎゅっと目を閉じた。

「ひゃ、あっ!……ぁぁぁっ!」

 それは、息もできない圧迫感だった。
 堅い大きな固まりが、秘所を犯していく。

「ぅ、くっ…ん!…ぁんっ、…!!」

 根元まで入ったのが自分でもわかる。
 信じられないくらい奥深くに直哉を感じる。
 熱くて熱くて、直哉から与えられる熱に身体の全てがドロドロに溶けてしまいそうだ。

「っ、…な、ぉや…さぁん…ぁンっ!」
「辛いなら、一度抜こうか?」
「んんーっ、だ、めぇ…ぬかな、いでぇ…」
「さえ?」
「い、や…いか…なぃで、なお…やさん…どこ、にも…いかなぃ、で…ッ!」

 泣きながら直哉の背にすがり、懇願する。

 直哉が近くにいる。
 こんなに近くにいる。
 離れたくない。
 傍にいて欲しい。
 
 例えこれが、罪だと分かっていても……。

(きっと僕には天罰がくだる)

 実の母親の幸せを願わず、その相手を欲してしまった自分。

 義父だというのに、法律上も道徳上も交わってはいけない相手を愛してしまった自分。

 神はきっと天罰を与えるだろう。

 けれど……。

「あぁン、んっ、…ぃぁ、ッ!」

 墜ちていく。
 心も身体も。

 それでもこの選択に悔いはない。

 きっと何度この岐路に立たされても、自分は直哉を求めることを自制できない。

「ご、め…んな、…さぁ…い…ぁん、…っ、はっ、ぁン…ごめん、さぃっ」
「さえが謝る事なんて、一つも無いんだよ」
「す、きですっ。な…や、さん…がっ…ぁあ…ンっ」
「私もさえが大好きだよ。――――愛してる」

 耳元で囁かれる愛の言葉。
 それが偽りの言葉でもいい。
 代わりでもいい。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

『定時後の偶然が多すぎる』

こさ
BL
定時後に残業をするたび、 なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。 仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。 必要以上に踏み込まず、距離を保つ人―― それが、彼の上司だった。 ただの偶然。 そう思っていたはずなのに、 声をかけられる回数が増え、 視線が重なる時間が長くなっていく。 「無理はするな」 それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、 彼自身はまだ知らない。 これは、 気づかないふりをする上司と、 勘違いだと思い込もうとする部下が、 少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。 静かで、逃げ場のない溺愛が、 定時後から始まる。

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

処理中です...