【完結】魔導師様と夢魔に囚われた少年 ─ファンジェレル大陸・男恋譚─

星谷芽樂(井上詩楓)

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第二章

第12話③

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 タキオンの身体にも夢魔が棲み着いているが、実際目にした事はない。
 その姿は人と同じ様に手脚胴体があるが背中に羽があり、肌や髪は茶黒く細身で、裂けた大きな口から蛇の様な長い舌を出して不気味に笑っている。

 タキオンは体内に潜む魔物と同じ姿を目の当たりにして、思わず胃液が込み上げた。

「大丈夫か……」
「大丈夫じゃないです……あんなのがボクの中に居るなんて……うぅッ」

 その衝撃に思わず涙が出てしまいそうになった。しかし今は窮地に陥っていて、感情に流されている余裕は無い。彼はなんとか気持ちを堪え、デュボイズから言われたように細身の剣を構えた。

「夢魔よ、なぜ我らを追いかける? 目的は何だ」

 すると夢魔達は「ケケケ!」と乾いた笑いをしながら口を開いた。

「迎エニ来タ……」
「迎えに!? 誰をだ!」

 デュボイズの問いに、夢魔達は互いの顔を見合わせる。そして二人の方を向き、顔を伏せるように不気味に笑い合った。

「ソンナノ決マッテイルダロウ……タキオン、ニダ!!」
「――――ッ!?」

 三体の夢魔はデュボイズの姿など顧みず、その後方で剣を構えるタキオン目掛けて飛び出した。
 その速さは目では追えない程素早く、無闇に剣を振り回すタキオンも虚しく、腕と脚を夢魔達に捕えられてしまった。

「っっちょっと!! ――わぁっ!! や、やめろ!!」
「タキオンッ!!」

 デュボイズは杖で素早く印を描き、杖の中から瞬時に光玉が現れた。そして夢魔目掛けて勢い良く投げつける。

「ギャァァァ!!」

 タキオンの脚を掴む腕に光玉が当たり、夢魔の一匹が転げ回るように身悶えた。
 その隙をついてデュボイズは次々と光玉を生み出し、他の夢魔目掛けて投げ続ける。

 デュボイズの華麗な操作で光玉から免れない夢魔達は、たちまちその威力に負かされ、地面に倒れ込んだ。その一瞬、タキオンの手脚が自由になると、彼は咄嗟に剣を持ってデュボイズの背後に逃げ込む。

「大丈夫か! 私の背から離れるな!?」
「は、はい!」

 しかし夢魔達は自身の魔力で傷を回復させ、すぐさまタキオンを狙おうと睨みをきかす。

 魔物は本来、腕や身体を切られても自身の魔力ですぐに回復してしまう。それが人々にとっては脅威であり、太刀打ちできない要因でもあった。

 今も同じだ。三体の夢魔は一時的にデュボイズの魔法でダメージを与えられたとしても、簡単な傷では直ぐ回復されて埒が空かない。
 デュボイズもそれを知っていて、杖の構えを保っていた。

「せ、先生……どうしよう……」
「長期戦ではこちらの体力が消耗されるだけで不利だ。一気に畳み掛けなくては……」

 この時、天上人エアウィッカーから作り出された六本の聖剣があれば、その聖なる力により魔力が吸い取られ、戦況は大いにこちらが有利となっただろう。
 全て揃わなくてもいい。せめて一本だけでも手元あれば、こんな低級魔族になど恐るるに足らない。

(まぁ、伝説の聖剣が運よく現れる訳が無い……何とか此処を切り抜けなければ……)

 デュボイズは意を決し、杖を両手に持ち替えタキオンに告げた。

「タキオン、いいか? これから私は魔力を抑え込む術を唱える。しかしこの術は完成するまでに時間が掛かる。その間、お前はその剣で私達を近づけるな」
「は、はい……!!」

 デュボイズは杖の先端を顔の前に近づけると、目を閉じ、呪文を唱え始めた。

「全知全能の精霊達よ、今その均衡を破らんとする魔力の影を弱め、大気に還元せしめたり……全能支配者イーン、複共同制ドー、自然性ツリー……」

 デュボイズの杖に青い光が集まり始める。
 それを目の当たりにしたタキオンや夢魔達も、これから大きな事が起こるのだと予測した。それならば、魔物達のチャンスは今しかない。

「ケケケ!! ヤラレル前ニズラカルゾ!!」
「今ノウチニ、タキオンヲ捕ラエロ!!」

 夢魔達が再度タキオン目掛けて突進してきた。タキオンは剣を握り直して、伸ばされる黒い手を辛うじて振り払う。

「わっ!! わぁぁ!! く、来るな!! この!!」
「タキオン!! 怯むな!!」
「はい……!!」

 タキオンは剣の腕前はそこそこだが、騎士としての剣技と今手に持つ突くような細い剣では戦術の相性が最悪だった。
 彼は鍛錬で習ったように剣を振るが、針のように細い剣ではただ空を斬るだけだ。

 デュボイズの言われた通り魔物を近づけさせない事は出来ているものの、まるで遊ばれている様にかわされている。
 しかし未だデュボイズは目を閉じ、呪文を唱え続けている。タキオンの剣技が通用するのは時間の問題だ。

「ケケ! クセハ見破ッタ! オ遊ビハ終ワリダ!」

 タキオンが剣を振り終わった一瞬、夢魔の一体が足元から飛び出しタキオンの足首を掴んだ。その瞬間、タキオンのバランスが崩れ、足を取られて地べたに打ち付けられてしまう。

「ぐぁっ……!!」
「ホレー捕マエタ!! 一気ニ飛ブゾ!」
「ケーーーーーッケッケッケッケ!!」
「――――オクト、完了」

 その時だった。デュボイズの杖は神々しく青く光り、その光から強烈な風が噴き出した。
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