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プロローグ

いつもと違う放課後の出来事

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キーンコーンカーンコーンーーーー

下校のチャイムが校内外に響く。
多くの生徒はこのチャイムを聞けば直ぐに下校していく。
しかし、我々の同好会は、このチャイムを合図に開始する。
旧校舎の3階、踏めば突き破ってしまいそうな程軋む階段を登った先にある旧1ーAの教室に、今日もメンバーは集まっていた。

「よーし、じゃあ始めるぞ…って、阪田はどうしたんだ?
今日見かけたからいたはずだけど…。」

黒板の前で挨拶をしかけたのは、この同好会の会長を務める、3ーBの岸田直実先輩だ。
彼女は在学中の3年間ずっとこの同好会に所属している古株である。

「阪田なら、今日は課題がやばいって言って部活すっぽかして帰りましたよー。」

先輩に返事を返したこいつは、2ーAの浪川真史だ。
彼とは小学校からの付き合いで、趣味も合っていたのでこの同好会にも一緒にはいった。

「課題がやばいって、うちの学校の課題なんてたかが知れてるじゃないですかー。
全く、ただでさえ人数が少ないんだから、ちゃんと参加して欲しいですよねー。」

この子は今年入学してきた1ーCの有川祐希ちゃんだ。
なんともこの同好会に入りたくてこの学校に入学してきたらしい。
校内でも存在を知らない人が多いと言うのに、中々の人物だ。

「まあ、阪田は1年の頃からよく課題サボって単位落としかけたりしてたから、仕方ないでしょ。
さ、はやく始めましょうよ!」

ここでスムーズに開始に誘導の言葉を入れたのは俺、田富依音娜だ。
ちなみにあだ名は昔から、イオナズンである。

「そ、そうだな、じゃあ仕切り直して始めようか!
すーっ、ただ今から、ヲタク文化研究会を始めます!」

そう、我々の同好会は、アニメ、漫画、VOCALOID等のオタク文化について研究、もとい語り合う同好会なのである。

「それで、今日のテーマだが、本日はあのあほ阪田が考えてくる日だったから残念ながらありません!
なので、今から決めましょう!」

皆が考えている中、一番に手を挙げたのは、真史だった。

「じゃ、18禁アニメ鑑賞で」

クソかよ。
男子かよ。
男子か。

「却下だ真史。
ここには見れる上に見てる人が一人しかいないからな。」

「あー、そうだったそうだった。」

同時に一人の人物に視線が注がれる。
その人物は、もちろん会長である。

「おい、それは私のことか?!
私はそんなやらしいやつみたことない!
見てるのはお前らだろ!」

「いやいや、そんないい体してるんだから相当…
いや、リアルの方が凄かったりして…!」

「私はそんなビッチじゃないし!
全く、男子は不健全すぎるよ!
あ、有川ちゃん!
君が決めてくれないか!」

少し言い過ぎたかもしれないな。
まあしかし、体に関しては事実だから、可能性はゼロではないと思う。

「えっと……じゃあ、フィギュアとドールの境界線について…とか、どうですか?」

おー、流石祐希ちゃん。
真面目な回答乙でごさいます。

「おおー!
いいテーマじゃないか!
ほんとに男子と違って役に立ってくれるよ。
じゃあ、今日のテーマはこれで決まりだな!」

意外とあっさり決まってしまった。
しかし、そのテーマだと直ぐに解決してしまいそうだが…。
まあいいか。
んー、フィギュアとドールの境界線か…。
着せ替え機能があったらもうドールだな…。
部位可動できたら、…んー、服の素材によるかな?
とりあえず意見だしとこ。

「はーい、質問しまーす。
部位可動はどのくらいが限度でしょうか?」

「えー、どーだろ…。
首ですかね?」

「いや、各関節までならギリいけるんじゃね?」

「そうだなあ…部位可動はやはりドールにならないか?」

やはり部位可動はドールになるらしい。

「じゃあ、首が付け替えれるとかいいんじゃないですか?!」

「それはもうプラモデルじゃないのか?」 

「うぐぅ…。」

これはどうやら答えが出なさそうだぞ。
また我が同好会の未解決問題ノートに新しく登録される予感がする。

「…うーん、これは解決しなさそうだから、また阪田に問い詰めるとして…、今日は皆でアニメイトにでも行こうじゃないか!」

おお、流石会長、素晴らしいリーダーシップだ。

「さんせーい!
さ、皆早く行きましょ!」

「そうだな!
丁度今日寄ろうと思ってたし。」

そんなこんなで、我々はアニメイトに行くことになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ウィーンーーー

この自動ドアが開けば、いよいよ天国へと入ることが許される。
入口の特設エリアには、アニメ化が決まり、つい先日から放送開始した、
「弱者な僕の彼女は勇者」のグッズが売り出されていた。
もちろん俺はこのシリーズを小説の時代から読んでいて、会の皆も当然知っているため、足はここで止まった。

「お、早速でてるじゃないですか!
弱僕!
皆さんどれ買います?
私はやっぱり、推しのジーカス君のアクリルキーホルダーですかね!」

ジーカス君とは、フルネームはメテオ・ジーカス、ヒロインである勇者彼女、メルカ・アレシスの元カレである。

「じゃあ俺は、やっぱメルカちゃんかな!
依音娜はどうする?
おソロにするか?」

「お断りしますー。
俺は推しのチュリーちゃんにするんでー。」 

チュリーちゃんは主人公一行と一緒に旅をしている天使のように可愛いロリっ子である。
俺は2次元に限りロリコンだと言える。
…ちなみに三次元ではショタコンだ。


「んー、私はやっぱり主人公の弱煇克君だな!
なんというか、守りたくなるし…。」


そんな会長からは母性を感じ取れる。
あの豊満な胸は、どんなものをも包み込んでくれるだろう。

「あ!
そういえば今日は新刊がいっぱい発売されるんだった!
ちょっと見てきますね!」

そういって有川ちゃんは店の奥へと消えていった。
そろそろ俺もいろいろ探索するとするか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

小一時間ほど徘徊して、各々の好きなアニメなどの商品を両手にぶらさげ、入口に集合した。

「いやー、今日はちょっと奮発しちゃったよー。」

そんな会長の両手ははち切れそうな袋が塞いでいる。
まあ俺もこれと大差ないのだが。

「さーて、じゃあ帰りますかねー!」

「あのー、これから皆さんでカラオケにでも行きませんか?」

皆が帰ろうとした中、有川ちゃんが催促する。
カラオケか…、行きたいけど生憎天国に財布を寄付してしまったから、もうお金がないんだよな…。

「そうだな…、今日は皆お金があれかも知れないからまた今度に…、ん?
何あれ…、異世界旅行代理店~モニター募集中~だって?
店の看板か?」

会長が視線を送った先には、そう書かれた看板と、そこから続いている路地裏があった。
看板には矢印がかかれている。

「え!
何それ面白そうじゃん!
行こうよ!」

真史はそう言うが、俺は信じられない。
というかこんな商法見たこともないし、利益があるとも思えないから、ますます怖い。


「そうですね!
皆で行きましょうよ!」

「まじか…。
大丈夫か?」

「大丈夫だよ!
何か怪しかったら走って逃げればいいしね。」

それが出来たらいいのだが…。
そういう事で、我々はその店へと向かうこととなった。
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