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スエル・ドバードの酒場

#14.迷いの森〜ゴブリン〜

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その日は、おとぎ話のような朝だった。

小鳥が木の上で鳴き、草花を暖かい風が揺らし

太陽が世界を包むように光を当てる...

そんな朝の中で輝きは、目覚める人々をまだかまだかと待っているのだ。

私たちが作り上げるものに光を差す時を...。

──────
────
──

「いつまで寝てるんじゃ?! とうに仕事を始めてる時間なのに...お前という女は..さあ早く支度をせんか!

それに、そのを何とかせい!」

朝の10時過ぎに店主ニズルに叩き起こされるとセシリアは黙ったまま、疲れて所々痛みが走る身体を起こしその身体で鏡の前に座る。

「...ひゃー..こりゃひでぇぇ?」

その顔は、昨晩11時頃の赤黒く腫れ上がっていたものから紫色に変色していて、見るからに痛々しいものにへと変わっていた。

(昨日の夜には、気づかなかった左のまぶたも腫れている)

しかしその腫れの方は、あの少年の薬草が効いたのか幾分かは引いていた。

「仕方ないか..あんだけ殴られりゃあ...こうなるわな..痛っ!」

そう鏡の前でこぼした時、急に左のこめかみに痛みが走る。

その部分の髪を掻き上げ、鏡で見るとその地肌の部分が楕円形に鬱血していて、その周りぷつぷつと血豆が出来ていた。

「..たく...これ、もし当たりどころ悪かったら死んでたんじゃないの?」

セシリアが鏡の前でその鬱血した部分を見て砕けた表情をしていると..

「おい! いつまで待たせるのじゃ? 早く支度して降りて来んか!」

ニズルの促す声が下から聞こえてきた。

「..だからその支度を今してるんだよ!

こっちはてめぇが心配するアタシのこのひでぇ顔をどうにかしてるってのに...くっ..好き勝手言いやがって.........はぁ...いま行くよ」

セシリアは、立ち上がってため息をついたあと...

身体をその場所からズラししゃがみ込み、両手を握り締めてから、そこへおでこを当て目を瞑った。

───

「..随分と遅いじゃないか? ...お前さんの何処にそんな余裕があるんじゃ?」

二ズルの嫌味を無視してセシリアはカウンターに置かれた荷物に目を向ける。

「...この酒かい? 運んでくるのは?」

「ふん..そうじゃよ...場所はザベールじゃ...知っているだろ?」

「ああ..あそこなら直接は行ったことないけど..よく通るよ?」

「ふむ...住所ならその容器の前に貼ってある..グズグズするな、さっさと行け」

「でもよ...この顔でいいのか? ...なんかで覆った方がいいんじゃない? あんたがさっき心配してたからさ?」

今度はセシリアが二ズルの方に食い下がるような態度を見せた。二ズルは手に持っていたコップの拭き上げを止めてセシリアをゆっくりと睨みつける。

「...お前は..本当に口が減らねえな? ワシは、とっとと行けと言ったのじゃ?」

「でも顔を白い布かなんかで覆った方がいいじゃない? ...目の部分に穴開けてさ?」

「とっとと運んで来い! ..このろくでなしが...まだ次に口答えするようなら..お前の睡眠時間を減らしてもいいぞ? それとも...夜の相手をする男どもに..そのお前の減らず口を打っていいという新しいサービスでも付けようかのう?」

「...」

セシリアは、この時、ニズルの言葉に..

"ゲス野郎"

と言葉を乗っけようとしたが直ぐに..それやめて

ただ一言「..行ってきます」

..と言った。

酒場を出る彼女の背中にニズルの嫌らしい声がかけられ、出入口の扉が閉まる。

「そう? それでいいんじゃ...お前はそうやって怯えてればいいんじゃよ? ただ黙って..そのあとに返事さえすればな」

───

ザベールに向かう道の横にあの"迷いの森"がある。

迷いの森とは、その名の通り、深い場所に入ると道中で迷ってしまい最悪は元の場所に戻って来れない怖れがある事から付けられた名前である。

その為か、好奇心の強い人々はそれに惹かれてやって来る者があとを絶たなかったが..

13年前に起きたある事件によってそれは変わった。

その事件とは、この迷いの森があるスエル・ドバードが毎年、夏なると開催していた観光の催しの時に誤って小さな子供が1人でその迷いの森に入ってしまったのだ。

直ぐにその事に気づいた親がその場にいた者たちと手分けして探したが見つからず結局、捜索願いを市に要請するしかなくなった。

しかし、それでも捜索の目処が経つ気配が全くせず1週間近くが経ってしまい、誰もが諦めかけた時、

捜索していた治安部隊の1人が迷いの森の入口付近でその子供を見つけるという奇跡が起きる。

その子供には、衣服が汚れて破れてはいたものの目立った怪我はなく、1週間近く森の中をさまよっていたのだから食糧不足による栄養失調も心配されたが、特にこれといって痩せこけてもいなかった。

不思議に思った治安部隊の1人が..

「腹は空いているだろ? 何せ今までのろくな食事もしていないのだからな?

しかしボウズや..見るからに元気そうだが...

どうやって飢えをしのいだんだい?」

その質問にその子供は、"ゴブリンに助けてもらった"と答えた。

この迷いの森には、この森にしか存在しない生き物や草花が沢山あるといわれ、この世界では既に100年以上前に全滅したと言われているゴブリンも存在しているとも伝えられている。

しかしその伝説のゴブリンを見た者はおらず、言わば都市伝説として伝えられる話として扱われていた。

が、この子供の話を聞いた者たちは信じようが信じまいがどちらでも良かったのだが、この迷いの森で1週間近くも飢えをしのいだ事実を無視することは出来なかった。

(ただ、そんな平穏な話ばかりでなく、ここに興味本意で訪れた1人の男が、そのこころゴブリンを捕獲してやると意気込んで、森の中に入って行ってしまう。

そこまではいいが、何日経っても出てくる気配が無く、その事に気が付いた者がさっきの話のように捜索願いを出し、その日の正午に捜索員がその森に入ろうと入り口に足を踏み入れると、その入り口から先の木の幹の付近に、何やら黒く変色した袋のような物が落ちていた。

捜索員の1人がその袋のような物に近付き、それを確認してみると、それは死体であった。

全身の骨を全て砕かれ、おまけに身体中の血も綺麗に抜かれていて、体の身といわれる部分が干からびて薄っぺらい袋のようにされてしまった死体。

それが今から探そうとしていた男だと分かるには、そう時間はかからなかった...)

このような事を受けてスエル・ドバードは、この森には絶対に入らぬようにと至るところに立ち入り禁止の看板を立て喚起すると、それがこの町から別の街へと流れて気づいた時には、全国でも危険な場所として有名になってしまった。

今まで観光スポットであったことが嘘のように客足が遠退き、時代の流れもあってか、いつしか古き時代の森として捉えられるようになっていったのだ...

───

セシリアは、酒を運び終えてザベールから酒場ボルカに戻ろうと片手に持った酒の入っていない木の容器をぶらぶらさせて迷いの森の横にある道を歩いていた。

「...私もここに逃げようかな....戻って来れなくなる場所にまで行ってさ...だけど逃げ切れるかな? こころの優しい森の守護神ゴブリンたちは、こんな私を助けてくれるのかな?」

セシリアが迷いの森に目を向けながらぼそぼそと呟いていると、

その後ろから何かついて来る音に気がつく..

それは、馬の足音だった。

セシリアは背筋が凍るのを感じ、急にたどたどしい態度になり背中を強ばらせ、身を潜めるかのように顔を俯かせる。

(一瞬だけ覗き見た馬は、この辺では余り見かけないものだ。昨日のアルダ・ラズムの兵士たち乗る馬を除き..)

セシリアは肩を震わしながら自分の顔を、その後ろからついて来る馬にまたがる人物から出来るだけ見えないように努めた。

しかしその馬が急に足を速めて側まで来るとセシリアは心臓が止まるような怯えに襲われ、その場に立ち止まってしまう。

セシリアは、歯をガチガチ鳴らしながら、もうダメだと思い、その馬の方を恐る恐る見た。

「...お..お前は?」

そのセシリアの前には、にっこりして馬に跨る

あの少年彼女の夜を知るがいたのだ。
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