3年前に疎遠になった彼女と付き合うまで....

海音²

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「どうせ、多田野君……いや、和樹は今も私の事好きなんでしょ? 付き合ってあげるから、私の彼氏になりなよ?」

 は? 3年ぶりぐらいに、俺と話をしている女性は、あの頃の様な満面の笑みではなく、クスッと笑ってた。
 彼女は俺の首元に腕をまわし抱き寄せ、胸で俺の頭を包み込んできた。
 なぜ、こんな事になってるのか、俺は彼女の胸の感触にこのまま身をあずけたいと思ったが、それを必死に耐え、こうなる迄を、思い出そうとした。

 ───────────────────────

 俺は、人との距離感が上手く掴めず、そのせいで高校生になった今でもクラスでは、孤立に近い状態になっている。 昔は距離感とか気にすることも無かったし、周りには友達も沢山いた。でも、中学に入学してすぐの頃、1人の男子生徒から「女子と距離感が近すぎだろ」と弄られるようになった。
 その女子とは、小さい頃からずっと一緒で、どんなに相手が怖くて震えてても、ハッキリと話をするその子の事に、俺は惹かれ、好きになってた。そう、その女子は俺の初恋の相手だ。

 俺は弄られてるうちに、だんだんその子との距離感をとる方がいいのでは?と思い始め、ある日教室でその事を伝えた。それを聞いた彼女はハッキリとした口調で「わかったよ」と、俺に言ったが、身体は震えてた。その日以降、俺と彼女が話す事は無くなった。

 自分の考えが間違ってた事、そして、あの日のいつもと違う、彼女の震えに気が付かなかった事、それに気づいた時には、もう遅すぎて、彼女とは、もう疎遠になって話すきっかけも無くなっていたし、俺もその間違いを知ってから、相手との距離感が上手く取れなくなり、自分から話に行けなくなっていた。

 そんな俺を母さんが心配して、高校生になった俺に、ファミレスのバイトを進めてきた。俺は断ることも出来ず、先週からバイトを始めた。

 そして今日も夕方からのシフトに入ってたのだが……夜のピークを乗り切った時、事件が起きた。1人の女性スタッフが、執拗に高校生の男子に話しかけられてた。最初のうちは、話しかけてるだけだったが、だんだんエスカレートしていき、腕を掴んで引き留めた。流石にこのままだと思い、俺が止めに入った。

「あのぅ、バイトの子にナンパするのはやめて貰えないですかね?」

「はぁ? 俺はただ、今度遊びに誘いたいから、連絡先教えてくれって言っただけだろ?」

「ですから、それを辞めて欲しいと、言ったんです」

 そもそも、なんで今のご時世に、飲食店の店員にナンパしてる高校生がいるんだよ……

「新人の癖に客に、文句言うんじゃねぇよ!」

 そう言って、怒鳴りながら、俺の胸ぐらを掴んできた。

「あの~、制服にシワが付くので離して貰えません?」

「少し顔がいいからって、生意気なこと言ってんじゃねぇぞ!」

 そう言って、俺は思いっきり顔を殴られた。あ~あ、コレで正当防衛成立するかな? 口の中少し切れて血の味するし、良いよね?

 そう解釈した俺は、両手で胸ぐらを掴んでる手を内側からひねり上げ、そのまま客の背中を片手で抑えテーブルに押さえつけた。

「いてぇぇぇ!!客に手を上げるとかどんな店なんだよ!!」

「コレはあくまで、正当防衛ですよ? これ以上暴れるようなら警察呼びますけど?」

「正当防衛だァ!? ふざけんぎゃぁぁ!!」

 俺は、更に腕を捻り上げた。

「お代は結構ですので、お引き取り下さい」

 ニッコリした顔で、そう言って俺は手を離した。客は捻られた肩を抑えながら俺を睨みつけ、顔を真っ赤にさせて帰って行った。

「多田野君ちょっと裏まで来て貰えるかな?」

 店長は俺を呼び、そのまま裏へ戻って行った。
 はぁ~、コレで俺もクビかな~まぁいっか……でも1週間しか働いてないんだよなぁ~……そう俺…多田野和樹の、人生初のアルバイトは今終わろうとしてた。

 俺は、他のお客に頭を下げて、裏でデスクワークをしている店長の元へ向かった。その後、事情を伝えたら、モニターで様子を見てたらしく、「暴力はダメだけど、今回は仕方がないよ」と、厳重注意だけでクビにならずに済んだ。

 ただ店長は、その後「ただね」っと言ってから、ネチネチと注意を言ってきた。そのせいで気がついたらシフトの時間が過ぎていた。俺は店長の言葉で、精神的にも疲れ、慣れてないバイトでただでさえ疲れてるのに、シフト時間が過ぎても残されずっと立ってたせいで、俺の体はかなり重く感じた。家に着いた時には22時を大幅に超えてた。

 高校生になってバイトを始めたけど、正直お金稼ぐのがこんなに大変だったとは、思ってなかった。

 ヘトヘトになって帰ってきた俺は、親ももう眠ってるのか、暗いリビングに行ってお茶を飲んだ。テーブルには、母が作った晩御飯があるが、疲れて食べる気にならない、なんならシャワーも明日でいいとすら思えてきた。
 俺は疲れて重い足取りで、部屋まで戻りそのままベッドで意識を手放した。

 ───────────────────────

 ん? 誰かに頭を撫でられるような感触が···それに···なんか甘い香りも···俺は、重い瞼を開くと、
「起きちゃったかな? 多田野君バイトお疲れ様♪」

 そこには、俺が3年前に距離をとろうと伝えた彼女……今泉佳奈が優しく微笑んで、俺の頭を撫でていた。

「なっ…なんで今泉さんがここに居るんだ!?」

 今泉は俺のベッドの壁側に横向きに寝そべって俺を見ていた。

「なんでって、私が今日泊まるって、お母さんに聞いてないのかな?」

「母さんに? 泊まる?」

 ダメだ。ここ最近の疲れと寝起きやらで、頭が全然回らない……

「まったく、多田野君のお母さんずっと心配してたんだよ? 息子が中学入ってから、暗くなったとか、人付き合いが苦手になったとかね」

「なんで……今泉さんと母さんがそんな話してるんだよ……」

「あれ? 聞いてないのかな? 母親同士は未だに仲良くしてるから、よく私の母さんとお茶するのに来てるのよ?」

 なんだよそれ……1度も聞いたことないんだけど。

「だから、私が提案してみたの。『多田野君の人付き合いを治す為にもバイトさせてみたらどうですか?』って感じでね♪ もちろん、今行ってるバイト先の求人も教えてあげたのは、私だよ?」

 そう言って、また俺の頭を撫でてきた。 撫でられる度に恥ずかしいけど、バイトを頑張ってる事を褒められてるような気分になり、撫でられ続けた。

「でも、なんでそこまでしてくれるんだ? あの時、今泉さんを傷つけてしまったのに」

「私は多田野君の気持ちを知ってたし、周りに言われてそう思っちゃうのも仕方ないなって思ったんだよ」

「俺の……気持ち?」

「そうだよ。多田野君の気持ち。私は知ってるのに、多田野君が分からないなんて……仕方ないわね。私が、多田野君に教えてあげようじゃないか」

 そう言って、俺の頭を撫でてた手を滑らし、そのまま俺の頬を、そっと撫で、少し顔を近づけてきた。

「どうせ、多田野君……いや、和樹は今も私の事好きなんでしょ? 付き合ってあげるから、私の彼氏になりなよ?」

 ───────────────────────

 それで、俺は今泉の胸に今尚、挟まれてるのか……思い出したぞ。
 思い出したからこそ、先程の今泉の言葉の意味がわからなかった。俺は名残り惜しいと思いながらも、今泉の胸から顔をのけた。

「俺が今泉さんの事を「今泉さん?」…え?」

「なに? 今泉さんって? 和樹は、周りに誰も居ないのに、なんでそんな他人行儀な呼び方するのかな? 確かに私も、さっきまで苗字で呼んでたけど、お互いの気持ちもわかってるんだし、今更苗字で呼び合うのもおかしいよね? それとも、誰か見えない人が和樹の視界に映ってるのなら、さっきみたいに抱きしめて顔を近づけて、私以外見えないように隠さないといけないね」

 そう言いながら今泉……いや、佳奈は抱き寄ってきた。さっきみたいに、俺の顔は胸に包まれることはなく、その代わり鼻同士が触れそうなほど顔が近かった。
 窓から差し込む夜の光に照らされ、薄暗い部屋でも佳奈の顔が良く見えた。そして佳奈のどんどん俺の理性や思考すら吸い込まれてそうな……そう、まるで綺麗な星空みたいな、黒く輝き澄んだ瞳から目が逸らせずにいた。
 俺はそんな彼女の瞳から慌てて視線を逸らし、さっき言えなかった事をもう一度言った。

「は……話を戻すけど、今泉さ……いや、佳奈の事を今も俺が好きってどういう意味だ? それに、泊まるのはわかったけど、なんで俺のベッドで寝てるんだ? いくら母さんでも、高校生の男女が一緒に寝るって言ったら反対すると思うんだが?」

 視線を逸らしたまま、俺が佳奈に質問すると、

「和樹と、久しぶりに話したくて待ってたら、和樹のお母さんから聞いた時間になっても帰ってこなくて、少し眠くなったから仮眠しようと思ってただけだから、和樹のお母さんは知らないんだよ。 まぁ、寝てた私も悪いと思うけど、まさかベッドに居る私に気づかず寝ちゃうとは、思わなかったけどね。それについては、暗くても和樹の寝顔を見れたから、別にいいんだけどね♪ それに……」

 佳奈は、俺が視線を合わせるのをジーッと見つめながら、待ってた。俺が視線を戻したら、クスッと笑い佳奈は口を開いた。

「和樹は、あの日以降、ずっと私を見てきてくれてたじゃない? それって、和樹は私の事が好きだったから見てたんでしょ? そうじゃなかったら、あの日私を遠ざけてるのに、そんなことするわけないじゃない?」

 そう言って佳奈は更に身体を密着させるように、俺を抱きしめてきて、佳奈の全てが、俺を刺激してきた。これ以上は理性がなんて言っていられないと思い、佳奈に提案した。

「と……とりあえず、ちゃんと話するためにも、一旦部屋の電気つけて明るいところで話さないか?」

「逃げちゃダメだよ? ちゃんと答え出すまでは、このまま離さないよ?」

「正直に言うと、佳奈が近すぎて緊張するし、頭もちゃんと回らないんだ」

「和樹は、私が好きなんだから近すぎじゃないし、ドキドキするのは、当たり前なんだよ? それに、周りの事を気にするから、考えちゃうだけで、和樹の気持ちはもう決まってるでしょ? 私だって、好きでもない人にこんな事しないよ? ほら私もドキドキしてる……」

 そう言って、佳奈は俺の手を自分の胸に押し当てた。初めて触る女性の胸は、柔らかいのに少し弾力があり、それだけでもう俺の理性は限界を超えてた。しかし、佳奈の心臓も、鼓動が激しいのが手につたわり、そんなつもりで触らせてきたんじゃないんだと、自分に言い聞かし、必死に踏みとどまった。

「ね?私も同じでしょ?」

「あぁ……」

 俺はそう言って、少し……いや、かなり名残惜しいけど、佳奈の胸から手をのけた。俺がこんなに緊張したりしてるのって、今も佳奈が好きだから?確かに嫌いな人にこんな事されたら、悲鳴あげるだろうし……それでも……

「それでも、いきなり彼氏は早過ぎないか? せめて今までの時間を埋める期間は「それじゃ遅いの」あっても……?」

「今日、和樹が決めてくれないと、私は諦めて他の人と付き合うつもりだから」

「え? なんでそうなるんだ!?」

 俺は、今日中と言うか、今決めないと佳奈が他の人と付き合うっと言われ焦ってしまった。だって……佳奈は俺のことが好きで、俺も佳奈の事が好き?な筈なのに……

「ずっと、和樹が私に話しかけてくれるのを……いえ、和樹が私に気持ちを伝えてきてくれるのを、ずっと待ってた。でもね、私はもう、これ以上待ちたくないの。本当なら、3年前には、もう付き合えてたかもって考えたら、1秒でも無駄にしたくない。 だから、今決めてくれなかったら、私は諦めるつもりよ? それに……今日…と言うより昨日ね、1つ上の先輩に告白されてて……1日だけ待ってもらってるのよ」

「つまり……俺が今彼氏にならないと……」

「私はその先輩と付き合うつもりよ」

 待ってくれ! やっと佳奈とこうやって話せてるのに……佳奈の気持ちもわかったのに……他の男子と付き合うのを見るのは……嫌だ!! だけど……

「俺もこの3年間、佳奈と話したりしたいと思ってた。でもきっかけが無いし、俺が佳奈を傷つけたって分かってからは、もっと話しかけづらくなって……気がついたら今日まで話せずに過ごしてた。だから、今こうやって……内容はアレだけど、話せるのは凄く嬉しいし、懐かしくすら思ってる。 でも、それと恋愛は別で、佳奈が好きなのかまでは、正直まだハッキリと分からないんだ。そんな状態で、すぐに答えを出すのは、佳奈に悪いと思し、申し訳ないと思う。それでも、自分勝手なこと言ってるのは、わかってる。俺に時間をくれないか? 必ず答え見つけるからさ?」

 俺がそう言うと、それまでずっと見つめていた佳奈は目を閉じ、俺の言った言葉を、噛み締めながら理解してるようだった。
 少しして、目を開いた佳奈は、俺を再び見つめ口を開いた。

「和樹の、気持ちはわかった。話したいと思ってくれてた事だけでも、私は素直に嬉しいと思ってる。でも、私ももう待ちたくないの、だから和樹にもう一度聞くね。 今日から私の彼氏になりたいか、それともこのまま離れるか、選んで欲しい」

 俺が思ってる事を素直に伝えたが、佳奈は付き合うか離れるかの2択しか選択肢を与えてくれなかった。

「今俺が、彼氏になれたとしても、すぐ別れるかもだぞ?」

「そこまで、心配になるなら仕方ないね。それなら打開策を1つ提案してあげるよ」

「打開策?」

「打開策と言うか、妥協策だね。今日までは、私の彼氏という席は空白のままなのは理解してるかな?」

「それは理解してる。空いてないのに俺に、俺に2択を迫ってるなら、辛いしな」

「その辛さは杞憂だね。私が和樹に、彼氏という席をリースしてあげるのはどうかな? もちろんリースするならそれなりの対価を、支払ってもらうけどね」

「リースって……つまりお試しって事か?」

「まぁ、平たく言えばそうだね」

 確かに、それなら無理に今日答えを出さなくてよくなるし、時間も確保できる。 それに佳奈も、それでも良い感じだしな。後は……

「その対価ってのはなんなんだ?」

「簡単な事だよ。彼氏として私がして欲しい事をしてもらうだけだね。もちろんリースだから、ある程度抑えて言うけどね」

 なるほど……つまり手を繋いでとか一緒に登校とかそんな感じか? それぐらいなら特に気にする事はないかな。むしろ、嬉しいとも思ってしまう。

「わかった。ならリースと言う形で佳奈の彼氏になるから、先輩と付き合うってのは、やめて欲しい。たのむ、俺に時間をくれ」

 俺はどうにか時間を貰いたくて、佳奈に頼んだ。

「わかった。明日先輩の告白断って、和樹との時間もあげるね。それじゃ和樹、今から彼氏としてよろしくね」

 そう言って佳奈は、一旦離れたと思ったら、俺の胸に顔を埋めるように、また抱きしめてきた。俺は、自分がされてた時とは違ったドキドキ感があり、鼓動が早くなってるのが、バレないかと思い焦った。

「和樹も私と同じで鼓動がすごく早くなってる……それだけで嬉しくなるよ」

 小さく呟くように佳奈がそう言った瞬間、俺は動かせる腕を、無意識に佳奈の背中に回し抱きしめていた。俺は自分でもいきなり何をやってるんだと思って、慌てて腕の力を抜いた。

「わ……悪いかった」

「和樹……やっと自分の気持ちに素直になってくれたのね♪」

 そう言って佳奈は嬉しそうに俺の胸に頬擦りしてきた。流石にこれ以上何かされたら、お試しでと俺からお願いしてるのに、耐えれなくなりそうだった。

「ところで和樹。そろそろ寝ないと、明日起きれなくて、学校遅刻しちゃうかもね。それに、私も、ずっと緊張してて、ホッとしたら、もう眠くて限界が来てるかな」

「そうだった! なら佳奈は、このままココで寝てくれ。俺は床で寝るから」

 そう言って俺がベッドから降りるため、佳奈から離れようたしたら、佳奈が俺の服を掴んできて、離そうとしなかった。

「何を言ってるのかな? 早速対価を支払ってもらうよ。このまま私の抱き枕として一晩……寝てもらうか……ら…」

 待ってくれ!今そんな事したら……

「それは俺の身が持たないから!」

 俺は何かを言わずに佳奈に頼んだ。

「だめ……本当にもう限界だから……おやすみなさい和樹……」


 無情にも俺の頼みか聞き入れられず、そう言って佳奈は眠りについた。あまりの寝つきの良さに、本当に限界だったみたいだ。俺の服を掴んでる手を外そうとしたが、しっかりしがみついてて外す事を諦めた。

 俺は諦めて、極力佳奈を見ないように目を閉じて、必死に寝ようとした。しかし、目を閉じたことで、佳奈の寝息や温もりが余計にハッキリとわかり、佳奈の匂いまで一段と強く感じた。俺は寝てるフリしてそっと頭を触るぐらいならバレないかと、手をそっと頭に乗せた時、急に佳奈がモゾモゾしだして俺の鼓動が一気に早くなった。

「ふふっ……和樹♪」

 そう寝言を言って、静かにまだ寝息が聞こえた。ったく、俺が必死で耐えてるのに、佳奈は幸せそうな夢を見てるんだろうな。俺は、自分だけドキドキしてるのも馬鹿らしくなり、軽く佳奈の頭を撫でた。佳奈の髪は艶のある黒髪ってのは知ってたけど、こんなにサラサラしてたなんて知らなかったな……ヤバいこのままじゃずっと触りたくなってしまう。
 そうなったら明日が困ると思い、俺は撫でるのをやめて目を閉じだ。なんだかんだ緊張して寝れないかと思ったけど、俺も限界だったみたいで、自然と眠気が来て、俺も眠ってしまった。

 ───────────────────────

「和樹、起きて。もう朝だよ」

「んん~……佳奈? なんでここに?」

「何寝ぼけた事を言ってるのかな? もしかして昨日の事忘れちゃったのかな……?」

 そう言って俺の胸に頭を埋めている佳奈は、顔を上げ上目遣いで、俺に聞いたきた。一瞬何が起きてて、佳奈は何を言ってるのか、わからなかったが、すぐに昨日の事を思い出し、冷静になった。

「そんな事は無いよ。俺が寝ぼけてたみたいだ。おはよう佳奈」

「ふふっ♪ おはよう和樹♪ なんかこんな朝も良いもんだね」

 そう言って万遍の笑み笑った笑顔に、俺は昔の佳奈と目の前の佳奈が重なり、朝からドキリとしてしまった。

「おや? 和樹急に心臓が早くなったけど、私の笑顔を見て、ドキドキしてくれてるのかな?」

 俺が反応したのが嬉しいのか、佳奈は俺の胸におでこをグリグリしながら、嬉しそうだった。

「それは、わかってても言わないでくれ。とりあえずシャワー浴びてくるけど、佳奈は、どうするんだ?」

 俺は、昨日シャワーを浴びてなかったことを思い出し、汗くさくなかったか?とか一気に不安になった。

「私も和樹の後に借りる事にするよ。だから先に行ってきていいよ?」

「そうか? なら先に浴びてくる」

 俺はそう言って、佳奈に不安になってるのが、バレないようにシャワーを浴びに行った。その後、入れ替わりで佳奈も、シャワーを浴びに行ったから、その間に制服に着替え、学校の時だけつけてる眼鏡をつけ、準備をした。その時気がついたが、いつもより気持ちも体も凄く軽く感じた。その後、バイトや休日以外は特に髪を整えたりもしないから準備自体はすぐに終わり、俺はリビングに行って、母さん達と話したりした。その後、佳奈も準備を終えリビングに来たから、朝ご飯を食べ、俺達は学校へ向かった

「ねぇ、和樹は私にして欲しい事とか無いのかな? せっかくお試しでも彼氏になったんだよ?」

「そうだな……それなら手でも繋いで登校するか?」

 俺は何気なく、右手を佳奈に差し出しそう言った。

「全く和樹は、欲が無いんだから……」
  
 そう言って佳奈は、俺の右腕に抱きついてきた。

「手じゃなくて、こうやって登校してあげるよ」

 仕方ないみたいな事を言いながらも、嬉しそうに佳奈は、歩き出した。

 暫く歩いてたら、2人組の男子生徒が俺たちの方に近づいてきた。それ2人組を見て、佳奈は一瞬肩をのを、俺は腕から感じ取っていた。

「今泉さん? 昨日約束したのに……なんでそんな男と楽しそうに登校してるんだよ!?」

 俺は、震えてる佳奈が心配で、佳奈の方を見ていたから、男子生徒の顔を見ていなかったけど……この声って……

「説明しろよ! なんで「ごめんなさい!!」そん……な?」

「私は、先輩とは付き合わないわ。昨日、気持ちを伝えあって、私達付き合うことになったから」

 そう言って、俺の腕を強く掴み、そのまま俺の腕に顔を埋めてきた。そして、見るだけだと分からないかもしれないが、佳奈は今も震えていた。その瞬間、俺は自分が実は、佳奈の事を何も見ていなかった事に気がついた。

 何が今の佳奈がだよ……何が昔の佳奈がだよ……変わってないだろ。昔から、ハッキリと喋るけど、怖い時は、いつも震えてたじゃないか……今も震えながらも必死に話して……ほんと、昔と変わらない……むしろ、今は俺にしがみついて助けを求めてきてるじゃないか……それなのに俺は……

「そんなダサい奴より、俺の方が絶対いいだろ!? それに…「黙って貰えませんか?」…は?」

「昨日はナンパで今日は怒鳴って無理やりですか?」

 俺がそう言うと、先輩は睨みつけてきた。

「き…昨日?一体何を言ってるんだ? そもそもお前も、自分の身の丈に合わせて、どっか行ったらどうなんだ! どう考えてもお前みたいな男と今泉さんが、釣り合うとかありえないだろ! それともあれか? 釣り合うとか思ってんのか?」

 先輩は、俺を凄い剣幕で睨みつけ、大声を出してた。ったく、少し見た目が違うだけで、昨日の今日で俺に気づかないなんて……

「悪いが、俺は別れるつもり無いな。身の丈って言うなら、昨日も発情した猿みたいにナンパしてた先輩の方が、釣り合わないと思いますけど?」

 俺はそう言って、眼鏡を外し、前髪を軽く整え、ニッコリ笑った。俺の笑顔を見て、先輩の顔は、サーっと青ざめていった。

「お……お前昨日の新人か!?」

「えぇ、先輩のおかげで色々話とかしたので、帰るの遅くなったじゃないですか。もしこれ以上に絡むなら、是非お礼したいと思ってるんですけど?」

「いや……今泉さんの気持ちを聞けたし、俺はもう十分だ。くれぐれも言うんじゃねえぞ?」

 そう言って先輩は、舌打ちをしてさっさと歩いて行った。俺はもう1人の方を見て話しかけた。

「君のせいで、かなり遠回りして時間かかってしまったみたいでさ、これ以上僕達に関わるなら、今までのお礼もしたいんだけど?」

 そう、この男子生徒が原因で俺と佳奈は3年も距離を置くことになった張本人だった。

「え? あ~俺先輩追いかけないと!」

 残されてた男子生徒も、慌てて追いかけて行った。

 2人がいなくなって俺は、佳奈の方を見て、安心させようと思い、空いた手で軽く頭を撫でた。佳奈は一瞬ビクッと大きく震えたがすぐに震えが止まり、頭を撫でられてた。

「2人共いなくなったからもう大丈夫。佳奈、怖くなかったか?」

「ちゃんと守ってくれると、信じていたから大丈夫だよ」

 埋めていた顔を上げ、嬉しそうに笑って俺を見てきた。
 まったく……腕にしがみついてたんだから、俺にバレてるのに。

「それにしても、なんで返事を1日遅らせたんだ? あんなヤツその場で、断ればよかっただろ?」

「それは……昨日私に告白してきた時は、あんな感じじゃなかったんだよ。だからもし昨日、和樹が彼氏になってくれなかったら、私は和樹を諦めて、そのまま告白を受け入れようと思ったの」


 佳奈は、なのに今日いきなりあんな態度ですごく怖かったと、ボソボソっと言ってたが俺にはちゃんと聞こえてた。
 俺は、そんな佳奈の言葉に驚いて、何も言えなかった。もし、俺が断ってたらと考えたら、さっきの先輩に怒鳴られたりする、佳奈を見てしまうと思ったら、怖くなった。

「それに、和樹の事だから、私が誰かと付き合えば、その時点で、もう元に戻ろうと思わないと思ってたからね」

「確かに、佳奈が誰かと付き合ってたら、迷惑かけたくないから、話しかけたりはしないだろうな。だけど…「でもね」ん?」

「でもね、和樹はリースとは言え、彼氏になってくれたから、まだチャンスがあるんだなって思えて、ちゃんと断ることが出来たよ。それにしても、あんな怒鳴る人と和樹を天秤にかけてたなんて、自分の馬鹿さ加減に正直嫌になるよ」

「まぁ、もう断ったことだし良いんじゃないか?……それより、もう1つ良いか?」

 俺は自分の気持ちに素直になろうと思った。ちゃんと伝えてコレからは、俺が佳奈を守ると決めたから。

「歩きながらじゃダメなのかな? まだ時間があるとはいえ、あまりギリギリに登校するのは嫌なんだけど?」

「なに、すぐ終わるから安心してくれ。リースについてだ」

 俺がそう言ったら目を見開き上目遣いで不安そうにみていた。震えてはいないが、腕に抱きつく力はかなり込められてた。

 まったく……何をそんなに心配してるんだか。

「このまま佳奈の、彼氏としての席を俺が貰ってもいいか?」

「え?」

「だから、リースじゃなくて、正式に俺を彼氏にしてくれって言ったんだ。それに、これから3年分一緒に埋めて行きたいし、なにより、これからも佳奈の彼氏として俺が守っていきたい」

「いいの?」

「良いもなにも、決めるのは俺じゃなくて、佳奈だろ?」

 俺がそう言うと、いきなり何を言われたのか理解出来てないのか、キョトンとした顔のまま、見開いてた瞳からは自然と涙が零れつつ、俺の言葉の意味を理解していった。

「いいよ……あげる。和樹を私の彼氏にしてあげる!!」

 そう言って周りを気にせず、俺に顔を引き寄せ唇にキスをしてきた。唇を離した佳奈は、泣きながらも嬉しそうにニッコリ笑ってた。

「今のは、リースと彼氏にしてあげる対価として、和樹のファーストキスを貰ったから♪ それに、私ばかり守ってもらうのも嫌だから、和樹が苦手になってる人との距離感は、私も手伝うから♪」

「そうしてくれると助かるよ。と言っても、もうかなり助けられてるけどな」

「私に任せたら大丈夫だから、安心してね♪」

 そう言って昔みたいに……いや、今も佳奈は俺に飛びっきりの笑顔を俺に向けてきてくれた。俺は、そんな佳奈が可愛くて、思いっきり抱きしめた。

 3年間も、俺のせいで遠回りして、やっと俺達は付き合った。コレからは、遠回りした3年分を取り返すように、沢山思い出を作っていきたい。そして、佳奈の、嬉しい時のこの、万遍の笑みと星空の様な綺麗で澄んだ瞳を隣でずっと守っていきたい。
 そう心の中で誓った俺に、今までで1番の天使の様な万遍の笑みをしていて、綺麗に澄んだ瞳を佳奈は見せてくれた。
     でも······一瞬だけ俺には、悪魔の様な冷たい笑みと、黒く濁った瞳に見えたのは、気のせいだろうか?
















「ふふふっ……♪」
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