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第三章
第20話③
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――そこでデュボイズは、突如として目が醒めた。
辺りを見回してみれば、天井の低い穴蔵の様な場所で分厚い本が散乱している。彼はあまりの集中力故に、現実か夢かも分からない内にその場で寝入ってしまったようだった。
「夢……だったのか……?」
あまりにも鮮明で具体的な出来事が夢であると信じられず、デュボイズは廊下に這い出て窓を眺めた。
外は既に夜明けが過ぎ、強烈な朝の光と小鳥達の囀りが、デュボイズの目覚めを出迎えている。
まるで昨夜の壮大な話が嘘のように、人々が出入る前のエンディリアの朝は、静かに平和を彩っていた。
(月明かりの元で蔵書を調べ上げていた時には、もう夢だったのか……?)
徹夜を覚悟した時から意識が飛んでいたとすれば、こんな勿体無い時間の過ごし方はない。しかし、それでもあの夢を信じたいと、天上人達との話を思い出した。
あの具体的な会話が本当だとするならば、どれだけ素早くタキオンを救えるであろうか。
だが、そんな都合の良い事など、おとぎ話ぐらいでしか起こり得る筈もない。現実はもっと薄情で厳しいのだ。そして再び調べ直さなければいけないと思うと、流石のデュボイズも根気の根が折れてしまいそうな気持ちになってしまった。
「まぁ、愚痴を言っても何も前には進めん。また途中から調べ続けるとするか……」
デュボイズは溜め息混じりに再び穴蔵へ戻り、蔵書を広げてノートを取り出した。
しかし、そのノートには異変があった。
余白がある筈のページには、ぎっしりと文字が羅列していたのである。一頁だけではない。まだ半分以上余裕のあった真っ白なページが、最終頁まで細かい文字で隙間なく書かれているのである。
デュボイズの全身に緊張の糸が張り巡らされ、その中の一部を読み返した。
――大図書館の壁画はノスフェラトゥ時代の歴史の全てが記されている。一階は魔王、魔獣達について。二階は地上、白魔法。三階は天上界。四階は神の姿……
覚えている。これは昨夜天上人が話していた内容そのままである。
デュボイズは驚いて吹き抜けの下へ走っていった。
大図書館の壁画は、その年数のせいで全体が色褪せ、所々の塗料が剥がれ落ちていた。階段の紋様を目視したが、それらも同じく、長年の劣化と人々が行き来する手脂のせいで木彫りの形は崩れ、はっきりとしたルーン文字だと分かるのは指の数程しか無かった。
違う。昨夜見たものは、ごく最近描かれたように鮮明で、一眼でその絵の意味が理解ができた。今のように壁画を凝視しても階段の柵を睨んでも、何を表しているのかよく分からない代物ではなかった。
(どういう事だ……)
デュボイズは窓へ振り向いた。
唯一、一千年という時が経過しても色褪せないステンドグラス達。その中の一つにデュボイズの視線が釘付けになった。
昨夜見たものと同じ、天上人達の描かれたステンドグラスが確かにある。それはあの時と同じ鮮やかさだった。さらに、デュボイズの目覚めを歓迎するように、窓に彩られる神や天上人達の模様は、朝日に照らされ神々しくデュボイズを照らし出していた。
「そういえば昨夜、天上界にしか咲かないという珊瑚の花を受け取った。ノートに書かれたものといい、昨夜の夢が現実であったならば、きっとこの珊瑚の花も持っている筈……」
デュボイズはローブを全身はたいて異物が無いか確かめる。特に変わった感触はない。しかし、彼には長いローブの袖の中に物を入れる癖がある。
彼は恐る恐るローブの袖袋に手を入れた。中には紙屑や小金が入り混じり、シャラシャラと音を立てて中をかき回す。
「…………っ」
その中で、ある筈のない長細く硬い物が指先に当たった。デュボイズは本当に? と半信半疑のまま、その細長い物を取り出す。
袖から出てきたのは、この世界では見た事のない極彩色の珊瑚の欠片であった。デュボイズの手が震え、本当の出来事だったのだと身体中の細胞達が騒ぎ出す。
存在を知らしめる極彩色の珊瑚の花は、デュボイズを導かんとする様に陽の力を浴びて七色に光り輝いていた。
辺りを見回してみれば、天井の低い穴蔵の様な場所で分厚い本が散乱している。彼はあまりの集中力故に、現実か夢かも分からない内にその場で寝入ってしまったようだった。
「夢……だったのか……?」
あまりにも鮮明で具体的な出来事が夢であると信じられず、デュボイズは廊下に這い出て窓を眺めた。
外は既に夜明けが過ぎ、強烈な朝の光と小鳥達の囀りが、デュボイズの目覚めを出迎えている。
まるで昨夜の壮大な話が嘘のように、人々が出入る前のエンディリアの朝は、静かに平和を彩っていた。
(月明かりの元で蔵書を調べ上げていた時には、もう夢だったのか……?)
徹夜を覚悟した時から意識が飛んでいたとすれば、こんな勿体無い時間の過ごし方はない。しかし、それでもあの夢を信じたいと、天上人達との話を思い出した。
あの具体的な会話が本当だとするならば、どれだけ素早くタキオンを救えるであろうか。
だが、そんな都合の良い事など、おとぎ話ぐらいでしか起こり得る筈もない。現実はもっと薄情で厳しいのだ。そして再び調べ直さなければいけないと思うと、流石のデュボイズも根気の根が折れてしまいそうな気持ちになってしまった。
「まぁ、愚痴を言っても何も前には進めん。また途中から調べ続けるとするか……」
デュボイズは溜め息混じりに再び穴蔵へ戻り、蔵書を広げてノートを取り出した。
しかし、そのノートには異変があった。
余白がある筈のページには、ぎっしりと文字が羅列していたのである。一頁だけではない。まだ半分以上余裕のあった真っ白なページが、最終頁まで細かい文字で隙間なく書かれているのである。
デュボイズの全身に緊張の糸が張り巡らされ、その中の一部を読み返した。
――大図書館の壁画はノスフェラトゥ時代の歴史の全てが記されている。一階は魔王、魔獣達について。二階は地上、白魔法。三階は天上界。四階は神の姿……
覚えている。これは昨夜天上人が話していた内容そのままである。
デュボイズは驚いて吹き抜けの下へ走っていった。
大図書館の壁画は、その年数のせいで全体が色褪せ、所々の塗料が剥がれ落ちていた。階段の紋様を目視したが、それらも同じく、長年の劣化と人々が行き来する手脂のせいで木彫りの形は崩れ、はっきりとしたルーン文字だと分かるのは指の数程しか無かった。
違う。昨夜見たものは、ごく最近描かれたように鮮明で、一眼でその絵の意味が理解ができた。今のように壁画を凝視しても階段の柵を睨んでも、何を表しているのかよく分からない代物ではなかった。
(どういう事だ……)
デュボイズは窓へ振り向いた。
唯一、一千年という時が経過しても色褪せないステンドグラス達。その中の一つにデュボイズの視線が釘付けになった。
昨夜見たものと同じ、天上人達の描かれたステンドグラスが確かにある。それはあの時と同じ鮮やかさだった。さらに、デュボイズの目覚めを歓迎するように、窓に彩られる神や天上人達の模様は、朝日に照らされ神々しくデュボイズを照らし出していた。
「そういえば昨夜、天上界にしか咲かないという珊瑚の花を受け取った。ノートに書かれたものといい、昨夜の夢が現実であったならば、きっとこの珊瑚の花も持っている筈……」
デュボイズはローブを全身はたいて異物が無いか確かめる。特に変わった感触はない。しかし、彼には長いローブの袖の中に物を入れる癖がある。
彼は恐る恐るローブの袖袋に手を入れた。中には紙屑や小金が入り混じり、シャラシャラと音を立てて中をかき回す。
「…………っ」
その中で、ある筈のない長細く硬い物が指先に当たった。デュボイズは本当に? と半信半疑のまま、その細長い物を取り出す。
袖から出てきたのは、この世界では見た事のない極彩色の珊瑚の欠片であった。デュボイズの手が震え、本当の出来事だったのだと身体中の細胞達が騒ぎ出す。
存在を知らしめる極彩色の珊瑚の花は、デュボイズを導かんとする様に陽の力を浴びて七色に光り輝いていた。
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