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SECTION:1 『戦死』のための基礎講座<受講費無料>
第四話:棋上演習<シミュレーション>
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「え……と、すでに作戦部から提出された地点につきまして、報告する意味を持ちませんので省略させて頂きます。ただ、RS-9宙域敵軍後方、地点8-4-6が何故検索範囲に含まれたのかという理由にあたってのみ他の二地点の補足説明をさせていただきます」
作戦部が作成したRS-7宙域の図上演習と情報部の戦術コンピューターから情報を連結させる。
暫くしてから、会議用デスク中央に投影されたRS-7宙域周辺の立体型空間フォロビューと彼我の艦隊布陣図が重なり、机上演習が起動した。
「これを見ますと、我が艦隊の先方部隊に敵軍がクサビを打つように突出してます。その上、後方に敵主力がいつでも戦線参加できる位置に布陣してます」
あたしは赤い光線を放つペンライトで立体型空間フォロビューの交戦宙域の一部を指す。
「この状況下で我が艦隊の後方部隊――つまり、旗艦を含めた司令部付の艦艇を前線投入したとなると、敵の考えられる次の行動は二つしかありません。我々の攻勢を恐れて撤退するか、あるいは我々の戦力逐次投入に呼応して主力を差し向けてくるか、でしょう」
「まあ、彼我の戦力差が圧倒的に開いてる以上、間違いなく後者だろうな……」
トクノ参謀長が独り言のように声を漏らす。あたしは無言で頷き、光記憶片を端末ドライブに差し込んで操作盤を叩いて起動させた。情報部の戦術コンピューターが情報を読み込む。立体型空間フォロビューに浮かんでいる彼我の艦隊布陣図がアニメーション化した。
「敵軍がRS-7宙域上で合流してきたとき……」
「ばかなっ!」
フクイケ少尉が立ち上がる。
「敵が戦場で合流するとでも? そんなことをしたら統制が取れぬまま密集してしまい、ただ我が軍の艦砲になぎ倒されるだけではないか! 謎の多い敵だが、貴様の稚拙な知能よりは優秀だと作戦部は認識している。敵は必ずRS-9宙域まで後退し、そこで主力と合流、我が軍に対し、再突入を敢行してくると決まってる!」
フクイケ少尉は何やら端末を操作し、立体型空間フォロビューに別の情報を代入したようだ。彼我の艦隊布陣図があたしの説明した内容と異なる動きを始めた。
「敵が合流を果たそうするその間隙をぬって、ありったけの艦砲と光粒子魚雷を敵の先端部に打ち込む。敵の足が鈍くなった隙を突いて地点7-0-3、あるいは地点3-3-2まで後退、しかる後に亜高速航行に入るっ! これこそが完璧の上策ですっ!」
(……こ、こいつはっ!)
自己陶酔に浸っているフクイケ少尉に心底嫌気がした。こういう輩にはきちんと理論武装しないと。
あたしは気を取り直して説明を続ける。
「フクイケ少尉のご指摘ももっともですが――」
「当然であります」
(こいつ、殴ってもいいのかな?)
震える右手を何とか左手で抑えつつ、再び気を取り直そうと必死に努めた。
「――敵は我が軍の決定的な瓦解を誘うために、全予備艦艇を前線に投入して防御陣を突き崩しにかかるでしょう。さらに敵は我が軍が亜高速航行で戦線離脱をする機会を窺ってることを熟知してると考慮して間違いないでしょうから、間断ない攻撃を仕掛け、隙を与えぬままRS-7宙域で合流するのは明らかです」
あたしは素早く端末を操作する。
「仮に敵が陣形を再構成するために後退したとしても、迅速に対応して大攻勢をしかけてくる可能性は否定できません。そうなると情報用兵学理論上において、攻撃率、防御率ともに下回ってる我が軍は艦艇維持率を到底安定できず、その影響で亜高速航行に支障をきたす艦も増大します」
フクイケ少尉が代入した数値に、あたしは自分の数値を上書きした。そうすると、後方二地点まで後退したは良いものの、敵の大攻勢に追いつけず、亜高速航行に入れぬまま、我が艦隊の布陣図が崩れ、小さくなっていく様がアニメーション化される。
「さらに味方の艦艇が逐次、亜高速航行に入ってる間、敵の猛攻を食い止めなければなりませんが、戦力自乗の法則でもわかる通り、間違いなく全滅です」
一瞬、艦隊司令部に言い知れぬ動揺が走る。
(なんだかなぁ……)
あたしは気づかれないように嘆息した。立体型空間フォロビューを睨んでいたトクノ参謀長が挙手して発言する。
「わしは作戦部の人間なので、その情報用兵理論というのはあまり詳しくない。『戦力自乗の法則』とは何だ? それによって何故全滅という結論が導かれる?」
あたしは一旦デスク中央の立体型空間フォロビューを消去して、司令部お歴々のデスク前に小さなウインドゥを表示した。
「簡単に申し上げますと彼我の戦力比が10:6だったとしましょう。単純に計算すれは4:0ということになりますが、実は8:0となるのです」
続けて、ウィンドウに公式とグラフを表示する。
「つまり、
『10²-6²=100-36=64=8²』
ということです。
先ほどの話をいたしますと、敵が十の反撃率で対抗してきた場合、我が軍も何とか十に近い攻撃率を保っていれば後退しながらの戦線離脱も可能でしょう。
しかし、現状は苦しい戦況化にあります。著しい艦隊維持率と防御率の低下、それに艦隊の後退運用と亜高速航行の大勢準備などを考慮に入れた結果、攻撃率が六もあれば万々歳です」
あたしは、各自のウィンドウを消去し、再度デスク中央に立体型空間フォロビューを起動させる。
「戦力は文字通り『力』です。武器は二乗されることで戦力となり、その激突によって生まれる彼我の優劣を考えれば全滅まで30分もかからないと思います」
立体型空間フォロビューに表示された我が軍の艦隊布陣がRS-7宙域を離れるより早く、敵の猛攻によって消滅した。
「したがって、すべての情報を総合的に検討すると地点7-0-3と地点3-3-2は危険が大きいと言えます」
あたしは、そこまで説明し終えると、大きく呼吸と整えて一同の顔を見回した。ダルマのようにどっしりと構えているヒクマ提督。腕を組んで「う~む」と悩んでいるトクノ参謀長。抜け殻になってぽ~っと宙を見つめているフクイケ少尉。目があって、にっこり微笑んでくれるマナ少佐。
皆の様々なリアクションを確認した後、あたしは「こほん、」と軽く咳払いをして、次の説明に入るべく姿勢を正した。
(しっかし、どーでもいいけど、いっぱい喋ったせいか喉がカラカラ……)
戦艦の中は密閉されてるから熱いこと、蒸れること。空調効いてないんじゃないの? これで光粒子魚雷なんか直撃したら、燃えて一瞬で灰になるかもね。
あたしは取り留めもないことを考えながら、説明の続きを準備した。
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