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変調の兆し
十一
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すばるの決意を尊重するために皓月は今までのやり方を変えることにした。
もちろん病神が現世に出てくれば当初の予定通り刀を持って戦うつもりだ。だがそれとは別に日常的にすばるの負担を減らす方法が何かないかと考えたのだ。
これまではすばるの側に常に待機して不測の事態に備えることを優先していたが、話し合いの後皓月は毎夜彼を残して出かけるようになった。
すばるの守護者であることを優先するあまり忘れがちだが皓月は月光の神である。月光には僅かながら世の中を浄化する力を持っており、皓月はその力をより高めることにしたのだ。
月の力が高まる夜に昔すばると共に夜空を見上げた見晴らしのいい丘へと向かい、月の光を全身に纏いながら月と同化していく。月光の神の権能は人々の夜の安らぎを守るための力、悪夢から人々を守り癒す力。そこから派生する浄化の力をより強く引き出すことで人々が眠る間にその身に浴びた穢れを祓い、病神から受けた影響を軽減していくのだ。
皓月は浄化の神ではないのでこれだけで病神の穢れを完全に抑え込むことはできないが、少しはすばるにかかる負担を減らすことができるだろう。続けていく毎に浄化の力が増していくことを身の内に感じて、今までいかに月光の神として未熟であったかを自覚したのだった。
「しかし、この程度では焼け石に水だな。病神め、腐っても幽世の次席か……」
皓月は決して弱くはない。弱くはないが、神としての能力は中の上といったところだ。今懸命に己の力を高めているが一足飛びに能力が伸びるわけではない。
対する病神は神の中でも指折りの実力者。穢れ神に堕ちてもその力は凄まじいもので、その余波でさえ皓月の力では手に余るものだった。
皓月が夜の修業を始めて暫く経った日の午後、全員で休息を取って近況を話していると皓月は忌々しいと顔を顰めて呟いた。
「ですが皓月殿、決して無意味ではありませぬよ。僅かではありますが近隣の町では体調不良を訴える者が減ったとか」
「そうそう、土地神情報だから間違いないっすよ。快癒のお礼参りに来る人が増えたって喜んでましたから」
「ほう……そうか」
己の未熟さに臍を噛んでいた皓月に喜ばしい報告をしてくれる篝と蛍。それを聞いて僅かに口角を上げる皓月に二人も柔らかく微笑んだ。寝る間も惜しみ、すばるから泣く泣く離れて責務に励んでいるのだ。結果が伴っていると聞けば素直に嬉しい。
しかし、最も嬉しい言葉をかけてくれるのはやはりすばるだった。
「最近の参拝の人たち、皆僅かに皓月の月光の光を纏っているんですよ。彼らは月光の加護で穢れが少し払われているし、そういう人たちの身を贖うと僕の体にも皓月の加護が流れ込んで僕の負担も軽くしてくれるんです。こんなことを言うのは不謹慎ですけど、皓月と一緒にお勤めをしているようでちょっと嬉しいんですよ」
「それは本当、か?」
「あい。もちろん」
「あぁ……!」
胸に手を置き、はにかんで告げる言葉に感動に打ち震える皓月。皓月の力はすばるの助けになっている。今更ながらにただ守る以外のやり方があったのだと実感して胸が締め付けられる。皓月はその喜びのままに手を伸ばし、すばるの細い体を強く抱きしめた。
「お前の負担が減っているのなら、毎夜我が身と向き合う甲斐もあるというものだ。嬉しいよ、すばる」
「そんな、僕こそ嬉しいです。皓月」
すばるの助けになっているということは勿論、合わせてもう一つ。すばるは己の体に皓月の力の一端が流れ込んでいると言う。間接的とはいえ愛するすばるの中に混じり合い、一つのものになっているという事実で頭がどうにかなってしまいそうだ。皓月は喜びと興奮に支配されたまますばるを抱きしめ、首筋からほんのりと香るすばるの匂いを堪能するようにめいいっぱい空気を吸い込んだ。
そんなことをされてたまらないのはすばるだ。
「わ、あ、あの、皓月?」
「ん?」
「う……」
少しだけ顔を上げて首を傾げる皓月。超至近距離にあるその顔面の威力は彼に恋するすばるにとってとんでもない破壊力だ。耳まで真っ赤に染め上げて、結局何も言えず池の鯉のように口をはくはくと動かすだけにしかならない。その反応に嫌がられていないと判断した皓月は満足そうに再びすばるの首筋に顔を埋めてしまった。
「わぁお、熱烈っすねぇ」
「これ、蛍。こういう時は空気を読むものぞ」
こそこそと耳打ちし合う火の主従たちは頼りにならない。助けを求めて見つめても生温い目で意味ありげに微笑んでいるだけだ。
伝える気がないと言いながら行動は裏腹。二人が一時離れていた一年で更に距離感が喪失している。今回のことで更に絆が深まれば、お互いの感情に気が付く日もそう遠くないなと頷き合う篝と蛍であった。
「じゃあ後は若い二人に任せて」
「お邪魔虫は退散いたしましょうか」
「へっ、待って待って!これ以上は心臓が持ちません!助けて!」
せめてここにいて!と懇願するすばるに獣の本能に支配されて彼を離す気配のない皓月。このままどうにかなっちゃってもいいんじゃない?と二人の恋応援派の蛍と篝はにっこり笑ってそっと部屋を離れていった。
「まっ!そんな!」
「すばる……嫌なのか?」
「嫌なわけありません!」
しゅん、と耳と眉を下げる皓月にぶんぶん首を振る。悲しませてはいけない、とすばるは羞恥を押し隠し真っ赤な顔のまま抱きついた。ぎゅう、と強く抱きつけばすかさず皓月の逞しい腕と大きな尾が体に巻き付いてきてすばるの体をすっぽりと包み込んでしまう。
くすりと小さく笑う声が聞こえる。
「私の可愛いすばる」
とくとくと命を刻む皓月の心臓の音。包み込まれる慣れた安心感に体の力が自然と抜けていく。すばるはゆっくりと目を閉じてその温かさに身を任せた。
もちろん病神が現世に出てくれば当初の予定通り刀を持って戦うつもりだ。だがそれとは別に日常的にすばるの負担を減らす方法が何かないかと考えたのだ。
これまではすばるの側に常に待機して不測の事態に備えることを優先していたが、話し合いの後皓月は毎夜彼を残して出かけるようになった。
すばるの守護者であることを優先するあまり忘れがちだが皓月は月光の神である。月光には僅かながら世の中を浄化する力を持っており、皓月はその力をより高めることにしたのだ。
月の力が高まる夜に昔すばると共に夜空を見上げた見晴らしのいい丘へと向かい、月の光を全身に纏いながら月と同化していく。月光の神の権能は人々の夜の安らぎを守るための力、悪夢から人々を守り癒す力。そこから派生する浄化の力をより強く引き出すことで人々が眠る間にその身に浴びた穢れを祓い、病神から受けた影響を軽減していくのだ。
皓月は浄化の神ではないのでこれだけで病神の穢れを完全に抑え込むことはできないが、少しはすばるにかかる負担を減らすことができるだろう。続けていく毎に浄化の力が増していくことを身の内に感じて、今までいかに月光の神として未熟であったかを自覚したのだった。
「しかし、この程度では焼け石に水だな。病神め、腐っても幽世の次席か……」
皓月は決して弱くはない。弱くはないが、神としての能力は中の上といったところだ。今懸命に己の力を高めているが一足飛びに能力が伸びるわけではない。
対する病神は神の中でも指折りの実力者。穢れ神に堕ちてもその力は凄まじいもので、その余波でさえ皓月の力では手に余るものだった。
皓月が夜の修業を始めて暫く経った日の午後、全員で休息を取って近況を話していると皓月は忌々しいと顔を顰めて呟いた。
「ですが皓月殿、決して無意味ではありませぬよ。僅かではありますが近隣の町では体調不良を訴える者が減ったとか」
「そうそう、土地神情報だから間違いないっすよ。快癒のお礼参りに来る人が増えたって喜んでましたから」
「ほう……そうか」
己の未熟さに臍を噛んでいた皓月に喜ばしい報告をしてくれる篝と蛍。それを聞いて僅かに口角を上げる皓月に二人も柔らかく微笑んだ。寝る間も惜しみ、すばるから泣く泣く離れて責務に励んでいるのだ。結果が伴っていると聞けば素直に嬉しい。
しかし、最も嬉しい言葉をかけてくれるのはやはりすばるだった。
「最近の参拝の人たち、皆僅かに皓月の月光の光を纏っているんですよ。彼らは月光の加護で穢れが少し払われているし、そういう人たちの身を贖うと僕の体にも皓月の加護が流れ込んで僕の負担も軽くしてくれるんです。こんなことを言うのは不謹慎ですけど、皓月と一緒にお勤めをしているようでちょっと嬉しいんですよ」
「それは本当、か?」
「あい。もちろん」
「あぁ……!」
胸に手を置き、はにかんで告げる言葉に感動に打ち震える皓月。皓月の力はすばるの助けになっている。今更ながらにただ守る以外のやり方があったのだと実感して胸が締め付けられる。皓月はその喜びのままに手を伸ばし、すばるの細い体を強く抱きしめた。
「お前の負担が減っているのなら、毎夜我が身と向き合う甲斐もあるというものだ。嬉しいよ、すばる」
「そんな、僕こそ嬉しいです。皓月」
すばるの助けになっているということは勿論、合わせてもう一つ。すばるは己の体に皓月の力の一端が流れ込んでいると言う。間接的とはいえ愛するすばるの中に混じり合い、一つのものになっているという事実で頭がどうにかなってしまいそうだ。皓月は喜びと興奮に支配されたまますばるを抱きしめ、首筋からほんのりと香るすばるの匂いを堪能するようにめいいっぱい空気を吸い込んだ。
そんなことをされてたまらないのはすばるだ。
「わ、あ、あの、皓月?」
「ん?」
「う……」
少しだけ顔を上げて首を傾げる皓月。超至近距離にあるその顔面の威力は彼に恋するすばるにとってとんでもない破壊力だ。耳まで真っ赤に染め上げて、結局何も言えず池の鯉のように口をはくはくと動かすだけにしかならない。その反応に嫌がられていないと判断した皓月は満足そうに再びすばるの首筋に顔を埋めてしまった。
「わぁお、熱烈っすねぇ」
「これ、蛍。こういう時は空気を読むものぞ」
こそこそと耳打ちし合う火の主従たちは頼りにならない。助けを求めて見つめても生温い目で意味ありげに微笑んでいるだけだ。
伝える気がないと言いながら行動は裏腹。二人が一時離れていた一年で更に距離感が喪失している。今回のことで更に絆が深まれば、お互いの感情に気が付く日もそう遠くないなと頷き合う篝と蛍であった。
「じゃあ後は若い二人に任せて」
「お邪魔虫は退散いたしましょうか」
「へっ、待って待って!これ以上は心臓が持ちません!助けて!」
せめてここにいて!と懇願するすばるに獣の本能に支配されて彼を離す気配のない皓月。このままどうにかなっちゃってもいいんじゃない?と二人の恋応援派の蛍と篝はにっこり笑ってそっと部屋を離れていった。
「まっ!そんな!」
「すばる……嫌なのか?」
「嫌なわけありません!」
しゅん、と耳と眉を下げる皓月にぶんぶん首を振る。悲しませてはいけない、とすばるは羞恥を押し隠し真っ赤な顔のまま抱きついた。ぎゅう、と強く抱きつけばすかさず皓月の逞しい腕と大きな尾が体に巻き付いてきてすばるの体をすっぽりと包み込んでしまう。
くすりと小さく笑う声が聞こえる。
「私の可愛いすばる」
とくとくと命を刻む皓月の心臓の音。包み込まれる慣れた安心感に体の力が自然と抜けていく。すばるはゆっくりと目を閉じてその温かさに身を任せた。
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