初恋にはご用心!

ヨルノモリ

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「おはよう、マゼンダ」
「…」
「喉、痛いよね。ごめんね。蜂蜜茶、あっためてくるね」
「…、」

 ごめん、と項垂れながら扉を出て行き、すぐに彼は戻ってくる。
 あらかじめ用意してあったのだろう、ズィーロが持ってきたカップから蜂蜜の香りがふんわりとして、何だか生きている心地がした。
 切実な喉の渇きを覚えて、マゼンダが起き上がろうとする。ズィーロはその背に手を添えて抱き起こすと、ゴプリ、と自分から液体が溢れ出た。その感覚に嫌でも思い出すのは、昨日の夜から続けられた、目の前にいる初恋の相手からの所業。
 思わず、身体を支える彼の腕を押し退けてしまう。

「マゼンダ、…怒ってる?」
「…」
「ごめん。ごめんね」

 何も言わずに手を伸ばす。
 手渡されたカップに、黄金色の蜂蜜茶が揺れていた。
 あったかい。
 ゆっくりと、口をつけた。

 今、一体何時なのだろう。
 気を失う前、背後からのし掛かる彼に容赦なく突き上げられながら、朝日を見た気がする。
 お茶の甘さが身体中に広がっていく。美味しい。

「いま、いつの、何時?」
「…ハロウィンの、夕方16時だよ」

 10時間くらい、寝てたのか。
 どうりで身体は死ぬほどしんどいのに、頭はスッキリしてると思った。
 マゼンダは蜂蜜茶をゆっくりと飲みながら、そんな風に考えられる自分に、あまり驚けなかった。

「…マゼンダ、ごめんね。ごめんなさい」
「…」
「オレのこと、きらいに、なった…?」

 そろそろと、指を伸ばしてくる狼男の不安げな声に、思わず眉を寄せる。

 嫌いに、なったか。
 …くそう。
 嫌いになれてないから、嫌になる。

 初恋はこんなにも人をバカにするものなのか。
 マゼンダは自分の感情を持て余して、それでも嫌いになっていないなどというのがあまりにも癪すぎて、無言を貫く。
 ズィーロの指先が、触れるか触れないかのところで止まった。

「…ごめん。本当に、ごめんなさい」

 目も合わせたくない。
 でも、頬の近くで止められた指先が触れてもいないのに震えているのが分かる。いつもは艶めいた自信に満ちた声が、萎れて不安げに、ずっと謝罪を口にしている。

 ああ、もう。

「…ズィーロ」
「っ、はい」
「…狼男って、いっつもあんなに、はげしいの?」
「え、えっと、」
「いっつも昨日みたいなのだと、…わたし、壊れちゃうよ」
「っしない!絶対、次はもっともっと優しくするし、もっともっと気持ちよくする!」
「…うん」
「マゼンダぁ…っ」

 好き、好き、大好き、としがみついてくるズィーロに、マゼンダもゆるく腕を絡めた。

「はあ、ホント、許しがたいけど、わたしもズィーロのこと、大好きよ」
「マゼンダ…!」
「でも、もうあんな風にするのはやめて」
「ごめん。もうしない。マゼンダが、ずっとそばにいてくれるなら、絶対しない」

 暗に逃げるならまたやる可能性を示されているのに、絶賛絆され中のまだ頭が回らないマゼンダは気が付かない。
 ちゅ、ちゅ、とキスをされ、昨日の名残の涙の跡を舐め取られる。飲み終わったカップをマゼンダの手から受け取って、ベッドサイドにあるテーブルにカップを置いたズィーロがベッドに潜り込んできた。

 身体をピッタリと添わせて、起こした上体をぎゅう、と抱き締められる。やさしい力だった。

「…マゼンダ、大好き。ずっとずっと、一緒にいて」

 精悍な顔が、自分だけに見せる甘えた表情。
 切なげに見えるのに、その執着の強さが見え隠れする瞳。
 だめだ。
 好きなんだから、もう、負けだ。

「わたしも、大好きだよ」

 唇を寄せられて、それを受け入れる。


 その後、舌が入り込んで口の中をこれでもかというほどに愛撫され、息も絶え絶えになったところに押し倒されて、「マゼンダ、オレ、優しくするから。ごめんねの気持ち、受け取って。たくさん気持ち良くなってね」と再度貪られたあと、用意されていた婚姻証明書にサインさせられる未来を彼女はまだ知らない。

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