初恋にはご用心!

ヨルノモリ

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 森のなかの家で迎える朝は、しんとして寒い。
 隣でグッタリと力を抜いて、眠り続けるマゼンダを見つめる。先程まで、もう無理、くるしい、たすけて、と懇願されながら、それでも求めてしまった小さな身体に、指を這わせた。

 無理、させちゃったかな。

 今日までにだいぶ慣らしてはきたものの、ズィーロの陰茎は人間のものよりかなり長い上に太く、根もとにコブまでできる。マゼンダとの体格差もあるので、かなりしんどかっただろうと思う。

 だが、これでしばらくは動けないだろう。
 その間に、傅いて許しを乞い、何度でも深く愛して溺れさせてしまえば問題はない。
 相思相愛なのに、勝手に自分に別れを告げて突然去ろうとしたのだ。これくらいは許されるべきだとズィーロは思う。


 今日はハロウィンだが、祝日にはなっていないから、役所は開いている。
 すぐ自分の荷物と、婚姻証明書を持ってこよう、とズィーロは考えてマゼンダにキスをおとした。


「わたしが、魔女だから、恋人になったの…?」

 泣きそうな声で問いかけられたマゼンダの言葉が思い出されて、ぐ、と奥歯を噛み締める。


 2年前。
 父親の古い友人から、ちょっと直接確認して欲しい子がいると連絡がきた。

「最近町にきた、ひとり暮らしの若い女の子なんだけど。まず、作る薬の質が良すぎる。魔力が必要な薬は作れないとは言ってるし、卸しにくるのは簡単なものばかりなんだが…隠れ魔女なんじゃないかと思って」

 それならお前たちも知っておきたいだろう?とシドは笑った。

 ズィーロの両親は人外同士で結婚した。
 子どもにはあまり恵まれず、ズィーロに兄弟はいない。
 それでも、両親の仲は良かったし、商会を営んでいるおかげで経済的にも豊かな方だ。人化の得意な種族だから人の世にも溶け込みやすくて暮らしやすい。
 だが、曽祖父の代から3代続いて人外同士で愛し合ってしまったために、段々と血が濃くなってきていた。

 家族も友人も、魔女を探せとは言わない。
 でも、そろそろ魔女に愛してもらえないと、血が濃くなり過ぎた子どもたちが苦しい思いをすることになる。
 そんなときの、シドからの連絡だった。


 期待せずに見に行ったズィーロの前に、元気よく現れたマゼンダは、まだ幼いが間違いなく人外から逃げている魔女だった。しかも、人外なら一度は聞いたことのある、有名な一家の末娘。

 魔女の瞳には僅かに魔力がこもっている。
 それは人外のものしか知らない、魔女と人間の見分け方だった。
 魔女たちがどんなに慎重に巧妙に魔力を隠そうとも、その瞳を注意深く見れば見つけられる。
 人外のものたちはひた隠したその方法と、それぞれの特性をフル稼働して魔女を探すのだ。


 狼男は鼻が良い。
 魔女の僅かな体臭の、更に微量に含まれる魔力を嗅ぎ分けることができる。


「…あれは魔女だね」
「あーやっぱり。…人外から逃げてる子なのかな」
「危険だから、保護をする」
「保護って…囲い込んで、溺れるほどに愛して、逃げられなくするんだろ」
「でも、魔女は保護すべきだろ」

 人外のいう保護は、人間で言う執愛と溺愛の混ざりあったようなものだ。
 見つけたら、しつこくしつこく愛を乞い、他のものからのアプローチは出来る限り潰し合う。魔女本人には優しく溺愛して甘やかすが、愛を受け入れてもらえるまでグズグズに蕩して頷かせるような、手段を選ばないものも多い。

 だって、外は危ないだろう。

 シドの古くからの友人であるズィーロの父親もズィーロ自身も、そもそも人外のものたちは皆口を揃えてそう言うが、何を言っているのだとシドはいつも思う。
 いや、お前たちが一番ヤバいだろ。

 それでも、この目の前の狼男に連絡してしまったのは、ひとえにこの青年の幸せを願って。彼なら無理矢理に頷かせるようなことはしない。そう信用できるほど、シドはこの青年とその父親とは深い付き合いがある。
 そして、きっと、それがこの少女の幸せにもつながる、…と信じて。

「ズィーロ。お前のやろうとしてることも、充分危険だよ。それはこの町ではやらないでくれ」

 この町でお前たちの言う『保護』なんてしたら魔女が来なくなっちゃうだろ、と諌めてから、シドは様々な知恵をズィーロに授けていく。
『普通の人間としての出会い方』『人間の男女の仲良くなり方』『男女の夜の物事の進め方』。
 シドはマゼンダの嗜好についても細かく伝えていく。彼女は可愛らしい容姿ではあるが、それを自覚していて意外と現実的。人の懐に潜り込むのが上手い。パンも好きだが麺類のほうがもっと好き。ナマモノはあまり食べられない。逃亡生活のせいか、甘いお菓子よりもお肉のほうが喜ぶ。

 実は町の人間の何人かも、マゼンダの正体に薄らと気が付いている。そろそろ17歳にはなるが、そんな若い女の子がひとりで森の奥の家に暮らして、薬師をしている。しかも彼女のつくる薬はよく効くし、森も豊かになりつつある。
 誰も口にはしない。逃げている魔女には気付かないフリをするのが礼儀だからだ。本当に借金取りが来たならば匿うつもりの者もいた。町の人間にとって、魔女かもしれないマゼンダがここで結婚して根付いてくれれば、願ったり叶ったりなのだ。

 こうして、水面化でWin-Winな関係が結ばれていたなど、マゼンダ本人は知るよしもなかった。


 だが、偽りなく、ズィーロはマゼンダに恋をしている。

 決して彼女が魔女だからではない。
 出会いこそ打算と企みしかないものではあったが、彼女の真っ直ぐな目で見つめられることも、優しく触れられることも、大好きだ。ズィーロとの触れ合いに恥ずかしがりながらも必死についてこようとする様は、心から愛おしいと思うし、突拍子もない変なところに笑いのツボがあることも、末っ子のせいか変に寂しがり屋な面があることも、堪らなく可愛い。

 この気持ちに、偽りなんてない。


 一度森の家を出て町で必要なものをすべて買い込み持ち込んでも、まだ眠り続けるマゼンダに、ちゃんとここにいてくれていると安堵する。
 これが人を好きになるということなのか、とズィーロは寝入るマゼンダの頬をなぞりながら思った。

 だいすきだよ。

 眠るマゼンダの耳元で囁いてみても、彼女は起きない。
 だがふんわり和らいだその口元を見て、ズィーロは自分が愛されていることに確固たる自信を持つ。
 離れることなんて許さない。
 手紙を読んだときの絶望感と怒り、そう決断させた理由を知ったときの仄暗い昂揚感が思い出される。
 そんなことを考えさせてしまったなんて。
 申し訳ない気持ちと、それ以上に彼女がそこまで自分のことを考え、悩んでくれたことへの喜びが彼の中を満たす。

 大好きだ。そして。

「マゼンダ、君も、オレが大好き」

 手放せるはずがない。離れる理由など、ないのだから。

 ハロウィンの魔力のせいなのか、まだまだ愛し足りない。隣に潜り込み、目覚める様子のないマゼンダを抱き寄せてキスをした。
 少し身じろぐものの、呼吸の深さは変わらないままだ。

 昼には、目を覚ましてくれるだろうか。
 甘やかしたい、泣かせたい。大好きと伝えて、大好きだと言われたい。

 早く目を覚ましてくれないだろうか。
 ズィーロはそう願いながら、腕のなかのぬくもりを優しく抱いて目を閉じた。

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