初恋にはご用心!

ヨルノモリ

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 動悸がする。こめかみが痛いくらいに血流が早い。
 慌ててマゼンダがダイニングの時計に目をやると、今、時計はちょうど23時を指していた。

 まだだ。
 なのに、一体彼のこの変化はなんだろう。
 気のせいだと信じたい。が。
 緊張で息が浅くなるのを自覚しながら、マゼンダはゆっくりと問いかけた。

「なにを、言ってるの?まだ、日付は…」
「実はこの家の時計を全部1時間遅らせてあるんだ。バレるかと思ってドキドキしたけど、気付かれなくて良かったよ。まあそもそも半年以上前から縁を繋いであったから、招かれなくても入れるしハロウィンにこだわる理由もないんだけど」

 やっぱりお誕生日には会いたいし、おめでとうって言いたくて。
 そう呟く、目の前の初恋の相手であったはずの青年の眼は完全に金色。話しかけてくる口元からは今まで見えたことがない犬歯がしっかりと見えて、マゼンダは背中を冷たいものが伝っていく感覚に震えた。
 存在感が違う。
 空気が震えて、これは人外のものであると肌が教えてくれる。

 うそでしょ。

 動けないマゼンダに、ニコリと笑いかけてズィーロはもう一度彼女に言う。

「お誕生日おめでとう、マゼンダ。君もこれではれて18歳。…オレの伴侶に、なってくれるよね?」


 咄嗟にズィーロに背を向けて逃げた。
 もし彼の言うことが本当で、ハロウィンに入ってしまったなら、どうせ家のなかからは出られない。
 ならばとりあえず鍵のかかるところ、と彼女は猛然と貯蔵室に向かった。あそこなら水も食料もある。ちょっとトイレには困るけど、何とかしてみせる。
 そこに篭って、対策を練ろう。
 何日か籠城すれば、きっと町の人たちが不審に思って様子を見に来てくれるはず。そのときに保護してもらおう。

 そう思って、全力で走った、はずなのに。

「オレを置いて、どこに行くつもりなの」

 容易く捕まって軽々と抱え上げられ、その体格差にぞっとした。
 ズィーロは確かにしなやかに鍛えた身体をしているが、こんなに筋肉質ではなかったはずだ。
 それに、動きが、人間のそれとはまったく違う。

「ちょっと待って、離して…!」

 混乱しながら懇願するも、ズィーロは聞こえないフリをしてそのまま寝室に入り込む。
 新しくしたシーツの上に優しく下ろされて、何となくこの後の展開を察したマゼンダが逃げようとするも、絡め取られて身体をベッドに押し付けられた。

「やっと18歳になってくれた」
「まって、ズィーロ、お願い、待って…」
「ずっと待ったんだ。もう待たない」

 抱き締めるというにはあまりにも強い力で、ぎゅう、と上にのし掛かられながら首筋を舐められる。

「…ずっと、魔力封じを飲んでたの…?」

 魔力封じはその名の通りに魔力を封じる薬だ。
 だが、無理矢理押さえつけることになるので反動はあるという。それは頭痛だったり、眩暈だったり、眠くなったり、人それぞれらしいが。
 それを、ずっと、飲んでいたのか。
 全く気が付かなかった自分は、なんて間抜けなんだろう。

「うん。だってマゼンダ、すごい敏感だし。会う3日前から飲み始めて、魔力のない状態を身体に馴染ませてから会いに来たんだよ。薬を毎日隠れて飲むの、ツラかったけど結構頑張ったんだから」
「なんで、わたしが魔女だって知ってるの…」
「君は自分が思っている以上に有名なんだよ。あの薬師の魔女の、ガーデニアの娘でリーウェンの姪っ子だろ?人外なら大体知ってる。家から出たことも。…だから、一目で分かったよ」
「わたしが、魔女だから、恋人になったの…?」

 いろいろと情報処理が追いつかないのに、そこだけは頭が明確に理解して涙が出てきた。

 マゼンダが魔女だから。

 初恋の人は実は人外のもので、それを隠して魔女の自分を伴侶とするために近付いてきたんだ。
 下半身が反応してなかったのは、そもそも彼はわたし自身を好きなわけではなかったから。きっと今夜はハロウィンの力を借りて、無理矢理勃たせるんだわ。そんな効力がハロウィンにあるのかは分からないけど。もしかしたら、今日はそういう興奮剤でも飲んでるのかもしれない。

 ずっと何か目的があるとは思っていたが、こうして直面させられると涙が出る。
 泣き出したマゼンダに困ったように、その涙を舐め取りながらズィーロは言う。

「マゼンダ。会いに来たのは、たしかに君が魔女だからだったよ。でも、魔女なら誰でも良いっていうのは誤解だ。オレたちにとって、魔女とは縁続きになった方が色々と助かるのはもちろんその通りだけど。人外だって恋愛するし、結婚は好きな人としかしない」
「うそ、そんな話、聞いたことない…」
「うん、魔女なら誰でも良いって奴らも確かにいるからね。でもオレは違う。君だから恋をしたんだ。オレは、マゼンダが、好きなんだよ」
「…っ」

 信用ならない。
 でも、信じられるなら信じたい。
 だって、わたしも彼が好きだから。

 でも。
 ならばどうしてあそこはああなのか。
 今だってそうだ。ベッドで、身体を密着させているのに全くの平常値だ。

「で、でも、ズィーロ、わたしの身体で全然反応してないじゃない…!」
「え?」
「わたしのこと、触ってる時とか、…舐めてる、ときとかっ!今だって全然、あの、…興奮してくれてないじゃない!」
「こうふん…?」

 ポカン、と一瞬、怒りを忘れたズィーロが訳が分からないといわんばかりの顔をする。そんなズィーロに、思わずマゼンダは声を荒げてしまう。

「あなたの、…っ下半身!全然、わたしに反応しないくせに…!そんなんで好きだの伴侶にするだの言われても、信じられないに決まってるでしょ!」
「…あー、なるほど」

 やっとマゼンダの言っていることを理解した様子のズィーロは、口を手で覆うような仕草をする。まるで、笑いを堪えているように。
 そんなズィーロを見て、マゼンダは無性に腹が立った。
 わたしは、こんなに悩んで傷付いてるのに、笑うなんて!

「だから離して!これ以上、惨めな思いはしたくないのよ…!」
「…ごめん。そっか、それで悩んでたんだ…」
「そうよ。分かったならどいて。離して」

 震えそうになる声を抑えて、なるべく冷えた声になるように声を出す。
 だがそんな彼女をより強く抱き締めて、ズィーロは耳元に唇を寄せてきた。

「マゼンダ、オレが狼男なのはもう分かるよね?…狼男は、見たり触ったりしてるだけじゃ勃たないんだ」
「…え?」
「うーんと、まあ、体験してもらう方が早いし今からしっかり体験してもらうつもりなんだけど。狼男オレらって、直接刺激しないと勃たないんだよね」
「え?えぇっと、直接、刺激…」
「そ。だからマゼンダは誤解してるよ。オレは、ちゃんと、マゼンダに興奮するし発情してる。安心して、思い知ってね」

 初めて聞くそんな事実に、マゼンダもポカンとしてしまう。
 そこにすかさず、ズィーロは噛み付くようにキスをした。
 唇を喰まれて、待って待ってと足をばたつかせて腕を突っ張るがその腕をまとめ上げて上に固定される。
 抗議しようにも舌が入り込んできてマゼンダのそれに絡み、ヂュクヂュクと唾液が混ざり合う。

 こんなに強く求められたのは初めてなのに、マゼンダの身体はキチンとズィーロからの刺激を覚えていて、キスだけで秘所が濡れてきていた。
 服を剥ぎ取られて胸を舐め上げ、先端を鋭くなった歯で甘噛みされるとビリビリと腰に刺激が伝う。ぢゅ、ぢゅ、と吸い付かれて、思わず声が出てしまう。

「…ん、っあぁっ、ズィーロっやめて、待って…!」
「可愛いマゼンダ。傷付けてごめん。オレのを見せたりしたらすぐ人外だってバレちゃうからずっと隠してたんだけど、こんな誤解されるならもっと早めに言うべきだった」
「やっあ…!…んん…っ!」

 胸の先端を舐めながら、寝室の暗がりのなか、ギラ、と黄金色に光る目で蕩け始めたマゼンダを見つめる。その手は肌を撫でながら彼女の秘所に向かった。
 親指を陰核に当てて擦りながら、柔らかなそこに一気に指を2本突き入れると、ぐちゅぐちゅとかき回し始める。

「あ、ああっ…や、あぁっ!」
「早くてごめんね。ちょっと抑えが効かない」

 グヂ、グヂ、と音を立てる秘所を指で探り、この半年間で探り当てた彼女の良いところをピンポイントで刺激していく。謝られても、マゼンダはそんな性急な愛撫に口を開いて息をするだけで精一杯だった。目の奥がチカチカするほどの波がきて、身体が強張る。

「んっあ、はぁ、や、はやい、…っあぁ!」
「可愛い、大好き。…ごめんね、ちょっと、キツイし痛いかもしれないんだけど、もう限界」

 走り抜けるように達してしまい、ぜぇぜぇと息をしているのに、ズィーロはマゼンダの秘所に陰茎を充てがってくる。
 思わず凝視する。まだ固くなっていないそれは、そんな状態でも長いことは彼女にも分かった。
 まって、と腰を引こうとしても、それを許さないようにズィーロはマゼンダの太ももを抱え上げる。腰を浮かせて彼女にも接合部が見えるようにし、彼女に呼びかけた。

「マゼンダ、見てて。…こうやって、」
「や、んんっズィーロ…っ」

 ズヌズヌとズィーロの陰茎が差し込まれ、マゼンダの隘路を押し拡げていく。
 初めてのその長さに、彼女は戦慄いた。
 指や舌で愛されたそこに押入る、はっきりとしたその質量。今まで指や舌が侵入はいっていたところよりも、更に奥深くまで潜り込んできているのが分かる。
 これでまだ勃っていないなんて、嘘でしょ。マゼンダは思わず身体を緊張させると、ナカがぎゅう、とそれを締めて奥底まで挿れられたものの存在をより認識させる。
 その刺激を受けて、ズィーロはすぐに律動を開始した。

「挿れてから動かして、…っその刺激で大きくなるんだよ」
「や、あぁっ!まって…!」
「ダメ。太くなりきる前に奥もほぐしておかないといけないし、何よりちゃんとマゼンダに発情してるって、分かってもらわないといけないっ…でしょ」
「わかった、わかったからっ…や、ああっ!」

 ズチ、ズチ、と打ち付けてくる棹が、確実に、自分のなかで太く固くなっていくのを感じて、怖くなる。
 長いのは最初からだが、大きいし、太い。しかも、なかで膨らんでくるので、ジワジワと押し拡げられて痛い。
 なのに、既に何度か達してしまっている身体はその刺激を気持ち良いと受け取り始めている。
 思わず目の前にある身体にしがみついて、助けを求めた。

「や、やぁっ、たすけ…っんぁっ」
「…っん、はぁ、マゼンダ、あんまり…煽んないで…っ」
「ズィーロ、やぁ、とまっ…!」
「無理。オレもずっと、こうしたかったんだから…っ」

 何度か出し挿れを繰り返してから、ドチュン、と強く突き入れられる。身体の内側が焼けるようだ。
 そのまま腰を押し付け捻られて、奥をゴリゴリと擦られる。完全に固くなったズィーロの陰茎がみっちりとマゼンダのなかを占領した。

「あっあぁ、っは、いやぁ…!」
「ね。まだ完全には勃ちきってないけど、満足してもらえるサイズになってきたかな?…特に、最後のかたちまでいっちゃうと、挿れられなくなっちゃうから。あんな状態しか見せられなくて、不安にしてごめんね」
「…ん、ああっズィーロ、わかったっ!んぅ…っわかった、から…」
「ちなみに、最後のかたちっていうのはね」

 全く話を聞かないズィーロが、腰を引いて埋め込んだものが少しマゼンダから抜かれる。
 その引き抜かれる感覚に身を震わせて、ナカが締まってしまう。初めてなのに。痛みもあるが、確実にジクジクと快楽が湧き上がり始めている。身体が覚えてしまっている、彼からの刺激の気持ち良さを、呼び起こされつつある。
 ズィーロの指が、接合部に触れてぐるりと彼女の入口をなぞった。

「ここの、オレのこのあたり、付け根のところがね、膨らんで、外れなくなるから」
「は、え…?」
「ここ。ここが、マゼンダのなかにひっかかるように、コブになって外せなくなるんだ。オレが射精すとき、奥にちゃんと全部注げるように。狼男はね、交尾も長いけど射精も長いからさ」

 大体30分くらいは出し続けるから。全部、ちゃんと受け止めてね、と耳元で囁かれて、マゼンダは頭の芯がサァッと冷えていく。

「や、やぁ…っ」
「マゼンダ。大好きだよ。絶対、オレを選んで。ずっと、一緒にいようね」

 ズィーロはうっとりしながら、腰の動きを再開した。
 圧倒的な質量となった彼の陰茎の、強烈な存在感と激しく突き上げられる暴力的とも言える刺激を受けながら、マゼンダは生きてハロウィンを終われることだけを祈った。

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