9 / 9
9
しおりを挟む
「おはよう、マゼンダ」
「…」
「喉、痛いよね。ごめんね。蜂蜜茶、あっためてくるね」
「…、」
ごめん、と項垂れながら扉を出て行き、すぐに彼は戻ってくる。
あらかじめ用意してあったのだろう、ズィーロが持ってきたカップから蜂蜜の香りがふんわりとして、何だか生きている心地がした。
切実な喉の渇きを覚えて、マゼンダが起き上がろうとする。ズィーロはその背に手を添えて抱き起こすと、ゴプリ、と自分から液体が溢れ出た。その感覚に嫌でも思い出すのは、昨日の夜から続けられた、目の前にいる初恋の相手からの所業。
思わず、身体を支える彼の腕を押し退けてしまう。
「マゼンダ、…怒ってる?」
「…」
「ごめん。ごめんね」
何も言わずに手を伸ばす。
手渡されたカップに、黄金色の蜂蜜茶が揺れていた。
あったかい。
ゆっくりと、口をつけた。
今、一体何時なのだろう。
気を失う前、背後からのし掛かる彼に容赦なく突き上げられながら、朝日を見た気がする。
お茶の甘さが身体中に広がっていく。美味しい。
「いま、いつの、何時?」
「…ハロウィンの、夕方16時だよ」
10時間くらい、寝てたのか。
どうりで身体は死ぬほどしんどいのに、頭はスッキリしてると思った。
マゼンダは蜂蜜茶をゆっくりと飲みながら、そんな風に考えられる自分に、あまり驚けなかった。
「…マゼンダ、ごめんね。ごめんなさい」
「…」
「オレのこと、きらいに、なった…?」
そろそろと、指を伸ばしてくる狼男の不安げな声に、思わず眉を寄せる。
嫌いに、なったか。
…くそう。
嫌いになれてないから、嫌になる。
初恋はこんなにも人をバカにするものなのか。
マゼンダは自分の感情を持て余して、それでも嫌いになっていないなどというのがあまりにも癪すぎて、無言を貫く。
ズィーロの指先が、触れるか触れないかのところで止まった。
「…ごめん。本当に、ごめんなさい」
目も合わせたくない。
でも、頬の近くで止められた指先が触れてもいないのに震えているのが分かる。いつもは艶めいた自信に満ちた声が、萎れて不安げに、ずっと謝罪を口にしている。
ああ、もう。
「…ズィーロ」
「っ、はい」
「…狼男って、いっつもあんなに、はげしいの?」
「え、えっと、」
「いっつも昨日みたいなのだと、…わたし、壊れちゃうよ」
「っしない!絶対、次はもっともっと優しくするし、もっともっと気持ちよくする!」
「…うん」
「マゼンダぁ…っ」
好き、好き、大好き、としがみついてくるズィーロに、マゼンダもゆるく腕を絡めた。
「はあ、ホント、許しがたいけど、わたしもズィーロのこと、大好きよ」
「マゼンダ…!」
「でも、もうあんな風にするのはやめて」
「ごめん。もうしない。マゼンダが、ずっとそばにいてくれるなら、絶対しない」
暗に逃げるならまたやる可能性を示されているのに、絶賛絆され中のまだ頭が回らないマゼンダは気が付かない。
ちゅ、ちゅ、とキスをされ、昨日の名残の涙の跡を舐め取られる。飲み終わったカップをマゼンダの手から受け取って、ベッドサイドにあるテーブルにカップを置いたズィーロがベッドに潜り込んできた。
身体をピッタリと添わせて、起こした上体をぎゅう、と抱き締められる。やさしい力だった。
「…マゼンダ、大好き。ずっとずっと、一緒にいて」
精悍な顔が、自分だけに見せる甘えた表情。
切なげに見えるのに、その執着の強さが見え隠れする瞳。
だめだ。
好きなんだから、もう、負けだ。
「わたしも、大好きだよ」
唇を寄せられて、それを受け入れる。
その後、舌が入り込んで口の中をこれでもかというほどに愛撫され、息も絶え絶えになったところに押し倒されて、「マゼンダ、オレ、優しくするから。ごめんねの気持ち、受け取って。たくさん気持ち良くなってね」と再度貪られたあと、用意されていた婚姻証明書にサインさせられる未来を彼女はまだ知らない。
「…」
「喉、痛いよね。ごめんね。蜂蜜茶、あっためてくるね」
「…、」
ごめん、と項垂れながら扉を出て行き、すぐに彼は戻ってくる。
あらかじめ用意してあったのだろう、ズィーロが持ってきたカップから蜂蜜の香りがふんわりとして、何だか生きている心地がした。
切実な喉の渇きを覚えて、マゼンダが起き上がろうとする。ズィーロはその背に手を添えて抱き起こすと、ゴプリ、と自分から液体が溢れ出た。その感覚に嫌でも思い出すのは、昨日の夜から続けられた、目の前にいる初恋の相手からの所業。
思わず、身体を支える彼の腕を押し退けてしまう。
「マゼンダ、…怒ってる?」
「…」
「ごめん。ごめんね」
何も言わずに手を伸ばす。
手渡されたカップに、黄金色の蜂蜜茶が揺れていた。
あったかい。
ゆっくりと、口をつけた。
今、一体何時なのだろう。
気を失う前、背後からのし掛かる彼に容赦なく突き上げられながら、朝日を見た気がする。
お茶の甘さが身体中に広がっていく。美味しい。
「いま、いつの、何時?」
「…ハロウィンの、夕方16時だよ」
10時間くらい、寝てたのか。
どうりで身体は死ぬほどしんどいのに、頭はスッキリしてると思った。
マゼンダは蜂蜜茶をゆっくりと飲みながら、そんな風に考えられる自分に、あまり驚けなかった。
「…マゼンダ、ごめんね。ごめんなさい」
「…」
「オレのこと、きらいに、なった…?」
そろそろと、指を伸ばしてくる狼男の不安げな声に、思わず眉を寄せる。
嫌いに、なったか。
…くそう。
嫌いになれてないから、嫌になる。
初恋はこんなにも人をバカにするものなのか。
マゼンダは自分の感情を持て余して、それでも嫌いになっていないなどというのがあまりにも癪すぎて、無言を貫く。
ズィーロの指先が、触れるか触れないかのところで止まった。
「…ごめん。本当に、ごめんなさい」
目も合わせたくない。
でも、頬の近くで止められた指先が触れてもいないのに震えているのが分かる。いつもは艶めいた自信に満ちた声が、萎れて不安げに、ずっと謝罪を口にしている。
ああ、もう。
「…ズィーロ」
「っ、はい」
「…狼男って、いっつもあんなに、はげしいの?」
「え、えっと、」
「いっつも昨日みたいなのだと、…わたし、壊れちゃうよ」
「っしない!絶対、次はもっともっと優しくするし、もっともっと気持ちよくする!」
「…うん」
「マゼンダぁ…っ」
好き、好き、大好き、としがみついてくるズィーロに、マゼンダもゆるく腕を絡めた。
「はあ、ホント、許しがたいけど、わたしもズィーロのこと、大好きよ」
「マゼンダ…!」
「でも、もうあんな風にするのはやめて」
「ごめん。もうしない。マゼンダが、ずっとそばにいてくれるなら、絶対しない」
暗に逃げるならまたやる可能性を示されているのに、絶賛絆され中のまだ頭が回らないマゼンダは気が付かない。
ちゅ、ちゅ、とキスをされ、昨日の名残の涙の跡を舐め取られる。飲み終わったカップをマゼンダの手から受け取って、ベッドサイドにあるテーブルにカップを置いたズィーロがベッドに潜り込んできた。
身体をピッタリと添わせて、起こした上体をぎゅう、と抱き締められる。やさしい力だった。
「…マゼンダ、大好き。ずっとずっと、一緒にいて」
精悍な顔が、自分だけに見せる甘えた表情。
切なげに見えるのに、その執着の強さが見え隠れする瞳。
だめだ。
好きなんだから、もう、負けだ。
「わたしも、大好きだよ」
唇を寄せられて、それを受け入れる。
その後、舌が入り込んで口の中をこれでもかというほどに愛撫され、息も絶え絶えになったところに押し倒されて、「マゼンダ、オレ、優しくするから。ごめんねの気持ち、受け取って。たくさん気持ち良くなってね」と再度貪られたあと、用意されていた婚姻証明書にサインさせられる未来を彼女はまだ知らない。
1
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる